求婚
修行パート。
定番です。
尼子晴香さんに求婚された。
出会ってその日に求婚されたなんて聞いた事も無い。
「私では駄目ですか?御使い様。」
返事に困っていると、不安そうに聞いてくる尼子さん。
どうしよう。困ったな。
「失礼。突然でしたので困惑しておりました。しかしいったい何故?」
「それは、御使い様が力を示されたからです。」
「力を?権能の事ですか?」
「はい。先々代様を超える凄まじい権能をあれ程まで容易く、それも連続して放つなど見た事も聞いたこともありません。」
多分このスペシャルボディ(ククリ作)のせいだろうな。
参考にしたってどんなすごい奴を参考にしたんだか……
この体はきちんと検証をしないと、いつかとんでも無い事をやらかしそうだ。
「あそこまで力を使えば普通ならば、大鎧を動かすことも出来なくなります。ですが御使い様にはまだ余裕がある御様子。」
「それが力を示した事になると。」
「そうなります。並の者には、いえ才があってもあれ程の権能を連続して放つのは不可能です。」
普通は権能を連続して使えないと。
ククリと話す神様通信の権能は、少し会話するだけで半分は持って行かれたのに、千鳥の権能はあまり減った感じがしない。
心鋼の有無の差なのか、神様通信がそれだけ容量を使うのかは後で確認しないとな。
でも、これでようやく話が見えて来た。
彼女は、力の有る俺を繋ぎ止めたいのか。
「尼子家の為の結婚ですか。」
「はい。ですが、今後の御使い様の為でもあります。」
「私の為ですか?」
「私が御使い様に嫁げば御使い様が尼子家の頭になります。そうなれば、ククリ様がおっしゃられたという御使い様が我らを導く事、そのやりやすさが全く異なります。」
俺が尼子家の頭に付けばそりゃあ当然やりやすくなるだろう。
それは少し魅力的に感じるな。
俺が世界一を目指す為に、今後どうするかいろいろ考えてはいたが。
周りの人間の動かす事が容易になるのは歓迎すべき事だ。
しかしだな……
「しかし結婚は一生の大事。もっとお互いの事良く知ってからの方が良いのではないでしょうか?」
いくら相手が美少女でも、出会ったその日に政略結婚はちょっとなぁ。
自分よりもかなり年下の娘さんとの結婚に跳び付くのは、人として駄目というか、かなり駄目だろ。
俺の言葉に驚いた表情をしている尼子さん。
「お互いの事を知ってからとは……御使い様は面白い事をおっしゃられるのですね。」
「そうでしょうか?」
「こうしてお互いに顔を合わせてお話をしてしておりますが……もしや私の見目がお気に召されないのでしょうか?」
「いえ。お美しい方だと思っていますよ。」
そこはかなり本気で。
以前に生きていた日本でもなかなかお目にかかれない美少女だと思う。
「まあ。お上手ですわ。御使い様が結婚を承諾して戴ければ、少なくともここにいる配下の者達は全員、御使い様の手足となって動いてくれるようになりますよ?」
尼子さんは少し笑いながら話しているが……これはあれか?
生きて来た世界の差か?
恋愛結婚が無さそうな武家出身の尼子さんは、家の為に結婚するのが当たり前。
だからこそ、俺に自分と結婚するメリットを重要視して提示していると。
現代日本育ちの俺には受け入れがたいだけであって、こっちの世界ではこれが普通。
俺はこっちの世界で生きていくと決めたのだ。
ならば俺がこちらが合わせるべきなのか?
「どのみちこの状況では祝言もままなりません。私の見た目が駄目でないなら、今は婚約というという形を取っていただけないでしょうか?」
「それは……」
「婚約した後に今後の私を見て頂いて、その上で御使い様のおっしゃられたお互いに知って頂くのでは駄目でしょうか?」
「その……」
「もちろん私が結婚するに値しないのであれば、婚約破棄して私を捨てて頂いて構いません。」
グイグイ来る尼子さん。圧が凄い。
捨てるって……凄く人聞きが悪いな。
「どうしても私では駄目でしょうか?」
少し目を潤ませて聞いてくる尼子さん。
これを断るのは……ちょっと厳しい。
婚約しても互いに無理そうなら断れば良いか?
今は尼子さんから迫って来てるから、俺が捨てるイメージが強いけど、将来的にどうなるかは分からないし。
「……駄目ではないです。」
(やってもうたなぁ。)
権能を使っていないのにククリの声が聞こえた気がする。
「まあ!ありがとうございます!皆、聞きましたね?」
周りを見るといつの間にか盛り上がるのを止めて近くで見ていた尼子家家臣団の皆さん。
「はっ。しかとこの耳で。おめでとうございます。姫様!」
「「「おめでとうございます。」」」
その皆さんが俺の前に並んで立膝を付く。
「これからよろしくお願いいたします。お館様!」
「「「お願いいたします。お館様!!!」」」
家臣団の皆さんが俺をお館呼びする。
いや、結婚するんじゃなくて婚約なんだけど……
「これからも末永くよろしくお願いしますね。お館様。」
花が咲きそうな、とても良い笑顔で俺を見る尼子さん。
俺は多分笑顔が引きつっていると思う。
完全にハメられた気分だ……
◇夜 屋敷の一室
暫定お館様になった俺と、尼子家の皆さんで今後の方針を決める。
皆の顔を見ても、最初に会った時のような悲壮感はまるでない。
俺が扱う千鳥の権能を見せた事は効果的だったようだ。
今後の方針と言ってもやれる事はそう多くない。
人数も限られているし、決闘に勝たなければ何も出来ない。
やる事は殆ど決まっている。
全員で情報収集だ。
◇翌日 尼子家屋敷
日中は訓練を実施する。
今はとにかく決闘迄の日数が少ない。
それなのに、主戦力は剣道素人でこの世界に来たばかりの俺だ。
日中の俺は、とにかく大鎧の習熟に努める。
家臣団の面々は、屋敷に数人を残して周辺の情報収集に努めてもらう。
夜には情報収集した内容の共有。
その情報を元に今後の戦略を練る。
朧気ながら、今後の方針が決まって来た。
軍議を終えた後、ククリと神様通信を実施する。
残りの権能についての相談だ。
一つは決闘で使うと決めていたが、その草案が出来た。
『この方針で組み上げれば後で調整も可能か?』
『できるよぉ。それならうちの方で調整も可能やなぁ』
『なら頼む。そっちで組んでくれ。』
『わかったわぁ。』
決闘等で不安だった内容は、新たにもらうククリの権能のおかげで問題無くなる。
成長する事が出来る権能。
更に保険込みで調整可能な代物だ。
この拡張性能ならば不測の事態にも対応できる。
明日から決闘迄の時間は、こいつの調整と発展に全部を注ぐ。
決闘後の対応は他家の返事待ちだ。
死に掛けの尼子家だけではどうしようもない。
使える物は何でも使う。
動けるだけ動かなければ。
いざというとき用の切り札、最後の権能の運用方法についても、ククリから問題無いとお墨付きをもらえた。
こいつはぶっつけ本番になってしまうが仕方ない。
後は決戦の日まで皆で訓練と準備だ。
◇翌日 尼子家屋敷
翌日朝に晴香さん(名前呼びを強要された。)に今後の大方針の発表を行う旨を伝える。
二人で細かい話し合いを行う。
夜、全員が集まり、方針の発表。
決闘の流れと戦略の説明を行う。
説明後、事前に必要な策を実行する面々は、先に移動してもらう。
次に会うのは決闘後になる。
各家の交渉に当たる面々は、成否に関わらず前日までに再集合、報告を行ってもらう。
解散し、各自が行動を開始する。
◇翌日 尼子家屋敷
決闘に挑む5人だけで、この広い屋敷の中を過ごす。
日中は決闘に向けた訓練を5人で行う。
夜間は俺の権能の強化と調整。
ひたすら五日後の決闘に向けての準備を行う。
こうして、あっという間に決闘前日になる。
戻って来た交渉役から聞いた、他家からの返事は上々だ。
これで問題無く決闘に集中できる。
残っていた面々で決闘の行われる松江城前まで向かう。
いよいよ明日は決闘だ。
グイグイ来る女性、嫌いじゃないよという方。
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