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壊されたモノ修復します  作者: 高瀬あずみ
第二章 廃墟の町

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 客をもてなすものが何もないと恐縮する神官を座らせて、いざ食べてもらおうとした時にミリアは気が付いた。

「待ってください! 神官さまはどの位食べていらっしゃらなかったのですか?」

「そうですね、三日くらいでしょうか」

 それも食べたのはパンのかけらだったらしい。三日も絶食していた人間の胃腸に、兵士が食べるような糧食が優しいわけがない。神官の手から糧食を取り上げて、ミリアはピートの方を向く。

「ピート、お台所って無事!?」

「お、おう! こっちだ」


 ピートの案内で更に奥にあった小部屋に入る。竈と水瓶があり、どちらも無事のようだ。棚を調べるといくらか材料になりそうなものもある。

「まだ食べられるもの、あるじゃない」

 それなのに、どうして絶食するようなことになるのか。

「あー、いつも通いで近所のおばちゃんが作ってくれてて。オレも神官さまも湯を沸かすくらいしか出来なくて」

 目をそらすピートはきまり悪いのかいつものような勢いがない。あるものをどうやって知っている食べ物にするのか見当もつかなかったらしい。

「分かった。ここにあるもの、使っていいよね?」


 こくこく頷くピートを台所から追い出して、改めて台所を検分する。天井近くに明り取りの窓の他に、換気用の煙突が見えるから、煮炊きしても大丈夫だろう。竈の横にはピートが集めてきたらしい薪という名の瓦礫が詰まれ、水瓶の中に肝心の水はなかった。棚には塩とハーブ、油があり、棚の下の木箱には食材が見られる。

 ミリアは食材の中に麦、燕麦を見つける。脱穀しただけのそれは乾いており、砕くのも簡単そうだ。

 薪をくべて竈に火をつけると、ミリアは水瓶を手持ちのものと交換する。言い訳は後でもいい。鍋に水を入れて沸かす間に、包丁でざくざくと燕麦を砕いていく。細かくすれば火が通るのも早い。手早く湯の中に燕麦を投入し、しばらく煮る。鍋の様子を見ながら、調理台の上にトレイを載せ、深めの木の椀と匙とコップを3つずつ置いた。

 鍋の中身は、薄い茶系のどろりとした物へと変わっていく。ミリアが作っているのはオートミールの粥に似たものだ。塩とハーブを加えて味を調えたら出来上がり。簡単で栄養も豊富、身体にも優しく、ダイエットの味方……だと前世が教えてくれる。当時は一番最後が重要だったわけだが、今その効果を必要としている人間はこの場にいない。そしてこれを美味しいと思う人はそういない味と食感だが、それに文句が言える人間もこの場にはいなかった。

 水差しに水を満たして手に持つと、ミリアはピートを呼ぶ。

「ピート、出来たから取りに来て!」


 ピートの喜びようは、それはすごいもので、ミリアの想像を軽く超えた。

「すげえ! すげえ! ちゃんとした飯だ!」

 中身が入って重いはずのトレイを持っているというのに、足取りが跳ねるようだ。

「ピート、こぼさないで!」

「おう! 神官さまーっ」

 水差しを持って追いかけるミリアの目からすぐにその姿が消えた。早い。

 神官の部屋に入ると、先ほどまでなかったテーブルと椅子が並べられており、神官とピートが待っていた。二人の目は椀に釘付けで、ミリアは慌てて席について食べるよう促した。

「簡単なものですけど、どうぞ」

 そこですぐさま匙を取るのではなく、手を組んで祈りを唱えだしたのはさすが神殿の人間だと思う。祈りの後にミリアに感謝の意を告げようとするのを遮り、率先して匙を口に運んでみせた。


 ミリアが忠告するまでもなく、神官はゆっくり匙を動かす。その動作はゆったりとしてどこか優雅で、その育ちの良さを語っていた。

 対してピートだが、意外にも粗雑ではない、と感じたのは失礼だろうか。神官の教育の賜物というやつだろう。ただし、匙の勢いはすごく、椀の中身はすぐに無くなった。

「お鍋の中にまだあるから」

 悲し気に空になった椀を眺めるピートの姿に思わず告げると、ピートの姿はたちまち消え、すぐに鍋を抱えて現れた。だが、すぐに自分の椀を満たすのではなく、神官とミリアに勧めようとするところが

(いい子だなあ)

 自分の方が年下であるはずだが前世の記憶もあって、ピートをいたことのない弟のような目で見守ってしまった。

 神官は急激に沢山食べてはいけないからと、ミリアは小食だからと、それぞれおかわりを辞したので、ピートは鼻歌でも出そうな様子で鍋を浚った。


 食事が終わると、明らかに顔に赤みの差した神官と、それに倣ったピートが口々に礼を述べてきた。そして今夜はここに泊まるよう勧められる。強護な壁に守られて眠れるのはミリアにも嬉しく、すぐに快諾する。

 台所で茶葉を見つけたので食後に茶を入れると、水か白湯しかここしばらく口にしていなかった二人はまた喜んだが、客であるはずのミリアにさせてばかりなのが気まずそうだった。


 お茶を飲みながら、ミリアは二人に話を聞くことにした。

 元々、この地下には外の物音がほとんど届かない。町民が避難したその日、神官は地下奥の部屋に籠って経典を調べていたため、まったく気が付かなかったそうだ。ピートが山から帰ってきてようやく、町が無人になっていることを知ったという。神官は町ではそれなりの尊敬を集める存在なので、故意に伝えられなかったわけではないだろう。階上の祈祷所にいれば、避難を呼びかける声も聞こえたはずだ。

 毎朝、通いの女性が一日分の食事を用意してくれているので、それを食べて、明るくなってから出発しようと決めたことがアダになった。その晩に魔王軍の進軍があったからだ。辛うじて小柄で子供のピートは出入りできるが、細身とはいえ大人の神官に埋まった入り口を通ることはできなかった。

「道具も、力もありませんしね」

 肉体労働とは無縁の神官には、たとえ鶴嘴があっても入り口を広げられないだろうと納得できる。子供のピートにもまだ無理だろう。

「じゃあ、これからどうするんですか?」

 僅かばかりとはいえ、ピートが汲んでくる水が命綱。こんな暮らしでは終わりも見えている。

「ピートだけでも行きなさいと何度言っても、聞きません。私はもう覚悟しましたが、ピートなら外に出て町の人を追えるはずです」

「オレは! 絶対、神官さまと一緒にいるから!」

 互いを思いやる姿は親子のようで、ミリアは込み上げるものを必死で飲み下した。ここでミリアが泣くのは絶対に違う。

「これもご縁でしょう。ミリアさん、ピートと一緒に行ってもらえませんか?」

 ピートを見ると、激しく首を振っている。ずっと慈しんで育ててくれた神官を置いていくことは彼にできそうにない。だがいつまでもこうしていては、ただの共倒れになる。ミリアは大きく息を吐いて、覚悟を決めた。


「神官さまにお尋ねします。ここから出られたら、身を寄せる所はありますか? それまで道中無事に過ごす術はありますか?」

 

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