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three

「ここが、職員室ね」

クリスがそれを聞きながら頷く。

「今朝行ったな」

そうだよね、と頷く。転校生はまず職員室に行くのが決まりだ。

「あとは……」

優は頭の中で校内地図を思い浮かべる。

(体育館も家庭科室も図書館も行ったし……。どうしよう?)

優はちらりとクリスを見る。クリスは自分のことを遠巻きに見ている生徒たちをつまらなさそうに眺めていた。

(すごく退屈してるな……)

優はまず、クリスと話が続かないのに困っていた。話しかけてもすぐに会話が途切れてしまう。話題を探そうにも初めて会った彼と合う話題なんてないし……。

そう悩んでいるうちに、ふと、優は自分に向けられる視線に気づいた。

クリスがじっと優のことを見つめていたのだ。

今気づいたが、彼の瞳は抜けるような秋の青空の色だった。

優は悩んでいることも忘れてその瞳に思わずみとれてしまう。

(綺麗……。それに、なんだか懐かしい色……)

ぼうっと瞳を眺めた後、はっと我にかえった優はクリスに話しかけた。

「何?何か顔についてる?」

そう言ってぺたぺた顔を触っていると、クリスが優から少し顔を遠ざけた。

「いや……」

なんだか納得がいかない顔をしてクリスが言葉を濁す。そして

「あんた、本当に山本優なんだよな?」と疑わしげに尋ねた。

「え?うん、そうだけど……」

そこまで言って優ははっとする。

「というか、なんで私の名前を知ってるの!?」

驚いた優を見てクリスが頭を掻いた。

「まあ……。知ってるもんは知ってるから仕方ないな」

「ちょっと、答えになってないんだけど!」

優は思わずつっこむ。

さらに深く聞き出そうと優が身を乗り出したとき、

「あれ?優……とクリスくん?」と不思議そうな声がした。

優とクリスが振り返る。職員室の扉から少し離れたところで志織が紙を持って目を丸くして二人を見ていた。

「しーちゃん?なんでここにいるの?」

優が尋ねると志織が二つに折りたたまれた紙を見せる。

「今日の英語の小テストでよく分からない所があったから、先生に質問してきたの」

テスト、という言葉を聞いて優は頭を抱える。嫌なことを思い出してしまった。

「ああ~……。またお母さんに怒られる……」

クリスが不思議そうな顔をして優と志織を見比べる。

「She is very shocked because her English test was bad.(彼女は英語のテストが悪かったからショックをうけてるの)」

志織がそう苦笑いで言うと、クリスが少しだけ目を見開いた。

「あんた、英語うまいな。ハーフか?」

クリスに問われ「ち、違うよ」と志織が慌てて手を横にふる。

「しーちゃんはすごく英語上手なんだよ!なんてったって、英検二級持ってるんだから!」

優がまるで自分のことのように誇らしげに言う。

「すごくないよ!」と志織が恥ずかしそうに言う。しかしなんだか嬉しそうだ。

「ふうん。準一級受けてみたらどうだ?なかなかいい線いくとおもうぜ?」

クリスに言われ志織が恥ずかしそうに俯いた。顔が真っ赤になってしまっている。

(しーちゃんは男子に免疫がないからなー……)

真っ赤になった志織を見て優が困ったように笑う。それから志織の方にまわり、ぽんぽんと背中を叩いた。

「うんうん!しーちゃんなら受かるよ、楽勝だよ」

そんなことないよ、と志織が蚊の鳴くような声で言う。それからばっと顔をあげて、

「い、今は私のことはおいておいて、優だよ、優!あんた、本当に英語勉強しないとまずいよ!」と優を見て言った。

「え?まずい?」と優が目をぱちくりさせる。

「あんたこのままじゃ、どの志望大学も受からないって!」

両肩をつかまれて、「あー……」と優が頬を掻く。

「……おい。そんなにこいつ英語苦手なのか?」

黙って聞いていたクリスが呆れたように志織に尋ねる。

「あ、うん。あ、えっと……。Because……」

必死に英文を考える志織に「日本語でいい」とクリスが言う。

「あ、ごめんね。ありがとう。……だって優、いつも赤点だもん。三年になれたのが奇跡みたいなもんだよ」

「それは言わないでよお!」と優が志織の口を塞ぐ。

「そんなに難しいテストだったのか?」

クリスの質問に志織が首を振る。

「ううん。ほとんど基本問題」

「いや、難しかったよ!」

志織の言葉に今度は優が首を振る。

「多分今回のテスト、優以外の皆六十点こえてるよ」

志織の言葉に優が「うそ!」と叫ぶ。クリスは呆れ果てたような顔をして優を見た。

「あんたは中学からの六年間、一体何を勉強してきたんだ……」

「ク、クリスはいいじゃん!だって母国語だもん!」

優が志織に抱きついたままクリスに向かって言う。

「……」

クリスは指を顎にあてて考え込んだ後、口を開いた。

「あんたも英検を受けてみたらどうだ?」

「えっ!?私?」

いきなり指名されて優が驚く。

「えー……。私絶対受からないよ……」

「俺もそう思う」とクリスがハッキリと言う。

「ちょっと!失礼な!」

「でも、英検受けることになったらもっと真面目に勉強するだろ?」

ニヤ、とクリスが笑った。水色の瞳が意地悪そうに歪められる。

「今度の英検、六月にあるからよ。受けてみろよ、準二級からでいいから」

な、と優が口を開ける。

「二ヶ月真面目に勉強すれば受からなくもないと思う。英検の資格はあっても損にはならないと思うぜ」

そう言ってクリスが踵を返した。そしてゆっくりと歩き出す。

「じゃあな、俺は帰る。今日は案内してくれて助かった」

そう言って手を軽く振りながらクリスは去っていってしまった。

優と志織が廊下に残される。

「な、なによあいつ!失礼な!」

優が怒り出す。

「ま、まあ、優のことを思って言ってくれてるんだよ、きっと」

そう志織がフォローする。

「だからと言っても言い方があるでしょ、言い方ってもんが!」

ぷりぷり怒る優をなだめながら志織が口を開く。

「それにしても、クリスくん、日本語ペラペラなんだね。すごいなあ」

そう感心する志織の言葉を優が面白くなさそうに聞く。

「日本には日本語の勉強をするために来たらしいよ」

そう言ってから優はふと疑問を覚えて呟いた。

「なんで英語話せるのにわざわざ日本語を勉強するのかねえ?私には理解できないよ」

うーん、と志織が首をかしげる。

「まあ、いろいろな理由があると思うけど……今度クリスくんに尋ねてみようよ」

志織の提案に「そうだね」と優は頷いた。


(C)2019-シュレディンガーのうさぎ

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