おひるごはん
レディの部屋に入るときはちゃんとノックをしてからってばっちゃが言ってた。が、何か物事を教わったからといってそれを鵜呑みにして実践すればいいというわけではないとじっちゃが言ってた。今日は気分的にじっちゃの言うことを信じることにした。
「おい識、昼飯の時間だ」
言いながら問答無用でドアを開けた。
「あ、おかえりゆー君。今テーブル出すね」
起きてた。てっきり寝てると思ってたんだが。押し入れから折りたたみ式のテーブルを取り出す識を見てると程なくして母さんも入って来た。
「はい識、今日のお昼はラーメンよ」
「ありがとうお義母さん。ちょうど今テーブル出したからそこに置いといてくれるかな?」
さも当たり前のように義母さん呼びをしている識。いや、もはや見慣れた光景なのだが。聞き慣れた、の方が正しいのか?まぁどっちでもいいしどうでもいいが。
「いただきまーす」
「いただきます」
二人で向かい合ってラーメンを食べ始める。……いつもの即席麺の味だ。不味くもなければ美味くもない、ただ普通の味。
「二人で食べると美味しいね〜♪」
はたしてそうだろうか?例え何人で食おうがその食った料理の味は変わるわけがないだろう。そんなのただの思い込みだ、プラシーボだ。
「……そうだな」
まぁ、オレの天使様がそういうのであればオレはそれに従うまでなのだが。
「つか、お前オレが学校行ってる間もずっとネトゲしてたのかよ」
部屋の奥にあるデスクトップPCを見ながら聞いてみた。
「うん、そうだよ?」
「そうだよ?じゃねぇよ……。お前、風呂入ったら寝るっつってたじゃねぇかよ」
「いやぁ、ネトゲって怖いねぇ」
たはー、とか抜かしながら頭を掻く姿は、イタズラがバレた幼児のようだった。
「メシ食い終わったらすぐに寝ろよ?」
「ゆー君知らないの?ご飯食べた後すぐに寝たら牛さんになっちゃうんだよー?」
両手の人差し指を頭に乗せ『モーモー♪』とかはしゃぎだす姿は、やはり歳不相応だ。お前本当にオレと同い年なのかよ?
「仮にお前が牛になったらちゃんと毎朝搾乳してやるよ」
そしてその牛乳を目覚めの一杯にするよ、と冗談のつもりで言ってみた。おら、少しは恥ずかしがってみろよ。
「……ゆー君になら……良いよ……?」
「……ぐはぁ」
真に受けた上受け入れやがった。これじゃ恥ずかしいのはオレだけじゃねぇか。
メシを食い終わったので食器を持って一階の台所へ向かう。母さんはどうやらいつも通り出掛けたようだ。一体いつもこの時間に何処へ行っているのだろうか。浮気とかだったら流石に笑えるが、まぁあの母さんに限ってそれはまずあり得ないだろう。今から三分後にウルトラマンに出てくるような宇宙怪物がオレの家をぶっ壊すくらいあり得ない話だ。
「さてと……晩飯の時間まで何するか」
死ぬほど暇である。流石の天使様もどうやら寝るらしいので二人でポケモン対戦とかも出来ない。熱帯すれば良いというだけだが、いかんせんそんな気分でもない。
「仕方ねぇ……散歩でもすっか……」
大した金額は入ってない財布を持ち、家を出た。