07 魔王Side
■約三十年前の異世界
半年に一度の定例会議のため、魔王城に魔王軍の代表が集まっている。学校のプール位ありそうな長いテーブルのお誕生日席には魔王が座り、直ぐ左右には四天王が、更にその奥には五虎将、六人衆、七賢人、と続き、テーブルに座れない八旗、九将、十騎士はテーブルの後ろに用意した椅子に座り、音声だけを結んだ別室には、五十なんたら位まで続くような名称がついている代表者が遠隔地で参加している。
南大陸を担当している四天王の一人サウスから緊急の報告があるとの事なので、まずはその話から会議が始まった。
「三日前、南大陸で勇者が発見された」
その一言で会議の場がざわつく、本来であれば議論以外で言葉を発するのは、魔王様に対して無礼になるのだが、流石に勇者となると咎めるものは居なかった。
「ちょっと待って欲しい。なぜ勇者が発見されたのに三日間も黙っていたんだ。最優先で共有すべき内容だろう」
同じ四天王の一人ウエスが席を立ち、物言いが入った。他からも同様にそうだそうだと、同調する発言が出ている。どんなパーティ構成なのか、どんな容姿なのか、レベルは、色々な質問も飛んでくる。
「落ち着いて欲しい。勇者の報告をしたら今のように浮付いて、収拾がつかなくなる。なので正しい情報を関係者が参加する場で共有すべきと考えておる。それは魔王様も同じ考えである」
「くっ…」
ウエスは一礼して席に着き、会議場はまた静かになっていく。
「発見された勇者はパーティメンバー含めて既に倒しており、脅威は取り除かれている」
「ええーなんだって」「凄い功績だぞ」「やったー」「誰だ倒したのは」
またざわつくが、静まるのを待たずにサウスが話を再開する。
「ちなみに、LVは10だった」
「馬鹿な! そんなのその辺の村人の子供より低いじゃないか! 何でそんなに低レベルなんだ、生まればかりだとでも言うのか!」
ウエスが再度席を立って怒鳴り散らす。
「理由は分からん。ただ年端も行かない少年だったよ」
「しかし、それが本当なら安心だな、良くそんな勇者を見つけて倒せたもんだな」
「失礼します! 緊急の連絡です。勇者が発見されました!」
遠隔地から会議に参加している拠点からの連絡に、一気に室内がざわつく。
「発見された勇者はLV8で、サウス軍の手で討伐致しました!」
収拾がつかない位のざわめきに包まれる。
「騒々しいぞ、落ち着け!」
魔王様が一声放つと一気に静けさが戻る。
「サウスよ、良くやった。2名の勇者を倒すなど中々出来る事ではないぞ」
「ははー」
サウスは起立して頭を下げる。これで四天王の中で頭一つ抜きんでたと言ってもいいだろう。そんな中、東大陸を担当している四天王の一人イストが挙手をしているので、発言を許可された。
「報告があります。一昨日勇者らしき人物を発見したとの報告がありました、残念ながら取り逃がしましたので、レベルや生死は不明です」
「勇者を2名倒したんだぞ、どちらかの一方だったのでは? というかLV10以下の勇者を取り逃すとか無能すぎるだろう。」
「ちなみに勇者らしき人物は女性でした」
「ん!? 私の軍が倒したのは少年だったぞ、先ほどの報告があったのはどちらだ!」
「少年です!」
会議は収拾がつかない位、激しい議論が行われている。今まで勇者が同時に二名存在したことは無かったからだ。
■約二十年前の異世界
定例会議の最後に、各地で確認された勇者の報告をするのが、ここ数年の流れになっている。
「この半期中に倒された勇者は四十五名です。最大LVは50でした」
もう誰も勇者が出て来ても気にしない程度になっている。またかと、そんな低レベルなのかと。
「もう勇者を倒した数やLVを確認するのは、労力や時間の無駄では? 例えばLV100を超えた勇者が出て来たら、その勇者だけ対応するのが良いのではないか」
「いや100じゃなくて200でも良いのでは? そんなに直ぐに500を超えるようなものも出ないだろうし」
誰も勇者に対して警戒する気持ちが薄れていった。
■約二年前の異世界
定例会議が行われる会議室に参加している代表者の数が激減している。各地で指揮を執っているため遠隔地から参加する事が多くなったからだ。魔王軍が支配する地域は、一時期世界の半分くらいまで広がっていたのだが、いまは三割を切るかどうか位まで押し戻されていた。
その要因の一つは勇者だった。最初は弱い勇者が多く容易に倒せていたが、勇者が数多く集まった地域では、人間どもの生活水準が飛躍的に上がった。農地が改善され収穫量が格段に増え、武器が高性能になり、学問が発達し、人口が増え、一般人も強くなってきた。
一般人が強くなることで、勇者のLV上げに協力する事が可能になり、勇者独自の魔法やスキルにより、どんどんと形勢が逆転し始めている。このままではジリ貧で、もって後数年というところだろう。
「勇者は地球という世界から送り込まれている事が分かった。その世界では魔法がなく、剣や弓という武器よりも銃という武器が発展しているらしい。またLVという概念も無く、スキルも無く、人の強さは虎や熊という野生動物よりも低いらしい」
「魔法が無い? スキルが無い? 虎や熊よりも弱い? そんな事が有り得るのか? しかし銃という武器はどういうものなのか?」
「鉛の弾を遠くから放ち、相手にダメージを与えるものらしい」
「ミスリルやアダマンタイト、銀や、鉄ですらなく、鉛? 随分と程度の低い素材の武器だな」
「虎や熊などのような野生動物を倒すのであれば、その程度で済むらしい」
「そこでだ、これ以上勇者が送り込まれることを防ぐために、誰かを地球に送り込もうと考えておる。しかし、こちらから送り込めるのは精々一名がやっとだ、それ以上は難しい。また送り込んだ後は私からの支援は行えないため、死んでもそのまま復活させることは出来ない。
仮に地球という世界で人類を全て抹殺出来たとしても、こちらに呼び戻す事も出来ない。出来ない事ばかりで申し訳ないが、それでも地球で戦うというものは名乗りを上げて欲しい」
「オウ! ならば私が参りましょう。物理攻撃耐性及び飛び道具耐性を持ち、LV700の強さである私であれば十分に活躍が出来ると思います、熊にも負ける程度に弱く、魔法が無い世界であれば脅威も低いと思われます」
力強く叫んだのは、四天王の一人ノースであった。彼は一言で言うと脳筋である。頭が悪いわけでは無いが、単純である。今回のように未知の世界で戦うには不安が残る。それに大量殺人が出来るような範囲魔法が使える訳でも無い。
しかし、魔法が使えないかも知れない世界で魔法が得意の人物を送っても全くの無駄になる可能性がある。そうなると単純に個人の戦闘能力が高い者を送るのが最適ではあるが、それよりもサウスのような何でもそつなくこなす者の方が良いと言えば良いのだけれども、サウスは使い勝手が良いからこちらで活用したい。
他の立候補者を見回すが一番良いのはノースだろう。彼を送れば全人類を抹殺する事は出来なくても、その対処によって、これ以上勇者を送り込める余裕がなくなるかも知れない。よし、決めた。ノースを送り込む。
「ノースよ、自身のLVと引き換えに復活出来る指輪を授けよう。仮に地球で死んだ場合、その指輪の効果が発動し、地球上のどこかに転移して復活する事になる。
復活により消費されるLVは自身の体の損傷度による。仮に木っ端微塵に破壊されれば100~200位のLVが下がる可能性もあるが、体の大部分が残っていればLV10~20程度の消費で済むであろう。
なお、復活したしばらくの間は、元のLVの十分の一程度になってしまう。力が戻るまで無理をする事のないようにな」
「ははー。しかし弱き者が多い世界で、私を倒せるような者もおりますまい。向こうの世界を征服し、魔王様の威光を広め、反抗する事の愚かしさを魂に刻み込んでやります」
そうして、ノースは地球に送り込まれた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。続きは全然書いてません、これからです。やる気はブックマークの数や閲覧数で上がるかも。
それと待つ間、他の作品も良かったらお願いします。評価低いんですけど、自分の中では面白いと思っているんですけどね。単純なお笑いシリーズとか楽しいと思うだけどなあ。短編だとブックマークされにくいのかな? いやいや人気作品の中には短編でもブックマークに入る物があるんだから、劣っているんだろうなぁ。