3-39 大統領3
2021年3月16日公開分 一話目。
3-39 大統領3から公開
■一郎視点
「名無しさん。今回の件は本当にありがとうございました。アメリカ国民を代表してお礼を申し上げます」
AKの捕縛に成功した事で大統領を含めたアメリカ政府関係者との打ち合わせを行っている。そこで大統領から直接お礼を言われた。
「いえ、自分がやれる事をしたまでです」
「ご謙遜なさらずに、本当に感謝しております。ところでAKが殺しても蘇ったのは、装備していた指輪の効果という事で良いのでしょうか?」
「多分そうだと思いますけど、確証があるかと問われると答えられないです」
そう言いながら神様の方に視線を向けると、周囲の面々も神様に視線を向けた。
「…。答える必要があるかや?」
「是非ともお願いします」
大統領が神様にお願いした。そして神様が私に視線を向けるので、私からもお願いをする。
「…。多分そうであろう」
「「「おお」」」「やった」「これで決着がついたな」「よし」「良かった」
会議室内に歓声が上がる。
「神様、もう魔王が出る事は無いと考えてよいですか?」
「いや、魔王は出る」
「「「「えええ!?」」」」
「魔族が居なくなるまで、生き残った誰かが魔王となる」
「ではAKのような者がずっと繰り返し出てくるという事ですか?」
「まあそういう事じゃ」
「「「そんな」」」「嘘だろ」「なんだよ」「くそっ」
会議室の中は、失望の声で満ちていく。
「でも、AK程強くは無いんですよね?」
あまりの周囲の落胆ぶりに、神様にフォローというか、明るい要素を引き出そうと問いかける。神様は再度私を見つめてから声にだした。
「確かにAK程ではないじゃろ。お前らでも倒せる筈じゃ…よって、勇者によるサポートもこれで終わりじゃ」
「「「「えええ!?」」」」「それってどういう事」「そんな」「困るよ」
「うるさいのじゃ」
静かになったところで、神様は再度言葉を続けた。
「勇者の力は強大じゃ。そしてその勇者を恐れ、殺そうと考える者もおるじゃろ」
神様はアメリカ政府の関係者が座っているあたりを見ながら言った。
「いえ、感謝こそすれ、それを仇で返すようなことなど…」
大統領が慌てて訂正し、視線を政府関係者に向ける。
「我をなめておるのかや? 気が付かないと? 無礼な対応に対してずっと寛大な対応を取り続けると? 魔法一つで地球を壊滅させることも出来るのじゃぞ」
アメリカ政府関係者が座る方を見つめながら、神様ははったりをかました。物凄い自信を持って、良くもまあ、そんなブラフが出来るもんだ。するとCIA長官が手を挙げて発言した。
「誤解があるようです。敵対するつもりなど毛頭ありません。確かに勇者の力は恐ろしい。それがアメリカ国内に向けられた時に、どのように対処すべきかを検討しました。あくまでも検討しただけです」
「なんだと」
大統領や周囲の面々が驚きの声を上げた。
「脅威に備えただけです。その力がアメリカに向かなければ、友好的な関係を継続します。繰り返しますが誤解しないでいただきたい」
「ふん。そんな愚かな事が発生する前に勇者は地球から異世界に連れていく。全ての勇者は地球から居なくなる。後は人間どもで勝手にすればいいのじゃ」
「「「「えええ!」」」」
「これは決定事項じゃ。それがお互いのためじゃろ」
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今後の事を話し合うため、神様、清子さん、茜ちゃんと、人が居ない海岸に転移して来た。
「神様。私は異世界に行っても良いのですが、清子さん、茜ちゃんの意思を確認しないと」
「名無しさん、私は名無しさんに着いて行きます! 異世界でもどこでも」
「いやいや、もうちょっと真剣に考えた方が良いよ」
「私も行くわ。異世界に」
「えっ!? 清子さんも?」
「だって神様の中の決定事項なんでしょ。それに力のある人間は恨みを買う可能性が高いって事。何もしなくても脅威と思われて殺されたり、家族に手を出されたりするのであれば、雅美のためにも居ない方が良いわね」
「でも雅美さんどうするんですか」
「連れて行ってもよいぞ。数人程度であれば」
「雅美に聞いてみないと分からないので、後で相談させてください」
行く方向で考えているみたいだけど、本当にいいのだろうか。
「心配するのは分かるがこの世界にいるから幸せに過ごせるという訳でもないぞ」
「えーとそれってどのような意味でしょうか」
「この世界は末期じゃ。多分30年と持たんじゃろ」
「「「えええ!?」」」
「どういうことですか? 30年後には人類が滅ぶということでしょうか」
「全員が死ぬとは限らんが、今のような水準での生活は出来んじゃろ。人が多すぎる、消費が激しすぎる、そして限られた物資を求めて人が争う。星が滅ぶ、正確には文明が滅び、狩猟や農耕程度のレベルまで落ちる」
「そんな…でも絶対では無いのですよね?」
「惑星全体規模で文明が滅ぶさまを数多く見てきた。今の地球なら、ほぼ9割以上滅ぶのじゃ」
「9割以上!! どうすれば助けることが出来るのですか?」
「人を減らし、消費も抑え、自然を大事にし、個々を優先するのではなく全体を優先する。そんな感じかの」
「減らすって…。いったい何人なら良いんですか」
「そんなの知らんのじゃ。状況によっても異なるからの。仮に地球単体として問題が無くなったとしても、他の宇宙人から攻め滅ぼされる可能性も有るのじゃ。
太陽系を出て、他の文明圏がある星まで移動出来るような技術力を持ったら、滅ぼされる可能性が高いのじゃ。宇宙ゴキブリになる前に潰されるじゃろ」
「宇宙ゴキブリって…。それより、そんなに問題がある状況なら世界に告知すべきではないですか?」
「それは止めた方が良いのじゃ、パニックを引き起こして滅亡が早まるだけじゃ。それにこの世界に問題があるのは各国首脳は理解している、理解しているが積極的な対策を取らん。そして人口を減らせという話になれば戦争をして他の国を滅ぼす方向に舵を切るじゃろ」
「そんな…」
「まぁ。異世界に行ったところで幸せになるとは限らんが、少なくとも今の地球よりは滅亡する可能性は低い。スキルもあるし、そんなに困ったことにはならんじゃろ。
それと世界が滅ぶ可能性は、たとえ家族であっても話してはいかん。異世界に連れていく説得材料にもするな。異世界に行かなかった場合、物凄く悲しい結果になるからの」
CIA長官は神様は全て理解している可能性が高いと判断し、
正直に話すことで活路を見出そうとしたようです。




