3-21 神様のようなもの4
2020年1月25日公開分 二話目。
3-20 中村さん4から公開
何度か尋ねるが少し顔を背けて全然答えてくれない。何をそんなに怒っているんだろうか?
「黙ってろ言われたから黙っておるんじゃが」
小さい声でボソッと呟いた。
「すみません。もう用事は済んだので話して頂いて結構です」
「別にいいんじゃ。そうやって二人でちちくり合えば良いのじゃ」
いや包丁を刺されている構図は狂気以外の何物でも無く、どうすればちちくり合うように見えるのかが分からないですけど。神様の世界は随分と殺伐としているんですね。
「すみません。別に神様をないがしろにするつもりは無かったです」
もしかしてだけど、神様って焼きもちを焼いている? 私に気があったりして? いやいやいや、それは無いでしょ流石に相手神様だもの。どんだけ自信過剰なんだっていう話ですよね。でもなんかここ数日、というか数時間のやり取りからそんな気もしないでもない、ちょっと確認してみようかな。
「あの神様もちちくりあいますか?」
「はぁああ?! 何をいっとるのじゃ。ほっほ本気かや? 我とちちくりあいたいのかや?」
「神様神様、もう少し声のトーンを下げて下さい夜も遅いので。すみません変な事を言って」
やはり自分の思い違いだったか、恥ずかしい…。
「嫌じゃ無いのじゃ! 全然嫌じゃないのじゃ! 本当に良いのかや?」
「遠慮しないで良いですよ。私と神様の仲じゃないですか」
「あのーここ、私ん家なんですけど~」
文句を言ってくる中村さんをまあまあと宥める。いやだって神様の機嫌を損ねたらまずいでしょ。
「そっそこまで言うのじゃがやあわ」
大分神様がテンパっている様だな、これは私がしっかりリードしないと。
「もっとこっちに来てください。さあ早く」
神様を近くに呼び寄せる。しかし、キョロキョロと戸惑い、それでも一歩ずつ歩いてくる。
「ベットじゃ無いのかや?」
「ベットでしたら汚しちゃうんで、中村さんに悪いからここでパパっとしちゃいましょう」
そう言って神様の右手をグイっと引っ張って、私の前まで来させると神様がそっと目を閉じる。
「駄目ですよ神様、ちゃんと目を開いてないと」
「あわあわわ。そっそういうのが趣味なのかや?」
「違いますよ。目をつむってしたら、ちゃんとした所にささらずに、変なところにささるかも知れないじゃ無いですか」
「へっへんなところ!? そっそんなプレイをいきなりするのかや!」
「だから間違わないようにちゃんとさす場所を確認して、目を開いてしっかり見て下さいね」
「ささるところをしっかり見ろだの、こっこやつ我の想像を遥かに上を行っておるのじゃ」
「はい」
そう言って包丁の柄の部分を右手に握らせ、自分の左手を流し台の上に出す。あんまり激しくしないで下さいね。
「はあ!? なにやってんのじゃ! そんな訳が無かろう!」
あれ? 違ったか、珍しくしくじってしまった、リカバリーしないと。
「すみません、てっきり。包丁を回収しますね」
そして神様の右手の指と指の間に自分の左指を入れてしっかりと手を繋ぐ。
「あっ」
神様から声が漏れる。そしてその手を横に拡げる。
「じゃあ動かないで下さいね」
そう言って包丁を神様の右手に向ける。いざやると緊張するな、手が震える。
「やっ止めるのじゃ! ばっ馬鹿じゃ無いのか!? ニブチンだとは思っていたが、想像を遥かに超えるニブチンじゃ!」
えー神様もちちくりあいたいのかなと、神様の世界では包丁で刺し合う事がちちくりあうって意味じゃ無いの? 包丁で刺したり刺されたいのかと思ってた。神様の言葉に中村さんもウンウン頷いてる。えー酷くない? 女性だけで味方になっちゃって。
「そうなんですよ、もの凄くチキンなんですよ一郎さんて。すっごく誘っているのに全然手を出さなくて、本当に呆れちゃうくらい」
それは芸能人を目指そうと思ってたから、ちゃんと付き合うぞと決めてからその人に手を出そうと思ってたので。
「お前もかや! 分かる分かるのじゃ。この朴念仁には苦労しておるんじゃな」
なんか二人で意気投合しているし、しばらく二人で私の悪口で盛り上がっちゃって。
「そういえば、一郎さんがバ〇サンしに来たのは勇者と関係があるのですか?」
「はい。ダニを殺すと経験値が入ってレベルアップするので、そのためにやってました」
「なんだ、それならそう言ってくれればよかったのに」
「いや変な人だと思われてしまうと思ったので…」
「そうですね、多分頭がおかしい人と思って距離を取ったと思います」
「おい! それじゃ言ったらだめじゃん。言わなくて正解」
「でも世界平和のための努力だったんでしょ、偉いですよ」
「……、あっあの」
いや、それはそうではなくて私利私欲でやっていたので。
「ふん。しかしあれじゃな。中村には中々の素質がありそうじゃな」
私の言葉を遮るように神様が話題を変えてきた。
「え? 中村さんにも勇者の素質がありそうなんですか?」
「うむ。料理の」
「勇者ちゃうんかい! どっから料理が出て来たんですか」
なぜかツッコミの時にえせ関西人風になってしまった。
「うーん適当じゃ。冗談はさておき素質があるのは間違いないのじゃ。敵と戦う時に相手に怪我を負わせたり、命を取る事に躊躇いがあると自身の命やパーティーメンバーを危険に晒すのじゃ」
でも友人の手を刺すのに躊躇して欲しかったな。逆に怖すぎて背中を任せられないよ。
「どうじゃ勇者になるかや?」
「え? 私ですか? でも仕事があるし…」
神様の勇者を誘う人の条件がかなりいい加減な感じがする。私も間違いで選ばれたんじゃないだろうか…。
おや? 外に人が居る気配が、通路を歩く音と玄関の投函口と思われるところが開いたような音が聞こえた。玄関に忍び寄ると、確かに外で誰かが聞き耳を立てている様だ。直ぐにリビングに戻って状況を伝える。
「ふむ。じゃあそろそろ別の場所に移動するかの。その前に」
神様が玄関に行き扉を開けると、数人の記者らしき人達が中の様子を窺っていた。
「お前等どこの記者じゃ? 我の発言を聞かなかったのかや? このような取材をするならば神の反勢力として取り上げると伝えた筈じゃが?」
「何の話ですか?」「何か争うような声が聞こえたので心配して」
あれ? 記者じゃないの? いや記者でしょ。でも外に出ている記者全員にまで通達が伝わっていないかも知れないよな。記者会見から1時間位だし。
「記者じゃないのかや? 特に問題無いのじゃ、安心していいのじゃ」
神様は玄関を閉じて部屋に戻った。多分記者だと思うけどスルーしておくか。
「神様、そろそろ帰りますか? ところで今日はどこに泊る予定なのですか? 別の場所で泊ると言ってましけど」
「探して無いのじゃ。適当なホテルでも泊ればいいのじゃ」
すみません。ふざけた文章を入れないと気力が続かないので。




