決闘開始
今回は京極家当主 京極 秀臣さんの視点です。
本編に名前が出ませんでしたので、こちらで書いときました。
「始め!」
決闘が始まった。
晴香の婚約者だとか虚言を私に吐いていたあいつが先鋒の様だ。
奴は生意気にも、先々代の尼子が使っていた千鳥を使っていやがる。
まあ無事な大鎧は晴香の荒身国行と、逃げる時に持ち出したあれしかなかったようだしな。
千鳥を扱うならば、奴が先鋒は納得だ。
予定外の出来事はあったが、千鳥を着たこいつを倒せば終わる。
これは俺が尼子晴香を手に入れる為の決闘。
我が京極家の勝利が約束された、晴香との婚約に向けての儀式という事実に変わりは無い。
晴香は無事だった荒身国行を持っているが、武将としてはまだまだ未熟。
我が京極家の相手にもならん。
そもそも女が戦場に出て来るのが間違いなのだ。
晴香もさっさと俺の子を産んで京極の家を支えれば良いものを。
残りの三人の武将の横には、先の戦で損傷したままの、修繕出来なかった大鎧が並ぶ。
あれでは戦いになるまい。
実質これが決勝戦だ。
奴はうちの先鋒の忠継と既に10合程打ち合っている。
金剛力によって高い攻撃力と防御力を有する大鎧の武者同士の戦いは、戦闘がすぐに終わる事の方が稀だ。
それに忠継には出ていく前に、なるべく奴を弄れと指示してある。
絶対に楽には殺してやらん。
腕を落とし、足を落として四肢を切り落としてから命乞いをする奴の首を落としてやる。
奴を惨たらしく殺す姿を想像している間、四半刻(約30分)程打ち合っていただろうか?
忠継の右腕が奴に斬り飛ばされた。
どうやら鎧の隙間に刃が綺麗に入ってしまった様だ。
運のいい奴だ。
だが次は無い。
次鋒の康秀が決闘へ向かう。
康秀にも俺をコケにした奴を弄って殺せと指示をする。
打ち合いが始まる。疲れが出始めたのか、奴の足が時折ふらつく。
いいぞ。もっとだ。弄れ。
今回は先鋒戦よりも、若干短かったが四半刻程で決着する。
康秀の左腕が斬り飛ばされる。
忠継といい、ふがいない奴等だ。
しかし、次で終わりだ。
一般的に武者を全力で稼働させるのは、半刻(約1時間)が限界と言われているからだ。
奴はその限界の半刻に迫っている。
俺の手で殺せないのは残念だが仕方がない。
中堅の秀興には、相手はもう限界だろうから時間を掛けて弄って殺せと指示をする。
ふむ、これで終わるかと思うと頭も少し冷めてくるな。
奴が晴香と寝たというのは奴の妄言だろう。
若しくは晴香が俺にヤキモチを焼かせるために奴に言わせたのかもしれんな。
うむ。そうに違いない。
そう考えると晴香め。愛い奴よ。
だが俺をこの様な気持ちにさせたのは許せんな。
これが終わったらしっかりと仕置きをせねば。
仕置きの内容を考えていると、立会人の決着宣言に引き戻される。
幸せの時間を邪魔しおって。
どういうことだ?
秀興の右腕が斬り飛ばされている。
どうやら限界が近かった奴は無理な攻勢に出たようだ。
振るった刀が、奴の足がよろけた拍子にズレて、秀興が対応できずにその身で刀を受けてしまう。
鎧の隙間に偶然刃が入り、腕を落とされたと。
何たる悪運の持ち主よ。
忌々しい。
だが最早限界のようだ。
肩で息をしており、堪らずに片膝をついておる。
最早次の戦いは、一合持つのかも怪しい。
ならば私が、手ずから引導を渡してやるべきだろう。
副将の勝義に次戦を辞退しろと告げる。
だが勝義は、俺に考えを改めるように意見してくる。
曰く、奴は何処かおかしいと。
ここは余計な隙を与えずに全力で戦うべきだと。
確かに決闘において、三人抜きの出来る者は間違いなく豪の者だろう。
しかしいままで奴の決闘を見ていたが、何度も打ち込んだ刀が偶然大鎧の隙間に入り込んで、腕を切り落としただけ。
最後は見ていなかったが、足を滑らせた偶然の勝利なぞ何も誇れんものだ。
名高い千鳥を纏いながら、その権能すら使えぬ無能。
特筆されるような実力も権能も無い。
ただの運を持っているだけの男だ。
今は肩で息をして、次に刀を振れるかも分からぬような状態だ。
そのような者にだ……
この名家京極家当主たるこの俺が!
奴に!
敗れるとは!
愚弄しているのか!
この俺に!
俺をコケにしやがった奴を殺せる好機を見逃せと言っているのか!?
……うむ。分かれば良い。
諦めて勝義が次戦を辞退する。
そもそも私は京極随一の豪の者だぞ?
我が家を心配してくれるのは嬉しいが、心配しすぎだ。
奴を殺したら晴香の仕置きが待っている。あまり時間は掛けられんな。
我が家に伝わる大業物 京極政宗を纏い中央に向かう。
奴はふらつきながらも立ち上がる。
「貴様はこの私が手ずから殺してやる事にした。有難く思え。」
「……」
ふむ。最早言葉を返す余裕も無いか。
つまらん。
貴様の叫び声を聞きたかったというのに。
「両者!構え!」
弄っても命乞いは聞けなそうだな。
腕から切り落とそうかと思っていたが……やめだ。
興が削がれた。
さっさと首を撥ねて、晴香の仕置きとするか。
「始め!」
掛け声が掛かると同時に奴へ向かって踏み出す。
奴も前へ出る。
と思ったら視界が回る。
宙に浮いたようだ。
「 」
声が出ない。
何だ?
力が抜けていく。
体も動かん。
「ありがとう。お前が愚か者で、本当に助かった。」
奴の声が耳に残る。
地面に落ちて転がる。
目の前には京極政宗を着た俺の体が立っている。
なんだ?なぜ?なにが?
「 」
言葉が出ない。
意識が遠のく。
真っ暗だ。
何も……
これで京極家の決闘はおしまいです。
初戦の相手なのでさっくり描写です。
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