本当の闘い
今回でひと段落です。
エピローグで占める予定です。
「そこまで!勝者!尼子家!」
色ボケ当主の首を斬り飛ばして試合終了宣言が為される。
立会人の勝利宣言を受けて、湧き立つ尼子陣営。
反対の京極陣営はお通夜状態だ。
初めて人を殺したな。
もっと何かあるかと思っていたけどそれ程罪悪感が無い。
相手が色ボケだったおかげかな。
おっと。ボーっとしてる場合じゃない。
これからが本番だ。
城の方から狼煙が上がっている。
次に移らないと。
刀を晴香さんに向けて、合図を送る。
頷いて荒身国行を纏って動き始める晴香さん。その後ろを家臣団が付いて行く。
その様子を見ながら大内家の代表者が俺に近寄って来る。
「おやおや。せっかく決闘に勝利したというのに慌しいですな。」
「まあな。こっちは人手不足で忙しくてな。約定の巻物は持って行く。話なら少し待っててもらえるか?」
「構いませんが何を?」
代表者の持っていた巻物を手に取り、軽く目を通す。問題無いな。
代表を放置して、こちらの頼んでいた立会人に近づく。
「今回の決闘は尼子家の勝利に終わった。次の決闘の話をしましょうか?」
「お見事でした。それでは次は我が三刀屋家と尼子家の決闘とさせて頂きましょう。こちらが決闘の約定の草案です。決闘開始は、事前の取り決め通りに10日後の正午でよろしいか?」
「ああ。問題ない。」
「では。また。」
「ああ。」
そう言って三刀屋家の立会人は用事は済んだと退席していく。
その様子を大内家の人間が唖然として見ている。
「い……今のはいったいどういう事ですかな?」
「聞いていた通りだ。10日後に尼子家と三刀屋家で決闘をする。それでそっちの要件は?」
そう返すと口ごもる大内家の人間。
新たに京極家を手に入れた尼子家に手を出せないようにしただけだ。
新しく京極を含めた全権を掛けて、三刀屋と決闘をする。
これで三刀屋との決闘迄、誰も手を出せない。
だからこそ、こいつら大内が何を言うかの想像は付いてるがな。
余計な事を言う前に、俺の方から相手に伝える。
「たっ大変だ!立会人殿!」
「い……いかがなされた?」
「たった今、三刀屋家との決闘を受けたのだが、所属不明の軍勢が攻めて来たと部下から連絡が来た。」
そう言って俺たちの居た山から上がる狼煙を指さす。
「我らは決闘を汚す不定の輩の相手をしなければならん。これにてご免!」
そう言って何か言おうとしたのを無視して、大内家の立会人から走って離れる。
向かう先は京極家陣営だ。
無事そうな副将に声を掛ける。
「後でここに、こちらの人間をよこす。それまで半数はこの場に残せ。怪我人と本拠地への連絡は許可する。何かあるか?」
「我らは負けた。だが貴殿らはここで終わる。」
知ってる。京極が負けたら大内が攻めてくるのは予想通りすぎるんだよ。
「わかったわかった。悪いが謎の軍勢が攻めてきている。時間が無い。約定は絶対なんだろ?半数はここに残る、怪我人と連絡要員の移動は許可する。はい。復唱。」
「……わかった。半数はここに残り、怪我人は連絡要員と一緒に半数を移動させます。」
「よし。それじゃああとでな。」
面従腹背なご様子の京極家の人間に、必要な事だけ伝えておく。
急いでこの場から離れて山へ向かう。
後ろから大内家の人間が何か叫んでこっちに来てるが無視だ。
『権能』を発動させて叫ぶ。
『ククちゃん!頼んだ!!』
『お任せやわぁ』
ーsideー 尼子 晴香
一輝様からの合図を受けて、打ち合わせ通りに城まで見渡せる小山の上まで移動した。
私の周囲を護衛に付いてくれた家臣団が囲む。
城を見ると、城門が開いて中から大内軍が出てくる。
決闘が終わった我らを討つ為だ。
「卑劣な。」
決闘に勝ち、油断している相手を横から討つ。有効なのは分かる。
しかし、決闘を終えた家は暫く攻めないのが暗黙の了解だ。
それを大内の家は破った。
そんな思いからか、つい口から零れる。
「その通りですな。しかし御使い様の予想は見事に当たった。」
「ええ。おそらく親である大内家は、京極家が負けた時の保険として何か仕掛けてくると。一輝様の予想通りでしたね。」
近くを護衛してくれている家臣にそう返す。
そうでなければ大内家が、今回の決闘を自身の傘下に入った京極に許可するわけがない。
決闘を終えた後に、尼子の傘下に入った京極の人間が、大内に攻撃を仕掛ける振りをする様に大内に指示をされている位は考えておけと。
そう強くおっしゃっていました。
今回大内が攻めて来たという事は、似たような筋書きが成されているのでしょうね。
武門の誇りを信じて、危うく今回の大内の暴挙をそのまま許すところでした。
「御使い様の戦いぶりも見事でした。京極の当主は最後まで御使い様の手の上でしたな。」
「ええ。本当に。久しぶりに胸がすっとしました。」
相手の心理を読み、逆手にとる。
引き込んでいき、引き返せなくなった相手を確実に死地に追いやる。
後の事も考えて敢えて弱者の振りをする。見事な兵法でした。
それに未来の夫に、あの気持ち悪い男から守ってもらったというのはとても気分の良いものです。
「いや。あの御使い様が来られて本当に良かった。」
「そうですね。」
「姫様にとってもです。久しぶりに姫様の笑顔が見れた。」
「そうでしたか?」
「そうですとも。」
そうなのでしょうか?
兄様から上に立つものは常に余裕を見せなければならないと、常々注意されていたのに。
家臣に私の心配をさせてしまうとは。
これは反省しないといけません。精進しませんと。
尚更一輝様に感謝しないといけませんね。
そんな話をしていると、私の荒身国行から凄まじい力が溢れて来た。
蒼い鎧が輝きだす。
「姫様!」
「ええ。ククリ様がお力を貸して下さっています!」
私は溢れる力を使い、幼いころから何度も見た宍道湖を見る。
その宍道湖から流れる水をこちらに引き込むように、力を手繰るようにする。
『ククリ様お力を!』
『まかせといてなぁ』
一瞬、ククリ様が答えて下さった気がした。
そう思った時、宍道湖から龍が出た。
水で出来た龍だ。
湖から出た水龍は松江城に巻き付き、その全てを飲み込む。
そのまま城から出て、進軍していた大内軍の全てを飲み込んだ。
大内軍の全てを飲み込み終えた龍はそのまま空で留まる。
龍の水で出来た体の中を飲みこまれた大内の兵が流れている。
その光景を、城下町の住民達は畏れて見ていた。
誰かが祈るように両手を合わせて地に膝を付け、頭を垂れる。
一人がそうすると、周りも続く。
やがて町の人間が全て、水龍に祈り始める。
住人達が一斉に祈りを捧げる。
そんな光景がずっと続くと思われたが、終わりが来る。
水龍は一度空へ向かうと、頭を宍道湖へと進ませる。
龍の頭が宍道湖へと入ると、その体も湖へと沈んでいく。
城に巻き付いても、尚余らせていたその巨体は、みるみるうちに宍道湖へと消えた。
こうして前回の戦で尼子軍に勝利し、城内の占拠を続けていた大内軍400名と。
進軍を開始していた800名を合わせた大内軍総勢1200名。
その全てが水龍によってその命を喰らわれた。
ククリちゃんかっこいいと思ってくれた方。
ブクマ、評価の方お願いします。
作者の励みになります。