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1 アリアの日常

初投稿です。いまいちシステムが理解できていない自分が不安です。

読んでいただけるだけで幸せです。

よろしくお願いいたします

 アリアは暖炉の火が小さくなっているのに気が付き、薪を足そうと立ち上がった。

少しふらりとする。あまりに長い間座っていたので足がこわばっていたらしい。

机の上に置いたレース編みの道具が、ふわりとやわらかな絨毯に音もなく落ちた。

拾い上げてため息をつくと、暖炉に薪を足した。

薪は昨日のうちに暖炉の横に積み上げておいたので、あと2・3日は持つだろう。

火かき棒で灰を寄せて火がきちんと移るように薪を埋める。木の香りがふわりとたつ。

「もう暗くなってくるね」

ひとり言だ。ここにはアリアしかいない。

「ご飯の支度をして、お風呂に入って、洗濯して」

毎日のことなので確認するまでもないことを、ひとり言で話す。

「シアの馬鹿 帰るって言ったのに」

同居人の保護者は今日も帰らない。王宮務めの魔法使いは女王に引きとめられているので

帰れないと朝 転移室にメモを送ってきた。

そうメモだあれは手紙なんてもんじゃない。

その気になれば転移でどこからでも帰ってくることができるのに、帰ってこないのだ。

一人の寂しさを苛立ちに変えて怒ってみる。

「ライト」

左手首の腕輪にはめ込まれた黄色の石に 右のひとさし指を乗せて命じる。

壁に埋め込まれた黄色の魔石が光を帯びて部屋を照らした。

時計を見れば、もう夕刻だ。ご飯を作らなければ食べられない。

アリアが今いる部屋は、本来はこの屋敷の管理人が住まう部屋で隣は台所、その向こうは食料庫。

食料庫からは地下室に降りることができる。台所からもうひとつのドアを開けると風呂場。

洗濯のできる水槽や桶、トイレもある。

自分の部屋も別にあるし、大きな厨房に食堂、大浴場、応接間、地上2階建てのシアの屋敷は広い。

でもアリアはこの一角しか使っていなかった。

暖房用の薪を運ぶのも、大浴槽を洗うのもすべて自分でしなければならないからだ。

すべてまとまっているここがアリアの住居だった。

自分の食事の支度の前に、鳥と犬にご飯をあげなくてはならない。

アリアは単に鳥と呼ぶがシアは「ホウ」と「オウ」と呼ぶ。聖鳥だと言っていた。

白鳥ほどの大きさで立つとアリアの肩にくちばしが届く。

シアの夏用の新しいブランケットをくるりとまるめて上手に巣を作り、つがいで卵を温めている。

 3年前にこのつがいがこの屋敷にきてアリアになついたとき、たまたまシアに怒られて

むかついていたので、シアが王都で買ってきたばかりのブランケットを差し出してやった。

鳥はとても気にいったらしく管理人部屋の隅に巣を作り居ついてしまった。

シアが気が付いたときはそのスペースとブランケットは鳥のものになっていた。

シアの複雑な笑い顔を見られたのでアリアはとても満足したのだ。

白い羽根は美しい、羽の先端はきらきらと虹色に輝きホウのトサカは優美に広がり

これも虹色だ。食べるのはアリアの魔力。

指を近寄せてくちばしに寄せると、首をのばして魔力を受け取る。

「大丈夫、もっとどうぞ」

アリアが言うともう一度くちばしを寄せる。

目には見えない何かが吸われるのは気持ちがいい。

ホウとオウの羽がきらめいた。はじめてのことに驚いた。

「何っ、びっくり、でもなんてきれい。

今年は全部卵が孵るといいね」

最初の年は卵は3個で1羽だけ孵った。

去年は5個で2羽、今年は7個だ。

シアがアリアの与える魔力の量と質が関係していると言っていた。

秋にきて春にどこかへ帰る。孵らなかった卵は霊薬になるそうだ。

最初の年に足で転がしてアリアの前に置くので

「もらってもいいの?」

と、聞くと首を縦に振ったので大事にしまってある。

霊薬の意味がよくわからかったのもあるが、卵をもらうよりヒナが孵ったほうが

うれしいので複雑だった。

今年は全部孵ってくれるといいなと思っている。

もう一匹は犬。

白い毛並みで青い光沢がある。

アリアがシアに拾われたときからいっしょの相棒。

手のひらに乗るくらいの大きさからは、育っているのだがそれでも子犬くらい。

アリアが胸に抱きあげると鼻先がやっと肩に届くくらいの大きさだ。

聖獣なのか魔獣なのか たぶんどちらかだと思うがはっきりしない。

アリアにとってはどうでもいいことなので気にしない。

いつもそばにいてくれる。それだけでいいのだから。

「シロ はいどうぞ」

指を差し出すとはむりと口に含み魔力を吸う。

主食は魔力、おやつはパンやケーキ サラダも好きだ。

気に入れば食べるが、いらないとにおいだけ嗅いでふんっという仕草で拒否する。


同居獣にご飯をあげて、今度は自分の食事の支度をする。

台所は石と木が見事に組み合わせて作られている。

まだ背たけが足りないので踏み台必須なのが悔しいがそのうちと思っている。

朝作ったスープをあたためる。

腕輪の赤い石に魔力を少し込めて 熱プレートを起動させて鍋を乗せる。

引出からスープ皿とパン皿を取り出して 配膳用のテーブルに並べる。

右の開き扉を開けてかごに入ったパンを出す。パン切用のナイフを添える。

左の開き扉を開けてチーズとバターも出しておく。

「明日は温室と貯蔵庫に行かないと食べ物がないねえ」

ひとり言だ誰も返事をしてくれない。

シロは足元に来たが自分の好みのものがないのを確認すると

さっさと寝床に帰って行った。

「いただきます」

スープはおいしいし固く焼いたパンも好きだ。

大きなパンを薄切りにしてパクリと食べる。固いが噛むうちに小麦の味がひろがる。

2枚目にはチーズを乗せる。パンと同じくらい固いチーズだがこれもパンといっしょに

食べると噛むほどに味が広がっておいしい。

3枚目はスープに浸す。鶏肉と人参を煮込んだスープにパンをちぎって入れる。

バターをひとすくい落すと、香りがふわりとたつ。

スープを吸い込んで柔らかくなったパンがまたおいしい。

質素といえば質素。でもブラスト村の土と水と光、温泉、住人たち。

その賜物を集めて作られたパンとスープはとても美味しかった。

食事を済ませて食器を洗って片づけた。

次はお風呂。ここは温泉があるので湯を沸かす必要はない。

大きくはないが、アリア一人ならゆったりと浸かれる湯舟にお湯をためる。

お湯の栓を開ける水の栓も開ける。温泉そのままだと熱いので水をほどほど混ぜないといけない。

湯がたまっていくのをぼんやりみていた。

気の短い人ならばいらいらするのだろうが、アリアは湯がたまっていくのを

見ているのが好きだった。

先に水栓を止める。栓はコルの樹皮を丸く加工した瓶の蓋の少し大きいの。

浴槽の縁にある穴にキュッと差し込めば水が止まる。

湯加減は少しぬるめ。お湯は入りながら足していき最後にちょうどよく調節して

ゆっくり浸かるのが気に入っている。

服を脱ぐとお湯に浸かる。ぬるめの湯がきもちいい。

一度湯からあがり、浴槽の縁に座ってコルの葉で作ったパフを手にとる。

コルの木はブラスト村の大事な恵みだ。

樹皮は剥いで栓を作ったり、床を張ったり箱を作る。

葉は大きくてアリアの手二つ分くらいの楕円の葉。

夏から秋にかけて葉を積んで浄化の水に漬けておくと葉脈が残る。

これを干して保管してさまざまに使う。干したものをコルタと呼ぶ。

トイレは水洗、お湯で洗う。濡れたお尻はコルタで拭く。

台所で食器を拭く、掃除にも使うしコルタを幾枚も重ねて縫い合わせ

風呂上がりに水気をふき取るのにも使う。

秋に作ったオリブのせっけんを泡立てて体を洗う。

オリブは初夏に収穫される。オイルを絞るのだ。

新しく絞ったオイルは食用になるのだが前年の使い残しのオイルはせっけんを作る。

体も洗うし食器も洗う。万能洗浄剤だ。

ざっと泡を落として湯舟に浸かる。

湯の温かさがじわじわと体にしみる。アリアは13才、シアに拾われてから8年がたった。













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