2-24 別れ
2019年3月7日、公開分、二話目。
2-23 バズった から公開しています。
中庭に出ると、日差しが強く汗が噴き出る。木陰の下でエマから現在の病状を教えて貰った。
「お医者様からは、以前より悪くなっているから、最後に会わせたい人には会わせておいた方が良いと…」
泣いているエマを優しく抱きしめる。先ほど鑑定した際にHPの最大値は5まで下がっていた。残された時間は短いというのは私も理解出来る。二カ月前が10、二週間前が7、そして今が5だ、どんどん悪くなっている事が分かる。
「エマ、最後まであきらめないで。私もトラックに跳ねられて一度は心臓が止まったけど生き返った。シャルにそれが当てはまるとは思わないけど、シャルが頑張るって…言っている…だから」
「わかっている。シャルが頑張るんだから私だって頑張るわ」
泣きながら、でも強い眼差しを見て、エマの頬の涙をぬぐった後にもう一度エマを抱きしめる。今出来る事はとにかく音楽活動を頑張るしかない。清子さんはまだ残るという事なので私だけ先に病院を後にした。そして事務所に着き、担当と打ち合わせを行う。
「ええ? それ本気ですか? いや出来ない事は無いと思いますけど。分かりました作曲家さんにこれから連絡を取ります」
今の持ち歌を世界各国の言葉に翻訳してユーチューブにアップする。時間が無いので、とりあえず英語、ヒンディー語、スペイン語、北京語だ。宣伝の一環という事で事務所も後押ししてくれた。
作詞兼作曲家と担当と打ち合わせを行いながらお試し版を作製、ネイティブの外国の方を含めて歌詞を変えていく。今回インターネットにアップする動画は、あくまでもお試し版という事で実際に海外で販売するとき、売るかどうかは分からないけど、その時には別の歌詞に変わるかも知れない事は前提で、とにかく公開する事を優先で進めた。
そして出来た言語から順にアップしていく、併せて自分のフォローワー、ヨンミュージックのタレントさんにも協力して貰ってどんどん拡散して貰う。以前やり取りした海外のマスコミや、知り合った外資系の社員の方、自分の会社の知り合い、ともかく知っている人全てに拡散をお願いする。
TVやラジオ、雑誌などのメディアへの露出も増やして新曲のアピールをする。出来るだけ各国の言葉でお願いをするけど、全てがオンエアーされるとは限らない、でもお願いし続ける。音楽番組に出た際には歌手の人にもお願いをする、ライバルにお願いするというのもおかしいかも知れないけど、多くの人が応援してくれた。でも何故かラジオでは私の歌はあまり取り上げて貰えない、流れても一分程度だ。まだまだ頑張りが足らないって事だろうな。
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TVのニュースをつけると終戦記念日の式典の話だった。あれから既に二週間、まだシャルは生きている。LVは289まで上がった、でもまだLV36分足りない。画面がCMに変わって私の歌がバックで流れた。CMが流れるようになって更に経験値が増えた気がする、でも足りない。
気持ばっかり焦る、焦ってもこれ以上が出来る事が思いつかない。神様お願いします、シャルを助けて下さい。神頼み、前までは居るとは思っていなかったから届かないと思ったりしたけど、今は存在を確信しているので真剣にお願いする。
いけないいけない、家事をしないと。久しぶりの一日休日なのだから溜まっている洗濯を行い、掃除機もかける。ベランダに洗濯物を干して一息を入れる。でも勇者で良かった、体は全然疲れない、ただの人だったら過労死していたかも知れない。いやただの人だったらここまで頑張る前に休むけどね。
横浜駅で花を買っていると左腕をポンポンと叩く人が居た、左を向くとマスクちゃんだ制服にマスク姿だから鑑定しなくても分かった。
「お久しぶりです。歌物凄く感動しました毎日聞いてます あとデビューおめでとうございます。応援してます」
手を添えながら耳元に顔を近づけ、小声で語り掛けて来た。きっと私が注目されないように配慮してくれたんだと思う。
「お久しぶりです。ありがとう、皆の応援のおかげで頑張れているよ。本当にありがとう。デビューする前から応援してくれたから今の自分が居るんだと思う。でもよく分かりましたねマスクして帽子もしてたのに」
そしたら、バックについていたキーホルダーを指さした。ああなるほど、これはマスクちゃんから貰ったキーホルダーだ。熊のぬいぐるみにオリジナルのユニフォームを着て、手にはバットの形をしたライトを持っている。ライトは結構便利で暗い時によく使っている。
再度マスクちゃんに感謝の思いを伝える。本当に感謝しているブブレの前で歌っていた頃からずっと応援してくれて。あれ? マスクちゃんの異変に気が付く。マスクがいつもよりも小さい二cm位だけど。そしてマスクちゃんが話した時にマスクが少し動いて、頬に痣のような跡が見えた。
あれもしかしてあの時の? もう九カ月くらい前だよね、まだ治ってなかったのだろうか? だとしたら本当に申し訳ない事をした。でも、その時と関係なく以前から痣があったとしたら…その事を伝えたら傷つけてしまうかも。普段から痣を隠したくてマスクをずっとしているのかも知れないし、どうしよう聞くべきかどうか。
「あっ、気にしないで下さい。いえ、その、あの、はい…。確かにあの時のですけど、全然気にして無いので本当に大丈夫ですから。謝らないで下さい。間違ったことをしたと思っていません、何かをしたらその結果が返ってくる、その覚悟も無く行動しませんので」
私の態度で痣に気が付いた事に気が付いたマスクちゃん。覚悟を決めて問いかけたらあの時のせいだった。謝ったけど、女の子にこんな怪我をさせてしまった自分が情けなく思う。過去は取り戻せないけど、次は次こそは判断を間違えない様にしよう。
「今日はお休みなんですか? え? お見舞い? そうなんですね、お大事に。あっありがとうございます」
握手をして、手を振って別れた。またより一層力を貰った気がする。しかしあれだな、夏休みだよな? 何で制服着ているんだろう? 部活だったのか、学習塾だったのか、登校日だったのか、おじさんには良く分からなかった。
病室に入ると清子さんとエマが居た。そしてベットに寝ているシャル。私に気が付き瞬きだけで気持ちを伝えて来た。すぐに隣に行って頭を軽く撫でて挨拶をする。エマは今にも泣きそうで、清子さんも辛そうにしている。
名 前:シャルロッテ・ランゲ
H P:1/1【30】
状 態:難病、瀕死
愕然とする。まだ、まだポイントが足りてない、もう少し、もう少しだけ、神様お願い、お願いだから…もう少しだけ…。
「…ありがとう」
シャルは何かにお礼を言った。何のお礼なのかは分からないけど、物凄い速度で頷いて答える。
「…眠るね…おやすみ…」
力なく、シャルが言った。
「おやすみ…」
エマが応える。
「お休みシャル」
そして私もおやすみと返す。シャルはエマ、私、清子さんの三人を順々に見て、最後に目を閉じて言った。
「さようなら」
シャルの目から涙が一粒流れて、頬から枕に落ちた。今のはどういう…。しばらく椅子に座って寝ているシャルの顔見ていた。そしてエマが気付いた。その視線の先には脈拍などを示すモニター、波が極端に低くなっている、たまに波形が上がる程度で明らかにおかしい。
名 前:シャルロッテ・ランゲ
H P:0/1【30】
状 態:死
そっそんな。エマはナースコールをし、シャルに呼び掛けている。体を揺らすたびに若干波形は揺れるが、鑑定の結果では既に死んでいる。まだ生きているんじゃないの? だってモニターの線は揺らいでいるんだよ? なかなか看護師が来ないためか、エマは廊下に出て行った。
清子さんがシャルの顔に顔を近づけて息を確認しているようだ、そして首筋に触れて脈を診ている。そして私を見て首を横に振る、嘘だろ。
名 前:シャルロッテ・ランゲ
H P:0/1【30】
状 態:死
何度鑑定しても結果は変わらない。もう少し、もう少しなんだ。頼む神様! 助けて、シャルを助けて! お願いします!




