はじまり
『ゆーくん。…大人になったら私達、絶対に結婚しようね』
『あぁ、勿論だぜ‼︎俺が絶対にお前を守ってやる‼︎』
…さて、これは一体いつ頃の記憶だったかな。
「…ひっでぇ夢で起きちまったもんだな…」
時計を見ると午前五時。いつも起きる時間より一時間以上も早い。勘弁してほしいものだ。
「…眠気覚ましにシャワーでも浴びるか…」
ついでに気分晴らしも兼ねよう。あんな夢を見ちまったことに対しての気分晴らし。
オレの名前は細川 優。どこにでもいるであろう高校二年生だ。
「…で…?なんでてめぇも今日に限って無駄に早く起きてんだ…?」
自室から出て風呂場に向かおうとしたオレの目の前にいたヤツに問いかけてみる。
「んー?逆だよー、今まで起きてたんだけど、そろそろ寝ようと思ってシャワーを浴びようとしてたのー」
透き通るような真っ白い髪を無造作に膝裏辺りまで伸ばしまくっている女が間の抜けた、しかし美しい声でそう言った。
こいつの名前は長瀬 識。オレの幼馴染。
さっき見た夢でオレに戯けた告白をしてきた張本人で、そして…オレの彼女だ。
本来はオレと同じ高校生なのだが、とある理由で小さい頃から家に篭りきりになっている。
当然こいつにも親と自宅はあるが、家庭の事情で普段からこいつの家には親がいない。そしていつだったか、それをいい事にオレの家に居候するという暴挙にでた。
普通に拒否すれば良いものを、お人好しなオレの親達はこの暴挙を受け入れ、よりにもよってオレの部屋の隣の空き部屋を使わせる事にしやがった。
「ゆーくんは偉いよね〜、こんな痛い世界に耐え続けて学校に行くんだもん〜」
淡紅色の瞳を細めながら微笑む姿は、もはや神話の世界の住人なんじゃないかと錯覚するほどに綺麗だ。
「別に偉くねぇよ、これが普通なんだよ。…お前が特別すぎただけだ」
「あはは〜、そっか〜」
さっきまでの神話的微笑から一転、子供じみた無邪気な笑顔になる。こっちもこっちで十二分に可愛いから困る。
「それなら、ゆーくんが先にシャワー浴びちゃいなよ。私は後で良いからさ」
「あー…。お前かなり時間掛かるからな、その長い長い髪のせいで」
大人しくオレに切らせれば良いのに、こいつは何故かいつも拒否するんだ。
「まぁ…じゃあそういう事なら遠慮無く先に使わせてもらうぜ」
「はいは〜い」
言いながら識は再び自室に入って行く。
「…さて、オレの天使様の為にもとっとと行っちまいましょうかね」
…なーに小っ恥ずかしい事言ってんだオレは。