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俺と彼女(愛犬)の娯楽頭脳戦

作者: 平月なつめ

うちの犬は賢い・・・と思う。

よく吠えるけど、目立って駄目なところはそんなことくらい。シュナウザーとダックスのミックスの女の子で、知り合いから貰った犬だ。今は六歳で、毛並みはシュナウザー、骨格はダックス寄りだけどシュナウザーも残っている、いいとこどりしたみたいな子。

今日は彼女の好きなボール遊びだ。

ボールを投げたふりをして自分の背中側にボールを隠す。

犬がボールが行ったと思われる方向に振り向いている間に素早く手を背中に回す。

しかし、犬も馬鹿ではない。ボールが視界に入らないことと、ボールの弾む音がしないことからボールが本来の軌道を描かないことを察した。彼女は、鼻を使って当たりの捜索を開始した。

「どーこだ」

俺がボールの在りかはどこかと尋ねる。彼女はもうこの言葉だけで遊んでいると認識する。ボールを探している最中にこちらの気がそれていると、かまってくれていないと思い、ボールの捜索をやめてしまう。犬は元来かまってちゃんなのだ。

今遊んでいる部屋は八畳ほどのリビングで、三枚の引き戸を挟んで寝室に繋がっている。寝室は和室で敷布団で寝ているので、寝るとき以外は布団は端の方に畳まれている。その寝室も八畳の広さがあり、普段はその計十六畳の部屋を縦に使って遊ぶ。五、六メートルはあるだろうか。

俺はリビングに置いてある二人掛け用のソファに座っている。足が少し長めのダークブラウンのソファだ。母が茶色が好きなので、絨毯もソファもテーブルもテレビ台も茶色になってしまっている。最近、母の足が悪くなってきたので、テーブルは床から七十センチほどの明るい木製のテーブルに新調したけど、それでも茶色に変わりない。

犬はしきりに周辺を捜索していたが、突然ソファの下に顔を突っ込んだ。ソファの下に何かあったようだ。しかし、俺はそこにボールを隠した覚えはない。今探してほしいボールとは別のおもちゃが下にあるのか?

犬がソファに潜り込もうとするので何があるのか気になって席を立ち、ソファの下を覗き込んだ。

暗くてよく見えないな。けど、まだ何か探しているし、奥の暗いところにあるのかもしれない。そう思って目を凝らすと、頭の方から音が聞こえた。

彼女はさっき隠したボールを咥えていたのである。音はソファに飛び乗る音だった。

やられた。完全に彼女の戦術にハメられた。辺りにボールがないことを確認した彼女は自分の死角にあると睨んだ。俺より目線の低い彼女には足元の死角はほとんどない。自分の目線の高さより上にあると考えた彼女は、俺がボールを隠してから一歩も動いていないことを考慮して、俺の手の届く範囲にボールが隠されていると当たりをつけた。

しかし、ソファに飛び乗って探そうとすれば、俺のボディブロックを受け、捜索ができなくなる。ここまで憂慮した彼女は、俺をソファから引き離せばいいと思い至った。そのための行動として、何もない場所を必死に探して、俺の気を惹く。ソファの下はあらかじめ何もないことを確認しておいたのだろう。俺から離れて別の場所を探していたのもこのためか。

彼女の気になる行動を見ると寄って行ってしまう日ごろの行いを上手く利用された。あとは俺がソファを覗き込むのを待てばいい。こうしてまんまと誘導された俺は隙を作り、彼女に敗れてしまった。自らピエロを演じるとは。この子は末恐ろしい子だと改めて実感する。

彼女の勝利宣言するかのような顔に、強く自分の敗北を実感するのだった。


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