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05 シャルロッテ

「おはよう。イチロー」


「おはようシャル」

 小学生くらいの茶髪の女の子が病室に遊びに来た。日本人とドイツ人のハーフだって、だからなのか凄く可愛い。先日ギブスを叩いていたら、音が気になって入って来たのがきっかけだった。フルネームはシャルロッテだけどシャルで良いらしい。愛称?で呼ぶ文化なのだろう。


 病院の中にいると退屈なので遊びに来るんだけど、私も暇だし、毎日何が有る訳でもないから、話すネタが無くて正直何を話していいかよくわからない。なので小さな彼女には悪いけど、彼女の会話に乗っかる事が多い。


 TVをつけながら会話をしていたのだが、笑い声が流れて、私も思わず笑ってしまった。


「今のは何が面白くて笑ったの?」

 うぉ、これはキツイ。つまらない冗談を何が面白いと思ったのか、それを説明しろなんて言うのは芸人にとっては物凄く恥ずかしい事だろう。


「えーと今のダジャレは面白く無かった?」


「うーん日本語分からないから、何を言っているのか分からないの」


「え? だって私と話しているよね?」


「え? イチローとはドイツ語で話しているじゃない」


「私ドイツ語話しているの?」


「そうよ、ドイツ語が通じるのはお医者さんとイチローくらいよ、だからこうして遊びに来ているんじゃない。もう少しドイツ語を話せる人が多ければ良いのに!」

 ぷんぷんしているシャルは可愛いが、それはさておき、英語だって喋れない私が何でドイツ語喋れるの? あれか言語理解R2のお陰か。チャンネルを教育チャンネルに合わせるとハングル語講座をやっていた。ハングル語を喋っているらしいけど、何を言っているのか理解出来る。


 これって凄くない? 今まで海外旅行とか言葉の問題から行きたいなんて思わなかったけど、こんなに問題なく会話できるなら、海外に遊びに行っても良いかも知れない。待てよ、もしかして通訳とか出来るんじゃない? 通訳の給料が分からないけど、高かったら転職しても良いかもな。

 いや、違うな。スキルがあれば、もっと凄い職業に就けるんじゃないのか? そしたら楽にお金が稼げるかも知れない、おおー夢が広がるな。


 シャルが退室するのと入れ替わりで清子さんが入って来た。


「いつ見てもシャルちゃん可愛いわね」


「ですよねえ。凄く可愛いと思います」

 思わずに顔がニヤけてしまう。


「でも駄目よ手を出したら。そんなのが許されるのは漫画や空想だけの話なんだからね」

 分かっているつうの。手を出すわけないじゃんまったく。こう見えても紳士なんだから。それに女性の年齢なんて気にしないから、誰でも良いから、なんか言い方が悪いな。別に小さな子じゃなければ愛せないなんてことは無いから。


「あれよ、我慢できなくなったら相談しなさいね」

 いやだから何のフリだよ、それ。母さんの妹に手を出す訳ないでしょまったく、家族だと思っているし。そうだな清子さんは第二のお母さん…いや違うな、頼れる姉のような存在……いや違うな、親戚の叔母さん、うん凄くしっくりくる。いやそうじゃない、そうなんだけど、上手く言えないけど家族って感じなんだよな。


「でもあれだよね、娘に玉ねぎっぽい名前を付けたのは、どうしてなんだろうね」

 清子さんは良く分っていないようで、首をかしげている。


「あれだよ、ラッキョウを大きくしたようなやつ、知らない?」

 それを聞いてしばらく考えていた清子さんがニヤっと笑った。悪い事考えてそうな顔だなー。


「それさ、エシャロットじゃないの?」


「(んんおおおーーーー)」

 言葉に成らないような、悶絶したような声が漏れる。もう恥ずかしくて死にそう、あとドヤ顔が滅茶苦茶うざい。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 病室に戻るとママを見つけた。なんで? 今日は来ない日なのに! 嬉しくてたまらない思わず走って近づいたのだけど。


「シャル! どこに行ってたの! 行先も告げずにいったら心配するでしょ」

 喜びの気持ちは一瞬で消えた。でもママの小言にカチンと来る。


「だってママここに居なかったじゃない、今日だって来るって知らないし、伝えようがないじゃない」

 気まずそうな顔をしているママ、大体いつも居ないくせして何なのよ。


「仕方ないでしょ。仕事もあるし、ハンスだってまだ小さいから預けないといけないし。ただ心配なの、言葉も通じないのにあちこち出歩いて、発作とか起きたら困るでしょ」


「大丈夫よ、ちゃんと喋れる人の所に行ったんだから」


「ドイツ語をしゃべる人っていったら…、駄目よお医者さんの邪魔をしたら」


「違うわ。イチローは医者じゃないから」


「イチロー? どこの誰なのイチローって」


「うーん、ミイラよ。全身真っ白な包帯とかで包まれているから、多分ミイラよ」


「ミイラって……。でもそれってかなり重症な患者なんじゃないの? 駄目よ具合が悪い人に迷惑を掛けたら」


「イチローは大丈夫よ、だってミイラだから。その証拠に両手ゴツゴツと叩いて激しくリズムを刻んだりしても全然ヘッチャラなんだから」


「なにそれ、その人危険な人なんじゃ無いの? もう行かないようにしなさい」


「いやよ! 喋れる人が他に居ないんだから、退屈で死んじゃうわ。それに悪い人じゃないわ」


「どうして悪い人じゃなって分かるの? 気を付けないと駄目よ」


「だっていつも可愛いねとか褒めてくれるし。うーんと、えーと、あっ、出会った時も、シャルロッテという名前は美味しそうだねとか言ってくれたし」


「可愛い、美味しそう!? 駄目よロリコンの変態じゃない! しかも全身包帯なのに体を叩いているとかマゾじゃない! 絶対イチローの所に行っては駄目よ」


「良くも知らないの決めつけて酷いわ。イチローは私の友達なのよ。ママなんてもう知らない」

 走って外に出ようとして、心臓が締め付けられるように痛み、その場でうずくまる。


「シャル! 大丈夫、しっかりして。今ナースコールするからね」

 ブザーを押して、ナースを呼んでいる。苦しい、でもなんで私病気なんだろう、どうして普通に暮らせないのかな? 悪い子だったのかな? 学校行ったり、運動したり、友達と遊びに行ったり、遊園地にも行ってみたい。もう良く成らないのかな……。

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