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5 翔ばします

 一瞬で大貯蔵庫の前に立っていた。

いくつもの扉が並んでいる廊下に転移してきていた。

アリアが行こうとしていたのは小貯蔵庫で階段を地下に向かって

降りた所にあるが、大貯蔵庫は正確な場所はよくわからない。

いつもシアに連れてきてもらうからだ。

かなり地下深いことは想像するだけだ。

厚い扉を開けて中に入ると、息が白く凍る。冷凍庫だ。

主に肉類、あとはオイル、収穫期が短い果物や野菜にパンそのほかにも

凍らせても劣化しないものが大量に貯蔵されている。

村の非常用食料庫でもあるので石で作られた棚が何列も並ぶ様は

いつ見ても圧倒される。


シアはその棚から肉のかたまりに手を近づけて魔力でくるむ。

精密な操作をいとも簡単にやるシア。

アリアはそれを見ているだけだ。

ふっと消える。転移させている。

次は塩漬けした肉、スープに使うとおいしい。

パンも()ばす。バター、オリブのオイル、小麦粉

塩漬けの魚、冷凍のイチゴ、ベリーの実、ナッツ

次々と()ばす。


「次行くよ」

隣の冷蔵庫に移動する。

チーズ、ミルク、ジャム、ポテト、ニンジン、

鮮やかに消えていく。

シアは息をするように転移させる。


「ではやってみようか」


全部シアがやってくれると思ったが甘かった。

シアが指さしたのはリンゴ。

アリアの大好物だ。赤いリンゴはそのまま食べる。

青いリンゴは酸味があるのでジャムや焼き菓子にいい。

黄色はジュースやお酒(シードル)にする。


シアが指定したのは赤いリンゴ。

「泡を作って」

アリアの魔力は真円でしか発現しないので小さな玉をたくさん作って

くるんでしまえばいいというわけだ。


アリアは緊張しながらも魔力玉を作る。

1センくらいの小さな玉をいくつも作りリンゴを包む。


「持ち上げて」


泡玉にくるんだリンゴをそっと宙に浮かせる。


「テーブルの上に()ばして」


失敗すればリンゴは砕けて食べられない。

集中して、テーブルを思いうかべる。

魔力のコントロールは意思の力、イメージが鮮明に脳内で描くことが

とても大事。テーブルの上にリンゴが置かれるイメージを紡ぐ。

美味しいリンゴがテーブルの上で食べられるのを待っている。

その場面を思いうかべると、言った。


「翔べ!」


リンゴは目の前から フッと消えた。


シアの顔を恐る恐る見ると、にっこり笑っている。

シアのもう一つの特化能力 探査でリンゴがテーブルに置かれたのを確認してくれたらしい。


「上手にできました。」


シアが頭をなぜてくれる。


「今度は無詠唱でね」


うなずいて、次を魔力でくるむ。

ふいっとリンゴが手元から消える。


「上達したね。とてもいい」


(とてもいい)


めったに言ってもらえない誉め言葉がメチャメチャうれしい。

調子にのって次々翔ばす。


「あっ!」


力かげんをまちがえた。

その時、リンゴはテーブルの上にたたきつけられ、粉々になっていた。

テーブルのうえに翔ばすためにはテーブルの上から3セン以下の

空間に翔ばさないといけない。

力かげんを間違えて2エン上の空間に現れたリンゴはそのまま落下して

砕け散った。


「飛び散ってるよ。位置が高い」


シアは怒らない。

アリアがその失敗を何より悲しむと知っているから。

アリアは甘いもの、果物が大好きだ。

その大好きが砕け散ったのだ。悲しくないわけはない。


「うん・・・・頑張る・・・」


そのあと、チェリー、オレンジ、翔ばすように言われたのは

柔らかくてアリアの大好物ばかり・・・。


疲れた。心が。

魔力量はまったく問題ない。

でも砕け散ったリンゴの後悔が心に突き刺さり

無駄に力が入ってしまったようだ。


「転移門を開くよ。腕輪を貸して」


「えっ いいの?」


転移門はポイントされた場所に念じるだけで移動可能な魔術だ。

アリアにはまだそこまでの応用力がないのでシアが腕輪に書き込む。

まず魔石を場に固定する。魔石と腕輪の魔力を同調させてつなぐ。

使用者を限定し転移者本人と体に触れているものを範囲指定する。

着ている服と多少の荷物を同時に運ぶためだ。

今まではどんなにねだってもくれなかった転移門。


「初夏にめんどうなお客が来るんでね、そのためだよ。

明日は街とテラの所へ行こうね。

基本は歩く。でも緊急の時は()べるようにしておかないと

まずいんだ。訓練ももう少し難度を上げよう。

出来ることはすべてやっておかないと身を守れないからね」


説明しながら受け取った腕輪に魔力を通し、精密な操作をしていく。


「さあ受け取って、流してごらん」


アリアは腕輪を受け取るとシアの指定した魔石に魔力を流す。


腕輪は魔力を蓄積したり放出したりできる魔石がいくつも埋め込まれている。

指さされた石はきれいな黄色に変化した。

床に埋め込まれた石も同じ色に変わっている。


「私の色はこれだから覚えておいて。」


2エンほど離れた床の石のすき間にアリアのよりもすこし黒のまじった石がある。

水に雫を落としたような波紋が浮かんでいる。

とてもきれいだと思った。


「これは私は使えないの?」


アリアがシアの石を指さすとシアはかなり動揺している。

顔をのぞき込むと返事をさがして目が泳いでいる。

視線をアリアにあわせないように、うろたえている。

こんなシアを見たのは初めてだったのでびっくりした。


アリアの考えは単純だ。

わざわざ新しい石を使わなくてもいいじゃないか、もったいない。

魔石は希少で高価だという。

ブラスト村で買い物するくらいで、希少と言われるものが

いくらするとか、まったく知識がないのだが、高価と言われれば

アリアに払えそうにないというのが怖い。

つつましい生活をしているので、本能のようなものだ。

シアを見つめる。

シアはため息をつくと


「使えないことはない・・・・

でも今は無理だね、いろいろ条件を満たさないといけないし」


「条件ってなあに」


「あと5年は少なくとも無理だね」


「成人すればいいの」


成人はアリアの最大目標だ。

がんばっても早くかなうことはないが。


「成人したからかなう条件でなないんだ。

他にもいろいろある。

勉強も訓練もいっぱいして、私と同じだけの精度を身に着けて

それからだね。」


「がんばる!なんでもする!」


シアがにらむ。


「ごめんなさい。言い直します。

私に出来る範囲で頑張ります」


「そうだね、何でもするという言葉は使ってはいけない。

とても危険なんだよ」


アリアが本当に何でもしたなら、国が滅んでしまう。

王都を丸で包み海に転移させれば簡単だ。

強大な魔力を持つアリアならば簡単に出来てしまうだろう。


「気をつけなさい」


それ以上は追及せずにいてくれたのでアリアは内心

(助かった)と思った。

シアの説教は長い。しかも正論なので逆らうこともできない。


「台所へ戻るよ、部屋と他の収納庫にも仕掛けるから」


またシアに抱っこされ、戻る。

粉々になったりんごを集めて、片づけていると

やっぱり悲しい。

アリアは食べ物が無駄になるのが許せない。

食い意地がはっていると、シアは言うけど

こればかりはこだわる。

おいしく食べて片づける。

これが一番大事だと思う。


()ばされてテーブルの上に並んでいる食料を台所にある

冷蔵庫と冷凍庫、棚にきちんと並べると

少し気が落ち着いた。

これでしばらくは暮らせると にんまりと笑った。


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