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壊されたモノ修復します  作者: 高瀬あずみ
第一章 ソラス村
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プロローグ

初めて投稿します。見切り発車ですが続くようがんばります。


「どうして……」


 込み上げる感情のあまりの大きさに、ミリアはそれ以上言葉を続けることができなかった。

 目に入るのは一面の焼け野原。

 小さな村であったとはいえ、それなりにあった家も畑もすべて失われた。

 命が助かり、大した怪我もなかったのだから最悪ではない。

 それでも、失いたくないものはあったのだ。


「力があるのに周囲を巻き込んだくせに、謝罪も無しに勝手に帰るって、冗談じゃない!」


 抑えきれない怒りがミリアの中で膨らんで、視界が赤く染まる。腹が立って、煮えくり返って、頭に血が上る。


「返してよ、元に戻してよ、戻せってば!」


 声を限りに叫んだとたん、何かが破裂し、ミリアの意識は飛んだ―――。





 ふと気が付くと、何もない空間に浮かんでいた。

 前後左右、何もない。

 ミリアの身体すらそこにはなかった。

 あったのは、ただ、穏やかな光だけ。

 ゆっくりと点滅する光を眺めているうち、意識がはっきりしていった。


(ああ、あたし……転生してたんだ)


 怒りで高ぶった感情は、ミリアに過去の記憶を蘇らせたのだ。


(たしか、学校の帰り道で、信号が変わりそうだったから横断歩道を走ってて……)

 初冬の夕方、日の落ちるのも早く、薄暗い道。そして視界いっぱいの強烈な車のライト。

(あれで事故にあって死んじゃったんだ)


 この空間にいるとすっかり冷静になり、先ほどまでの怒りすら遠い。

 ましてや、この世界で既に十年生きてきた記憶がある。過去の自分が死んでしまったことにも動揺はなかった。


(まさか、自分が異世界転生なんてしてて、しかも普通に暮らしてきたなんて)

 前世では毎日のようにラノベに親しんでいた。それなのに、いざ自分がその立場になるとは変な気分だ。

(村娘だよ、村娘。王女とか聖女とか悪役令嬢でもない村娘で。財産も血筋もチートもないなんて)

 しかも前世はただの高校生。お馴染みの知識チートもできる気がしない。


 こんなことなら、前世なんて思い出さなくても良かった。

 少なくとも前世では家族に恵まれ、平凡でも穏やかに過ごしてきたのだ。

 対して、今生では両親も一年前に他界し、ひとりぼっち。しかも勇者と魔王の戦いの余波で住んでいた村さえ失われた。これからどうやって生きていくかすら分からない。ただ前世での自分の環境が今では妬ましい。手に入らないからこそ、焦がれてやまない。


(なんで、思い出しちゃったんだ)

 どうしようもない後悔に駆られてただ自虐するしかなくて。



『対象を特定しました』


 突然、頭の中に声が響く。それが先ほどまで点滅していた光からだと、何とはなしに直感する。


『異世界からの転生者が前世の記憶を取り戻したことを確認。これより対象への説明を行います』


 そうして、怒涛のような情報がミリアに押しよせた。



 異世界から魂が転生することは多くはないが、少ないと言い切れる程ではないこと。

 そのため、すべての転生した魂の希望を叶えることは不可能であること。

 ただしそれには例外があり、自力で前世を思い出したものに限り、望む能力を与えることができると。


 そう、今のミリアのように。


『希望する能力を述べてください』


 いきなりそんなことを言われても、すぐに答えられるものではない。普通なら。

 でもミリアは失ったばかりだった。


 戦う力? 守る力? 救う力? 強大な魔力? 膨大な知識? 

 いいえ、いいえ。


「奪われたものを、壊されたものを元に戻す力を!」


『奪われたものを取り戻すことはできません』


 希望を叶えると言ったくせに! と無機質な声に心の中で反論すると返事があった。


『禁足事項に触れます。ただし、<壊されたものを修復する>能力のみでしたら可能です』


 すべて希望通りとはいかないが、今自分が欲しい力には違いないと、答えはすぐに出た。


「分かりました、それでいいから、その力をください!」


『対象者に<修復>のスキルを授与。職業名『修復師』と決定』


 目の前の光が大きく眩しくなり、視界を染める。そう、前世で命を奪った車のヘッドライトのように―――。





 崩れ果てたかつての村の自分の家の瓦礫の中、ミリアは我に返った。

 そして知る。

 自分が世界にただひとりの壊されたものを直す『修復師』となったことを。


 

改行見直し。数字の漢字表記統一。

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