7 変化のとき
ブクマありがとうございます
アリアが目覚めると部屋も外も真っ暗だった。
(えっ・・今何時?)
転移が楽しくて、いっぱい遊んだ。
疲れて自分の部屋のベットに転がって寝てしまった。
目が覚めてくると寝る前の行動が思い出される。
(今 何時?)
部屋に時計はない。
管理人室に行かないとわからない。
(時計ほしいな、もう翔べるならここで寝てもいいし)
時計は突然出現したりしない。
今まで自分の部屋などほったらかしだったのを少しだけ反省した。
管理人室で食事をしてお風呂に入り、シアを待っている。
その為には転移室に近い管理人室にいるのが都合がいいのだ。
むくっと起き上がってみる。
腕輪を操作して部屋の明かりをつける。
(お風呂入ろう、寝間着に着替えないと)
自室にもお風呂とトイレに洗濯場、簡易キッチンが付いて居る。
温泉なのでお湯を貯めればいつでも入れる。
湯を貯めてお風呂に入る。
一人用なので広くはないが、アリアの体がすっぽり沈められる湯舟がある。
シアが話してくれた王都の話を思い出す。
王都では毎日湯につかる入浴は出来ないのだという。
湯を沸かすのには薪を使い、水をくむのも大変なので
贅沢なことだと言っていた。
(お風呂に入れないのはいやだなあ)
王都や王宮には興味はあるがお風呂に入れないだけで
行きたいとは思わなくなってしまう。
その程度の興味だった。
お風呂に入って髪を乾かしていると、はっきりと目が覚めた。
(お腹すいた)
夕食を食べてないのに気がついた。
しかたないので管理人室に行くことにした。
歩いて管理人室へ行くとシアはまだ起きていて
昼間はアリアがレース編みをしていた居間のテーブルで書き物をしていたようだ。
「起きたのかい、サンドイッチがあるよ」
食卓テーブルの上を見るとトレイが置かれている。
近づいてトレイの上のふきんを取るとフルーツサンドがあった。
食卓テーブルで食べるのが本来なのだが、一人で食べるのは何か寂しい。
シアといっしょがいい。シアが食べてなくてもかまわない。
シアのそばがいいのだ。
トレイごと持ってシアの前に座る。
昼前に翔ばしたリンゴとチェリーをサワークリームとイチゴジャムを添えて
白くて丸いふわふわパンにはさんである。
(ごほうびだ)
普段はお肉、野菜、果物、ミルク、バランスよく食べないと
怒られる。ほぼお菓子と言ってもいい組み合わせのサンドイッチは
めったに食べられない。
「今日の糧に感謝し いただきます」
手はお風呂に入ったのだからきれいだろう。
と いうことで両手で大事に持って はむっとかじる。
クリームとジャムとパンが口の中に広がる。うん おいしい。
ふたくち目でリンゴが混ざる。シャリシャリの歯ごたえがたまらない。
おいしいが止まらない。ごきげんで食べているとシアがミルクを温めて持ってきてくれた。
パンを食べてしまうと湯気のたつカップをとり、少しずつ含むように飲む。
少し熱め、でもやけどしない絶妙な温めかただ。おいしい。
おいしく食べて飲んで、ごちそうさまと言うとシアが話しかけてきた。
「明日、足輪をはずすから覚えておいて」
「え なんで?」
今日は何か変だ。いくらアリアがのんびりした性格でもそれくらいはわかる。
転移門を開いて、次は魔力制御の足輪をはずすという。
うれしいを通り越して疑惑のほうが強くなる。
今まで頼んでも、まだ時ではないと言われ続けたことがどんどん叶っていくなんて、おかしい。
不安と疑惑とシアへの信頼、いろいろ混ざって混乱してしまった。
「本当はね 少しずつやっていこうと思っていたのだが、用事ができてしまった。
2か月から3か月後に備えて、準備しないといけなくなった。」
「何があるの?」
「帝国から客がくる。王子とその側近がここへ来るんだ。一番危険なのはこの村の真実と
アリアの力が知られることが困る。アリアを守る為には仕方がない。
かなり忙しいことになるが、まあ、がんばれ」
余計に混乱した。
王子さま?なにそれ?本で読んだことがある。
帝国?地図で見た。本も読んだ。でもそれだけ。
秘密って何?私何かしたっけ?
混乱する。わけがわからない。
「明日きちんと説明するよ。忙しくなるのは間違いないけど、楽しく出来るように
僕も頑張るから アリアも頑張ろうね」
ますますわからない。
何を頑張るのだろう。
でも一つだけわかった。
シアとアリアの静かな暮らしが壊れる。
明日からは何かが変わり、今までの暮らしとは全く違うことが始まる。
アリアが感じたのは女の感だった。
女の子ならばみんな持っている 感。
通り道は分からなくても、結果がわかってしまう。
考えがそこに行きつくと、落ち着いた。
「明日 ちゃんと話してくれるのでいい。
もう一回寝る。」
「歯磨きしてね」
うなづいて返事をすると、お風呂にある洗面所にいく。
歯磨きしてさっぱりすると、シロを呼んで抱き込み
管理人室の簡易ベットにもぐりこむと目を閉じる。
(今 何時?)
一番最初の目的を思いだしたが、もうどうでもよかった。
お腹はいっぱい、お風呂効果で手足も温かい。
さっきまで寝ていたのに寝てしまった。
わからないことをいつまでも悩まない。
すべては明日説明してくれる。
シアは私を完全に保護してくれる。
シアがいれば幸せなアリアだった。
シアは眠ってしまったアリアを横目にやることのリストを作っていた。
魔石を注文すること、ホウオウの孵化しなかった卵のこと
アリアの足輪をはずし魔力制御の訓練をさせること。
アリアの衣類を王都に行けるレベルで整えること。
王子一行の宿泊場所を確保すること。
世話係を選出して教育すること。
山積みだ。
止めていた時計を動かさねばならない。