6 シロがしゃべった
午前中は転移門(実際には石を固定してシアが調整しているので
アリアはひっついて移動しているだけだが)を開いて回った。
これでアリアは管理人室(現住居)
貯蔵庫(大きいほうと一時預かり用の両方)
自室(ほぼ未使用)
大浴場(?なぜかわからないが)
シアの部屋の前(中には入れない)
館の中でアリアが使いそうなところへ行くことが出来るようになった。
普段はあくまでも歩くように言い含められた。
転移で翔んでばかりだと、足腰が弱って体によくない。
特に冬は外に出ないので歩けと言われる。
何回か試して翔べるのを確認すると歩いてシアの部屋の前に行き
管理人室に翔ぶ。
大浴場まで歩いて管理人室に翔ぶ。
楽しくてうれしくて、何回もやってしまった。
疲れた。主に足が。
昼食をすませると自室のベットにころがり寝てしまった。
着替えとか取りにくる以外はあまり来ることも
寝ることもなかった部屋だが、前夜、シアが戻らない
怒りと寂しさで寝つきがあまりよくなかったせいもあって
ぐっすりとお昼寝してしまった。
シアはアリアが自室で寝ているのを確認すると
管理人室にだらしなく寝ているシロの鼻先にリンゴを
押し付ける。
「寝ているところ悪いんだがアリアは部屋で寝てるんでね
少し話をしないか」
シロは薄目を開けると いやそうに伸びをして起き上がる。
器用に前足でリンゴを受け取るとカリッとかじった。
すでにその動作だけで犬ではないのだがアリアは犬だと
言い張っている。
「話せるんじゃないかとずっと思ってたんだが話すのは無理か?」
シロはもう一口かじるとシャクシャクとリンゴをかみ砕く。
悩んでいるように見える。
シャクシャクとリンゴを噛む音だけが響く。
シアはそのようすを静かに見守っている。
全部たべてしまうとシロはシアと目を合わせた。
獣はそんなことはしない。
知性の証を見せたシロはちょこんと座り直して前足を出す。
お手をしてやるから 手を出せという風に見える。
シアはふむ・・・という感じで手を出してみる。
シロは前足をその手に乗せるとシアの親指にかみついた。
びっくりしたが痛くはない。
甘噛みというやつかと思っていると指先から魔力を吸われる。
(魔力をやれば、いやもらえば話すということかな)
シアのほうからも魔力ををながしてやると、尻尾がフルフルと
うれしそうに揺れた。正解だったらしい。
しばらくそうしていると指から口をはなして
にやりと笑った。ちょっと怖い。小さいからあんまりく怖くはないが。
『話せたらどうだというんだ。』
シロがしゃべった。
やはりと思いつつも、いろいろな可能性をめぐらす。
(犬ではない、アリアの魔力と果物しか食べない犬などいない。
聖獣?それにしては神々しさはかけらもない。
魔獣?攻撃とかしそうにないし、弱そうにしか見えない)
いろいろ失礼だが口にはだしてない・・・はずだ。
『何者かと、聞きたいのか?』
かわいい顔だが話し方はえらそうだ。
「何者なんだ?」
『う~ん、ロウの一族と言ってもわからんだろう・・
まあ精霊もようなものだな』
「ようなもの・・・というのはなぜだ?」
『精霊は実体化はしない、意識の塊のようなもので可視の身を持たない』
「強いて言えば 大精霊・・かな」
『まあそのようなものかな。我も説明はできぬが』
シロはそのあと、
精霊として漂っていたところへアリアを見つけた。
泣いていたので近寄るとここちよい魔力だったので
少しのつもりでもらった。
でも魔力はどんどん流れてきていつのまにか実体化していた。
(アリアの魔力の多さは私でも見えないほど多い
しかも封じの腕輪ほはずしていたからな)
自分でもわからぬうちに精霊ではないものになっていた。
(精霊でないものとは何だ、そこが知りたいのだが)
この形はアリアが望んだらしい。
「ワンちゃんが欲しかったの」
(そりゃそうだ普通の犬をあの子に近づけては生きていまい)
アリアはいつのまにか泣き止み、笑顔でなぜてくれた。
それから疲れたのか寝てしまったので、我も寝た。
後はシアに拾われて今に至る。と 言うことだった。
(それで見つけた時、ぐっすり眠っていたのか)
(魔力も吸われたことで安定していた・・・だな)
結局のところ会話ができること、かなり高い知力があること
それ以外はわからない と いうことがわかった。
『我になにを望む?必要があるから話しかけたのであろう』
「そうだ、アリアを守る方法を探している。
魔力の制御や精密な使い方は少しずつ訓練していくしかない。
しかしその過程で大ごとを起こせば処分されてしまう。
もちろん私も全力をつくすが、13才という年齢にしては幼くて
感情を抑えるとかはかなり遅れている」
『お前が甘やかしたからだろう』
「言うな、その自覚はあるがアリアを普通の子供と遊ばせるのは
あまりに危険だ。それはそばにいてそれだけ頭がいいのなら
わかるだろう。生死にかかわる事故を起こすのは確実だ」
『ふむ・・そうだな・・』
少し考えるとシロは言う。
制御の足輪をはずせと。
「危険だ、私が止められなくなる」
『なに、我があふれた魔力をもらうからいい。
時は満ちた。われには知恵もある。力の使いかたも覚えた。
お前がアリアに教えるのをずっとみてきたからな』
「お前の魔力吸収はどれくらいあるんだ」
無限大だとシロは言う。与えられた分だけ強くなる。
そのかわり魔力の供給が止まれば、形は保てなくなる。
『我の存在じたいを我も理解しておらぬ、そんな気がする・・
という程度だがな。たぶん間違ってはいない
魔力が増えれば話すこともできる』
「わかった、信用しよう。」
いずれにしろアリアを存在させる為には後がない。
初夏になれば自国の王子、隣国の王子がやってくる。
最終的にはシアはアリアを選ぶだろう。国も女王も捨てる覚悟はある。
けれどそれは避けたい。アリアが人であることを望む。
人として暮らし、人と関わる幸せを感じてほしい。
怪物だ。魔獣の血が流れている。悪魔だ。
殺したほうがいい。
近寄るな。恐ろしい子供。
両親は言葉にはしなかったが、近づくことはなかった。
特殊保育士は優しかったが、他の使用人はわからないと思うのか
影で辛辣な悪口を言っていた。
あんな思いはアリアにはさせたくない。
シアはシロに向かう。
「明日朝に足輪をはずす。アリアにも話かけてやってくれ。
アリアは村に時々出てわかっている大人としか触れ合ったことがない。
私はこれから、付いて居られないときが増える。
アリアを頼む。」
シロは深くうなづいた。
見た目、子犬、丸くて大きめのめがクリクリしている。
鼻は黒くて濡れていて健康的、足はあまり長くない。
尻尾はふさふさの毛で、青みを帯びた白い毛並みは長くて お座りすると
毛玉にしか見えない。しかし見た目を裏切るえらそうな口調で話す。
『うむ、頼まれてやろう。
何よりアリアが好きだからな』
シロのイメージはポメラニアンです。