素敵な夜の世界
ある晩のことです。
アンナはいつものようにお母さんにおやすみと言ってベッドに潜ろうとしました。
「アンナ、ボクの世界へおいで、おいで」
なんとベッドの下から声が聞こえたのです。
アンナは気になって下をのぞいてみました。
するとベッドの影から手が伸びていました。
「ボクの手を掴んで。さあ早く」
アンナはどきどきしながらそっと影の手を掴みました。
そしたらカゲはアンナを影の中へヒュッと引っ張ってしまいました。
気が付くと狭い部屋に居たはずのアンナは外に居ました。
そこは見たことのない町で、真夜中なのに活気あふれています。
目の前でカゲが笑っています。
「ようこそアンナ、素敵な夜の世界へ」
「今日はハロウィンをやっているんだ。いっぱいお菓子を食べよう」
アンナは大好きなお菓子と聞いてわっと喜びました。
「やあお嬢さん、素敵な人間の仮装をしているね」
早速お菓子を持ったシルクハットをかぶった紳士が話しかけてきました。
「仮装ですって、これはいつもの格好よ?」
「ハハ、面白いことをいう子だね。さあさあ、お菓子をどうぞ」
お菓子を受け取ると紳士は向こうへ行ってしまいました。
「変なことをいう人ね、カゲさん」
「ふふ、ここではね、人間は珍しいんだよ」
「ふうん」
カゲと一緒に歩いているとアンナと同じくらいの子供たちがお菓子をねだっている姿が見えました。
「見てよカゲさん、あの吸血鬼やオオカミ男。まるで本物みたい」
「アンナ、あそこにいるのはみんな本物だよ」
「じゃああの子たちは本物の吸血鬼やオオカミ男なのね、素敵」
そうこう話しているうちに子供たちはこっちに向かってきます。
「やあ、僕らはこれから公園でかくれんぼするんだ。一緒に行かない?」
「本当?お化けたちと一緒に遊べるなんてとっても嬉しいわ」
「ふふふ、いっぱい遊ぼうねアンナ」
「アンナみーつけた」
「ふふ、見つかっちゃった」
吸血鬼の子供はアンナを見つけるとほかの子供を探しに行ってしまいました。
「アンナ、こっちこっち」
ふと声がするほうに顔を向けると花がたくさんある場所で天使の子供が座っています。
「花の指輪を作ったんだ。君にあげるよ」
アンナはなんだかふわっと温かい気持ちになりました。
「ありがとう、こんなに素敵なプレゼントは生まれて初めてなの」
「うん、喜んでもらえてよかったよ」
それから子供たちと遊んでいるとカゲが声をかけてきます。
「アンナ、そろそろ影が広場で踊るよ」
「なんだか面白そうね」
「うん、きっと気に入ってくれるよ。さあ行こう」
広場では火を囲んで影たちが踊っています。
「アンナ、よく見ててね」
カゲは火のほうへ向かうと体をグニャグニャ曲げながら踊り始めました。
そのあまりにおかしな姿を見てアンナは思わずアハハと笑って止まりません。
するとカゲはうぎゃっと声を漏らしながら転んでしまいました。
アンナは驚きカゲのもとへ走ります。
「カゲさん、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。でもかっこ悪いところ見せちゃったね」
「ううん、とても面白かったし、とても素敵な踊りだったわ」
その後、アンナとカゲは公園に戻りました。
しかし子供達は一人もいません。
「カゲさん、みんなはどこに行っちゃったのかしら」
カゲからの返事は帰ってきません。
それどころかカゲの姿も見えなくなっていました。
「そろそろ起きる時間だよ。さようなら、アンナ」
どこからか声が聞こえます。
すると夜の世界はアンナを残して闇の中へと消えていきました。
気が付くとアンナは見慣れた部屋のベッドの上に居ました。
「夢だったのかしら」
悩むアンナですがすぐに笑顔に変わりました。
「アンナ、ご飯よ。起きてらっしゃい」
お母さんがアンナを起こしに来ました。
「あら、その指輪どうしたの?」
「えへへ、ひみつ」
私が子供のころには誰にも見えない自分だけの特別な世界が見えました。
今でも憧れは消えません。あなたは、どうでしょうか?




