02 入院中
自動回復スキルはHP自動回復スキルに変更しました。
窓の外には空が見える。ベットで寝ながら見る景色は空と雲だけ。あの事故から三週間程経過していて、いまは病院の個室で療養中だ。個室の料金なんて払えないと思っていたので、大部屋に移動出来ないか相談してみたら、相手の会社からここの入院費が出ているらしい、ならまあいいか。普通は身内が払うんだろうけど、親戚に連絡が着く前に相手側から支払いの手続きがされたらしい。
トラックの運転手はお亡くなりになったそうだ、うーん何とも言えん。腹が立つと言えば立つけど、でも死ねとは思わない。代わりに勤め先の社長がちょくちょくお見舞いに来ているが会ってはいない。こちらが寝ている時でタイミングが合わなかったり、起きている時は会いたくないと断っているせいもある。
だって会って謝罪されちゃったら許しちゃいそうだから。昔から怒りが持続しないし、人との間は穏便に済まそうとする性格なので、会ったら最後、許してしまって、場合によっては治療費とか、今後のお金とか、そういうのも貰えなくなっちゃうかも知れない。でも、断り続けるってのも辛くて、申し訳ない気持ちが湧いて来ている、はぁ。
それにしても病院は退屈で、全身がほぼ固定されているからテレビもろくに見れないし、今は空と雲を見るだけ。昼間に寝てしまうと、夜に目が覚めた時の退屈さといったら、もうどう表現していいか分かんないくらい。
そして暇なときはあの夢を思い出す。異世界転生の候補に選ばれたような夢を。あれが現実だったら良かったのに。なんで生き返っちゃったんだろう。死んでればこんなに退屈な思いもしなかったのに。いや生きたくても生きられない人も居るんだから、そんなのは贅沢と言えば贅沢だよな。
そういえば今日は昼の薬を飲んでない。薬を飲まされる前に看護師さんが他の人に呼ばれてしまったからだ。あの看護師さん新人ぽいんだよねえ、しかもおっちょこちょいな感じがするし、でもこれを話のネタにして楽しく会話とか出来ないだろうか。
「鈴木さん、面会の方がお見えになっていますけど、どうされますか? いつもの社長さんですよ」
若い看護師こと中村さんが面会の確認にやってきた。そうかまた来たか、もう会うしかないか、会うだけあって何度も見舞いに来なくて良いですよと伝えるか。相手だって暇じゃないだろうし、その分一生懸命働いて私の治療費を頑張って稼いで欲しい。
「大変申し訳ございませんでした」
上半身を深々と下げて、九十度ってどれ位かを説明するときに、この位って説明したら理解出来るくらいの角度で頭を下げ続けている。既に一分以上下げ続けているので、もう我慢出来なくて頭を上げて貰った。終始お詫びを言い続けている、社長が悪い訳でもないのに逆に申し訳ないなという気持ちになる。
社長には帰って貰って、今後は来なくて良い旨を伝えた。それとお金のことは弁護士を通してやり取りをした方が良いらしいので、そのようにさせて貰った。でもまだ弁護士なんて雇ってないんだけどね。
そうそう気がかりだった仕事は、周りのメンバーがやってくれているようなので心配不要らしい。先日上司がお見舞いに来た際にそう言ってたしな。それと今月は有給休暇取得だけど来月からは休職扱いになるって。後は休職中のお金だな、三カ月位は入院するみたいだし、それなりに慰謝料が貰えると有難いんだけど。保険にも入ってたはずだから今度相談してみないとな。
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痛い、痛い、なんだろう、段々と体が痛くなって来た。ズキンズキンと少しずつ、しかし着実に痛みが増している、何だコレ。ナースコールのボタンを押そうにも、面会の時に姿勢を変えたから、ボタンを離してしまって手が届かない。マジかよチクショウ、あっ薬か、あの薬の中に痛み止めも含まれていたんじゃないのか?
「かん…」
看護師を呼ぼうと大声を上げようとしたが、そのせいで痛みが増して発声が続けられなかった。助けを求めたくても、更なる痛みに怯み、声も上げられない。もうどうすればいいんだ、てかさ、体が殆ど動かせないんだから、ボタンが直ぐに押せるように配慮しておいてよ。
ああーもう、何でも良いから看護師さん早く来て。あの時異世界転生してたら、回復魔法とか、自動回復スキルか何かでこんなの治せるんだろうけどさ、本当についてねーな、あー自動回復スキルとかあったらなぁ。
「2ポイントを消費し、HP自動回復スキルを習得しますか? “はい”、“いいえ”」
どこからか声が聞こえる。とうとう頭までおかしくなったかな? でも良いや、はいです、はい。HP自動回復スキルを覚えたいです。
「HP自動回復スキルを習得しました。パッシブスキルなので常時発動します」
その後、痛みが少しだけ収まった気がした。でも全然痛いよ、まだ痛い。金属バットで殴られ続けたような痛みから、木製のバットで殴られた程度の痛みになった。いや、殴られた事ないから分からないけど。うん全然痛い、痛み軽減スキルとか痛み耐性スキルとか無いのよ。
「1ポイントを消費し、痛み耐性スキルを習得しますか? “はい”、“いいえ”」
はいです、はい。 痛み耐性スキルを覚えたいです。
「痛み耐性スキルを習得しました。パッシブスキルなので常時発動します」
嘘のように痛みが治まって来た。なにこれ? 滅茶苦茶楽になったんですけど。その辺の小学生に野球の軟球をぶつけられている程度の痛みまで減って来たぞこれ、さっきと比較したら全然こっちの方がいい。いや良くは無いんだけど、これくらなら何とか耐えられますよ。
もしかしてこれって異世界転生用のスキルじゃないの? だとしたら他にも良いスキルとかあるんじゃない? いや何だろう物凄くテンション上がって来たあああ、あっイツツ。興奮したら少し痛みが増してきたよ、ちょっと落ち着こう。何のスキルを覚えようかな。絶対お約束的に欲しかったスキルがある、鑑定だ。これは外せないと思うんだよね。
「3ポイントを消費し、鑑定スキルを習得しますか? “はい”、“いいえ”」
うぉっ本当に有ったぞ、でもまだだ、スキルは慎重に選ばないと。痛みに耐えつつ、しかし嬉しさのあまり顔が自然とニヤけてしまう。部屋の扉が開いて清子おばさんが病室に入って来た。
「どう元気? な訳ないわよね、あれ何か楽しい事でもあったのニヤけた顔して。しかも大分汗かいているけど大丈夫? まっまさか、そうよね男の子ですもんね、変なタイミングで入ってきてごめんなさいね」
アホか、全身ほぼ固定しているのに、想像しているような変な事は出来ませんよ。
「あの看護師さんを呼んでもらえないですか、物凄く痛いんです。痛み止めが切れたみたいで」
「ええー大変! 看護師さん! 看護師さん!」
慌てて部屋から出て看護師を呼びに行ってくれた。ナイスだ清子さん、助かったよ。その後薬を貰って大分落ち着いて来た。ふぃー。清子さんは家から着替えやタオル、暇だろうからと本とかそういうもの持ってきてくれた。
「しかしびっくりしたわー。でもあれね、おばさんは全然否定しないわよ。そういう趣味の人もいるんだから。でも一郎がマゾだったとは……」
「ちがいますよ! 勝手に勘違いしないで下さい」
痛みが嬉しくてニヤけてたとか、どんな変態なんですか私は。もうちょっと違うシチュエーションじゃないと嬉しく無いですよ。あれ?
叔母さんは帰ったし、それじゃあそろそろスキルの確認でもしようかな。