3-7 天罰2
2019年10月13日公開分 一話目。
3-7 天罰2から公開
「鈴木さん! 大丈夫っすか?」
「うぇええーん、ううーーえーーん」
二人と合流したが佐々木さんは心配しすぎて抱きついたまま泣き止まない、背中をトントンと叩いてあやす様に優しく話しかける。服がところどころ破け少し焦げているのを見て雷に当たったと思ったのだろう、確かに当たったからね。それにしてもずぶ濡れの服が焦げるって雷の威力凄いな。
「大丈夫、大丈夫だよ。ほら泣き止んで、大丈夫だから」
濡れたハンカチを絞ってから涙を拭いてあげるが、化粧が広がってしまった。
「うっぐうっぐ、ぐすん、うっぐ、ひゃい。もう大丈夫です」
少し離れて自分のハンカチで涙を拭いている。折角大雨を回避していたのに、私に抱きついたせいで服がびしょびしょになってしまった。
「鈴木さん、病院に行くっすよ病院!」
「はっ! そうです病院に行きますよ鈴木さん!!」
「病院には行きます。芸能人が良く利用している病院があるのでそこに行きます。普通の病院は営業時間外でしょうし、色々とマスコミ対策などの問題もあるので」
「何言っているすか救急車を呼んでもいいくらいっす」
「そうです! そうです! 馬場さんの言う通りです」
普通の病院に行く訳にはいかない、既にダメージは全て回復しており、雷の直撃を受けた人の状態ではないので絶対に怪しまれる。
「落ち着いて欲しい。さっきも言った様に芸能人が良く利用している病院に行く。だから心配しないで見ての通り何の問題も無いから」
「火傷とか無いっすか? 余りにも強い衝撃過ぎて、脳が痛みを抑えちゃったりしちゃったり、正しく把握できていない可能性もあるっす。雷の直撃を受けて大丈夫なんて信じられないっす」
「そうです! そうです! 幾ら筋肉が凄くても雷は無理だと思います。それ以外なら筋肉は万能だと思います」
仕方が無いので上着を脱ぎ上半身裸になる。市街地なので他の人の目が有るけど仕方ない。ムキムキの上半身が露わになり、それをジロジロとみる二人。
「すっすごい! 良い筋肉ですね! キレてるキレてる! いや服の上からでも十分に分かっていましけど、これほどとは」
佐々木さんが体中をぺたぺたと触り始めた。とりあえず折角上着を脱いだので軽くしぼって水分を抜く。
「はい終了! 終了です! 見ての通り火傷も無いですよね? 大丈夫です。それに病院に行くので心配しないで下さい。診察結果はちゃんと二人に共有するので」
「ちょっと待って下さいこれは触診です。見た目では分からない怪我が分かるかも知れません。下も確認しないと、さあ脱いで下さい、さあ」
そう言って更にぺたぺたと触り、多分背中に頬を擦り付けている気がする。濡れてて気持ち悪いけど上着を慌てて着る。
そして名残惜しそうにしている佐々木さん。いやあなた先ほどまで心配していませんでした? 筋肉フェチなんだろうか。
「これからタクシーで向かうので、二人とはここでお別れします」
「ええ! 行きますよ病院、診断が出るまで待つっす」
「そうですそうです、付き合います病院」
「それにそんなずぶ濡れの状態で行くんすか? タクシーにも悪いっすよ。俺の車なら水も泥も大丈夫なんで送くるっす」
確かにタクシーの事を考えたら馬場に甘えるのが良い気がする。最終的に馬場の車で向かう事にした。佐々木さんは私を送っていきたかったみたいだけど、馬場の方が気が楽で良い。
駐車場に向かい、馬場の車の助士席にのると車のエンジンが掛かった。
「シートベルトをお願いしますね。って何やってんですか!」
ベルトを外してファスナーを下ろす、もぞもぞとズボンを脱ぎ下はトランクス一枚になった。そして窓ガラスを開けて、ズボンを優しく絞ると水がボタボタと地面に向かって落ちていく。多少水分が抜けたので再度ズボンを履き直す。いや流石に外でズボンを脱げなかったから、さて病院に予約の電話を掛ける。
「すみません。これから受診したいんですけど大丈夫でしょうか? 歌手の名無し(仮)です。はい、緊急を有する状態ではないです。はい、ただ今少し離れた場所にいるので時間が読めないのですが、多分二、三時間後位になると思います。大丈夫ですか? はい、はい、ではまた近づいたら電話致します」
対応可能との事なので行先をナビにセットして移動を始める。しばらくすると沈黙の間を埋めるためだろう、馬場が会話を切り出して来た。
「澄子さん随分とグイグイ来るっすね。会社ではそんなにアグレッシブな感じがしなかったっすけど」
「そだね、別に嫌いでは無いんだけどさ、人事上直属の上司じゃ無いけど上司みたいなもんじゃん? それでお付き合いとかしたらあんまり良くないと思っているんだよね」
「いやでも職場恋愛や結婚でも良いんじゃないっすか? 会社の中で他にも狙っている人いると思うっすよ…」
うーん今はスキルを使って活躍しているんだけど、天罰も来ているみたいだし、この先もスキルが使えるとは限らない。そうなれば悪い方向に進むと思うから変に巻き込んでもまずいよね。そういえば先日もグイグイ来てたな。
「秘書と言えばマネージャーみたいなものですよね、マネージャーならタレントの部屋の鍵を持っていてもおかしく無いですよね。既に二度程寝坊してますよね間に合ったから良かったですけど。
その様な際に連絡が着けば良いですけど電話が通じない可能性も零じゃないですよね。何度かモーニングコールで起こしてますよね。もしかしたら部屋に忘れ物をするかも知れませんよね。そんな時に誰かが直ぐに行ける状態にしておかないと不味いですよね。不味いですよね」
とか言われちゃって、寝坊の事を言われると反論出来ずに渡してしまった、うむー。一応勝手には入らないと約束はしてもらったけど、渡さない方が良かったかな。
「少し寝てても良いかな?」
「何言っているんすか、全然全然良いっすよ、体を休めて下さい運転は大丈夫っすから」
「悪いね、ありがとう。ちょっと眠るわ」
会話をしているとボロが出るかも知れないので少し寝させて貰った。睡眠時間も短いからこういう時でも無いと寝れないってのもある。
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無事病院に着き馬場は先に帰ってもらった何時になるか分からないから。でも本当に助かったわ、有難う馬場。
「はい、今日はどうされました?」
診察室に行くと優しそうな眼鏡をかけたオジサンが座っていた。多分服の様子を見て、何かがあったっとは思うだろうけど、流石に何が起きていたかまでは分からないだろう。
「実は雷に打たれまして」
「ええ!? 大丈夫ですか? ちょっと火傷や怪我の状態を確認をしたいのですが自覚症状は何かありますか? 特に無いのですか、服を全部脱いで下さい、ふむふむ。うーん、本当に雷に打たれたんですか? 何にも異常が無いように見えますけど」
そりゃそうだろう、だってHPは全回復しているから怪我だってないよ。
「はい、なので健康という事だけ確認して貰えないでしょうか? 心配している人がいるので問題が無いという事だけ証明出来ればと」
「……はっ! あっなるほどなるほど、そういう事ですね分かりました。いやいや大丈夫ですよ、分かりました。うちの病院では雷に打たれた事の証明は出来ませんが、健康であるという確認までは実施出来ますので、それで宜しいですよね?
じゃあ健康診断的な物と内臓や脳にダメージを受けていないかの検査を実施するという事で。偶にこういう事は有るんですよ、大丈夫です秘密にしますので」
え? 偶に有るの? 雷に打たれて全然平気な人が来るの? という事は芸能人の中に勇者が居るのか? 殺人的なスケジュールでも生きているんだから居てもおかしくない気もするけど、でもなんか自分の勘違いな気がする。まあ黙ってくれて体が正常だと保証して貰えれば別に良いや。
色々な検査を受けていく。採血の際には防御力を下げた、そうしないと血管に針が入らないからね注射できないとか流石にヤバい。
「はい、検査の結果何の問題もありませんが三日後以降出来るだけ早く再度受診しに来てくださいね。今は大丈夫かも知れませんが数日後から数週間後に影響が出るケースもあります。目や生殖器官に影響が出る可能性があるので気にかけて下さい」
HPも全快だし状態も正常だから後遺症は多分大丈夫な気もするけど、怖いから何とかスケジュール調整して再度受診する事にしよう。馬場や佐々木さん、会社の上司、ヨンミュージックの担当さんに電話をして状況を伝えていく。皆に心配を掛けてしまい申し訳なく思う、しかし天罰は続くのだろうか…。
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翌日、歌番組のためにTV局に来た。そしてリハーサルが終わりセットの横にはけて、一人悩んでいる。声がちょっとおかしい、少し、本当に微妙な感じで声がかすれる。普段が100%だとしたら今の状態は90%というところかな。普段が完璧だからこそ、ほんの少しの違いが気になってしまう。
「名無しさんお疲れさまー。今日も素晴らしい歌声でしたね。ただ珍しく、あっいや、いつもリハーサルでも本番と遜色ない歌声なのに、今日は少しですが違うなと思って。いやいや全然今の歌声でも問題無いですよ。十分素晴らしいです、ただ珍しいなと」
プロデューサーさんも気が付いたようだ。やはり気が付く人は気が付くよね。
「あの気になった個所ってどの辺でしょうか? ぬぴにょんぬぴにょんの辺りですか?」
「そうですね。ぬぴにょんぬぴにょんの辺りは気になりましたね。あとは、たっくんだてふ、ぐるっぴでふうだじぎ~、ぉふえじげじゅくぇ、の辺りかな」
「ええ? ぉふえじげじゅくぇ、ぉふえじげじゅくぇもですか?」
「うんちょっと気になったね。あれあれ? もしかして風邪ひいちゃった?」
「風邪っぽい感じはしないんですけどね、喉も痛く無いですし…あっ、風邪かも知れないですね。ゴッホゴッホ」
とりあえず風邪をひいている事にして誤魔化すのが良いかも知れない。
「歌手は喉が命だから気を付けないと、喉に良いハチミツ、マヌカハニーが確か一瓶あったはずだからプレゼントするよ」
仮病なのに申し訳ない、しかしマメなプロデューサーさんだな、セットで木製のスプーンとハチミツを使ったレシピも頂いた。私の知っているハチミツじゃなくて、ちょっとえぐみがあったけどこれはこれで有りな気がする。喉に良いみたいだし定期的に買おうかな。
それにしても天罰だけどこの先どうなるんだろうな。いきなり全てのスキルを封印された訳では無いし、この程度ならまだ仕事への影響は少ない。でもこの調子で少しずつスキルを封印されていったらいつかは歌えなくなるかも、どうしよう…。
なろうの規約で、歌詞の引用はNGです。
なので偶々実際に存在する歌詞を引用したらまずいので、ホゲホゲ、とかで表現しています。
とは言え全てホゲホゲだとあれかなと思って、違うフレーズも入れてみました。
もっといい加減な歌詞をごり押ししても良かったかな。
はいがーふへーねのーみまみょもへたうにょー♪ とか。




