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壊されたモノ修復します  作者: 高瀬あずみ
第二章 廃墟の町

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 次々と井戸までの瓦礫を収納していったあと、さっくりと釣瓶も収納してからミリアは申し訳なさそうに事情を説明することにした。

「あたしの主な能力は『壊されたものを修復』する力なんですが、いずれ『修復師』として仕事にしたいと思っているんで、それほど人に隠すつもりはないんです。ただ、おまけで貰った力が色々問題になりそうでして」

「それは、ここまでの瓦礫をどこかにやってしまった力ですね?」

「はい。アイテムボックス……で伝わるかな? おそらく無尽蔵に物を収納できて、自由に出し入れできるんです」

 無言になった神官はしばらく考え込んでいたが、やがて眼を閉じて天を仰ぐ。

「ミリアさん。この収納は、決して人に知られてはなりません」

「もちろんそのつもりですけど」

「私たちを助けるために使ってくださいましたよね? いくら神聖契約があると言っても、こんなに簡単に人を信用してはいけません!」

 なんだか理不尽だ、とミリアは思った。



 だが改めて神官の話を聞くうちに、これがただの説教でないことがミリアにも実感できるようになる。

 荷物のやり取りをする商人からはもちろん、使い方次第で戦争にも有用であり、軍、ひいては国家に狙われる可能性が高いと聞かされれば。

(戦争反対! ダメ、絶対!)

 前世がのほほんと生きていた平和ボケした日本の女子高生であり、今世が非力な村娘。弱肉強食を自然界で適応できても、他人と争いたいとはかけらも思わない。そもそも二つの人生を振り返っても拳を使った喧嘩すらしたことがない。暴力は怖いもの、危ないもの。それをうんと大きくしてまき散らすのが戦争だ。


 ここ数年、魔王軍に対して各国で一致して抵抗した。だが魔王が勇者に討伐されたとなれば、国家間の争いは避けられないだろう。疲弊した国力を他国によって補おうという動きが出てくる可能性も高い。

(そんな戦争に道具として使われるなんて絶対いやっ!)

 そうならないためには、徹底的に目立たないか、徹底的に強くなるしかない。後者へのアテなぞないミリアに選べるのは目立たない、知られないしかなかった。


 ミリアが真剣に捉えたことが分かったのだろう。神官は雰囲気をぐっと和らげて問いかけてきた。

「さて、私の神聖魔法をどう使いましょう?」

 現金なもので、ミリアは途端に元気になった。そうして収納から二つのものを取り出してみせる。愛用の納屋と、そして自宅についていた窓だ。

「野営にこの納屋を使ってるんですけど、外の様子が分からないんで窓をつけたくて! でもどうやって壁に穴をあけるかずっと悩んでたんです!」

 収納から現れた大物と、無邪気なミリアの様子の両方に、さすがの神官もすぐには対応できなかった。


 ミリアが神官に頼んだのはつまり、「ウォーターカッターで壁の一部を切り取って欲しい」ということだ。技術も体力も道具もないミリアには不可能だったこと。窓を渡されて大きさを確認した神官は、ミリアに希望の場所を聞いてすっぱりと壁を切り取ってみせた。どういう手を使ったのか、渡した窓が丁度はまる大きさに。

 窓は両開きの板戸のついたものだ。ミリアはそれを壁のかなり高い位置に取り付けてもらう。背の高い神官はミリアから預かった膠を使って、手際よく窓をはめてくれた。

 ついでだからと、扉を一旦外して金具を付け替え、内開きになるようにしてくれた。まさか神聖魔術をこんな風に使うとは、とウォーターカッター扱いしたミリアに言える筋合いではないが、神官の修行中に同僚たちと可能性を色々模索していたのだという。思っていたより、神官というのは厳格ではなさそうだな、と感想を抱いた。


 満足してミリアが物置をしまったあと、神官に祈祷所の修復は可能か尋ねられた。祈祷所だった場所に行ってみると、地下にあった神官の部屋と変わらない大きさだったので請け負った。神像の破片も鑑定で発見して修復してみせると、これまでのどの行為よりも感謝された。

 そして修復された祈祷所内で神像に向かって神官が祈りを捧げると像が光った。


「グラトリア女神のしもべたる我、ゼウラと、その養い子ピートは、ソラス村のミリアに対して彼女の持つ力を決して口外しないことを女神の名のもとに、ここに誓うものなり」


 神官とピートから光の糸がミリアへと伸び、硬く結び合わされたのを感じる。その糸はすぐに不可視のものとなったが、意識すると確かにあることが感じられた。

「これで神聖契約は成りました。これは生きている限り有効です」

「ありがとうございます。これで安心です」


 契約終了後、神官は修復された神像を丁寧に取り上げて運び始める。それほどおおきな像ではないといえ、石を彫った像はそれなりの重さがあるはずなのに軽々と運んでいるように見えた。

「神官は仕える神に関するものは重さを感じなくなるのですよ」

「持っていかれるんですか?」

「ええ、せっかく修復していただいたのに放置するわけにも参りませんし」

 この町と神殿が再建されればまた戻せるようにするのだという。旅するには荷物になるとはいえ、神官にとっては共にあれば神聖魔術も使いやすいのだそうだ。


 地下と地上を往復して旅支度を進める二人を何くれなく手伝い、明かりの魔道具以外にも神殿の備品を除けば好きに持って行っていいと言われたミリアは、油や調味料、燕麦や小麦粉などを貰い受ける。また寝具や布を貰ったところで、前世のハンクラ魂が疼いて仕方なかった。

 そのかわり、持っていた糧食のほとんどを二人に渡した。料理に関して当てにならない二人には、町に着くまではこの方がいいだろうと判断したからだ。受け取った相手からも無言のうちに肯定がかえってくる。

 そのやり取りで神官の方は予想がついたのだろう。だがピートには分からなかったらしく、無邪気にミリアに呼びかける。

「ミリアは荷物それでいいのか? 西の町まで五日くらい歩くぞ?」

 ミリアは何故だか泣きたい気分になって、首を振る。

「ごめんピート。あたしは北に行くの」

 それが昨晩ミリアが悩み、辿り着いた結果だった。

次で二章終わりの予定

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