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天華夢想 男は新たな世界で世界一を目指す  作者: 鮪愛好家
連鎖する決闘
12/14

鬼の存在

新キャラの紹介回です。

宍道湖北西 丘陵


森から出たアズキと俺は、速度を落として丘の上の陣幕に近づく。

陣幕の外で見張りをしている兵士が俺たちに気付く。すると……


「こちらに御使い様がいらっしゃたぞー!」

「何!どこだ!」

「こっちだ!」

「捜索隊は打ち切りだ!御使い様が見つかった!打ち切りー!」


いろいろ聞こえて来る。ヤバい。

やはり少し時間を掛けすぎた様だ。

騒ぎになってしまっている。


怒られるだろうな。

言い訳を考えながら陣幕に近づく。

陣幕の入り口には、晴香さんが笑顔で待っている。

笑顔が怖い。

晴香さんの目の前に行き、抱えていた猪を下におろす。


「随分と楽しんでこられたようで何よりですわ。一輝様。」

「すみませんでした。」


とても丁寧な口調で話しかける晴香さんに、速攻で謝罪する。

これは下手に言い訳すると大変な事になる。


「謝罪など求めていませんよ?きちんと荷物番に周辺警戒に出ると告げられていた様ですし。」

「少しのつもりが夢中になってしまい、遅くなりました。申し訳御座いませんでした。」


晴香さんの表情が全く変わっていない。怖い。

しっかりと反省している気持ちを見せると、晴香さんが溜息を吐く。


「御身は尼子家にとって大切な体なのですから、軽率な行動は慎んでください。」

「はい。その通りにいたします。」

「そうしていただけるとこちらも助かります。……あら?もうお一人いらっしゃるのですか?」


謝罪中に晴香さんが俺の後ろにいたアズキに気付く。


「ああ。森で迷子になっていたから連れて来たんだけど、お腹を空かせてるみたいでさ。とりあえずこの子にメシを食わせてやってくれる?」


そう言って晴香さんに紹介する為、俺の後ろにいたアズキの背を押して前に出す。

相変わらず猪の足を抱えている。


「ヨロシク アズキダ。」

「「「鬼!?」」」


アズキの姿を見てその場に居た全員が、声を上げ、後ろに下がる。

その場の全員に緊張が走る。

武器を構えている者もいる。

話を聞いて予想はしていたけど、やっぱり恐れられてるのか。鬼。


「あー。その、この子はここに飯を食いに来ただけで、誰かに攻撃しようとはしないから安心してくれ。そうだろ?アズキ。」

「モチロンダ ()()ト ()()ニモ オンニハ オンデムクイロ トイワレタ。」

「だそうだ。とりあえず腹を空かせているらしいから、飯を用意してやれるか?」


俺とアズキの様子を驚いた表情で見ている晴香さん。

兵士は変わらず武器を構えている。

しかし、恩には恩で報いろとは、ご両親は立派な方のようだ。


「……承知しました。取り敢えずお二人とも血塗れですから、湖で身を清めてください。替えの服も後でお持ちします。誰かある!」

「はっ。姫様、いかがなさいました?」

「一輝様とこちらの子供が水浴びに向かいます。準備なさい。」

「ははっ。」


晴香さんが元の表情に戻って水浴びしてこいと言う。

確かに血塗れで気持ち悪かったから助かる。

ここに居る4人の兵士が護衛に付くらしい。


「アズキ、飯は用意するから、水浴びして血を落とせってさ。行くぞ。」

「ワカッタ。」


俺の言葉に猪の足を持ったまま湖に行こうとするアズキ。


「待てまて。足は置いていけ。」

「オレノダ クレタロ?」

「そうだが、焼かないと食えないだろ……ほれ、よこせ。」

「ソウカ ワカッタ。」


素直に猪の足を渡してくる。

さて、楽しみにしているアズキの為にも焼いてもらわないと。


「あーっとそこの人、ちょっといいか?」

「はっ。いかがなさいましたか?」

「悪いんだけどこれを調理番の所に持って行って、焼いてくれるように頼んでもらえるか?この子が楽しみにしてるんだ。」

「かしこまりました。お預かりします。」


近くにいた人に、猪の足の肉を焼いてきてもらうように頼む。

これで問題ないだろう。


「よし。いくぞアズキ。」

「オウ!」


六人で宍道湖へ向かう。

兵士の皆さんは緊張した様子だ。

緊張するなって言っても無理そうだから、このままにしておこう。

しかし、この様子だとうちで世話するの無理なのかなぁ。


湖に辿り着いた。

鎧も血だらけなので、一旦鎧のまま湖に入って血を落とす。

兵士の人達も手拭いで千鳥を磨いて手伝ってくれる。

洗ってる最中に、アズキの裸体が見えて気付いたが、アズキは女児だった。

オレって言ってるから男児だと思っていた。


「アズキは女だったのか。」

「ソウダゾ。」


いや、そんなあっさりと。

今回水浴び一緒に来なかったら、暫らく気付く機会無かったぞ。


「何で女なのにオレなんだ?」

「オレハ オレダロ?」


心底不思議そうに返されたので、深く聞く事を諦めた。

きっと鬼の文化ではそうなのだろうと思う事にした。


終わったら、鎧と服を脱いで体を洗う。

先に終わったアズキは暇そうだ。

さっさと体を洗い、後から来た兵士の方が持って来てくれた服を着る。


「よし。戻って飯だ。」

「ヤットカ ハラヘッタ。」


ずっと腹がクルクル言ってたからな。少し可哀想な事をした。

横を歩くアズキは、サイズの合う服が無かったので、着物の上だけ羽織っている。

アズキの甚平は洗い終わっているが、乾いてから着替えるそうだ。

後ろの護衛は来る時よりは警戒感が薄れている。

他の鬼は知らんが、アズキはこうして見れば只の子供だからな。


丘陵まで戻ると、頼んでいた食事が用意されていた。

食事の席には晴香さんと重臣の面々、それとアズキが居る。


「いただきます。」

「「「いただきます。」」」


皆で食事の挨拶をして、食べ始める。

それを横で見ていたアズキは慌てて「イタダキマス」と真似をして食べ始める。

相当空腹だったのだろう。すごい勢いで食べている。


「よく噛んで食べないと腹をこわすぞ。」

「ム ソウダッタ アリガトウ。」


途中で声を掛けると、しっかりと咀嚼して食べる。

なんというかすごい素直な奴だ。

今は、猪の肉を旨そうに食べている。


「本当に敵意が無いのですね。」

「そう言っただろ?この子は大丈夫なのは分かっているからいいのだけど、他の鬼はそんなに不味い存在なのか?」

「やはりご存知ないのに連れてきてしまったのですね。」


晴香さんが呆れた様子で答える。

いや、多分前世の日本人は大半がこうすると思うけど……するよね?


「武家と鬼の歴史は、戦いしかありません。」

「戦争中って事?」

「いいえ。そうではありません。鬼と人では、戦争になりません。」

「どういう事?」


この世界の鬼という存在は、圧倒的強者なのだそうだ。

普段は鬼ヶ島と言われる島で集団生活をしているそうで、アズキは恐らくそこから流されたのではないか、という事だった。

……あるのか。鬼ヶ島。

過去に鬼ヶ島に攻め込んだ武門の家が有ったのだが、島で返り討ちになっている。

そこまでならよくある話なのだが、返り討ちにあったその家は滅亡した。

返り討ちにした鬼の集団が、逆侵攻を開始。

その家の領土内の全てを攻撃、焼き払い、何も無くなると、ようやく鬼の集団は鬼ヶ島へ帰ったそうだ。

戦争にならないというのはここに起因する。

鬼が強すぎて、人間が戦争の相手にならないのだそうだ。


鬼ヶ島侵攻を行う家は基本的には無いのだが、忘れた頃に侵攻する武家が現れるそうだ。

なんでも返り討ちに逢った人間の武器に、国宝級の物が含まれていたそうだ。

それらがまだ鬼ヶ島に残っているのでは?という噂があるらしい。

国宝級の武具を鬼から取り戻したとなれば、武門の家にとって大変誇らしい事になる。

その名誉欲しさに攻め込むのだそうだ。


「でも噂なんだろ?」

「はい。」

「アズキ、鬼丸国綱って大鎧は島にあるか?」

「オニマル? ワカラン。」


一応アズキにその国宝とやらを聞いてみるが、知らないそうだ。

首を傾げて否定された。


「完全にその家は無駄死にだったみたいだな。」

「そのようですね。」


つまりは手を出すと不味い強者達の住む島って事か?


「つまりは手を出さなければ大丈夫だと聞こえるのだけど?」

「鬼ヶ島で過ごす者はそうなります。ですが、そうではない鬼が時折出ます。」


稀に鬼ヶ島の外で見つかる鬼、要はアズキの様に見つかる鬼がいるそうだ。

それらはぐれの鬼は、略奪や殺戮を繰り返すそうだ。

これらハグレは何れかの武家に討伐される迄、ひたすら暴れまわるそうだ。

過去に三人のハグレ鬼が暴れた時は、三人だけで一つの国が滅んだそうだ。


「だからアズキを見た時、皆が怯えていた訳だ。」

「はい。まさか、見れば滅びの予兆と言われているハグレ鬼をこの目にする機会があるとは。心臓が止まるかと思いました。」

「アズキがねぇ。」


横のアズキを見ると、おなかがいっぱいになって眠くなったようで、すやすや寝ている。自由な奴だ。

晴香さんも見ていたが、やがてフッと笑う。


「伝承や噂とは当てにならない様ですね。」

「そのようだ。ああ、でも一つは当てはまっているかもしれない。」

「何でしょう?」

「鬼が強者って所。加減はしていたけど、大鎧の駆ける速度に生身で四半刻程、普通について来てたぞ。」


その言葉に驚く晴香さん。


「鬼とは、子供でもそこまでなのですか……」

「うん。身体能力は凄まじいモノがある。そこで相談なんだけど。」

「なんでしょう?」

「この子、うちで客将として雇わない?」


俺の言葉を聞いて考え込む晴香さん。

周りの家臣も黙っていたが、困った表情だ。


「いまこの子を野に放つと、味方になる人間が居ない。過去のハグレがそうだったのかは分からないが、周り全てが敵しか居ないので暴れまわった可能性もある。」

「それは……そうですね。」

「この子を見捨てれば、暴れまわるハグレ鬼が出てしまう可能性がある。かと言って匿えば、周りから後ろ指をさされる可能性がある。それはどの程度のものだ?」

「そうですね。正直言って分からないの一言になってしまいます。過去に鬼の力を取り込んだという武家の存在がありません。」


まあそうだろうな。

客観視すれば、どちらかと言えばデメリットが大きそうだ。

でもアズキの事を見捨てたくはないから、説得を頑張ろう。


「今の俺とアズキは、それなりの友好関係を結べているだろう。彼女を食客にすると、将来的には最強と言われる鬼の力を得る。更には交流の無かった鬼ヶ島の鬼たちと交流が可能になるかもしれない。しかし、他家にバレれば何かしらの悪評に使われるだろう。」


今のメリットだけだとかなり弱い。

将来性をプッシュしてみよう。


「これらを踏まえて聞きたい。尼子家の代表として、アズキを放逐するのと、客将にするのはどちらが良いと思う?」


全員沈黙している。

晴香さんは目を閉じて黙考している。


「……分かりました。アズキさんを当家の客将として迎えましょう。ただし、鬼であることはここだけの秘密にして、外へと漏らす事の無いように。それでよろしいですか?」


よし。成功だ。

心の中でガッツポーズをする。


「もちろんだ。ありがとう。晴香さん。」

「本当にお優しい方ですね。」

「晴香さんもね。」

「ふふっ。」


俺の心の内を察してくれた晴香さんも十分優しい人だと思う。

二人で笑い合う。

アズキは熟睡中だ。


こうしてアズキの今後は、本人そっちのけで決まった。


アズキがかわいい。と思って下さった方。

ブクマ、評価の方お願いします。

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