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壊されたモノ修復します  作者: 高瀬あずみ
第二章 廃墟の町

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 最初にピートと。次にピートと神官と。一緒に行くのも悪くないと思った。会って一日もたっていない二人だけれど、信頼できる相手だと思う。神聖契約が交わされた今なら裏切られる心配もない。

 神官が一緒なら、保護者として頼れるだろう。ピートと一緒なら、寂しくなったりしないだろう。


 それなのに何故、自分は二人と別れてひとり北に向かうことを選ぶのか。


 ミリアは自分を馬鹿だと思う。ここで別れたら、きっと何度も後悔するだろう。どうして一緒に行くという選択を自分から捨てるのか。

 北の街にいるかもしれない親戚など当てにしていない。

 そもそも、向かうのは北でなくてもいいはずで。人のいる場所に向かうだけなら、どちらを選んでもいい。暮らしていくなら南を目指す方が楽だろう。


 北に何かがあるような気がする。


 ピートたちと西の町を目指しても、その思いは消えないだろうという予感があった。そして暮らしながら何度も北を見るだろう。


 どちらを選んでも後悔する。それならば、厳しい方を選んだ方がいいように思えた。


「なんでだよっ!? オレ、誰にもミリアの力のこと言わねえよ!?」

「うん、ピートは絶対約束を守ってくれると思う」

「ひとりより三人の方が絶対いろいろいいって!」

「あたしもそう思う」


 ミリアとピートのやり取りを見守っていた神官は、二人の会話が堂々巡りになった為、口をはさむことにしたようだ。

「ピート。ミリアさんは決めてしまったんです。親族がいらっしゃるなら、そこに向かうことを止められませんよ」

「でも神官さま! ミリアひとりは危ないって! それだったら、オレたちも北に行けばいいんだ!」

「私たちは隣町までなら行けるでしょう。でもそれ以上の距離を旅するだけの物資がありません。その足りないものを全部、ミリアさんに頼るのですか?」

 水と食料。最低でもそれだけはいる。そして人数と日数が加算されれば必要量もまた増えることになる。そんな簡単な計算がピートにできないはずがなかった。


「……でもオレ、このまま別れんの嫌だ」

 泣き出すのではないかと思うくらい顔を歪めたピートを見ると、こんなに自分を心配してくれることが嬉しくなってしまった。だから、ミリアはそのまま笑顔を作る。

「あのね、ピート。これでお別れじゃないよ?」


 どういう意味かと問うピートに、ミリアはこれからするつもりの未来を話す。

「あたしね、この修復の力、使えるようになってまだちょっとしか経ってない。もっとレベルを上げて、大きなものも手の込んだものも修復できるようになったら、仕事にするの。仕事だったら依頼されて、あっちこっち行くことになるんじゃないかなあ。そうしたらいつか、ピートの住んでる所にも行くよ、きっと」

「オレのいるとこ、分かんないだろ」

「ピートは神官さまと一緒でしょう? だからグラトリア様の神殿で聞いてみたらわかるでしょ?」


 二人のやり取りが一段落ついたと見た神官は、ミリアを呼んだ。

「ミリアさんの言う通り、神殿で尋ねていただいたら私のことは分かるでしょう。ですから、これを持っていってください」

 そう言って神官が差し出したのは、革紐の通されたメダルのような物だった。受け取ったミリアはメダルが何か分からず、手にとって眺める。銀よりも白っぽい金属製で、重さはそれほどない。表にはグラトリア女神らしい女性の顔が彫られている。裏には年月日と名前があった。


「これ、なんですか?」

「これは私が正式に神官となった時に下されたものです。日付は神官位を授与された日で、私の名前が彫ってあります。これには授与された神官の意思に反して手放せないという神聖魔術がかかっていまして。つまり、私の信頼する相手です、よろしく、という意味になります。各地のグラトリア女神の神殿で保護や情報を得られますし、他神の神殿や、入るのに審査が必要な街でのあなたを保証する物にもなるでしょう」


 ひとりで旅することを選んだミリアに、この保証は大きかった。ミリアのことを誰も知らない場所では、ただの子供だ。旅をして街に辿り着いても門前払いされて不思議はない。

「すごくすごく助かりますけど、こんな大事なもの、いいんですか?」

 ミリアが困惑と共に神官を見上げると、彼は逆に困惑を返す。

「ミリアさん、あなたは私とピートの命の恩人なんですよ? むしろこれ位しかできないで申し訳ないのですが」

 そういえば、あのまま地下にいたら二人とも長くはなかっただろう事にミリアはようやく気が付いた。神官の命の恩人という言葉は決して大げさではない。

「ありがとうございます神官さま! 失くしたり盗られたりしないよう、ずっと大事にします!」

「それには神聖魔術がかかっていると言ったでしょう? 私が認めた人しか所有することはできません。だから盗られる心配はありませんし、失くしたとしても、必ずあなたの元へと帰ってきます」

 失くさないに越したことはないと、神官はメダルをミリアの手から取って、首から下げさせた。





 太陽が中天にあるうちに、と町を出て西に向かうピートと神官にミリアは大きく手を振った。

「絶対、連絡して来いよーっ!」

 何度も振り返るピートに

「絶対会いに行くよーっ!」

 と、こちらも何度も叫ぶ。

 二人の姿がついに見えなくなるまで、ミリアはそこに留まっていた。


 一旦、頭を振って手を握り、

「じゃあ、仕切り直ししよう!」

 ミリアは再びトラフ町へと入っていく。神官にはもう一日、神殿に泊まる許可を得ていた。神殿の地下を拠点に、ミリアは改めてトラフ町での探索を開始する。

 さすがに神官が一緒だとやり辛かったこと、即ち、家探しの為だ。

 村でそうだったように粗方は持ち出されているだろうが、残されている食料もきっとあるはずと踏んでいたミリアは、井戸に近い瓦礫に近づいていく。こうした町では、台所や洗い場、物置などは井戸に面した裏に作られる。用があるのは、そう言った裏手の場所だ。

 瓦礫を収納して探し、目ぼしいものがなければ次の家へと繰り返し、ミリアはいつか神殿の区画から町の中心部へと進んでいた。


 中央部に一際立派な土台が続く場所に来たミリアは、これが町長の家ではないかと推測する。

「こういう家だと、家族と使用人で住むんだよねえ」

 そのまま家の裏手に回って、台所らしき場所を当たると、食品を収納していたと思しき場所を見

「やった! 小麦に大麦、まだ結構残ってる!」

 かなり慌てて出て行ったのだろう。隅に穀類がぎっしり入った袋が残っていた。

「油! これ、植物油だ!」

 獣脂に比べればはるかに高価。料理に使ってよし、石鹸や明かりに使ってよし。嫌な臭いもない。料理に使えそうな酒も見つけて、次々とご機嫌でアイテムボックスに収納していくミリアは、この家でかなり満足できる収穫を得た。

「町の人が帰ってきても、瓦礫全部のけるまで時間かかるし、それまでに傷んでる可能性も高いし!」

 この辺りは自分の中の道徳やらへの言い訳である。後ろめたい気持ちが消えてしまったわけではない。


 そうやって、部屋だった所を移動していくと、様子の違う場所に出た。

「なんだろ、ここ。床が妙にすべすべしてる」

 鑑定した結果の「浴場」に、ミリアのテンションはあがる。

「浴場って、もしかして、もしかしたりする!?」

 それまでより取り除く瓦礫の量を減らしながら鑑定を使い続け、ついに目的のものを見つけた。割れた石……というか岩のかけらである。

「修復!」

 思わず弾んでしまった声に応えて現れたのは、岩をくり抜いて作られた浴槽だった。それほど大きなものではないが、深さがあり、浸かるには十分だろう。岩には配水用の穴と、そこから外部に繋がる管までついていた。

「ありがとう町長さん(たぶん)!」

 ミリアはその家でかなりの時間を費やし、日が傾きかけてから慌てて神殿へと戻った。


 神殿の地下の台所で、本日の収穫品を使って料理する。

「いただきます!」

 それは昨晩よりもずっとご馳走になったが、ミリアの食べる勢いはどんどんと落ちていく。昨日は、ピートと神官と三人で食卓を囲んだ。栄養はあっても美味しくもない粥だった。それでも今食べているものよりずっと美味しかったと思ってしまう。自分がひとりきりだと思い知らされて、スープの中に涙が混じった。

 あと、どれほどひとりの時間が続くのだろう。それに自分は耐えられるのだろうか。

 後ろ向きになりそうな自分を叱咤して、ミリアはトラフ町での長い夜に耐えた。

二章終了。また北に向かいます。

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