3-20 中村さん4
2020年1月25日公開分 一話目。
3-20 中村さん4から公開
家に着いた。プリンも買ったし、後は別の場所に退避するための荷造りか。あっ中村さん! 中村さんどうしているだろう、直ぐにラインに安否確認のコメントを書く、そして謝罪もする。しばらく待つが返信が無い、今日は仕事なのだろうか。
「洗濯物をタンスにしまったのじゃ」
ああ神様だけに洗濯物をさせてしまった。
「すみません、一緒に片付けようと言ったのに。申し訳ないです」
「べっ別に良いのじゃ。洗濯物を片付けるのは我の仕事じゃからの」
腰に手を当てて胸を張り、なぜか照れたような神様。どこに照れる要素があるのか分からないけど非常に感謝しています。夕飯を作るのが面倒だったので買ってきたコンビニ弁当を二人で食べる。食後には当然プリン、まあ市販の量産品だけど。
「はあ~、この一杯のために生きていると言っても過言では無いのじゃ。五臓六腑に染み渡るのじゃ」
大分過言だと思いますがプリンが好きなんですね。でも甘いもの全般好きみたいだし、今はセーブしているけど少しずつ様子を窺いながら出すデザートの種類を増やしていこう。ブルブルとスマホが揺れる中村さんからの返信!
“大丈夫ですので心配しないで下さい”いやいや可成り炎上しているし心配するって。少しやり取りをして電話しても大丈夫との事なので電話をかける。
「すみません。大丈夫ですか? この度は大変申し訳ございません」
「いえ謝らないで下さい私が悪いんです。でも全然大丈夫ですから」
声を聴いた感じ少し震えているような気もする。実は参っているんじゃないの? 心配かけない様に気丈に振舞っているだけなのでは?
「あの今どちらですか? 家なんですね。じゃあ今すぐ家に行っても良いですか?」
「あっ外に記者の方が居ると思うので止めた方が良いと思います。記者の方に付き合っているんですかと訊ねられたりしたので…」
「じゃあ、直接部屋の中に行きます。それなら良いですよね?」
「はい? ちょっと何を言っているのか分かりませんが、記者に見つからないように入るという事ですか? その私は全然構わないのですが一郎さんに迷惑が掛かると思いますので。はい、はい、はあ、まあ、来ると言うのでしたら私は構わないですよ」
「いや行きます! 直ぐに行くので、秒で行くので、ちょっと待っててください」
電話を切り、神様にお願いをする。
「中村さん家と言われても分からないのじゃ。グルグルマップで場所を教えるのじゃ」
グルグルマップの衛星写真で建屋を指定し、部屋番号を伝える。
「ほれ捕まるのじゃ。もっとギュウっとしないと危険なのじゃ。もっとじゃ。ほわわわ」
そして一瞬にして中村さんの部屋に入った。
「え?」
中村さんの驚いた声が聞こえた。室内を見渡すと洗面所に真っ裸の中村さんがタオルで頭を拭いていた。
「えええ!!! ごめんなさい」
直ぐに後ろを向いて謝罪する。
「きゃっ。えっどうやって入ったんですか? あとその物凄く、ものすごおおーく美人な方はどなたですか? ものすごーく」
「今はそれより服を着て下さい」
後ろを向きながら答える。まずはそこから始めないと。
「すみません。お風呂上りにスマホを見たら書き込みが有ったので、慌てて返信しちゃったので」
私も謝罪し、しばらくドライヤーの音などが続いていたがどうやら髪が乾いたようだ。
「はい大丈夫ですよ」
そう聞こえたので振り返ると髪を乾かした、再び真っ裸の中村さんが居た。
「うぉ。服着ろよ! じゃなかったすみません。服を着て下さい」
慌てて後ろを向くと、背中に柔らかい感触が伝わってくる。そしてお腹の前で手が組まれる。
「何やってんすか。ちょっと離れて下さい」
優しく手をどけようとするがしっかりと結ばれており解くことが出来ない。力強くやったら中村さんを傷つけてしまうかも、と思うと力を入れられない。
「酷いです。こんな状況なのにとんでもなく美人の彼女さんを連れて来るなんて」
「なにか勘違いをしているようじゃの。我は彼女では無いのじゃ」
「あれ? そうなんですか? てっきり彼女さんかと思ってました」
「嫁じゃ」
「「えええ!!」」
「すみません。話がややこしくなるのでしばらく黙っててください」
「黙れじゃと…」
なぜか頬に両手を当ててモジモジし始めた神様。とりあえず放置して中村さんと会話しないと。
「良いから服を着て下さい。真面目な話をしに来たんです」
「はーい。記者が居るのにすぐ来るなんて言うからもしかしてと思ったんですけど、そしたら彼女さんと一緒に来たんで、ちょっと見せつけてやろうかなーってね、そして修羅場になって責められたり責めたりしたら気持ちよく成れるかなってね。はい着ましたよ」
どういう発想だよ理解出来ないわ。短パンTシャツノーブラで大分刺激的だな。いやいやノーブラ分析するつもりはなかったんです、ただもうたまんないです。じゃない、謝罪しないと。
「この度は大分ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ございません」
「別に良いですよ。自分が悪いんですし気にしないで下さい」
「いやでも結構ネット上で叩かれていますけど」
そう伝えると両膝を床に着き、顔を両手で覆い体が震えている。直ぐに近寄り、軽く両手で中村さんの二の腕あたりに手を添えてから、思い切って手を背中の方に廻して優しく包み込む。辛いときは誰かに抱きしめて貰うと気が楽になるのは体験から学んでいる。気丈に振舞っていてもやっぱり女性だし、不特定多数からの心無い言葉に傷ついてるんですよね。
「もう、それを考えると震えが止まらなくなって…」
「大丈夫、大丈夫ですから。そうなってしまうのは仕方が無いです。酷いですよね」
「皆が私の事を悪く言って…、良く知りもしないのにいい加減な事を…」
「分かります。適当な事を言って来ますよね酷いです。中村さんは悪く無いです」
「メスブタだの、ブスだの、ぶりっ子、頭おかしい、ヤリマン、ビッチ、メンヘラ、変態、蹴る相手が違う、蹴りに腰が入ってない、俺を蹴ってくれ、おっ結構可愛い、親の顔が見てみたい、どんな教育を受けてきたんだ、タヒね(死ねというネットスラング)、炎上対策には自信があります先ずはフリーダイヤルまでお電話下さい、毎朝俺の朝食を作ってください時給1600円で三か月、とか」
「そんな事私は思ってませんよ」
ツッコミてー! こんなタイミングじゃなかったらツッコムけど、流石に今はツッコミが出来ない。ああボケが飽和状態なのに。ちなみに、可愛い、腰が入っていない、変態だとは思っています。
「本当に酷いです。そんな書き込みを見るたびに、もう…何度、何度絶頂をむかえたか分かりません!」
「いや変態かよ!」
抱きしめるのを止めて彼女の顔を見ると、上気して物凄くだらしないニヤニヤとした顔つきをしている。まさかポジティブマゾが有効に機能しているとは思わなかった。
「ネット上の事なんて気にしていませんよ。快楽にしかなりませんから。それに行き過ぎた投稿は刑事告訴するつもりなので、そう考えただけでも何回でもイケちゃいます」
お巡りさんココです! ここに変態が居ます!
「本当に大丈夫なんですか?」
再度の確認にも問題が無いという事で、大丈夫なのかな? 辛かったら何時でも連絡して良いと伝えた。
「それと今まで黙っていたことがありまして。どこから話していいか、物凄く信憑性が無い話になりますが。あっ、ネットニュースを観ましょう」
スマホで検索すると、既に神様や私の話題が多数ネットニュースに掲載されている。
「はい? 神様? 勇者? 何の話でしょうか?」
「彼女は神様で私は勇者です。一度死にかけた時に勇者に成らないか誘われて、承諾した後に生き返ってしまって。私尋常じゃない回復力ですよね? あれは私が勇者だからで、実は歌が上手いのも勇者のスキルで」
「嘘? 本当に? まだちょっとにわかには信じられないですね。どうすれば信じられるのか? うーん。実際に何らかの事を試してみて貰うと言うか、具体例的な何かがあれば」
包丁を借りると伝えた上で、手の平に少し傷をつける。
「何やってるんですか一郎さん! 傷を見せて下さい。こんなにぱっくり割れて…え?」
“ヒール”を唱えると傷が一瞬にして治った。血の跡を水で流すと綺麗な状態で傷一つ無い事が分かる。
「もう一度やって貰っても良いですか? あれ? 手品では無く? 例えばそれを私がやっても大丈夫ですか? えい。あれ? 治ってる…。えい。治っている。えい。治っている。えいえい。えいえいえいえい。えいえいえいえいえいえいえいえい…」
「いや遠慮しろよ! もう十分だろ! こえーよ」
「いやだな~。確認ですよカクニン♪」
途中から刺すのがメインでどう考えてもスキルの確認という気がしなかった。
「可愛く言っても駄目ですからね」
マジ狂気を感じた。ただのマゾサドじゃないよね、普通包丁で刺すの躊躇うだろ。そんな時神様が視界に入った、何故か拗ねている様に見える。
「神様何か気に障る事がありましたか?」
しかしそっぽを向いて答えようとしてくれない。
以前はマゾの師匠だったので一郎様と呼んでいましたが、
一郎と友人になってからは一郎さんという呼び方になってます。
中村さんが薄着なのは9月中旬なので。




