2-16 シャルロッテ2
2019年2月17日、公開分四話目。
2-13 中村さん3 から公開しています。
病室に入るとベットから上半身を起こしゆっくりと手を振るシャル。私も手を振りながら近づき、ベットの側に立ってハグをしてから丸椅子に座る。コホコホッと、軽く咳をしているのでまだ完全に治っている訳ではなさそうだな。
「あれ? 少し大きくなった?」
「そう? うーん、わかんない」
気のせいだったかも? 身長を測っていないから分からないとの事。でも、これからどんどんと大きくなるよな今小学生なんだし。こんな時間を過ごすのは一カ月ぶりだから大きく感じたのかも。シャルがインフルエンザに掛かったり、それ以降調子を崩していたりして、お見舞いに対して断りの返信が来ていた。
「はい、恵方巻。本当ならこれは恵方と呼ばれる方角を向いて、黙って一気に食べるんだよ」
「えー無理だよーこんなに太いの口に入らないし、例え入っても食べ切れないよ。フゴフゴ」
一応かぶりつくが全然食べれ無い様だ。まあ体験する事が楽しいだろうからね。
「だから切ってから食べようね。包丁を借りるね、ちょっと待ってて」
食べやすいサイズにカットしてから、一緒に恵方巻を食べる。食べながら日本の古い童話を聞かせたり、最近の歌の話や、以前シャルがリクエストしてくれた歌を歌ったりした。
「ねえイチローは歌手になりたいの?」
「うん、歌手になるよ」
今までは煮え切らない部分もあったけど、今は言える。デビューもしていないのに応援してくれる人達、寒い中でも歌を聞いてくれて、動画を見てくれて、応援のコメントをくれたり、そんな人達の気持ちに応えるためにも頑張るって。
「応援しているからがんばってね」
シャルの頭を撫でて感謝の言葉を伝え、シャルの為にも頑張ろうと思う。
「イチロー、早いけどこれ」
枕の下から、そう言って出されたのはリボンが付いた板チョコレートだった。
「日本では女性が男性にチョコーレートを送るんだよね? そのあの…好きな人に…」
頬を少し赤くしながら、そして目をそらしたり合わせたりしながら、チョコレートを差し出す。
「ありがとう! 凄く嬉しいよ、チョコレートなんて貰うの数年ぶりかな? だから本当に嬉しい」
これは本当にそうで、まあ社内の女性陣からの合同義理チョコはカウントには入れていない。あれは数に含めなくていいだろ。食べても良いか尋ねたら良いよとの事なので、一列折って食べて、もう一列をシャルにあげて、そうやってその場で全部食べた。いつも以上に美味しい、シャルも美味しいねと凄く笑っていた。
「あの、その、イチローは彼女とか居ないんだよね? だよね…。 でね、あのね、良かったらね、私がイチローのお嫁さんになってあげようか?」
なっなんと、それは凄く嬉しい! 嬉しいけど、今こんな小さな子を本当にお嫁さんにすることは出来ない。
何て返事するのが正しいのだろうか? 話を合わせるてきな感じで後先考えずに承諾して良いのか、それとも本当にお嫁さんにするつもりでそれに向けて行動する事も決断してこれから生きていくくらいの気持ちで本気になって承諾するのが良いのか。
いやでも小さい時の約束など大きくなるにつれて忘れたり、気が変わったりすることもあるだろう、それなのにシャルをお嫁さんにするために他の人?(そんな人いるかどうかも分からないけど)を断り続けて、結婚適齢期を超えた後に、なに気持ち悪いんですけど、とか言われて一生独身で過ごすとかになったら非常に悲しい。
どう返せば良いのか? シャルを見ると答えを待っている様だ、このまま返事をしないと言うのも良くない。でもいい加減な返事もしたくない、断りたくもない、でも私なんかで本当で良いのかという気もしてきた、シャルならもっと良い人がふさわしい人が出てくると思う、でもシャルにその気が無くなって一生独身で過ごすような事も嫌だ、ああどうすれば…。
「ごめんシャル。凄く嬉しいんだけど今は約束出来ない。シャルの事は好きだよ、そのあの結婚するには年齢が有る程度たっていないと出来ないんだ。つまり直ぐには結婚出来ないんだ。
だからシャルが大きくなって今と同じ気持ちでいてくれて、かつ、その時に私が女性と結婚していたり、彼女が居なかったら、その時は結婚という事で良いかな」
シャルをみると、泣く寸前、いやもう泣いていた。どうやら返事を間違えたらしい。どうしよう、どうしよう。
「ごめん、ごめん、本当にごめんね」
「ううぅヒック…、ヂガウノ…、イチローノ、ヒック、セイジャナイノ…ヒック、ウウウ」
泣きながら、泣くのを出来るだけ我慢しようとしているけどやっぱり出来ずに泣いている。
「ごめんね、本当にごめんなさい」
「チガウノ、本当に違うの、イチローのせいじゃ無いの、せいじゃ無いのーヒック」
でもそれは私のせいじゃないと、何度も繰り返し泣いている。泣かせた私が抱きしめるのは間違いだろうか、でも何もせずにいる事が出来ず、おずおずと手をシャルの後ろに廻して、そっと抱きしめる。シャルは私の胸にしがみついて、ワンワンと泣き出した。頭を撫でながら背中に廻したもう一方の手に少しだけ力を入れる。ごめん、ごめんね。
「ごめんねイチロー。イチローのせいじゃ無いの。だから気にしないで」
「…うん、わかった」
自分でもどうしてもいいか分からなくて、小学生にフォローしてもらうとか、凄く情けない。色々言い訳あるけど、正しい答えなんて分からなかったんだ、自分の中ではいい加減に答えるのは良くないと思ったし、出来ない約束をするのも無責任だと。
かといって他の人とお付き合いもせずにシャルが大きくなるまで過ごすなんて事も約束出来ないから正直に伝えたつもりなんだけど、何でも正直に伝えればいいという話では無かったんだろう。お別れの挨拶をして病室を後にした。一体何をやってるんだろう…。
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「名無しさん、今日も良かったです、これからも頑張ってください」
ブブレの前で歌い終わって、ファンの応援に力を貰う。
「歌える曲の範囲凄いですよね。毎日動画楽しみにしています」
今は毎日一動画をアップしている。正確には数曲録画したものを編集して、アップするのを一日一回している。音程とかは変える必要もなく、一回で曲を覚えて一発撮りだから出来るんだよね。
色々な好みの人が居るだろうから、JPOP、KPOP、洋楽、演歌、民謡、ラップ、童謡、ゴスペル、アニソン、ボカロなどなど。ヒット曲の方が再生数が多いけど、色々な範囲の歌を歌えばそこ切欠で気になってくれる人が増えるかも知れないから。おかげさまで累計動画再生数は三十万を超えた。
「あと再来週の海老名、行きますね。頑張ってください」
ついに初仕事だ。正式には前座でお金は殆ど入ってこない。商業施設のイベントがあって、始まるまでの間、間を持たせるために歌を歌う事になった。人前で歌う機会をヨンミュージックから紹介してもらったかたちだ。
人前に出る機会が増える事で動画再生数も増えるだろうし、そこで何人か応援してくれる人が増えたら良いな。さて今日もカラオケに寄って何曲か録画して帰るか。




