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one

山々が紅い服を着はじめた頃だった。

渡月橋の上に、二人。

『これ、あげる!』

艶やかな黒色の髪の毛をした少女はそう言って手をつきだした。

その小さな手の上に乗っているのは、掌サイズの緑色の折り鶴。

『お姉ちゃんと一緒に折ったんだよ』

それを金髪の少年は首をかしげて受け取る。

『私、もう一個これもってるから!』

そう言って少女がたどたどしい動きでポケットを探る。そして、同じ大きさの青色の折り鶴を取り出した。

『今度会ったとき、これを見せあおう!』

少年の水色の瞳がぱちくりと瞬いた。そして、ゆっくりと頷く。

『約束だよ!』

少女は、お日様のように温かく笑った。






「ねえ、優、知ってる?今日、うちのクラスに転校生が来るんだって」

そう親友の志織が話しかけると、優は机にくっつけていた顔をあげた。

「え?何?」

どうやら机に突っ伏して寝ていたらしく、目をごしごしと擦っている。

「もう、だから、うちのクラスに転校生が来るの!しかも、外国人の!」

その言葉に優が目を丸くする。

「え!?外国人の転校生!?」

「そう!びっくりじゃない!?」と志織が身をのりだし、優の机に両手を置く体勢になった。

どうやらクラス内は転校生の話で持ちきりのようだ。「どんな子なんだろう」とか、「どこの国の子なんだろう」とクラスメイト達がわくわくしたように話している。

「それにしても、なんで高校三年の時期に……?」

優が尋ねると、志織は首をかしげ

「さあ……。私、職員室で盗み聞きしただけだからよく分かんないんだけど、多分留学しに来たんだと思う」と答えた。

ふうん、と優が相づちを打つ。

「わざわざ日本まで来てくれるなんて、ご苦労様だよねえ」

優がそう言って机に両肘をつく。

「私だったら日本じゃなくてカナダに行くね」

優の言葉に志織が賛同する。

「カナダいいよね~。まあ、でも日本には面白いもの一杯あるでしょ。ご飯もおいしいし。それに職を求めて働きに来る人も多いって言うじゃない。……今回は留学だから仕事目当てじゃないけど」

志織の言葉になるほどねえ、と優は納得する。

一体何しに来たのかなあ、と優が考える。

うーんと考え込んでいた優だが、何かに思い当たったようで急に頭を抱えた。それを見て志織が驚く。

「ちょっと、優!どうしたの?」

「やばい……」

優がそのまま震え出す。

「え?何?」

尋常じゃない震えぶりに志織が困惑して尋ねる。

「今日、英語の小テストが返ってくる……」

それを聞いて、志織は呆れた顔をした。

「何、またやらかしたわけ?」

志織の言葉にこくんと優が頷く。

「だって英語なんて分かるわけないじゃん!」

そう両手で机を叩きながら言う優を見ながら志織はため息をつく。

「まったく……。あんたのお姉さんは英語すごく得意だっていうのに、なんであんたは……」

「仕方ないじゃん、そんなこと言ったって。無理なものは無理なんだもん」

優は口を尖らせる。はいはい、と志織が受け流す。

「でも、十二月になったらセンター試験がやって来るでしょ。英語を出来ないままにしとくと後が辛いよ」

それを聞いて「あー、耳が痛い」と優は耳を塞ぐ。センター試験。一番聞きたくない名前だ。

「大体、日本人なのになんで英語なんか勉強しなきゃいけないの……」

ぶつぶつ文句を言い出した優を見ながら志織が今日二度目のため息をついたとき、がらりと教室の扉が開いた。担任がツカツカと教室に入ってくる。

「ホームルーム始めるぞ、席につけ」

じゃあまたね、と志織がいい席を離れていく。優は小さく手をふると、窓の外を見つめた。

桜の花びらがひらひらと舞い降りていくのを目で追う。

英語は嫌いだ。いや、出来ないから嫌いなのだ。

単語なんて覚えられる気がしないし、文法も頭の中でごっちゃになってしまう。

最近は看板や洋服に印刷されている英語を見ただけでめまいがしてくるほどだ。

志織は外国語学科志望といっていたが、優にはまったくもって理解できない。

(しーちゃんはいいよなあ、英語が出来て……)

今日の時間割の二時間目に『英語』の文字を見つけて、優は顔をしかめた。

(あーあ、憂鬱……)

春なのに気分が晴れないなあ、と優は頬杖をついてため息をついた。


(C)2019-シュレディンガーのうさぎ

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