12 ノースの地球侵略 1
■約二年前の異世界
魔王軍の大勢に見送られてノースが転移の魔法陣に入っていった。転移の魔方陣はMP利用した移動装置だ。大陸間の移動であっても数分で可能となっているが、MP消費が激しいため大量の人員を短時間で送る事には向かない。
今回の地球侵攻作戦に参加するノースの行動は英雄視されており、士気が格段に上がっている。そのため転移の状況は魔王軍の各都市に生中継されていた。
ノースは魔王様のMP所有量の多さに驚きを隠せなかった、既に転移を始めて一時間を経過している。今回の転移は魔王様が直々にコントロールしているので、現地に着くまでは魔王様のお手を煩わせる事になる。
転移中は虹色の光に包まれたトンネルを宙に浮きながら移動しているような感覚であり、足元には地面などは存在しない。しかし前に進んでいるような感覚を受けるのは、トンネルの色合いが変化に富んでいて、それが前から後ろに流れるように進むので、移動している事が分かるのだと思う。
五時間が経過したが、いまだに光のトンネルは続いており、なかなかゴールは見えない。生中継は継続しているが、誰も五時間もぶっ続けで見ている者はいないと思われる。一応録画もされているので後日ダイジェスト放送がされるであろう。
十時間程経過したが、いまだに光のトンネルの中を進んでいる。ここまで来て問題が発生した、いや既に二時間くらい前から問題は発生しているが魔王様に伝えるか迷っていた。しかしもう猶予は無くなってきている。
「魔王様、よろしいでしょうか」
「うむ、構わないぞ」
「いつ地球に着くのでしょうか?」
「まだ当分掛かると思うぞ」
「当分とはどれくらいなのでしょうか?」
「最低でも後一日、長ければ数日というところか?」
「一日! あるいは数日ですか…」
「どうした何か問題でも発生したか?」
「非常に言い辛い話なのですが、トイレに行きたいと思っております」
「今は転移中だぞ、トイレなど有る訳がなかろう。転移前にトイレへ行ってないのか?」
「いやトイレには行きましたが、流石に十時間も転移し続けるとは思わず、そろそろ限界が近いので…」
「垂れ流すしかないな、転移を途中でやめる訳にはいかない。申し訳ないが諦めてくれ」
「…分かりました。すみませんが中継の停止と録画の停止をお願いしても良いでしょうか?」
「よし、停止したからもう大丈夫だぞ」
「ありがとうございます」
その二時間後、漏らした。頑張ったけど漏らした。魔王様が見ている(遠隔地からだけど)中で。ズボンを下ろして大と小を見せる訳にはいかないので着たまま漏らした。恥ずかしさのあまり死にたくなった、心の中の何かが壊れたような削られたような感覚があり、LVが3ダウンした。
そしてその十時間後、LVが2ダウンした。大切な何かを無くしたような気がした。そしてその十時間後、光のトンネルの色が薄くなり、稲妻のような光がバチバチとトンネルの周りに発生している、こんな事は初めてだった。
「どうやら神からの妨害だな」
魔王様は状況を説明してくれたが私は何も出来ないため、ただ状況を見守るしかない。更に数時間後、光のトンネルはどんどんと薄くなり、外の様子が見えて来た。どうやら外は夜のようで星空が見えていた。
「すまんノースよ。もうすぐ目的地だが妨害で目的地の手前で転移が終わりそうだ。申し訳ない」
「いえ、魔王様ここまでありがとうございます。必ずや人間ども根絶やしにして、地球とやらを征服してみせます」
「…ノース…よ、健闘を…い…」
声も途切れ途切れになり、光のトンネルは今にも消えそうになってきた。代わりに目に入って来たのは星空に浮いている大きな物。何かは分からないが遠くに大きな物があった、青く、緑で、茶色く、白い、とても綺麗な物が見えた。
「綺麗だ…」
景色を見て感動などしたことが無いが、今、自分の心が素直に綺麗だと感じる事が出来た。
「……」
感動すると無言になると言うが、まさにその通りだった。全てが止まったようなそんな感覚さえ感じた。
「………」
はぁー息が出来ない、何だ息が出来ないぞ! どうやら光のトンネルは終わったが星空の中で浮いているようだ。地面が無く上手く動けない、なんでだ? どうしてだ? わけも分からず意識が遠退いて行く。
んっはっ! 何が起きたか分からないがどうやら死んだようだ。目を開けると先ほどの綺麗な丸い物が見えた。そして気付く、息が出来ないと。
んっはっ! どうやら死んだようだ。目を開けると先ほどの綺麗な丸い物が更に近づいて見えた。そして気付く、息が出来ないと。
んっはっ! もう勘弁して欲しい。 んっはっ! 早く終わって欲しい。 んっはっ! 今度は息が出来ないだけでは無く体が燃えるように熱い、というか燃えてる。
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「お母さん流れ星が見えるよ」
とあるアメリカの田舎町で、子供とその母親が一緒に歩いていた。
「あら本当綺麗ね、きっと良い事が起きるわね、あのお星さまにお願いごとをしましょう。消えない内に」
「うん、金、金、金、金…」
子供はお金を願った。
「(男、男、男、男、金、金、金、金、家、家、車、車)」
母親は多くを願った。
「さあ帰りましょう。お父さんお腹空かしているからね」
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んっはっ! おや息が出来るぞ、空気が薄いけど息が出来る良かった。これですぐ死なないで済む。LV685まで下がっていた。パラメータを能力値を見ると激減しており、どうやら復活したばっかりで、本来の強さの十分の一程度までしか力が発揮できない。となると今はLV68相当という事になるのか?
それと先ほどの綺麗な丸い物が地球らしい、丸いんだな地球は。でも今は丸く見えない何でだろう? 後もう一つ分かったことがある、どうやら今私は高いところから、物凄い勢いで地面に向かって落ちているのではないか?
私は空を飛ぶ事は出来ないので地面に落ちるしかないが、多分落ちたら死ぬだろうな。体にダメージが少ないと良いのだが。物理攻撃耐性及び飛び道具耐性で何とかならないだろうか?
地面に落下し爆発した、体は木っ端微塵になった。爆発の衝撃でバラバラになった組織の大半が燃えた。また奇跡的に残った肉体の破片は、虫やら動物やらに食べられてしまった。地面との衝突は物理攻撃とも飛び道具とも認識されなかったため、ダメージは軽減されなかった。
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■上述から約半年後
ダメージが大きいため復活に時間が掛かったが、いまノースが復活した。
んっここは一体? どうやら洞窟、いやダンジョンに転移した様だ。明らかに人の手が入った場所であった、いや鉱山かも知れない。まずは状況把握だ、LVを確認するとLV400まで下がっていた。
くっ、そんなにバラバラになって死んだのか、最後の落下が特に痛かったな。とりあえずダンジョン(仮)の中を探検して、安全を確保し、しばらく安静にしてパラメータが復活するのを待たないと。
しかも持っていたスキルの幾つかが消えたりRダウンしていた。これは非常に不味い、出来るだけ死なない様に行動しないと駄目だ。
ダンジョン(仮)を歩いていると気になるものがあった。この縄は何なんだろう? ねじられておらず綺麗な縄だな、どうやってこれほど長い縄を編み込みをせずに作ったのだろうか? もしかしてこの縄は迷子防止の仕組かも知れない、たどればどこかに通じているのではないか?
しばらく歩くと奇妙な物体を見つけた。鉄の固まりか? しかし凄いエネルギーを感じる、これはもしかしてアーティファクトじゃないのか! ダンジョン(仮)に入って直ぐにアーティファクトを見つけるとか幸先が良いぞ!
とりあえずパラメータが回復するまでここに居れば安全……。世界が光った、そして意識が消える。
ノースは神の手により、地下核実験の現場に転移させられていた。そして落下以上の衝撃を受けた。肉片は炭にさえならず燃え尽きる。
■上述から約半年後
んっここは一体? どうやら平原のようだな。何か凄く大きな音が聞こえる、ノースが振り向いた瞬間、何かと激しく衝突して跳ね飛ばされた。
それは高速で運行している貨物列車であった。貨物列車との衝突は物理攻撃とも飛び道具とも認められなかったのでダメージは軽減されず、体は大きく損壊して即死した。そしてその死骸を近くにいた野犬の群れが食べてしまった。
■上述から約二カ月後
んっここは一体? どうやら森の中のようだ、周囲を見渡すが特に危険は無さそうである。ふう、良かった。LVを確認すると100まで下がっていた、なんて事だ…これでは全人類を抹殺することが難しくなったかも知れない。
ガサガサ、音がする方向を見ると体長ニm位の熊が出て来た。流石四天王だけあり、落ち着いて空間収納から斧を取り出して構える。その姿は、そう、まさに変質者だ。全裸で斧を構えている、何がとは言わないがプランプランしてる。
“看破”、ふむふむ、攻撃力200、防御力50か。大した敵ではないな。襲い掛かる熊を一振りで脳天を叩き割り、そのまま斧は熊の体を両断していた。自身はLV10相当であるのにも拘らずだ。
「しかし弱い生き物だな。とりあえず飯にするか」
木の枝を集め、焚火にして、倒した熊を串に刺して焼き始める。その姿は、そう、まさに変質者だ。全裸で焚火にあたり、串焼きを食べている。果たして地球の運命は? そして服は着るのか?
核に対して好意を持っている訳ではありません。不快に思われた方、申し訳ございません。
そして大変お待たせいたしました。
皆様のおかげで日間ローファンタジー部門で、一位になった日がありました。ありがとうございます。
プレッシャーで、書いては書き直し、書いては書き直しの連続です。
しかしそのおかげで、最初に考えた文章よりも良くなったと思います。
面白く、笑えて、かつ勇者のメリットの要素が入っていたか不安がありますが、
引き続きよろしくお願いします。(なんで勇者のメリットが一番最後なのだろうか)
一郎はレベルアップの手段は分かって来たので、これからはもう少しスキルを使って
楽に生きられる部分を増やしたいと思っています。思っているんですけどね。