廃墟街の恋空 -解-
あの瞬間きっと何かが変わって
きっと終わりが始まった
「ところで、少し気になっていたのだけどさ」
今日も彼は此処に来ていた
もう彼を始めて見た日から2度目の満月を迎えていた
[なにかしら?]
そう言って彼の方を振り向くと彼は声をかけてきたにも関わらず此方を見ずにいる
「ずっと気になっていたんだけど…彼はなんで死んでるのかな?」
彼はまだ私の方見ずに、少年だったモノを見ていた
[知らないよ…朝起きたら私の内臓を首に巻いてそうなっていたわ]
人の顔を見ずに話しかけてくるなんて失礼だと私は思った
多分きっと声にも出ている
昔から私は感情を隠すのが苦手だから
「そっか…なんとなく…少し彼の死に顔が幸せそうに見えたから、気になってたんだ…」
相変わらず彼は私の方を見ずにしゃべっている
それはやっぱり少し不愉快だった
「…羨ましいよ…報われた死に方を選べた彼が…」
でも、その…仕方ない、よね
今はもう少しだけこの感情を引っ込めてようと私は思った
私にとって始めての事
彼といるとそんな事ばかりだった
「ねぇ、少しお願いが在るのだけど」
不意に彼が此方を向いてきた
[なぁに?]
そう答えて私はドキリとした
「その…不躾なお願いなんだけど…君の残りの内臓を、僕にくれないか?」
それはあまりにも
[…別に、いいよ]
彼の顔が幸せそうに
死を選んだ顔だったから
「ありがとう、僕を殺してくれて」
‐
今、私は彼と向かい合っていた
凄く近い、触れない事が不思議な位に、凄く、近い
彼は私よりずっと背が高くて、こんなに近いと見上げてないと彼の顔が見えなかった
「こんな時になんなんだけどさ」
[なぁに?]
私は内臓を取り出しながら彼の声に答える
視線はずっと彼の瞳に合わせたまま
[君って可愛いよね、こんなに近いと落ち着かないや]
そう言って照れて笑う彼は凄く可愛いかった
内臓を彼の首もとへ
[実はさ、此処で君を見たときから、実は君の事が好きだったりする…所謂一目惚れってやつかな]
少し、意外だった
そして凄く嬉しかった
彼は私を見ることは無いと思っていたから
内臓を彼の首に巻き付ける
「だから僕は此処を死に場所に選んだんだ、此処が気に入ったってのもあるけど、君が居たから、ね…」
そう言って細められた彼の瞳は凄く私を惹き付けてくる
私はゆっくりと内臓を引き絞る
「だからさ、そこで死んでいる彼が羨ましいかった、君の内臓で幸せそうに死んでいて…凄く、羨ましいかったん、だ」
ゆっくりと締め上げられてく彼は同じ速度でゆっくりと苦痛に呻く
手のひらの中で内臓の弾力性が失われていく
「でも、これで…一歩、リー、ドかな…僕は、君に…殺し、て、貰えるから、ね…」
苦痛を耐えて幸せそうに笑う彼に視線はドンドン釘付けになる
締め上げる力が伝わって、私の手を赤く滲ませる
「…好き…でした…出来れば、僕と…付き合って…欲しかった、です…」
彼が私の瞳をみてそう言った
私は耐えられなくて顔を背けてしまった
…なにに背けて終ったのだろうか
わからない
わからないけど、目頭が凄く熱かった
‐そして有らん限りを持って彼の首を締めた
その瞬間だった
彼の動かない筈のお腹の腕が私の視界を駆け上がり、そして
彼のお腹の腕は私の内臓を引きちぎった
…
「また、死ねなかった…か」
死にそうだった彼は、内臓が千切れたせいで、結局死ねずに生きていた
「今度こそ、幸せに死ねると思ったんだけどなぁ」
そういう彼は恨めしいような、ホッとしたような目でお腹の腕を眺めていた
「こいつはいつもこうなんだよ…何時もは全く動かないのにたまにこうやって勝手に動くんだ…」
そう言って彼はお腹の腕を撫でる
「勝ってな奴だよ、僕の癖に、さ」
その腕の手のひらはずっと私の方を向いていた
「それでも、今回ばかりは動かないと思ったんだけどな…君に殺されるなら、さ」
それはまるで、私に手を差し伸べてるようで…
「…此処でさえ、死ぬには良い場所ではなかったのだろうか…」
‐嗚呼、この腕はきっと私の空洞を埋めるために…‐
…
「…なっ、なにをしているの!?」
それまで落ち込んでいた彼が驚きの声を上げて顔を上げる
驚きの声を上げる彼
それはまあ無理も無いことだった
[だってこうしたかったから…]
私は彼の手を空っぽのお腹の中に深く深く招き入れていたから
[貴方に、こうしてほしかったから…]
そう言って私は彼の瞳を覗き込む
ちょっと頬を赤らめている彼はなんだか可愛くて
でも視線はしっかり絡み合っていて
その瞳にただ私だけが映っていて
だからなのでしょう
この衝動を堪えきれないのは
嗚呼そういえば、誰かの瞳をみる彼がなんて初めてだったなぁ…そんな事を思いながら、ただ顔を近付けて…
『ニャ゛ー』
多分後5センチメートル
もう触れている気がする位互いの息使いがわかるほど近くて
でもまだ互いの息使いがわかるほどはっきりと離れている
そんな曖昧な距離で、聞こえたのはそんな鳴き声だった
振り返って見てみれば
こんな、猫さえより付かぬ街に相応しい程、ふてぶてしい顔をしたネコだった
ネコはもうひと鳴きすると、私達の間に割って入りながら先へ進んでいった
それはまるで、私の距離を引き離すかのように
そしてネコは、ただただそこに有り続けた少年の亡骸の上に陣取り、ふてぶてしい顔で此方を眺めていた
なんてふてぶてしい態度なんだろう
…あのネコを、1から10までふてぶてしいと感じるのは、私がちょっと怒っているからだろうか?
「…此方はホントに、死ぬには良くない場所だったって事かな?」
でも、そういって笑う彼の顔が見れたから、まぁいいか、って許してしまう私はきっとただの女の子なんだろう
‐あれから幾度かの夜が来た
今日も私は此処にいた
私の恋した彼と
ふてぶてしいネコと
まだ、私は此処にいる
あれ以来私は空を見ることが少なくなった
だからあれから幾日たったか
私にはわからなかった
Re;play?/終わり
。