11 魔力解放
家に戻るとアリアは目覚めていてシロと笑いあって楽しそうにしていた。
「おかえりなさい」
アリアはうれしそうに笑ってシアを迎えた。
シロを抱き上げて、シアのところにとんでくる。
「シロがねいっぱいお話してくれたんだよ、これから練習するの」
何をとは聞かない、魔力の受け渡しと制御の練習だと思ったから。
「よかったな、昼食にしよう。そのあと地下の練習場に行こうか」
そっくりそのまま埋まっている古城には大広間もある。最初にそこを見つけた時は人骨があったりしてかなり凄惨な場であったがすべて片づけて今はただの広い地下室になっている。
アリアの魔力の練習にはちょうどいいだろう。
今まではシアの監視のもとでコントロールを練習し、大きな力を解放する時は浄化の森に翔んでいた。
シロが調整役をするのなら、上にある領主館まで吹き飛ぶことはないだろう。
「うんがんばる、なんかねとっても楽なの。こんなの初めて」
アリアがうれしそうに言う。
ぎっちりと足輪に抑制された魔力を小さく使って魔法を使うのはとてもたいへんなことだ。
シアは努力でそれを手に入れた。処分されずに保護者のもとで育つことが出来たのだ。
その為の努力は子供の身にはとてもつらいものだった。
「足輪を外してしまったからね、制御が難しいかもしれない。最初は慎重ににやるんだぞ。」
シアは心配症だ。アリアには過保護が過ぎる。
「うん わかった」
対してアリアは能天気にうなづいた。
簡単な昼食をすませてアリアとシロを連れて大広間へ転移した。
大理石の床にみごとな天井絵、かつての栄華がしのばれる。
家具の類は隅に並べられて片づけられており、広い空間が広がっていた。
「あそこにある椅子を、ここに持ってきて」
アリアはシアが指さした大振りな椅子を見つめる。
過去には身分ある人が使ったであろう古めかしい作りの椅子は、かなり重そうだ。
人一人では運んでくるのは大変そうだ。少しすすけてはいるが、きれいな皮張りの座面と背面、手すり部分には
細かな彫刻が掘られている。
アリアは手に魔力を集めて椅子に向けて放つ。
ちいさな転移泡をたくさん作り、包み込む。
次の瞬間、椅子はシアの目の前に出現した。成功だ。
「やった! シアできたよ、」
精度と速度が今までとは段違いの出来にシアも当のアリアも驚いた。
今までは可視の転移でも包みこむのに時間がかかり、すべてをきれいな形で翔ばすのはとても難しかった。しかしアリアは今シアと変わらぬ精度と速度で翔ばしてみせた。脅威の結果だった。
「シロ、今アリアの力をどれくらい削っている?」
しあがアリアの横にちょこんと座っているシロに尋ねる。
「90%くらいかな、もう少し増やしてもたぶんいける」
「ふむ、いい感じだよ。今の状態を保ってくれるかな、少しづつ変えて調整しよう」
それからはその椅子はアリアの練習素材になり、大広間の中を翔び回った。
翔ばして着地するまでの時間差もなく、椅子は部屋のあちこちに出現する。
シロに削る魔力を細かく調整させて通常の状態を決める。
「90%削るではなく、10%出力しているという表現でいけるか?」
「問題ない。今12%出力」
「しかし今更だが%の意味がわかるんだなお前は」
ほんとうに今更だ。さっきから85%削れとか気にも留めずに指示していたのに。
「ふんっ、わたしの知性をあなどるんじゃないわよ。おバカなのあんたは」
お姉言葉で罵倒される。
しかしシアは気にならなかった。あまりの有用なシロの存在に歓喜でいっぱいだったから。
シロの知性は獣どころか普通の人より高い可能性がある。しかも会話が成り立ち説明ができる。
すばらしいことだ。シアとアリアにとって最高の福音をもたらすシロ。
「いや、悪かった。これからもよろしく頼む。いやお願いします。」
ことばを改めるシアに今度はシロのほうが引いていた。
「いやっ・・・・まあよろしく」
アリアは二人をにこにこしながら見ている。
仲良くなってくれてうれしい。
アリアはごく素直に喜んでいた。シアの打算とシロの敵対心、その他もろもろ。
いろいろ隠れているのだが、アリアにはわからない。
「仲良くなってくれてうれしいわ」
シロを抱き上げ、シアにすりついた。シアの胸に顔を埋める。
シアはアリアをシロごと抱きしめた。愛しいアリア。
アリアの紫紺の髪が揺れる。シアの黒髪がさらりとかぶさる。
シアとシロはアリアのこの姿をずっと守るのだと、心に誓った。
たとえお互いが気に入らない存在でも、それだけは一致していた。