あいすくりーむ 番外編 7人の話
この作品は平日に一話づつあげる予定です。
01話 「あめ」
苗字がないのに不思議に思われないことに不満はない。
むしろ唯一の名前を読み間違えられることの方が嫌だ。
校庭を走る同い年の男子達を見ていたらバカバカしくなる。
そんな他愛のない話を出来ていた頃に戻りたいと今の私は思うのであった。
夏が過ぎ秋になって
文化祭と並行して行われる球技大会。
私が中学生の時の話。
「何してんだよ!あめり!」
ザ・体育会系の女生徒が大きく手を振る。
彼女に名前はない。(覚えていないだけ。)
「ゴメンだけど私は参加しないよ。」
「球技大会のバレーを練習するんだ!」
「聞いてる?やらないって言ってんの。」
私は後ろを向いて去った。
私はあいつらに付き合うほどの体力がない。
本番なんとなくやればいいと思っていた。
当日。
まだ試合が回ってこないので審判をしていた。
「うちら勝てんの?」
「無理無理。男子だってやる気ないし、女子なんて全然練習サボってたじゃん。」
「張り切ってんの菊野だけな。」
「ほんとそれ。」
菊野っていうんだ、アイツ。
目を彼女の方に向けようとしたものの、ボールが顔面に直撃した。
「大丈夫?あめりさん!」
「あまりじゃないの?」
「今はそんなことどうでもいいじゃん!早く保健室に運ぼう!」
「はいはーい。でも次試合じゃね?」
「どうせ負けるんだから……行くよ!」
私も手伝う手伝うとぞろぞろ女子が寄ってきて私は暑苦しい中運ばれた。
結局試合は少ない人数でギリギリ負け、女子達はまだエアコンの付いていた保健室でのんびりしていた。
保健の先生は応急措置をした後すぐ試合のやっているグラウンドに戻ってしまったのだ。
誰1人として分からない女子達を私は蔑むように見る。
しかし気づいていない。
「もうすぐ鳴るし帰るか~。」
「怪しまれるもんねー。」
もう遅いだろと思いつつ寝返りを打つ。
彼女、菊野はどう思っているのだろうか。
きっと恨んでいるのだろう。
せっかく練習までしたのに……。
「キャー!」
出ていった女子の1人が叫び、それに先生達がやってくる。
「どうした!お前ら!……!?」
その場にいた全員が絶句していた。
私は無理矢理起き上がりゆっくり歩いて現場へ向かった。
そこには人が倒れている……というよりもえげつなかった。
辺りを埋め尽くす血。動かない体。
菊野と思われる人物が……。
「あめりさん!離れて!誰か救急車呼んでください!」
保健の先生の顔が青ざめていた。
ほかの教師もそうだった。
「菊野さん……いい選手だったのに……。」
「何故こんなことをしたんだ。信じられん。」
誰もその場から動こうとしない。
1人の女子が電話をかけた。
「皆さんじっとしてないで動いてください!ちょっとそこ!こそこそすんな!」
私は保健室に戻り、ため息をついた。
もし、彼女の練習に参加していたら……
彼女の名前を覚えていたら……
もっと接していたら……
何か変わっていたのかもしれない。
私は深い眠りについた。
あいすくりーむを書き始めて1年が経ちました。
ここまで続けてこられたのも読者の皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願い致します。