3-9 茜ちゃん(マスクちゃん)
2019年10月13日公開分 三話目。
3-7 天罰2から公開
今思うと名無しさんとの出会いは運命だった、出会う運命だったの。あれは去年の11月、ブブレの前を通った事で私の人生は変わった。
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ブブレの前でサラリーマンがスーツ姿で歌っているのが見えた。えっここで歌う? しかもこの時間まだ歌うには早いんじゃないの? ここで歌う人を初めて見た、どんだけハートが強いんだろう。歌がいまいちだったら相当キモイよ。
そしてサラリーマンの前まで来たが、ちょうど歌と歌の間でまだちゃんとした歌声を聞いていない。顔はパッとしないな、うーんマイクとかスピーカーが無いけどこれで歌えるの? さっきの歌はどうやって歌っていたんだろう? スケッチブックには名無し、歌の練習中と書いてある。ちょっとどうかなと思ったけど、んー聞いてみないと分からないから少し待つか。
「ほげーほげー♪」
おお!? 素人の割には結構上手いじゃん! プロ歌手と比較したら可哀想だけどもっと上手い人はいるし…いや違う! アカペラでBGMも流さない、それでこの上手さなら凄いんじゃないの!?
何曲か聞いて分かった事がある、歌い方や声に癖が無いしオリジナルの曲が無いのか。なるほど、オリジナルで魅力的な歌詞の歌があればもう少し引きつけられるかも知れないわね。でも逆に言えばオリジナルの歌が来たらブレイクするんじゃない? あるいはこの人ならではという歌声の癖があれば良いんだろうけど、こればっかりはその人の個性だからなぁ。
手っ取り早いのはBGMを流せばもっと上手く聞こえるから音を流せば良いのよ。でもわざわざ流さずにアカペラで歌うのは個性? この人なりの売り出し方なのかも知れない。それにこの上手さならこのまま歌っていても歌手としていけるかも。
でもなぁ、アカペラでこの歌唱力が凄いって事が分からないとねぇ、聴く側の能力も有る程度必要だよね。それにこのルックスだからなぁ、もうチョイイケメンだったらブレイクするだろうに。
これは私が応援しないと駄目かも。うん、名無しさんを歌手にしよう! 歌の練習と書いてあるけどその先は歌手を目指しているんでしょ? そのためにはもっと理解して良い点を見つけてそこを伸ばして行かないとね、忙しくなるぞ。
それから名無しさんが歌う時には出来るだけ駆け付けて応援した。MCがなっていないから間が持つように話を振ったり、流行っている曲をリクエストしたり、歌が終わったら拍手をしたり、とにかく色々と考えてやれることをやる。
ツイッターでもリツイートしたけど、今まで別のアーティストを応援していたせいか、知り合いの反応もイマイチ。あーなんで今まで他の人を応援していたんだろう、いやそれはそれで正しいと思ったし別に間違ってはいないんだけど、もっと早く名無しさんに出会いたかった。
名無しさんと親しそうに話す綺麗なおばさん、ナニこの人随分と馴れ馴れしいわね。着ている洋服やバックから見て金持ちね、それでいて嫌味な感じが全然しない。顔とスタイルが良いせいかしら?
話を聞いていると名無しさんは一郎さんという名前みたい。ナイスだおばさんグッジョブ。どうやら彼氏彼女って感じじゃ無いわね、金持ちの知り合い、パトロンか何かかな? どうもこの場所で歌う許可を得たのがこのおばさん、清子さんらしい、やるじゃない清子グッジョブよGJ。
でもどっかで見た気がするんだけどなあ、思い出せない。なんだろう芸能人か何かかな? どっかで見たような顔なんだけどなあ、名前が出てこない、老化の始まりかな。
今は名無しさんの歌を聞くのが楽しみで仕方ない、移動の最中や家でも名無しさんの動画を聞いている。名無しさんの事がもっと知りたい、年齢は? 誕生日は? 血液型は? 仕事は? 彼女はいるの? 好きな女性のタイプは? 好きな音楽は? 好きな食べ物は? 趣味は? あーもう何でも知りたい。
今日も最前列で歌を聴く、そしてちょっとだけスカートをはだける。一瞬名無しさんの視線が私の足元に来て直ぐに反らした。フフフ、別に見ても良いのねぇ~もっと私を気にして欲しいなあ。
そんな大好きな名無しさんでも逆にストレスというか不満がある。もっとオリジナリティーを出して欲しい、なんかこう完コピって感じでアーティストって感じじゃ無いんだよねぇ。でもそんな感じだから逆に応援しないとね。もうしょうがないな~私が応援しないと駄目なんだから。
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今日はいつもよりも長く歌ってくれた、それでも楽しい時間はあっという間に過ぎる。ずっと聴いていたいわ。ほんの数週間前と比較して段々とファンが増えて来ている、嬉しい反面これはうかうかしていられない、一番のファンは私なんだからね!
名無しさんが片づけをしていると酔っぱらいが絡んできた。ええ!? 暴言を吐きながら名無しさんの胸倉を掴んでいる。許せない! 私の名無しさんにそんな酷いことをするなんて。
「何やっているのよ! 離しなさいよ、酔っぱらい!」
酔っぱらいは早く離れてどこかに行きなさいよ!
「なんだてめー! 部外者はすっこんでろ!」
そう言うと酔っぱらいが蹴っ飛ばしてきた。
「きゃあーー」
思わず声が出てしまう。女性を蹴る? この人頭おかしいんじゃ無いの?
「おいよせ! その子は関係無いだろ!」
名無しさん関係大有りですよ! 大好きですから! 私が一番のファンですから!
「なんだてめー! 調子に乗ってんじゃねーぞコラー!」
ああ、名無しさんの顔面を酔っぱらいが殴ってる! ゆっ許せない!! 止めさせないと名無しさんが怪我しちゃう。
「何やってるのよ離しなさいよ!」
この糞よっぱらいが! 名無しさんを怪我させたら絶対許さないからね! どんな手段を使ってでも一生後悔させてやるから!
「私は良いから、大丈夫だから早く行きなさい、良いから早く行って」
大丈夫! 名無しさんが怪我するくらいなら私が代わりに怪我をするわ。もうこれ以上殴らせないんだから。酔っぱらいの腕を掴む、これ以上殴らせてたまるもんですか。
「じゃまだ!!」
バシン! え? バタン。何が起きたの? あれ何で倒れているの私。そして頬が痛い、いや首が痛い、倒れた拍子についた膝も手の平も痛い。
「いい加減にしろよ!」
名無しさんが私のために酔っぱらいの腕を引っ張り、注意を引きつけてる。駄目よ駄目駄目怪我しちゃうわ。私は良いから名無しさん早く逃げて。
「弱いくせに、突っかかってくるんじゃねーっつうの」
再度名無しさんが胸倉を掴まれて殴られている。誰か、誰か止めて! 名無しさんを助けて。
「そこまでー! はい手を放して!」
警官がワラワラとやって来た、良かったこれで助かる。酔っぱらいは警官に殴りかかり逮捕されていた。あの酔っ払いただのバカね、しかしまだ痛みが取れない。名無しさんに酷い事して絶対に許さん無いんだから覚えておきなさいよ。
名無しさんと一緒に警官の質問に答える。えへへ何だろう何か二人だけの関係が出来たようで何か嬉しい。えへへ。
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「もしかしたら痣が残っちゃうかも知れませんね」
「え?」
当直の先生が急患で来た女子高生に怪我の状態を伝えている。まだ若いのに痣とか残ったりしたら可哀想。その言葉に一瞬落ち込んだように見えたが直ぐに笑った。
「分かりました。仕方ないです。直ぐに逃げなかった自分が悪いんです」
しかし少し涙ぐんでいる様にも見える。強がりだろうか? 本当に可哀想、早く治ると良いわね。
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名無しさんが活動を停止してしまった。私が怪我をした性だと思う、私のせいだ、私のせい…。SNSの名無しさんコミュニティーを覗くと残念がっている人が多く居た、私のせいだ。
名無しさんのエゴサーチをしたら私の事が書かれていた、私が殴られたせいで活動を自粛したから、マスクの女子高生は死んでしまえというような記述が目に入った。実際には死ねとはなっていないけど、意味的には死ねって書いているんだろうな。うぅぅ…くくぅ…うぅぅ…。
活動を再開して欲しいけどまだ名無しさんに活動再開のお願いはしない。だって直ぐに再開したら矛先が名無しさんに行っちゃうかも知れない、それに…。
一週間我慢してから再開のお願いDMを送る。そしたら来週の土曜日から再開するって、やった。えへへ、また名無しさんの歌を直接聴ける。
そうだ! そろそろクリスマスだしマフラーでも編もうかな? 編んだ事無いけど簡単な編み方があるとTVで言ってたし、マフラーをプレゼントしたら貰ってくれるだろうか? 首に巻いてくれるだろうか? あー凄く楽しみになってきた! 物凄く派手な色の太い毛糸を買う、これならどこにいても目立ちそうね。
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明日はクリスマスイブ。マフラーは全然余裕で間に合った、こんな簡単だったらもっと早く始めてプレゼントしたら良かった。滅茶苦茶派手なマフラーだけど中々いい出来だ。綺麗にラッピングもした、受け取ってくれるかな? 喜んでくれるかな? うふふふふふ。枕を抱きしめながらゴロゴロとベットの上で転がって悶々とする。
私の事を名無しさんはどれ位認識してくれているんだろう? 私が一番名無しさんの事を思っている一番のファンだ。もっともっと覚えてもらいたいし、もっと名無しさんの事を知りたい。という事でプレゼントの第二弾を考えている。まだ受け取って貰えてもいないのに気が早いよねーえへへ。
クリスマスイブのライブはとても素敵だった。クリスマスソングが多くて、キュンキュンきちゃった。歌を聴いている間もずっと恥ずかしくて恥ずかしくて顔から火が出ちゃう。
そしてライブも終わり片付けが始まる、とうとう渡すタイミングがやって来た。もうどうしようドキドキしすぎて死にそう! 心臓が破裂してしんじゃうんじゃないだろうか?
受け取ってくれるかな? 喜んでくれるだろうか? やっぱり渡さない方が良いだろうか? ううん、渡さないと! 渡すんだから! 絶対にわたす! もうーーーーーあー死んじゃう!! はずかしいよーー。出来るだけ平静に、平静に、なんて事は無いって感じで、当たり前って、そんな風に。
「あの名無しさん、これ良かったらどうぞ」
言っちゃったーー! もう後戻りできないーー。心臓がバクバクしてる、余りの激しさに音が周りの人達に聞こえちゃんじゃ無いだろうか? もう駄目~。
「ありがとう、今開けても良いかな?」
「はっはい、どっどうぞどうぞ」
そんなここで開けるなんて! 思わずどもちゃったよーー。どうしようどうしよう気が狂いそう、ううん既にもう狂っている、私は名無しさんでいっぱいだ。
「うわ凄く嬉しい! ありがとうございます。大切にしますね」
今しているマフラーを外して、贈ったマフラーその場で巻いてくれた。ああーもう死んでもいい。ううぅ…。そして手を振って名無しさんと別れる。うれしいよおお、うえーん。2017年のクリスマスは一生の中で一番特別なクリスマスになった。路地を外れて人気の少ない建物の入り口に入ってガッツボーズを取る。
まさかここでマフラーを巻いてくれるとは想定外だった、ふふふ、ふふふ、ふふふ、ふふふ、ふふふ、ふふふ。
今明かされる衝撃【でもない】の事実、2017年だったの?
はい2017年6月3日死ぬ【生き返ったけど】ところから物語始まって、
最新の時系列だと2018年9月上旬です。
別に時期はそれほど重要じゃ無いです。地球の話だけどフィクションですしね。
なので、これが三年前の日付でも二年後の日付でも大した差異は出ないす。
ん? あー。スルースキルを発動するのだ。




