決闘の約定
決闘と聞くとワクワクするのは私だけでしょうか?
松江城前 正午
前回の戦で大内軍に奪われた、松江城の見える平原。
ここで今から尼子家と京極家の決闘が行われる。
周囲には両家の要請で立会人となった、他家の武将が20名程腰掛けている。
両家の中央には木造りの卓子(テーブル)が置いて有る。
立会人の代表者となった大内家の一人が、両家の間に置いて有る卓子の前に立つ。
「それではこれより京極、尼子両家の決闘における約定を執り行う!両家の代表者、こちらへ!」
代表者に呼ばれて俺と京極家の当主が、立会人の元へ向かう。
俺の顔を見て、こちらへ向かう京極家当主の表情は訝しげだ。
「それでは。決闘前に約定の確認を行う。」
代表者が巻物を取り出して、周囲に聞こえる様に大きな声で読み上げる。
「一つ、勝利した家が、敗北した相手の全権を有する。」
「一つ、決闘は五対五で行われる勝ち抜き戦である。」
「一つ、武家の誇りを汚す事無かれ。」
「一つ、当事者以外の手出しは無用。」
「一つ、戦いは常に一対一のみ。」
「一つ、決闘の約定は、決闘前に記した書状と互いの血判を持って証とする。」
「一つ、以上の約定は絶対順守とする。相違なければ互いの署名と血判を。」
「分かった。」
「待て!」
俺が先に巻物に署名しようとすると、京極家当主(色ボケ)が俺の署名を叫んで阻む。
「なんだ?」
「約定の署名と血判は、その家の当主が行う物だ。お前のようなどこの馬の骨とも分からん家臣が出来る訳なかろう。」
「それなら問題ない。俺が尼子家の当主だ。先週婚約した。」
「なっ……何を馬鹿な事を」
「先代の尼子晴香が認めているぞ?問題あるのか?」
そう言って立会人を見て確認する。
「婚約も次代の当主を名乗る事も、実権を持っている尼子晴香が認めたなら問題ない。」
「そうか。ならサイ……署名をしても良いな?」
「うむ。こちらへ。」
卓子に置かれていた筆に、墨を付けて名前を教えられた通りに書く。
尼子家当主……っと天童一輝と書くと、色ボケにいちゃもん付けられそうだな。尼子 一輝っと。
最後に、卓子に置かれた小刀を鞘から抜いて、親指を薄く切る。
血が滲んで来たところで名前の下に指を押す。
「これでいいか?」
「うむ。問題ない。」
立会人が確認をしてお墨付きをくれる。
確認が終わると色ボケ当主を見る立会人。
「京極家当主。こちらに署名と血判を。」
立会人が呆けた状態の色ボケに署名を促す。
聞こえていない様子だ。
「そんな……そんな事が認められるはずがないだろう!あれは私の物だ!ずっと前から私の物だったんだ!」
再起動した色ボケが俺に食って掛かる。
いやまさかモノ扱いとはね。
「お前のモノになりたくないから俺と婚約したんじゃないか?」
「ふざけるな!あれは『京極殿!!』」
叫び散らしていた色ボケを立会人が一喝して止める。
「京極殿、決闘前である。こちらに署名と血判を」
「あ……ああ。すまない。」
立会人に促されて色ボケは署名と血判を行う。
互いの署名と血判を確認する立会人。
「これにて、決闘の約定は成された。今より決闘を行う。両名、自陣へと戻れ!」
立会人が宣告する。
自陣に戻ろうとすると、色ボケが話しかけてくる。
「お前は必ず苦しませて殺してやる。後悔するなよ?」
「そうか。頑張れよ。」
「裏切った晴香も後悔させてやる……絶対にだ。」
「そうか……そういえば知ってるか?」
「何をだ?」
「夜の晴香はなかなかかわいいぞ?」
「っ!?」
おー凄いにらんでるな。
襲い掛かって来るかとも思ったけど来ないか。
さすがに決闘を台無しにする事は無いか。
決闘が無くなるのはこっちも困る。
昨夜決戦前に皆で軽く飲んだのだけど、晴香さんは酒に弱いらしく、少量の酒に酔って普段言わない様な事を口走ってかわいかった。嘘は言ってない。
そのまま色ボケを無視して自陣へ戻る。
「いかがでしたか?」
「予想通りに冷静さを欠いてくれた。というよりあの場で襲い掛かって来るかと思った。」
「それは良かった。ならばこの後も予定通りですね。」
「そうだな。」
自陣へ戻ると晴香さんが話しかけてくる。
婚約以降、常々敬語を使うなと言われているのだが慣れない。
お姫様オーラが凄いから気を抜くと敬語になりそうだ。
振り返って色ボケを見てみる。
……荒れてんなぁ。
周囲に当たり散らしている。
それを蔑んだ目で見る晴香さん。
「愚かな……あれが当主の器とは到底思えません。」
「まあまあ。今回の決闘に限って言えば、あれが駄目な方がこっちは助かる。」
「申し訳ありません。嫌悪感が勝ってしまい、つい。こちらは冷静でいないといけませんね。」
「気持ちは何となく分かるけどな。」
嫌われてるなぁ。色ボケ当主。
まあ少ししか話していない俺ですら、これは無いなと思ったけど。
あんなのに長年付き纏われたとか、晴香さんが憐れすぎる。
「両者先鋒!前へ!」
立会人から前に出る様、両陣営に声が掛かる。
『我が力、雷の如く』
それを聞いて、陣地に置いていた千鳥を身に纏う。
自分と大鎧の状態を確認する。問題ない。
「それじゃあ、行ってくる。」
「ご武運を」
晴香さんに送り出されて広場の中央へ向かう。
初戦の相手は朱塗りの大鎧を着た武者のようだ。
その後ろの色ボケが凄い形相でこちらを見ている。こわいこわい。
広場の中央へ辿り着き、立ち止まる。
向こうも辿り着いて、こちらを見ている。
「それでは!両者構え!」
立会人が準備を促す。
大太刀を両手で握り、正面に向ける。
膝を少し曲げて落とし、中段に構える。
「始め!」
決闘が始まる。
俺の初陣だ。
一輝さん頑張ってという方。
ブクマ、評価をお願いします。
作者の励みになります。