3-31 変化
2020年9月27日公開分 三話目。
3-29 エマとシャルロッテから公開
薪が弾ける音が時折聞こえている、暖炉の前のソファーで横になりながらウトウトしている。ドサッ、木から雪が落ちたようだ、ふと視線を窓側にずらすと、神様がすぐ横でスマホをいじって、多分ゲームをしているのが見えた。神様も私を見て、そして両手を広げて口の先端を突き出す。
「おはようのキスをするのじゃ」
周りにアメリカ政府の関係者もいるのでスルーする、恥ずかしいからね。最近キスをせがまれる事があるんだけど、神様相手にそんな事できませんよ。背伸びをして眠気を覚ましソファーに座りなおした。
「貯まったのじゃ」
ん? 神様が何かを言っている。
「なんです?」
「貯まったのじゃ」
「ゲームのポイントか何かですか?」
「世界の理を変えるためのお金と我を信じる気持ちが貯まったのじゃ。これから世界を変えるのじゃ」
「え? 貯まったのですか!? というか早っ、まだ2、3か月位ですよね?」
もう直ぐクリスマス。記者会見やアメリカ政府との話が9月中旬、実際の集金活動が10月頭だったよな。
「変えたのじゃ」
「え? もう? はやっ! 変わったのですか? 全然実感が無いんですけど」
「おい」
そう言ってアメリカ政府の連絡要員の一人を呼びつける神様。
「世界の理を変えたのじゃ。例の計画を進めるのじゃ」
「え? はい、了解しました。さっそく始めます」
そう言って、慌ただしく部屋の外に出て行った。他の政府関係者も慌ただしく、PCを開いたり、連絡を取り始めたりしている。
これで魔族を倒すとコインやアイテムが出るようになった。魔族を倒した際に出る魔素を別の物質に変換することで、魔族が増えるのを防ぐ。完全に魔族が増えなくなった訳ではないが、それでも殲滅速度が勝れば魔族の数は減り、最終的には駆逐することも可能になるはず。
アメリカ国内の銀行や、政府が作成した冒険者ギルドでコインをUSドルに換金が出来るようになる。これでお金欲しさに魔族を倒す者も増えるはず。また既に戦っていた人たちへの活動資金にもなるだろう。集めた金の一部がこの活動の基金となっている。
「名無し様。魔族が捕捉されたので、殲滅をお願いします」
「はいはい、了解」
連絡要員からの依頼に二つ返事で応える。リビングの天井からスクリーンが降りてきて、そこに遠くにいる魔族の群れが投影された。鑑定で魔族を特定し、魔法を唱えると全滅した。
しばらくするとヘリが到着し兵士が降下していく様子が映った。画面が切り替わり、兵士の目線カメラに映し出されたのはコインとネックレスだろうか? いずれにしても魔族を倒したら魔素が変換されたのが確認出来た。
「神様、この後はどうするんですか?」
「後は魔族を殺し尽くすだけじゃ。それと並行して魔王を倒すのじゃ」
「すみません。よろしいでしょうか。記者会見を行いたいので、ホワイトハウスまで移動をお願いしたいのですが」
連絡要員からの依頼に応え、神様と一緒にホワイトハウスに移動する。そして全世界に対して、魔族との戦いが転換期に入ったことを宣言する。この宣言内容は繰り返しテレビや街角のモニター、インターネットで流れ、世界中で魔族討伐の気運が高まっていく。
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久しぶりに日本に戻ってきた。全世界で寄付や協力へのお礼回りをしてきて、その一環で日本に帰ってきた。首相官邸での挨拶や会見も終わって、お世話になったTV局の幾つかで一言挨拶することになっている。
「じゃあ、4チャンネルのTV局入口までお願いします」
「うむ。しっかりと捕まるのじゃ危ないからの。もっと上じゃ、はわわわ」
いつものやり取りをして、神様の後ろから抱き着き、柔らかい感触を楽しみつつ、TV局の入口上空に転移する。
TV局の前には若干の人だかりが出来ている。ゆっくりと降下した後、神様から離れる。すると誰かが走って近づいてくる気配がした。警備員がそれに気が付き静止をしようと動き出す。ドンッ。神様の背筋が伸びた、というより後ろからぶつかられた様だ。
「神様、大丈夫ですか?」
驚いたような顔の神様、そして視線を自分のお腹に向けた。私も視線に釣られてお腹を見ると、白い衣装がどす黒く、若干赤みがかった黒い染みが物凄い勢いで広がり、その染みの中に尖ったものが見え、警備員に引き離されるとその尖った物は神様の体に引っ込んでいった。引き離された女性の手には血に染まった包丁が見えた。
「え?」
何が起きたか理解出来ず、そしてその場に倒れ込む神様が見えた。
「しっかりしてください。いま回復するので」
ヒール【中】を唱えるが血が止まらない。繰り返し唱えるが治っている感じがしない。
「無駄じゃ…一郎。お前の魔法は我には効かぬ。復活スキルも同様じゃ」
「え? なんで? そんなことより、どうすればいいのですか! どうすれば助けられるんですか」
「安心せい…肉体が無くなるだけじゃ。これからはお前が…魔族と戦い…ゴッホ」
吐血し言葉が続けられない。倒れている神様の頭を若干持ち上げつつ抱き寄せる。
「もう、喋らないでください、それは分かりました。でも神様を助ける手段は無いのですか?」
「無駄じゃ…これでお別れ…最後に…願い…」
そう言いながら片手で私のほほに触れ、指先で涙を軽く拭った。いつの間にか涙が流れていた様だ。でも拭った血の付いた指先から涙が伝わって赤い涙がボタボタと地面に零れ落ちていく。
「何です、何でも言ってください!」
「く……」
体の力が抜けたようで、頬を触っていた手がダランと下がり、支えていた手にかすかな重みを感じた。そして息が止まっているのが分かった。
「え? 神様しっかりしてください! 神様」
体を揺するが反応が返ってこない、そんな…。自然と神様に口づけをした。目からは涙か零れて止まらなかった、周囲からのフラッシュも気にならないほど悲しかった。警備員が増員され周囲から人が遠ざけられた、私は横になったまま動かない神様の前から離れられなかった。
「死ねよクソビッチ! 私の名無しさんに色目を使ってんじゃねーよ」
その声をする方向に視線を向けると複数の警備員の静止を振りほどいて、というか投げ飛ばして、自由になったマスク姿の女性が、えっ何で? どうして?
一話、一話が短くてすみません。話の区切り的には、こんな感じかなと。
多少巻きが入っているかもです。




