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天華夢想 男は新たな世界で世界一を目指す  作者: 鮪愛好家
連鎖する決闘
11/14

食料とアズキ

新キャラ登場回です。

宍道湖北西 丘陵



尼子家の皆さんが、小高い丘の上に陣幕を敷いて行く。

上から周囲を見渡せるため、周辺警戒が容易だ。

今日はここで野営を行う事になった。


俺が使う陣幕も、配下の皆さんが準備してくれる。

食事の用意もしてくれるそうで、やろうとしたら、やんわりと断られた。

やる事が無い。


なので俺は、以前から不満を持っていた食事の改善に努めようと思う。

いや、今まではとても文句なんて言える状況じゃなかったから不満も無かったのだけど、今は少しは余裕がある。


何せ松江城で、大内家の残した軍資金が大量に見つかったからだ。

この世界の金銭価値がいまいち分からなかったが、それを見た晴香さんが、「以前にこの城を放棄した時の5倍は有ります。」と言っていたので相当だろう。

松江での祝勝会の食事は、この世界に来てから最も豪勢な食事だった。


しかしだ、一つ大きな不満がある。

肉が食べたい。魚は食べた。

しかし、この世界に来てから肉は一度も食べていない。

飽食と言われた日本、その日本人として、10日食べていない肉が恋しい。 

念の為確認したが、肉を食べないわけではないそうだ。


そこで横の森を見る。

居るだろう。

そこにはきっとたくさんの動物たんぱくしつが。


なので俺は森に入る事にした。

念のために、荷台の千鳥が必要だと思って取りに向かう。

荷台の傍にいた荷物番に、周辺警戒に出ると告げてから、千鳥を着た。


大鎧を完全装備して森に入る。

さすがに大鎧を倒せる獣は居ないだろう。

そう思って意気揚々と、森の奥に向かって走っていく。

さっさと済ませないと、一人で出た事がバレて怒られるからだ。

なるべく急いで肉を回収して調理番に渡す。

後は知りません作戦だ。


そうして森を走りながら進むが、なかなか手ごろなタンパク質に遭遇しない。

恐らく音や匂いで避けられているのだろう。野生を舐めていた。

そろそろ諦めて戻らないとまずいかと思ってきた頃に、急に森の中から開けた広場の様な場所へ出る。


ドンッ!


いきなり広場の様な所に出た事に面喰い、反応が遅れた。

横から何者かが俺にぶつかり、横にふっ飛ばされる。

大鎧千鳥を纏った俺を体当たりで吹っ飛ばす存在がこの森にいた事に驚く。


着地して吹き飛ばされた方を見る。猪だ。でかい。

既に猪は追撃を仕掛ける為に、俺に向かって突進してきており、ほぼ眼前に居た。

猪の突進を右横に避けて、腹部を思いっきり蹴り飛ばす。


左の腹を蹴られた猪は、足をもつれさせながら倒れていく。

突進の勢いのまま、前に進みながら倒れる。

そのまま大太刀を抜刀して、起き上がろうとしている猪に近づき、その首を落とす。

首を落とされた猪はそのまま絶命する。


終わった……

大量の返り血を浴びてしまった。

鎧の中までドロドロだ。気持ち悪い。


改めて猪を見る。

でかいな。牛ぐらいのデカさだ。

ニュースで偶に見てた様な、俺の知ってる猪のサイズじゃない。

きっとここのヌシに違いない。


ガサッ


近くの草むらから、物音がする。

新たなたんぱく質かと思い、音のした方を向く。

草むらから小さな人影が出て来る。


小柄な人影は、普通の人間とは大きく異なっていた。

こちらを見る眼差し、その瞳が赤く光っている。


ゆっくりとこちらに近づいてくる。

暗い森から出て来たその姿は、夕焼けに照らされてようやく全体が見える。


薄い藍色の甚平を着ている。

肌は色白く、短い黒髪の子供だ。

普通の人間と異なる赤く光る瞳、その上の額には二本の小さな角が生えている。

その姿は、童話等で日本人なら誰でも知っているだろう異形の者……鬼だ。

鬼がこちらをまっすぐと見詰めている。


どうする?

日本古来の昔話で、鬼が人間の味方パターンはかなり少ない。


しかも怪力、超能力、疫病等、その能力も様々で強敵として登場する事が大半。

子供に見えて、成体の可能性もある。

戦闘になったとして、勝てるか未知数だ。


怪力とか喧嘩上手ならまだ良いが、疫病とかのパターンは最悪だ。

この時点で感染している可能性すらある。

そうなると、無視して逃げるは不可だ。どうすれば良い?


緊張して鬼を見る。

鬼はある程度近づくと、立ち止まる。

声は届くが、攻撃は届かない。

そんな距離だ。


キュルルル


静かに鬼と見つめ合っていると、音が聞こえる。

鬼の腹の音だ。

腹が減っているのか?それとも俺を食おうとしている?


じっと俺を見つめる鬼。ふと視線が横にずれる。

その瞳は、猪を見ている。


「腹が減ってるのか?」


コクコクと頷く鬼。

おお!言葉が通じる!


「俺を食うのか?」

「ナンデ?」


不思議そうに首を傾げて返事をする鬼。

何だと!?

ちょっとイントネーションが変だが、喋れるのか!


「猪が食いたいのか?」

「ハラヘッタ。クイタイケド ソレ オマエノ。」

「取らないのか?」

「ソレハダメ エモノハ トッタヤツノ モノ。」


成程。狩猟民族の考えみたいなものか。

あげるのはいいのだが、この量は食べきれないだろうし俺も肉が食べたくてここ迄来た。。

切り分けるか。

後ろ足一本なら子供でも全部いけるだろ。


猪に近づいて、足を一本切り落とす。

それを持って、小鬼に差し出す。


「ならこれをやる。」

「イイノカ?」

「ああ。デカい猪だしな。この位ならいいぞ。」

「アリガトウ。」


お礼を言って、もも肉を受け取り、そのままじっと待つ小鬼。


「どうした?早く持って帰って、食え。」

「ココガ ドコカ ワカラナイ。」


……は?


この小鬼の話を聞くと、どうやら迷子らしい。

いつものように魚を取りに海へ向かったのだが、海中で何かに攻撃されて意識を失う。

そのまま海を流れ着いた先は、全く知らない海辺だった。


そこから知っている場所を探そうと移動するが、完全に迷子に。

途中で人間の村に行くが、鬼を怖がって話も出来ない。

その時の人間が、何故か食べ物をくれたので、それで食いつないでいたそうだ。


ちなみに丘の上の生物いきものは、採ろうとしたが駄目だったそうだ。

そろそろ限界と思っていたら、大きな音がしてここに来たそうだ。


「ならうちにくるか?」

「イイノカ?」

「おう。いいぞ。なんか仕事はしてもらうと思うけど、家が見つかるまで飯なら食わせてやれると思うぞ。」

「タノム ズットコマッテタ。」


さすがに話した子供?小鬼か?

迷子のそれを放置して、はいさようならは出来ないしな。


「そういえば自己紹介がまだだったな。俺は天童一輝だ。」

「テンドウ イツキ」

「そうだ。呼びやすい方で呼んでくれ。お前は?」

「オレハ アズキ」

「アズキな。よし。じゃあアズキ。お前を今から仲間の所に連れて行く。」

「ワカッタ」


そうと決まれば……ってヤバイ!

もう日が沈みそうだ。

話し込みすぎた。


「ちょっと急いで戻らないといけなくなった。飯は後でやるから走れるか?」

「ダイジョウブダ」


問題ないそうだ。

猪を肩に担いで持ち上げる。持てるけどバランス悪いな。


「よし。後ろから付いてこい。無理そうなら大声で呼べ。」

「ワカッタ」


お土産を持って、来た道を走って戻る。

来た道は、細い木々をなぎ倒しながら来たから分かる。大丈夫そうだ。

時折振り返るが、アズキは問題なく付いて来ている。

俺も手加減して走ってはいるが、猪の足を大事そうに抱えて走る姿は余裕がある。


こうして日の暮れ始めてしまった森を、二人で駆ける。

さすがに行きよりも時間が掛かってしまい、到着した時には、日は完全に沈んでしまった後だ。


鬼って響きがいいですよね。

読んでくれた方、是非ブクマと評価をお願いします。

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