10 考察2
今まで書いた分含めて、自分を指す言葉を基本「私」にしました。
で偶に「俺」を入れる事があります。
多分小説の表現としての一環か、純粋に間違いか、どちらかです。
清子さんと雅美さん、三人で食べる食事はとても美味しかった。素材が良いのもあるんだろうけど、清子さんは料理が上手だと思う。雅美さんは女子高生なのに親戚のおじさんとの会話でも嫌がる事なく対応してくれる、マジ天使です。私の中で思い描いていた女子高生像とは大分違うなあ。
夕食も終わり雅美さんは二階に上がっていったので、リビングには清子さんと二人っきりとなった。
「美味しくて少し食べ過ぎちゃいました。太っちゃうかも」
「本当? 嬉しいわ作った甲斐があったわね。じゃあ、太らないようにちょっと運動した方が良いんじゃない?」
不穏な空気を感じた、これは承諾してはいけないと直感した。
「いや、運動はしなくてもいいかなって」
「ちょっと私、最近体を動かしていないから動かしたいのよね。付き合ってよ」
「いや、ちょっと病み上がりなんで、遠慮しておきますね」
「入院中ストレスが溜まってたんじゃないの? ストレスを発散した方が良いと思うわ」
「いや、結構体動かしてたんで、ストレスフリーです」
「体動かしていたなら、動かしても問題無いわよね。それに入院中お世話になったわよね?」
「…」
「じゃあ、ちょっと付き合ってよ」
多分“はい”と言うまで選択肢が繰り返し出されるゲームのようだ。まったくゲームって、と思っていた自分がいましたが、どうやら間違っていたのは自分のようです。逃げ道は無いようなので、言われるがまま清子さんについて歩く、リビングを出て地下室に…って、何で地下室に行くの!?
「じゃあそれ脱いでくれる?」
地下室に入ると清子さんは脱ぎ始めた。私もここにいるんですけど! そんなのはお構いなしに脱いでいく。私も意を決めて脱ぐ、そして着る、はめる。
更に奥の部屋に入るとリングや体を鍛えるための設備があった。清子さんはササっとリングに上って、シャドーを始めた。ヘッドギアにグローブもはめて、いつでも戦える状態だ。普段は少し抜けている感じもするんだけど、今は風格が感じられる。流石総合格闘技の元世界チャンピオンだけあるわ。
「大丈夫よ。最近まで怪我で入院していた人に対して、そんなに激しくは叩かないから」
「やっぱり怖いので止めておきます」
嫌ですよ、世界チャンピオンと格闘技とかしたくないですって、しぶっていると。
「じゃぁ最後まで付き合ってくれたら、お願いを一個だけ聞いてあげるわ」
おっマジですか? あのお願いも叶えて貰えるかも? じゃあスパーリングの相手をしようかな。本当にマゾだったら殴られて喜んだと思うけど、マゾじゃないから別に嬉しくはない。
無いんだけど、薄い服なので体のラインがバッチリ分かっちゃうし、あの、その、胸の辺りとかも結構色っぽいので、ちょっとどこ見ていいか分かんないです。
途中休憩を入れつつ、一時間程体を動かしてスパーリングは終わった。一方的に殴られて、いやだって女性を殴れないでしょ。思わずコンチクショウって瞬間もあって軽く手を出したりしたけど、避けられて逆に殴られちゃっう始末。
でも、何だろう昔だったらこんなに体を動かせなかったのに、幾らでも動かしていられる気がする。殴られても大して痛くないし、ダメージが入っても戦っている間に徐々に回復してるし、途中で鑑定で状態変化を見ていたけどスタミナは全然減っていなかった、勇者って凄くない? 反則だわ、思わず笑みがこぼれる。
「あらあら、やっぱり興奮しちゃって。隠さなくて良いのよ分かっているんだから」
はぁはぁと息を切らしながら、清子さんがからかってくる。
「でもね一郎、いくら痛いのが好きでも関節が極まった時はタッピングして諦めなさい。下手をしたら怪我して、一生不自由な生活を送る可能性も有るわよ。極まった関節を無視して殴りかかってくるとか正気の沙汰とは思えなかったわ。本当に真正マゾって恐ろしいわね」
「いや誤解ですって! マゾじゃ無いんです」
病院でマゾって告白したけど、あれは嘘なんです。
「それにしてもタフね、最後の方は結構真剣になっちゃったわ。とても死ぬような怪我をして退院したばかりとは思えないわね。
それに幾ら手を抜いているからといっても、軽くでもジャブを撃ち続けられたら普通は怯むし、痛さから腰が引けたりするもんだけど、全然へっちゃらな感じだし、流石一郎ね、改めて感じたわ、マゾの凄さを」
「勘弁して下さい、誤解なんですってー…、あっ、もしかして! 清子さん相談に乗るって言ってたのはこの事ですか? マゾの私が殴られたら喜ぶと思って…」
「そうよ、何か変な勘違いとかしちゃった? プププッ」
うぉーすげー恥ずかしい。もう駄目です、死にたいです。もしかして俺ってモテ期? とか内心勘違いしちゃったりして、うううぉおおおー。穴が有ったら入りたいです。鑑定したら羞恥心が91になってた過去最高値だわ。でもこれだけは伝えておかないと。
「本当に私はマゾじゃないですよ。それで一個お願いを聞いてくれるとの事でしたよね? 良いですか?」
「良いわよ。ただ私に出来る事ならよ」
言質は取りましたよ。おもむろにファスナーを下ろしてモノを取り出そうとする。そうバ〇サンだ。
「この部屋は駄目よ! それに今日は遅いし……あっそうだ、倉庫、倉庫にしましょう横浜にある。そこなら誰も居ないし虫だっているでしょ」
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しかし相談内容をスパーリングと勘違いしてくれて良かったわ。しかも凄く恥ずかしがっているし、いい気味よ。少しは恥ずかしい思いをさせられた人の身にもなってみなさい。
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「それじゃあ、そろそろ帰りますね。あっお邪魔しました」
階段を降りると一郎さんが帰るところだったみたい。お別れの挨拶をしてすれ違う瞬間、匂いが気になった。あれ? これって?
「じゃあ、また明日ね」
お母さんの方を見るとお風呂上りの恰好をしている。そして先ほどの匂いはお母さんが利用しているシャンプーの匂い。何で? どうして?
「ええ、また明日」
よく見ると一郎さんの顔が若干上気しる。そして一郎さんが帰っていった。また明日? 明日も会うの? 何で?
落ち着いて考えるのよ。一郎さんから母さんのシャンプーの匂いがした、顔は若干上気していた、つまりお風呂に入って母さんのシャンプーを使ったという事、そしてお母さんがお風呂上りという事はお風呂に入ったという事……。
そこから求められる答えは、一郎さんが出た後お風呂のお湯が温かいうちに入った方が効率的だから、そして一郎さんはお風呂に入った後湯冷めしないようにしばらく家の中に留まっていた、流石にごちそうになって、お風呂もいただいて、お母さんに挨拶しない訳にはいかないから待ってた。なるほどそういう事ね。あるいは事後ね。
翌日お母さんが車で出かけていった、多分一郎さんと一緒なんだろう。横浜の倉庫に行くって言ってたけど倉庫なんかに何しに行くんだろう?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ここなら良いんですよね? じゃあ始めますね」
カバンからバ〇サンを取り出す。しかも一つじゃない、ニダースだ。これだけ広い倉庫なら害虫だって一杯いるだろうし、願っても無いチャンスだ。
テテテテッテッテッテー、そんな感じの音が聞こえた。どうやら殺虫剤で虫を殺してもLVUPする事が分かった。何の虫を殺したのかまでは不明だけど、これで経験値取得の方法が明確になった。本当に清子さんには感謝だよね。
待っている間、暇なので中華街に行って散策した。肉まんを買って食べ、揚げUFOを食べ、ちまきを食べ、って食べてばっかりじゃん。台湾かき氷は大きかったので清子さんと半分こした、なんかデート中みたいだな。変に意識したら駄目だぞ、そんな訳ないんだから。
そうそう、鑑定を行うとパラメータ全て前回と同じUP量だった。偶々なのかも知れないし、LV10までは固定でLV20からは半分とか、逆に倍とか、そのような可能性もあるが一応このUP量を目安として考えよう。