2-17 雅美
2019年2月17日、公開分五話目。
2-13 中村さん3 から公開しています。
「ただいまー」
リビングの方から、おかえりと返事が聞こえた。
「あれ? どうかしたの?」
リビングに入ると母さんが変な顔をしていた、変というか困ったかな。
「シャルちゃんって覚えてる? 一郎と同じ病院に居た可愛い女の子、うん、そう。でその子の容態が悪いんだって」
「ふーん。シャルちゃんと交流があるの? どうして容態が悪いってわかったの?」
「一郎からよ。お見舞いに行こうと思ったら調子が悪いからって断れたらしいの」
へえ、そうなんだ。ということは一郎さんとも定期的にやり取りしているって事よね。一郎さんとはどういうつもりなのかな? 前から気にはなっていたんだけど、聞いてみようかな。
「ねえ母さん。一郎さんとはお正月以降って会っているの?」
「正月にうちに来た後は、その週末に横浜で会ったというか…。まあその位ね。どうしてそんな事聞くの?」
「あっいや、お年玉もらったから。メールではやり取りしたけど、今度来た時にでも直接お礼を言おうと思って」
会ったというか…って何よ。会ったというか、やったというか、そういう事? もう少し踏み込んで聞いてみないと分からないわね。
「で、あの、その、一郎さんって、あの、その、どうなの?」
やっぱり踏み込んで聞くのが恥ずかしいし、少し怖い。
「どうって? うーん、上手くなっているわよ」
なにがー! 何が上手くなっているのよ!
「違うわよ、そういうんじゃなくて、どうなのかなって、今後というか」
「ええ? 今は一生懸命するだけだと思うわ。とにかく全力でやる。それに尽きるわ。あっいけない、この事は秘密だったわ。今の話は忘れてちょうだい」
いや、秘密というか全然オープンだったと思うんですけど隠しているつもりだったのかしら? なんだろう、隠し事は良くないと思うけど、ストレートに表現しすぎるのもどうかと思うわ。もう少しオブラートに包んで発言して欲しい。まあ結婚するつもりは無いという事でいいのかな。
最後に会ったのが一月の頭なら、約二カ月会ってないんだよね。でも二月は母さん海外に行ってたから実質一カ月か会ってないのは。だから何って訳では無いけど、どれ位の仲なのかはやっぱり気になるからね。
「まあ、来週会うからそん時に伝えておくわよ」
へぇー来週会うんだ、やっぱり付き合ってるんじゃないの? ただの親戚にしてはちょっと会い過ぎよねえ、まあ良いけどさ。これ以上聞いて生々しい話になったら嫌だし、この辺で切り上げるか。
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キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン。終業のチャイムが鳴り、皆それぞれ部活や、帰宅するために教室をあとにする。
「それじゃあ、また来週」
「また来週」
「また来世~」
「ライセって何?」「方言じゃね?」「違うわよ英語よ」「違うって。死んだ後の世界、天国みたいな?」「マジ無理~」「キャハハ」
話が終わりそうもない。しかし気にせず帰る人達は挨拶をして帰っていく。
「じゃあまた来週」
「また来週」
「またライス~」
「ライスって何?」「方言じゃね?」「違うわ英語よ」「違うって、いや英語だわ」「マジうける~」「キャハハ」
これは終わらないパティーンだわ、私も挨拶をして昇降口に向かう。先ほどの会話にはお笑いの要素が少なすぎて、それほど楽しいとは思わないんだけど、まあ箸がコロポックルになってもおかしい年頃だからね、仕方ないか。
「茜お疲れー。今帰り?」
隣のクラスの友達、茜ちゃんだ。終業したんだから帰るのは当たり前なんだけど。
「うん、雅美も今から帰るの? じゃあ途中まで一緒に帰る?」
久しぶりに茜と一緒に帰る。茜とは中学からの友達で少しませているというか、中学の頃から少し大人ぽかった。
「そういえば、最近はバンドの追っかけとかしているの?」
私は音楽と言えばアイドルやJPOP系なんだけど、茜は中学の頃からインディーズバンドの追っかけとかをしていて、贔屓にしているバンドがメジャーデビューすると、次のインディーズバンドを追っかけ始めるという事を繰り返していた。
「最近、気に入っている歌手が居てね。ちょっと聞いてみる? サラリーマンで結構良い年なんだけど歌手目指しているみたいで」
茜から全然知らない人の歌を聞かされることは多々あったけど、やっぱり知らない人の歌って、なかなか馴染むことが出来なかった。なので聞かされても、あー、うーん、みたいな微妙な感じになる事が多くて、もう他の人にインディーズの曲を聞かせる事は無くなってたと思ったんだけど、また復活したみたいね。
「そうなんだ、ごめんあんまり興味が無くて」
「ううん、いいよいいよ、そうやってはっきり言って貰った方が助かる。歌は聞かなくても良いんだけど、この人の事話していいかな? ありがと。
この人ね横浜のブブレ前で良く歌っているの。で歌が凄く上手いの、マイクとか使わずに音楽も無しにアカペラだけでどんな曲でも歌っちゃうの。JPOP、KPOP、洋楽、演歌、童謡、ゴスペル、ラップ、なんでも歌えちゃうの。
しかもビートボックスとかも得意で本当に楽器使っているんじゃないかって。ユーチューブとコニコニ動画にアップしているんだけど、毎日一曲違う曲をアップしているんだよ、毎日だよ! 既に全部で百曲位アップしていると思う、これって凄くない? それだけの歌を覚えるのにだって時間が掛かるし、動画にしてアップするのも大変だと思うのに。
それも編集とかしてなくて、全曲一発撮りなの。歌が下手な人って良い部分を繋げて歌ったりするんだけど、そんな事しないの。人前で歌う時も音程が外れた事なんて一度も無かった。本当に凄いの! ルックス以外は。
でも逆に言うとね、毎回同じなの。上手いんだよ? でもね毎回同じ過ぎるの。CDの音源を毎回聞いているようで、ライブならライブならではの揺らぎというか、アドリブというか、例えば歌詞をちょっと変えるとか、音程を変えてみるとか、少し声が裏返っても良いんだけど、そういう違いが、CDとかと違って逆に嬉しいんだけど、そういう要素が足りて無いの。
まぁね、自分が作曲した歌では無くて他の人の歌を歌っているから、勝手に変えたりアレンジしたら原曲を好きな人にしてみたら、その曲に対する冒涜とも取れるかもだし、そういうリスクもあるとは思うから、そのまま歌うってのは理解出来ない事も無いんだけど、でもね、やっぱりライブならではの何かみたいなが欲しいのよね。
でもね歌は上手いから好きなんだよ? 本当に応援しているの。あっあとね、クリスマスの時に手編みのマフラーをプレゼントしたらね、その場で着ていたマフラーを外して、直ぐに巻いてくれたの。先日までそのマフラーを付けたまま歌ってくれてたんだよ。凄く、もの凄く嬉しかった」
茜ちゃんよっぽどその人の事が好きなんだね、全然会話が途切れない。駅に着くまで延々と名無しさんの話を聞くことになった。




