3-8 天罰3
2019年10月13日公開分 ニ話目。
3-7 天罰2から公開
深夜にタクシーで帰宅、肉体的には大丈夫だけど精神的には大分すり減っている。マンションの敷地内に入ると植木鉢に小さい花が数輪見えた。花を見ると少し心が安らいだ気がする、忙しくなってからは花を見ると心にゆとりというか落ち着きというか気持ちが軽くなる。昔は花なんて貰って嬉しいの? と思ってたけど人は変わるもんだな。
シャワーを浴び、レンジで持ち帰ったお弁当をチンする。冷蔵庫から缶ビールを取り出し、プシュ、そのままゴクゴクと流し込む。プハー美味いわ。弁当も食べ終えて一息つく、今日はこのまま寝たい。しかし、洗面所に置いてある洗濯物の山を思い出す。
辛い、いや体力的には全然大丈夫だけど、短い睡眠時間、仕事以外に割く時間が物凄く少ない。スキルは少しずつ封印されているみたいだし、何時まで歌手として活動出来るのだろうか。この前までは命が掛かっていたから頑張れたけど、今はそうじゃないものなぁ。もう疲れた、疲れた、誰かに癒して欲しい。
ふと飾ってあるフィギアが目につきそれを手に取り眺める。鬼という設定だけど滅茶苦茶可愛い女の子。はぁ~リムたん、人形に頬ずりする。
「リムたん辛いっす」
そう言って更に頬に人形をこすり付ける。
「一郎さん物凄く頑張ってますよ。鬼がかってますね、世界の誰よりも応援してます」
脳内に響く安らぎの声。出来れば妄想じゃなくて本物に癒されたい…。
スキルの事を考える、全部取り上げられちゃうんだろうか? それともここまでは良いよと許してくれる部分があるのだろうか、出来れば有る程度許容して貰えないかな。
神様お願いします。決して私利私欲…だけではなくて、人助けのために頑張ったところもあるので、何とか見逃して頂けないでしょうか…。
そう言えば心の中で思ったら神様に思いが伝わるのだろうか? 念のため口に出してお願いした方が良いかも知れない。リムたんを机の上に置き、そのまま手を合わせる。
「神様、スキルを悪用して申し訳ありません。ただ自分の私利私欲だけではなくて、人助けのために頑張った部分もありますので、もしスキルを使う事に対して問題があるようでしたら改めます。しかし可能であれば見逃して頂けないでしょうか?
大変無礼なお願いとなり恐縮なのですが、出来ればどこからどこまでスキルを使ってよいか指標などがあればご提示していただけないでしょうか? よろしくお願いします」
神様からの返事は来ない。まあそだろうな忙しいらしいし、そもそも天罰を与えるような輩に時間を割くよりもスキルを取り上げちゃった方が楽だろうし…。
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地引網のイベントも無事に終わった。魚は殆ど確保出来なかったけど用意した食材でバーベキューをして、じゃんけん大会、私も数曲歌わせて貰った。喉の調子も良く最近はスキルに阻害が掛かるような事は無い、もしかして見逃して貰えたのだろうか?
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ブーン、ブーン。……。
ん? んんん…。
ブーン、ブーン。……。
眠い。かすかに音が聞こえる、スマホが揺れているような音がする。今日は休みだし幾ら寝ても良いはず、もうしばらく寝ていたい。あと気持ちが悪い飲み過ぎた、二日酔いでも頭痛がしないのは大変ありがたい。このままずっとベットでゆっくりしていたい、何もしたくない。
ブーン、ブーン。……。
そういえば昨日は五次会に行ったところくらいまでは記憶しているけど、その後の記憶が無いな。どうやって帰って来たんだろう。しかしうるさいな、もうしばらくこの布団の感触を楽しみたい。特にこの抱き枕が心地よい、この柔らかさ、そしてほのかな甘い匂い、抱きしめると適度な弾力…。
弾力? あれ? いつから抱き枕なんて使っていたっけ? 抱き枕をまさぐると。
「あーん」
棒読みな感じの女性の声が聞こえる。まさか、念のためもう一度まさぐり、モミモミと揉んでみると。
「あーん」
…やばい? これやばくない? もしかしてやっちゃった? 慌ててガバっとベットから飛び起きると、ほぼ全身裸体の女性が寝ていた。そう、その人は…てかあなた誰? 銀髪で長髪、肌は白く、体を覆っているのはほぼ紐、それ服じゃ無いだろう、大事な部分しか隠していない、いやしかも全然隠せていない。
いやいやいやいや今はそこは問題ではない。これは不味いぞ、知らない女性と一晩過ごしてしまったこれはスキャンダルになるだろう、もしかしたらハニートラップの可能性も否めない。
「あのーすみません。少し宜しいでしょうか」
声を掛けて軽く肩を叩くと、むくっと起きて私に背を向けた状態でベットから降り背伸びをした。プリっとしたお尻が見えてとてもヤバい、TバックじゃないVバックだな肩から股間に掛けて紐状の服というか紐を着ている、どんな服だよ変態かよ! しばらく見つめていた事に気が付き慌てて目を背ける。
「あのーどちら様でしょうか?」
「うむ、神様のようなものじゃ」
ええ!? 慌ててベットから飛び降りて土下座を、額を床にこすり付ける。
「大変失礼いたしました」
何で神様がベットで一緒に寝てたの? というか何でほぼ裸なんだよ。いやそうじゃない、どうして神様が私に会いに来たの? うおっぷ、急に動いたから戻しそうになった、きもぢわるい。慌てて口を押える。
「そんなに我の存在が不愉快かや?」
「滅相もごっ、おっぷ」
我慢できずにトイレに駆け込みゲーゲーと吐き出す。洗面所で軽く口を漱いだ後に水を飲む。はぁ一息付けた。いや一息ついている場合じゃなかった。慌てて寝室に戻り土下座の姿勢を取る。
「本当に面白いやつじゃな、我を見て吐き出すとは」
「滅相もございません。昨晩お酒を飲み過ぎてしまって決して神様に対しての感情ではありません。大変申し訳ございません」
再度床に額をこすり付けて謝る。
「顔をあげるのじゃ」
「いや、このままで結構です」
そうは言うけど今神様を見たらほぼ裸だし、その変なところに目が行ってしまって、そんなことしたら相当な罰当たりだと思う。ていうか逆にちょっと隠しているぶん余計にエロいよ。
「よい、顔を上げるのじゃ」
いやいやいやいや無理ですって。それに王様とかに顔を上げろと言われても、三回位断るのが礼儀だったような。だとしたら四回か五回位断った方が正解かも?
「…とこでその姿勢は何じゃ?」
「はい! 土下座です! 日本で非常に反省している時に用いるお詫びの姿勢となります。神様、この度は大変申し訳ございませんでした。お許しください」
「ふむ、お前は我を神と認めるのかや? 神から話し掛けられているのに目を背けるとな、お前は人と話すときに目を見て話せと教わらなかったのかや?」
ぐっ、正論な気がする。恐れ恐れ少しずつ顔を上げ目線を上げていく。足首細っ、膝つるっつるっ、細すぎず太すぎず適度な肉付きの太もも、そして股間殆ど隠せてないよ! おへそも申し分ない、そして胸、有り得ないくない? こんな形は二次元か整形しか考えられない程の立体感、重力に負けてない。そして紐でギリギリ隠れて…ない。
やばい! 息子が元気になってしまってこのままだととんでもない状態を神様に見られてしまう。慌てて再度土下座の態勢に戻る。
「お前は面白いのじゃ。神と思われるものに対して欲情するのか?」
「いえ滅相もございません!!」
ここは兎に角謝り続ける。それしかない、神様に無礼を働いたら殺されるかも知れないし。
「いやお前は面白いのじゃ。まさかスキルをあんな風に使うとは思わなかったのじゃ」
あれ? 面白い? そんなに怒ってない? 意外と助かっちゃうかも? でもその割には楽しそうな声に聞こえない。
「ははー」
取りあえず平伏しておく。しかし今日は何しに来たのだろう、もしかして許してくれると伝えるために来てくれちゃった? こちらから要件を尋ねたら無礼に当たるだろうか? 下手に機嫌を損ねると危険だからもう少し様子を見てみるのが正解な気がする。
「もう一度だけ言う、目を見て話すのじゃ。目を合わさないなら…」
ガバっと顔を上げて神様の目を見る。土下座の姿勢だからどうしても胸が先に見えてしまうけど極力無視して顔を見る。そうしないと殺される気がした。
目を見て顔を見て分かった、とても美人だ。しかし物凄く違和感がある、まるで人形、ロボット、感情が感じられない。
「まさか復活スキルまで覚えるとは思っていなかったのじゃ。あれは二百ポイントのスキル、それを覚えて生き返らせるとは驚きなのじゃ。本当に面白いのじゃ」
その表情はとても面白いという言葉とはかけ離れており、強烈な皮肉だと思えた。まるでゴミでも見ているかのような、いや違う、まるで私のことを何とも思っていない、興味すらない、無価値の存在と思っているような気がした。浮付いた気持ちは消え去り、今はただ恐怖しか感じられず、生きた心地がしない。
本当はここまで書いたらノース編に突入して、この続きが1,2カ月先になる予定でした。




