鬼の力。その結果。
◇高瀬城 アズキの部屋
疲れて寝てしまった様子のアズキを部屋まで抱えて行き、用意した布団の上に寝かせる。
普通に寝ているだけに見える。しかし倒れ方があれだったし、聞きたい事も出来た。
神様通信で聞いてみるか。
『ククちゃん、今いいか?』
『ええよぉ。』
相変わらず、聞けばすぐに答えてくれるククリ。
『この子が大丈夫か聞いても良いか?』
『ほいなぁ。あぁ、鬼の子かぁ。大鎧のせいで力を出しすぎただけだから、問題ないわぁ。』
やっぱり大鎧が原因か。
なら今後は大鎧を使わせない方が良さそうだな。
『あぁ、使うんは問題無いなぁ。そうやのうて、この子が力を使いすぎるんが問題やんなぁ。』
『どういうことだ?』
『鬼の魂はうちらに少し近いかんなぁ。心鋼と相性が良すぎて、無駄に力を使ってしまうんよぉ。まずは力の使い方を覚えさせんといかんなぁ。』
相性が良すぎて心鋼の出力が上がりすぎてしまうと。
その力のコントロールが出来ないから、アズキの父親はまだ早いと言ってた訳か。
『どうすれば使えるようになる?』
『いろいろあるけどなぁ。人間の権能を鍛える訓練がいっちゃんええんかなぁ?』
『権能の訓練?』
『はるちゃんが詳しく知っとるよぉ。』
はるちゃん……晴香さんか。
そりゃ権能を受け継いで、それを鍛えてきた尼子家の後継者が知っているのは道理か。
まだ聞きたい事があるけどそろそろきついな。
『……またいろいろ聞く。』
『待っとるなぁ。』
神様通信を終える。
取り敢えずアズキが大丈夫なのは分かったし、晴香さんに報告と確認だな。
大鎧一体壊しちゃったし。
少し……かなり憂鬱だ。
◇高瀬城 尼子晴香の私室
晴香さんに報告したい事が有ると伝えたら、晴香さんの部屋で待っている様に伝えられた。
現在俺は、晴香さんの部屋に一人で居る。
美少女の私室に居るというのはドキドキするシチュエーションのはずなのだが、特に何の感情も浮かばない。決して俺が枯れているからではないと思いたい。
そうでは無く、部屋が殺風景すぎるのだ。
部下の人に「こちらでお待ちください。」と言われていなければ、男の部屋だと言われても何も違和感が無い私室だ。
いや、これは引っ越しをしたばかりで私物が全く無いせいではなかろうか?
きっとそうに違いない。
等と余計なことを考えていたら、足音が近づいてきたので、居住まいを正す。
「失礼します。お待たせして申し訳ありません。」
そう言って、晴香さんが部屋へ入って来る。
「こちらこそ、忙しい時にごめんね。」
「いえ。問題ありません。それでお話とは?」
部屋に入った晴香さんが俺の正面に座る。
よし。覚悟を決めて話すぞ。
「実は、アズキの戦闘能力を確認するのに大鎧を使ったのだけど、予想外の事態が有って、大鎧一体を完全に壊してしまいました。申し訳ありませんでした。」
なんだか最近晴香さんに謝ってばかりな気がする。
申し訳ないなぁ。
「成程。お話は伺いました。そういう事だったのですね。」
「そういう事?」
予想と異なるリアクションを返されて、オウム返しをしてしまう。
「実はつい先ほどまで、京極家の人間達から謝罪を受けていまして。その原因がそれだったのだろうなと……一輝様、アズキさんと大鎧を着て戦ったのですね?」
「はい。その戦闘で予想外の事が起きましてですね……」
「いえ。申し訳ありません。予想を超えた事をされて驚いただけであって、怒っている訳ではありません。結果的には良かったと言えますし。」
晴香さんの話を詳しく聞くと、まず俺が言ったアズキの戦闘能力を見るとは、文字通りに見るだけだと思っていたそうだ。
まさかあの話を聞いた後に、鬼であるアズキと大鎧を着用した模擬戦をやると思っていなかったそうだ。
実際にアズキの強さは、話に聞いた通りに強かった。
戦った感じだと、決闘に出ていた京極の武者とやり合えば、一対一なら今回の大鎧破損迄の時間制限有りでも、まず間違いなくアズキが勝つと思う。
そして、今回その戦いぶりを見ていた京極家の人間に、大きな影響を与えたそうだ。
「京極家の人間は決闘で尼子家が何か卑怯な手を使ったのでは無いかと疑っていたようで、それが態度に現れていたようなのです。訓練場でのお二人の模擬戦を見て、それが誤解だったと気付き、謝罪してきたというわけです。今後は約定に従って尼子家にしっかりと仕えていくと言ってくれました。」
「模擬戦を見ただけで?」
「はい。子供とはいえ、人々に畏れられている鬼との模擬戦。まあアズキさんが鬼とは知られてませんが、それでも並の者は相手にならないと理解するには十分すぎます。」
どうやら前回の決闘では手加減しすぎた為に、今回の京極家との不和を強くしてしまったようだ。
今後の尼子家の為に手加減していたけど、それが京極家には悪く働いたようだ。
決闘後に先に高瀬城に戻した兵士から、決闘の内容を聞いていたのだろう。
京極家側から見れば、今回の決闘は偶然にも見える形での俺の勝利で3連勝。
副将は辞退して、決勝戦。
大将は速攻で相手に首を落とされている。
人からこの話を聞いたら、いろいろ悪い方に予測するよな。
それが態度に出て、城に来た時の対応だったと。
それが今回のアズキとの戦闘を見て、尼子には強者が少なくとも二人もいた事を京極家の兵士達に見せられた。アズキは決闘にいなかったけど。
その強さを見れば、今回の決闘の結果は仕方が無いと思ってくれたと。
……俺は武家を相手している事をもう少し考えるべきなんだろうな。
「話は分かった。ごめん。これは俺が武家というモノをきちんと理解できていなかった為に起きた不手際だ。それでも今回の作戦がひと段落するまでは今の作戦は変えられない。」
「理解しております。これは尼子家の皆で決めた事です。一輝様が気に病む必要は有りません。」
「ありがとう。決闘終了後に何かしらの配慮などが必要なのは分かったから、今後どうすれば良いのかを考えていこう。」
「はい。」
今回の様に、力を見せるのが有効なのであれば、何かしらのデモンストレーションをすればいいのか?
いっそトーナメント形式で尼子家最強決定戦とか?規模が大きすぎるか。
いずれにせよ、これは今後の課題だな。
「それと話はまだ終わっていなくて……今回の模擬戦の結果で、良い話と悪い話が出来た。」
「お伺いします。」
「ではまず悪い方から。今のままだと、アズキは大鎧を着る度に鎧を壊す。」
「それは……よろしくないですね。」
大鎧の存在は、今の戦争の主力であると同時に、最も高額な武具だ。
それを戦闘の勝ち負け関係なく壊されたら、金がいくらあっても足りない。
「それでいい話の方が、アズキの戦闘能力は決闘の保険にするなら十分すぎる実力だった。少なくとも前回決闘の京極武者よりも圧倒的に強かった。純粋な膂力や速度は俺より上だったと思う。」
「それは……予想はしていましたが、それほどですか。では?」
「ああ。アズキを俺が敗北した時の為に、次鋒で使おうと思う。もちろん負ける気は無いが、それでも保険が有るのは助かる。アズキを戦わせなくても決闘の席に子供がいれば、大半の奴は舐めてくれるだろうから、見た目も助かる。」
今後の課題は、尼子の力が回復するまでに、どこまで決闘で時間が稼げるかだ。
決闘の回数は出来る限り多くしたい。
決闘を見た相手に、これなら勝てると思わせて食い付かせたい。
そこでアズキの子供の外見は素晴らしい。
子供を見て負けるかもしれないと思う武人はそうはいないだろう。
「保険としてですか。何度も実行するのは困りますが、決闘に勝てるのであれば大鎧を使い潰しても構わないのでは?」
それは俺も考えた。しかし、無理だ。
「駄目だと思う。アズキは手加減が出来る器用さが無い。そして全力で戦わせれば、誰も決闘を受けてくれなくなる可能性が高い。それでは今後に響く。」
「加減が出来ないとなれば、そうなりますね。」
「だからあくまで保険として、次鋒に置く。あの力を全力でぶつけられて勝てる相手がそういると思えない。正直今回の模擬戦で俺が勝てたのは権能の相性が有利に働いたからだ。」
つまり俺が相性の悪い相手は、アズキにとって有利となる可能性が有る。
だからこそ保険として有用な存在になる。
「かしこまりました。ではアズキさんは客将として今後決闘の次鋒とします。」
「それでお願い。そうだ。もうひとつお願いがあったんだ。」
「もうひとつですか?」
「うん。尼子家の権能を鍛える修練のやり方をアズキに教えてやって欲しい。魂の力の使い方が分かっていないせいで、力を出しすぎて大鎧を壊してしまうみたいなんだ。だから修行をやらせて、力の使い方を覚えさせたい。」
話しを聞いて少し考える様子を見せる晴香さん。
「かしこまりました。教えるのは良いのですが、教える事が出来るのが現在私しかいません。基本夜か早朝になってしまうのですが、大丈夫でしょうか?」
そういえばアズキは初日は陽が沈んで少ししたら寝て、昇ったら起きていたな。
あれが基本パターンだと朝しか修行が出来なくなるか。
「一応本人に確認してみる。今は疲れて寝ちゃっているから、修行は早くても二日後からになると思う。」
「かしこまりました。」
晴香さんにお礼を言って部屋から退室する。
こうしてアズキの今後は、またもや本人の居ない所で決まっていく。
ここまで読んで下さって、ありがとうございます。
宜しければブクマと評価をお願いします。