初めてのお願い
全身具足いいですよね。
博物館で30分ぐらいは余裕で見ていられます。
ギィン、ガィン
鉄と鉄がぶつかり合う音が響く。
屋敷の中庭では、全身具足(この世界では大鎧と言うそうだ)を着た武者二人が、大太刀を持って斬り結んでいる。
俺からお願いして、尼子家に残った武将同士で、決闘における戦い方を見せてもらっている。
中段払いで斬り掛かる黒い武者。
それを3メートル近く上に跳んで避けた赤い武者。
落下しながら刀を上段に構えて、黒い武者に斬り掛かる。
避けられた刀の勢いそのままに、コマのように回って一回転する黒い武者。
そのまま回転の力を加えて、下段から上に斬り上げて迎え撃つ。
大太刀が交差する。
無理な体勢で迎え撃った黒い武者は、腕ごと太刀を叩き落とされる。
そのまま赤い武者は、自身の大太刀を黒い武者の右肩に打ち込む。
ゴィン、ドスン。
太刀の一撃を受けた黒い武者は地面に叩きつけられた。
「そこ迄!赤穴氏の勝利!」
「おおおぉおぉ!」
勝利宣言を受けて、大太刀を上に掲げて雄叫びを上げる赤穴氏。
地に臥せた黒い武者は、特に怪我など無い様だ。
そのまま普通に立ち上がる。
「いかがでしたか?」
「凄まじいですね。大鎧を着た武者同士の戦いは。」
全身合わせて100kgを軽く超えているらしい大鎧。
それを着たまま超人の様に動き回り、金属製の大太刀をまるで竹刀か木の枝の様に軽々と振り回す姿は、映画やアニメのワンシーンのようだ。
『権能』という謎パワーが存在する世界では、鎧や刀の存在は普通のモノではなかった。
鎧は金剛力という謎の力に覆われて、金属だけではありえない防御力と大岩をも動かすパワーを得るそうだ。
この大鎧を動かすのは、心鋼というエンジンと燃料タンクを兼業するパーツだ。心鋼に蓄えられた力を装着者の魂の力で動かすそうだ。
そして先程の武者同士の戦いも、全力では無いそうだ。
「では。次は私の鍛錬をご覧ください。」
「はい。よろしくお願いします。」
そう言って蒼い大鎧、荒身国行を纏った尼子さんが中庭中央へ向かう。
中庭に立つと、尼子さんは大太刀を上段に構え、振り下ろした。
早い。目で追うだけで精いっぱいだ。
刀が空気を切り裂く音がする。
中段切り。下段斬り。斬り上げ。斬り下ろし。
その先に敵が居るのを想定し、飛び回りながら刀を振るう。
上下左右と目まぐるしく動く尼子さんの姿は、目で追うのが精いっぱいだ。
刀を振るってしばらくすると、尼子さんは庭にある池の横で停止した。
池の水の中に、大太刀の剣先を入れる尼子さん。
そのまま下段に構えを取る。
大太刀を切り上げると、水の刃を生み出して飛んでいく。
飛ばした水の刃は、庭に置かれていた大岩を縦に軽々と切り裂いた。
尼子晴香の持つ権能『水操作』を使ったそうだ。
この大鎧の大太刀、荒身国行は尼子家が代々受け継ぐ『水操作』の権能を増幅してくれるそうだ。
権能は遺伝で受け継がれる為、代々続く家の大鎧はそれに合わせたチューニングをされているらしい。
「いかがでしたか?」
鍛錬を一通り見せてくれた尼子さんが兜を外し、俺の傍まで来て感想を求める。
これはあれだ、見た目は人間サイズの全身鎧だけど、イメージはロボットアニメ等に出てくる、操縦者が乗り込んで戦うロボットみたいだ。
「素晴らしかったです。ですが、これでも決闘には勝てませんか?」
「はい。残念ながら私では未熟も良い所。京極の武者達には勝てません。」
色ボケ当主の家だから雑魚を期待したかったのだが、代々続く武家でそんな事は滅多にないそうだ。
京極当主自身が、この周辺で武名を轟かせる位に強いそうだ。色ボケのくせに。
そして、それに従う家臣団も強者の集まりだと。
「そして、現在無事な大鎧が2つだけと。」
「はい。無傷の大鎧は、私の荒身国行と先々代の使用していた千鳥のみ。残りは前の戦で損傷している物ばかり。落ち延びた先のここでは修繕もままなりません。」
先に模擬戦を見せてもらった大鎧二つは、比較的無事だった物だそうだ。
それでも、損傷のせいで半分位の力しか出ないそうだ。
確かに、後で見た尼子さんの荒身国行の方が断然動きが早かった。
「次に行われる決闘は五対五で行われ、相手を全てを討ち取るまで続く勝ち抜き戦。こちらの大鎧は未熟な私が使う荒身国行と使い手の居ない千鳥。それ以外は損傷した大鎧から三つ選ばないといけません。」
「その窮地が分かっているからこそ、京極家は決戦を持ち出してきたと。」
「はい。」
自分が圧倒的に有利だからこそ、相手が食い付いてきそうな互いの家の全権を掛けて決闘だ!等とおいしそうなエサを出してきた訳と。
「では千鳥を見せて頂けますか。」
「はい。こちらになります。」
尼子さんに案内されて、残る大鎧である千鳥が保管されている部屋へと向かう。
案内された部屋に入る。
薄暗い部屋の中には、片腕の無い物や、胸部が砕かれた損傷状態の大鎧が並ぶ。
並ぶ大鎧の中に1つだけ、無傷な黒塗りの大鎧が有る。
「これがそうですか?」
「はい。これが先々代、尼子家国主の使用していた大鎧、千鳥です。」
大きな鎧は薄暗い部屋に在って黒く光り、重厚な存在感を見せる。
大鎧 千鳥 は戦いの道具ではあるが、芸術品の様に美しかった。
「本当に私が着てみてもよろしいのですか?」
「はい。御使い様でしたら是非に。どうぞお試しください。」
「では早速。」
そう言って千鳥に近づいて行き、鎧に立て掛けていた大太刀を持つ。
大太刀を手に持ったまま、刀に向けて自分の魂の力を込めながら、起動用の合言葉を口に出す。
『我が力、雷の如く』
俺が中二病全開のセリフを吐くと、黒塗りの大鎧がばらけて俺の体に勝手に装着されていく。
さっき尼子さんが大鎧を纏う所を見せてもらっていたから分かってはいたけど、凄いなファンタジー。
全身鎧を身に纏うと、視界は狭まったのだが、周りの景色は良く見える様になる。
全身から力が湧いて溢れてくる、不思議な感覚だ。
部屋から外に出て、軽く庭で動き回ってみる。
早い。そして力強い。
これは凄いな。
自分が超人になったかのようだ。
「……御使い様、権能が使えるか試して頂けますか?」
「権能を?分かりました。」
真剣な眼差しをしてこちらを見ていた尼子さんに、権能が使えるか聞かれたので試してみる。
意識を自分の中へ向けると、最初の頭のスイッチが更に増えて、出力調整の目盛りが付いたような不思議な感じがある。
凄い違和感を感じるが、スイッチを入れて目盛りを最小にしてみる。
持ってい大太刀から、パチパチと小さな放電が起こる。
「まさか!?」
何か尼子さんが凄く驚いた表情をしている。
これはまだ最小で使っているのだから驚かないで欲しい。
尼子さんにそう説明する。
「……わかりました。ではある程度の力を出した権能をあちらの木に向けて使用して頂いてもよろしいですか?」
「木に向けてですね。分かりました。」
的になる木に向けて、刀を向ける。
「それじゃあ。行きますよ。」
最小だと刀がバチバチしただけだし、目盛りは半分位でいいかな?
再びスイッチを入れて権能を起動する。
刀が激しく発光して、剣先から電が木に向かって走る。
ピシャーン、バリバリバリ……。
雷が木に当たったと思ったら、凄い音が鳴る。
雷は木の中心を消し飛ばして、後ろにあった壁に大穴を空けて焦がしていた。
二つに分かれた木の上部が下に倒れながら落ちる。
ズズーン。
その様子を見ていた尼子さんの口が開いたままだ。
「ななな……」
「ななな?」
「なんですか!?いまの雷は!先々代様でもあれ程の雷は出せませんでしたよ!」
「そうなんですか?でも今のは半分位でしたし、あれぐらいなら何回でも使えますよ。ほら。」
横に向けると危ないので、空に向けて先程と同じ位の雷を3回ほど出して見せる。
最後に全力も見せようと目盛りを全開にしてスイッチを入れてみる。
あ、これヤバい。
大鎧の危機感知が働いたので、慌てて目盛りを下げる。
視界が真っ白に染まる。
ズッガァーン、ゴゴゴゴゴゴ
凄まじい轟音が耳に響く。
光が消えた後、周りを見る。
地面が何か所か焦げている。
ギリギリで八割位まで下げたのだけど、半分の時とは桁が違う威力だ。
尼子さんには当たっていない様だ。良かった。
どうやら目盛りは放出量を10分割している訳ではないみたいだ。今後気を付けよう。
尼子さんは口を開けたまま座り込んでしまった。
「調子に乗ってしまい、申し訳ありません。」
「……」
とりあえず、謝っておく。
尼子さんは黙ったままだ。どうしよう。
周囲から人が駆けて来る音がする。
「敵襲か!?」
「今の音はいったいなんだ!?」
「お館様!ご無事ですか!?」
「御使い様。いったいどうなされた!?」
雷音を聞いて駆けつけけた男性陣が、叫びながら駆け寄って来る。
男性陣には、千鳥の権能を試していたのだと伝えて、もう一度雷を出して見せて納得してもらった。
雷を見せると男性陣は次の決戦に勝機が見えたと大盛り上がりだ。
盛り上がりすぎて、何だか収拾がつかなくなってしまった。
しばらく盛り上がっている男性陣を眺めていると、復活した尼子さんが近くに来た。
なんだろう?凄く真剣な表情だ。
「御使い様、お願いしたい事が御座います。」
「なんでしょう?」
なんというか、圧が凄い。
怒らせてしまったようだ。
怖い思いをさせてしまったし、大半のお願いは聞くつもりだ。
「どうか私を妻として娶って下さいませんか?」
「は?」
何故か出会ったその日に黒髪の美少女に求婚された。
なんで?
黒髪少女が好きな方。
もし良かったら評価やブクマ、お願いします。
作者の励みになります。