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白鳳勇志の日記

作者: ひすいゆめ

この話も他の日記シリーズと近いものがあります。

しかし、この話の主人公は書籍、アンティークドールに出てくる作家です。

私は作家としてある旅館で缶詰になっていました。すると、奇妙な人が突然私の部屋に入ってきました。もちろん、鍵をかけていなかった私にも落ち度があったのですが、とにかく、話を聞くことにしました。

その人は不思議な青年で、どことなく不思議な力を持っているような感覚を漂わせていました。私は実はある能力を持っていまして、言霊を操ることができました。

口で発する言葉も紙に書く言葉もどちらも可能ですが、紙に書く方が念が入りより強力に力を発揮できました。そこで、彼の正体を知る為に今、書いていたパソコンの小説の後にある言葉を打ち込んだ。

『解明』

すると、私の目の前に驚愕の現象が起こりました。その青年はドラゴンに変化したのです。彼は翡翠翔と言って、ドラゴンゾンビの呪いを受けているとのことでした。彼は『デス』という上界の者に命を狙われていて、現在も狙われてここに逃げ込んだところだそうです。デスは動物に取り憑いていて、それが動物園から逃げ出した豹だというのですから、困ったものです。私は彼を匿ってあげることにしました。


気づくと、窓の向こうから豹が飛び込んできました。翔は睨みながら、ドラゴンから奇妙な姿になりました。そして、金色のドアが現れて彼は金色の鎧をまといました。

「デスよ。なぜ、僕を襲う?お前は死すべき者を冥界に連れていくんだろう?しかも、自ら手をかけることもないはず」

すると、豹は1吼えて人間の言葉を発しました。

「大いなる戦いやスノウとは関係ない。ある方の命により命をもらうだけだ」

「その主と話をつける。名前を教えろ」

しかし、彼は何も言わずに翔に飛びかかります。彼は炎を放ってそれを跳ね返します。私は旅館が火事になることを恐れ、パソコンに打ち込みました。

『解明。豹の主の名』

すると、豹は突如私を睨みました。

「お前、何をした?…お前を、…狙ったのは、壊王エンドワルツ…くそう!」

その言葉を聞くと同時に、翔は次元を超えたみたいに消えてしまいました。豹もそのまま窓から去っていきました。私は気になって外に出かけることにしました。

すぐに旅館を出ると、豹が私を待っていました。

「お前、普通の人間ではないな。よくも屈辱を。ここならあの字を書く機械もない。言葉を操れまい」

そこで、私は小さく呟きました。

「憑依解除」

すると、豹は突然動物らしい動きに変わりました。

「空間移行」

豹を元の動物園の檻に戻すと、豹から抜け出たデスと呼ばれた者の魂を探しました。彼はすぐに近くのゴミ捨て場の人形に乗り移りました。

「お前、口にするだけでも言霊を操れるのか?只者じゃないな、何者だ!」

しかし、私は沈黙を保ちました。私が何か言おうとすると、彼はすぐに怒鳴りました。

「何も発するな!また、何かされたら堪らない」

私はそれほど精神力はありません。言葉を書くより口にする能力は威力もあまり出せません。今までので精一杯でした。それを知らない彼は私から距離をとりました。そこで、私とデスの間に翔が現れました。

翔はデスに言いました。

「今、法と混沌とラフェル(冥王)にエンドワルツの企てを話した」

すると、デスはため息をつきました。

「俺が殺される」

「上界の存在は死なないだろう」

「デリートということだ。上界の存在だって始めからいて、これからもい続ける訳じゃない」

「封印や次元移行以外に上界の者を消せるのか?」

すると、デスはしまったといった表情を見せて黙ってしまいました。

「とにかく、失礼する」

デスはすぐに消えてしまいました。翔は元の姿に戻って私を見ました。

「貴方は何者ですか?」

彼の質問にどう答えていいのか分かりません。

「言霊を操れます」

どうして、それができるのかは、今は割愛します。

「上界の力?アストラルコード関係?」

「いえ、どちらも違うと思います。霊感や第六感のようなものでしょう」

「それにしては、力が強力すぎる。きっと、上界にかかわりがあると思う」

そう言って、翔は私に興味を持ち始めました。それから、また作家としての缶詰の日々が始まりました。

すると、電気が突如チカチカし始めて、すぐに消えました。

『結界』

パソコンにそう打ち込むと、電気がパッと回復して点きました。この部屋全体に結界を作りました。それでも、さらに打ち込みます。

『結界強化』

これで、相当の力のある者でないと、この部屋には入れないでしょう。引き戸が開き、霧のようなものが漂っていました。

「お前は何者だ?」

私は答える言葉がありません。ただの人間ですから。

「貴方はエンドワルツさんですね。デスさんはどうしました?」

すると、しばらく沈黙をしていたが、すぐに話を始めました。

「デスはラフェルの守護下に入った。すでに手出しはできん。俺は上界を追放されて、壊王の座を追われてここにいる。全てお前のせいだ。なぜ、エターナルコードを助けた?あの存在は上界でも下界でも危険な存在なんだぞ」

「いいえ、下界や上界の者より力があり、不可解な存在が恐ろしいだけでしょう」

そして、彼に正面に向かい合いました。

「不可解で力のある存在が恐ろしいなら、私も彼と同じく殺そうとしますか?」

「そこまでの力はないだろう、調子に乗るな。人間ごとき、あのドラゴンの呪いさえなければ、アストラルコードを持っていても、それほど脅威ではないわ」

彼はそう言って、部屋に入ろうとするが、結界に阻まれてしまいました。歯軋りをして、目があったら私を睨んでいるところでしょう。私は文字を使えば言葉を発するより少しは力が使えました。エンドワルツは煙の体を振るわせます。気づかれぬように、左手の人差し指で畳に言葉を描いた。

『凝固』

すると、煙はそのまま徐々に集まり縮まっていき、白い玉になって転がりました。そこで、結界の中から手を伸ばしてそれを取ると、近くにあった瓶の中に封印しました。

『救急如律令』

と札に筆で書いて、その瓶の蓋に封じるとそれを机の上に置きました。この言葉は、西遊記の銀角大王が持っていた瓢箪に貼っていた札や(道教)、

仏教の真言(修験道系)で『すみやかに去ってとどこおること無かれ』という意味や、中国の陰陽五行説や文化、占星術、風水から派生した陰陽師の使う祝詞でもあります。

『神の御名に於いて、律令す我に従い早急に執り行え』

と意味する神道の祓言葉はらえことばで、祝詞の基本です。道教、古代中国の地元宗教、仏教、神道で同じ言葉が使われているのかは、元が一緒だからではないかと推測できます。

再び、缶詰になって執筆を始めて2日後。様子を見に出版社の担当が顔を見せました。馴染みの月代漣牙君です。彼は、瓶に封じた上界の存在に視線を向けて、何かを感じたのか、じっと視線を注いでいました。

「先生、これはここに置いておいてはまずくないですか?」

彼の感性の鋭さに感銘を受け、私はゆっくりと頷きました。

「大丈夫ですよ。強固な封印をしていますから」

「先生にしては、言霊じゃなくて真言を使っているから、封印に信頼はない訳じゃないですけどね」

彼はそう言ってある話をし始めました。私は筆が止まっていたので、ネタになるのかと思い、彼の話を聞くことにしました。

月代漣牙君の話はこうでありました。上界と呼ばれる存在が色々悪さをして、彼の親戚の家が大変なことになったそうです。鬼、大鬼が召還されて旅館をしていた彼の親戚の家は、お客さんもろとも事件に巻き込まれたそうです。でも、ある若者達のおかげで助かったそうです。その上界の者というのが、あの瓶に入っていると彼は言いました。きっと、彼は何か不思議な力を持っているのでしょう。確かに、上界の存在が封じてあるのですから。そこに、あの翔が現れました。

「ここに化印カインが来る。早く逃げろ」

彼の叫びもむなしく、この部屋に電気が走りました。気づくと、瓶を持った青年が立っていました。上界の者はここでは具現化はできません。きっと、人間に取り憑いているのでしょう。謎の存在、化印に我々は警戒するしかありませんでした。私の結界をあっさり通過できる人間以外の存在であると言う事実が彼が並の力ではないということを証明していました。

化印は私に警戒して光の触手を3本鞭のように放ちました。しかし、それは私の前の見えない壁に阻まれました。

「私の能力は精神力を注いでいる限り、無限に続行させることができるんですよ」

次に光の槍を発すると、それを私に放ちました。それは私の鼻の前で、突如消えてしまいました。

「私は条件発生の言霊も使用できます。なお、複数の言霊の能力も使用可能です」

流石に彼は攻撃を止めて、私の出方を待つことにしました。しかし、私は争うのは嫌いなので攻撃はしませんでした。翔はそんな中、私と化印の間に割って入りました。漣牙は私の後ろから少し顔を出します。

「貴方はなぜ、その破壊の上界の者を助けに来たのですか?」

すると、化印は優しい眼差しで私を見て沈黙を保ちました。

「お前は危険だ。エターナルコードよりもな」

私はとうとう重い口を開きました。

「私の父は上界の者でした。彼は私を下界に堕ろしました。体の具現化は、身ごもった人間に私を堕としたからです。そのときに、上界人の性質を受け継ぎ、死ぬことを許されぬようになりました。しかも、父は私に言霊の能力を引き継がせました。ただし、残念なことに自分を守るだけの能力しか使えません」

そして、振り返り漣牙に言いました。

「だから、私から離れないで下さい。私は自分しか守れませんし、死ぬこともありえないので」

そこで、化印はようやく表情を和らげて頷きました。

「お前は堕上人か。まあ、仮にも人間ではない上界の者ではないか。危惧な存在ではない。その肉体が朽ちたそのとき、元の上界の者として、上界に戻ることだろう。では、危機はそのエターナルコードのみとなる」

そう言うと、化印は封印の瓶を割り、エンドワルツを解放させました。私と翔は警戒して、構えて相手の出方を待ちました。もちろん、『強化』の文字を書いた後で。エンドワルツは空間より剣を取り出して私に向けました。化印は最強の姿に変化した翔と対峙しています。漣牙は私の後ろで小さくなって見守っています。

『防御』

その言葉をつぶやくと、私の体の周りにバリアが張られました。エンドワルツの剣が私に振り下ろされますが、腕でそれを受けます。バリア、強化、防御は全て私の精神力なので、かなりの精神的なダメージを受けました。敵は並大抵な力ではないことは身をもって実感しました。

剣をどんどん奮ってきますが、私はそれをすべてさばきました。

「斥力」

そう叫ぶと、彼はかなり踏ん張っていましたが、そのまま遠くに飛ばされてしまいました。

「私は自分の身を守るのみの能力と言いましたが、裏を返せば、身を守るために攻撃が必要であれば、攻撃も可能なんです。もっと言うと、その防御を工夫すれば攻撃にもなります」

エンドワルツは悔しそうに私を睨みました。

そこで、私は最後の力で呟きました。

「凝固」

エンドワルツは徐々に霧の体を小さくして、小さく白い玉になって転がりました。それを私は拾うともう1つの瓶に入れました。蓋をして前回と同じ札を貼りました。エンドワルツの封印が終わり翔を見ると、

彼は化印と壮絶な戦いをしていました。旅館の部屋を出て、空で炎と光の能力の戦いをしていました。

本来、紫燕と化印は同じ灰色の存在、つまり、上界の中で法にも混沌にも属さない存在であるが、互いに仲たがいしている存在で合間見えることのない存在でした。そこで、私は紫燕を召還しようと試みようと思いました。しかし、すでに精神力は残っていません。そこで、そのことを翔に伝えると、化印は恐ろしい眼差しを私に向けました。翔は次元の力で紫燕を召還し始めました。

そこで現れたのは、高校生の少女でした。

化印は冷や汗を流しながら、少女の前に下りて睨みつけました。

彼女は志田祢音。

紫燕が取り憑いているのですが、お互いの意思が融合している為に意思は1つです。しかも、転生で人間に憑いている為に、特殊な存在です。一方、化印は人間に召還された魂がただ取り付いているので、結びつきが薄く、人間の方の意志も存在しています。紫燕は右手の人差し指を彼に向けました。すると、彼はそのまま上空に逃げるように上がります。そこには、翔がいまして炎のブレスを放たれて、彼はそのまま地面に叩きつけられました。化印はこの状態を危機と感じまして、そのまま退散していきました。

私と漣牙も外に出て、2人のそばにいきました。彼女も翔を上界、世界の危機と感じているのでしょうか。

しかし、その場合、彼を助けるようなことはしないはずです。しばらく、紫燕と翔を見守ることにしました。

そこにある人物が現れました。紫燕は彼に視線をやります。

「フェイク。いえ、ラフェルの下僕」

「祢音。…紫燕だったな。ラフェルはエターナルコードを保護するつもりだ。邪魔をするなら、過去、友人だったことを忘れるぜ」

「別に彼には興味はないわ。ただ、化印が癪だったから、召還されてきたのよ」

そこで、私はその新たに現れた青年に話しかけた。

「貴方は?」

すると、彼はぎこちない微笑で答えました。

「我神棗…」

しかし、私は本物の我神棗を知っていたので、彼がラフェルより棗氏であるという暗示をかけられていたことを悟りました。過去に何かあったのでしょう。しかも、紫燕を友人と言っているので、その過去が気になりました。


フェイクと紫燕はそのまま、翔のことを一瞥して去って行きました。残された翔氏は、無表情で振り返り私と漣牙君を見ました。

「下界に堕とされた上界の者か」

私は彼を察して言いました。

「貴方は呪いを受けていますね。今は力が尽きていますが、明日には力が回復しています。もし、解呪をしたければ、明日に私のところに来てください」

彼は頷いてそのまま去っていきました。この言葉が後に自分自身を恐ろしい境遇に陥らせてしまうとは、このときは思ってもみませんでした。そのまま、缶詰になって旅館で執筆を続けました。

その間に、漣牙君は帰っていきました。明日には、この作品は完成するでしょう。


翌日、早朝から書きあがった原稿のCD-Rを取りに来た漣牙君を見送りました。すると、翔君が現れました。やはり、かなり有効な能力を持っているとしても、呪いと長すぎる寿命は厳しいのでしょう。私は、すぐに解呪の言葉を紙を用意して、かなりの精神を込めて書きました。しかし、彼に変化はありません。

ドラゴンの皮膚に変化させて、私の力が効かなかったことを示しました。驚いた私は、口にしてもう1度言葉を書きました。しかし、言霊の能力は一向に発揮されませんでした。

「やはりな。この呪いは上界ではない別次元のドラゴンのものだ。上界の力では解くことができない可能性も考えていたよ」

彼の言うとおり、私よりも高い神格のドラゴンのしかもゾンビの呪いであれば、私の力など、到底及ぶものではありません。しかし、それでは、私の気がおさまりません。プライドもありますし、彼を助けたいという気持ちもありました。

「解呪の方法」

その言葉を書くと、ある言葉が自然に紙に現れました。

『覇音 化印 空莉 歪』

それが何を意味しているのかは、翔君に聞いて3つは分かりました。覇音。細波覇音。SNOWCODEという特別な血を受け継ぐ者だそうだが、棗君のように救世主ではないが、アストラルコードを使用できるほどでもなく、かつて、夢の力に打ち勝つ者と呼ばれていました。

彼は上界の者と契約したことと同じ効力のあるジュエルを持つ者だそうです。そして、前世は上界の四天王の1人、ヴィジョンという能力を持っているなど。

化印は先ほどの上界の者。

歪はメビウスとも呼ばれ、運命を司る上界の者の1柱であるそうだが、今は翔君の絶界の槍に封印されているそうです。空莉だけは、彼でも知ってはいませんでした。

メビウスはすでに彼が封印しているので、次に覇音君を探しにいくことにしました。解呪に必要な4つの要素の1つであります。彼は家にいました。夏休みともあり、快く了承をしてついて来てくれることになりました。次は化印。しかし、彼は翔君の命を狙っていて、追い返してしまいました。一番難しい相手です。

とりあえず、後回しにして空莉という存在を探すことにしました。

『空莉』と『意味』と言葉を書くと、脳裏に大きなドラゴンに乗った女性戦士の姿が映りました。おそらく、別の次元の光景でしょう。上界でしょうか、絶界でしょうか。もう1度文字を書きます。

『彼女の場所』

すると、上界でも絶界でもない世界を示す言葉が現れました。

『法界』

それがどこなのか、どうやって行くのかは分かりませんでした。

『法界の意味』

文字に書くと、すぐに『我神棗』という言葉が現れました。しかし、彼は旅行に行っているそうです。そこで、他の方法を考えることにしました。絶界と関係のある翔君であれば、何とかなるのではと思いました。そこで、彼が契約している2柱の絶界の者に法界について訊いてみることになりました。

すると、法界は絶界の下位層の次元であることが分かりました。そこに向かうことになりました。金色のドアが現れて、そのドアが開きました。我々はその中に入って法界に向かうことになりました。


絶界の者の力を借りて、我々は法界なる世界に来ました。次にドラゴンに乗る女性戦士を探すことにしました。空莉とはその女性か、ドラゴンか、両方を呼ぶのか疑問でありましたが、とりあえず、まとめて見つけることにしました。この世界は1面が土に覆われた大地でした。町も人も見ることができません。

しばらく、3人で歩いていますと、急に猛スピードで馬車が近づいてきました。

「こんなところで何をしているんだ!」

馬車に乗っているのはゴブリンのような存在でありました。走りながら手を伸ばして覇音君、翔君、私を次々に手を掴んで引いて乗せました。荷台に放り込まれました。そこには、水の入った樽が沢山入っていました。

「ここは法界なのか?」

翔君がゴブリンに聞きましたが、彼はそれが何を意味しているのか分からないようでした。それもそうでしょう。彼らにとってはこの世界しか知らなく、法界という言葉でさえ、我々も知りませんでした。

「とにかく、炎の大地でほっつき歩いているなんて、あんたら命知らずだな」

彼の話では、ここは天然ガスが大地より発生し、充満しているそうです。その関係で、あまりこの場にいるとガス中毒になりますし、火の手、火花が上がるだけで火の海になる大変危険な大地だそうです。

とにかく、この場を猛スピードで馬車は駆け抜けていきました。

大地は広く、1時間は走ったでしょうか。ゴブリンはかなり焦っていました。そこで、私は言霊を使用することにしました。

「瞬間移動」

しかし、言霊は発動しませんでした。この次元では、上界の力は使えないようです。絶界の力なら使えるでしょう。ドラゴンゾンビの呪いも使えるでしょう。私と覇音君はここではただの人間です。そこに前から巨大な船がガスの海を進んできました。帆船のようで、その上の旗には髑髏が描かれていました。

ここでは、ドラゴンの炎の力は使えないので、強力な怪力と空中戦で翔君に海賊と戦ってもらうしかないと思いました。そこに、ゴブリンは馬車の手綱を右手だけで持って、椅子のそばのレバーを引きました。

すると、馬車は屋根の上に傘が現れて、地上から噴出すガスを受けて空に浮かび上がりました。海賊船に見つかることなく通り過ぎましたが、すぐに傘はしぼんでしまい、地上に降りました。

空中に浮くことができるのは、ほんの少しの時間だけのようです。そのとき、振り返った翔君が叫びました。

「あの船にドラゴンと女戦士が乗っていたぜ」

すると、ゴブリンが叫んだ。

「ダークバルキリーには近づくな。気が荒く殺されるぞ」

しかし、我々は彼女かそのドラゴンに用事がありました。エイシェントドラゴンに変化した翔君に覇音君と私は乗って、馬車に別れを告げて、すれ違った海賊船を目指して飛び立ちました。

私達に気づいた海賊船は、大砲を一斉にこちらに向けました。巨大な鉄球が放たれて来ましたが、翔君が羽ばたき船の帆に風を送り、前に進ませたおかげで照準が狂い手前で全ての弾は地面に落ちていきました。

次に、あのダークバルキリーがドラゴンに乗ってやってきました。翔君は背中の覇音君にあるものを渡します。指輪でした。

「これは、厭世縫鴎のオーバーコード」

「それなら、お前でも使えるだろう?」

「ラックしか使えないけど」

「アストラルコードは使えないのか?」

「夢の力に打ち勝つ者、だから」

そう言って、指輪をはめて覇音君は指輪を戦士に向けました。すると、ついていた矢じりが飛んでいきました。女性戦士は剣を刹那、抜きそれを弾きました。ドラゴンに背中という不安定な中で、彼女は確かな腕でした。覇音君はところがその矢じりと指輪をつないでいる鎖を自在に操りました。

鎖の鞭と化したそれは、剣で弾かれてもすぐに彼女の剣に向かって巻きつきました。引き合いになりましたが、剣を彼女から奪い取ることができました。鎖を指輪に収納すると、ダークバルキリーの剣を覇音君は手に入れました。

ドラゴンにしがみつきながら、ダークバルキリーが我々に突っ込んできました。そこで、私は叫びました。

「そのオーバーコードは能力を封印されていますよね?なぜ、元の姿に戻して使用しないのですか?」

すると、彼らはぽかんとしていました。地上に降ろし、元に戻る翔君は私に聞きました。

「こいつは指輪の形が普通の形じゃないのか?」

「元々、上界の者に由来するオーバーコードは全て鍵の形をしています。そして、それぞれが武器などに変化して特殊な能力を発揮します」

翔君は覇音君から指輪を受け取り、アストラルコードを発揮しました。本来は呪いで発揮できない彼も、レベル5以上の姿になることで使用できます。彼は指輪に思い切りアストラルコードを注ぎ込みました。

すると、指輪は強烈な光を発して指輪の矢じりの飾りが鍵の先になりました。オーバーコードの封印が解けました。しかし、厭世縫鴎はなぜ、あのオーバーコードに封印をかけたのでしょうか。少々心配になりました。翔君はそれをオーバーコードで武具にしました。ジャベリンに変化したそれは、妙なオーラを漂わせていました。ダークバルキリーのドラゴンも我々の前に舞い降りてきました。彼女と翔君は対峙して、お互いの出方を見合っていました。

翔君はジャベリンにアストラルコードを込めて放ちました。すると、空間に亀裂が入りました。これが厭世縫鴎が危惧して封印したものだったのです。これは上界や我々の世界では崩壊をもたらすでしょうが、この世界では別です。上界の能力を発揮できるようになりました。亀裂は別次元にまで達していたのです。

次元の歪みが生じて、上界の影響を受けることができたのでしょう。私はすぐに叫びました。

「凝固」

すると、ドラゴンは固まりました。私は空莉をあのダークバルキリーではなく、ドラゴンと見たのです。彼女は冷や汗を流して、翔君に目指して駆け出しました。前世の姿に戻った覇音君は上界の四天王の1人に変化して、彼女の所有していた剣を構えてそれに参戦しました。彼女は負けると悟ると、海賊船に向かって退散し始めました。私は空莉を小さくすると、捕まえました。翔君がジャベリンを鍵に戻すと、空間の亀裂は元に戻りました。そして、絶界の者の力で元の世界に向かいました。


翌日、なんと化印の方から我々の元にやってきました。勿論、目的は翔君の解呪の手伝いではなく、抹殺の為でありますが。

「これで役者が揃った訳だ」

覇音君がそう囁きました。私は化印に言いました。

「翔君のドラゴンゾンビの呪いが解ければ、貴方にとっても翔君は脅威ではなくなりますよね。つまり、抹殺しなくても済み、一石二鳥ですよ」

「協力しろと?」

「損はないでしょう」

「お前も上界の者なら、分かるだろう?世界のバランスを」

「すでに上界の者が降りて、手を下している時点で無意味な話ですね」

「世界の天秤は、大いなる戦いによってすでにバランスを崩していたと」

「それはこれから分かることです。とにかく、解呪で万事うまくいきます」

化印は少し考えて言いました。

「少しテストをする。あのエターナルコードが我が刺客を倒せたら、解呪を考えよう」

そして、召還したのは、ドラゴンスレイヤーでした。

「上界の定理ですか?人間の概念では、解呪の為の命がけの試練は無意味に感じますね」

私はそう言って、止めずに幸運を願いました。全ての物事、事象、流れにはそれなりの法則があります。

例え無意味に見えたり、目に見えないものにも。だから、この試練も解呪の対価として翔君がやらなければいけないことなのです。翔君はレベル6に変化して、絶界の鎧と槍を構えました。異界の戦士、ドラゴンスレイヤーはすぐにドラゴンランスを構えて凄まじい速さで翔君に向かって走り出しました。2人のつばぜり合いを始めます。

流石にドラゴンに強い、有効な彼も、純粋なドラゴンではない翔君に、しかも絶界の強さを持つその強さに彼はかなわなかった。すぐに押されて、そのままドラゴンランスは弾かれてしまいました。

しかし、そこでドラゴンに攻撃をする能力を発揮し始めました。翔君もドラゴンの能力を使っている為、その能力は有効でした。

翔君は凄まじい力を槍に込めました。すると、封印していた上界の者の1柱、メビウスが開放され始めました。しかし、気にせずに槍の力を放ちました。ドラゴンスレイヤーは光線に直撃して、彼はそのまま後ろに吹き飛ばされました。

「勝負ありだな」

覇音がつぶやきました。確かに、絶界の力を使いましたが、それでも、翔君との力の差は明らかでした。

化印は頷いて従うことにしました。これで、解呪の全てがそろいました。しかし、メビウスは上界に逃げてしまいました。それだけが気になりましたが、それでも翔君を助けるのが先決でした。

次に何をすればいいのかを、文字を書いて解明させました。

「合流の壷」

それが何を意味しているのかは、分かりませんでした。

壷についてさらに私は紙に書きました。

『合流の壷の解明』

すると、脳裏にある光景が浮かびました。上界にある黄金の奇妙な物体です。そう、クラインの壷です。表も裏もない3次元のメビウスの帯。それを取りに行くことはできません。いわゆるバリアに守られた雲の山に封印されていました。我々が行くしかありません。次元を超えることは、私、覇音君、翔君、化印には可能なことでした。そこで、翔君が言いました。

「さっき、メビウスを解放してしまったんだ」

そこで、メビウスを再び封印する為に、私と翔君はメビウスを求めて、化印と覇音君は先に上界に向かうことにしました。メビウスはどこに行ったのでしょう。言霊を使うと紙に言葉が現れました。

『エドワードの別荘』

エドワードとは?その住所を探ると、なんとアメリカの東海岸でありました。翔君のオーバーコードの力で空間を切り裂き、すぐにその地に向かうことにしました。

私と翔君は森の中の通りを進んでいきました。すると、巨大で古い屋敷が目の前に現れました。門は鎖で厳重に封印されていました。そこには、メビウスの気配が濃く漂っています。

「まさか、使者が召還されている」

翔君はそう呟きました。私もその感覚を感じていました。でも、棗君の気配も感じますし、それは彼に任せることにしました。メビウスを探すために中に侵入を試みました。翔君が翼を出して私を抱えて敷地内に入りました。そして、屋敷の裏に行きます。そこには13つの墓が並んでいました。何か絵にも言われぬ不気味な気配を感じます。

呪い、という言葉が心に浮かびました。メビウスとこの呪いは関係しているとは思えませんが、呪いはやけに気になりました。しかし、今はそれどころではありません。納骨堂に向かう翔君の後を追いました。

納骨堂の前に、土人形が我々を待っていました。メビウスであります。翔君はすぐに絶界の槍を取り出し、すぐに突き刺しました。土人形はすぐに崩れて、メビウスは再び槍に封印されました。メビウスはなぜ、ここに来たのでしょう。何をしたのでしょう。いずれにしても、すぐに我々も上界に向かうことにしました。翔君は空間を切って次元の隙間を作り、上界に向かうことにしました。

上界で化印と逆転生した覇音君が待っていました。翔君は自由に次元を超えることができるようです。上界の雲の上の山に向かいました。雲の山の上に進みます。上界の最上層には、いくつかの山が存在します。

その中でも雲で出来ているものは7つあり、最も高いのは会峰離です。その上は未知の部分も多く、そこに壷がある可能性が大きいと考えました。翔君もレベル6の姿になり、戦闘態勢は万全でした。

ここは未知の世界。何が潜んでいるか、何が起きるか分かりません。予想通り、頂上に至る前にある上界の者に出会いました。彼は壷の番人だそうです。

「この壷は私が守る」

そこで、翔君が言いました。

「上界の者は死なないんだろう。どう倒す?封印は難しいぜ」

「それでも、壷が必要なんです」

私は援護をする為に、紙とペンを用意しました。

上界の者の姿は金属とゴムの間のような質感の下に5つの球状のものを動かし、とげを全身に生やしています。網状の5つの手の代わりのものを前に出して、煙のような糸のようなものを白と黒を発生させました。

「炎」

私はすぐに紙にその言葉を書きました。すると、糸はガスを発生させました。我々はすぐに口と鼻を覆い、距離をとりました。今までの相手ではなく、予想のつかない存在でした。覇音君は彼を無視して壷を手に入れようとしました。すると、彼は大きな風船を発生させました。すぐに離れて様子を見ます。

「弱点の解明」

私がそう書くと、言葉が現れました。

「無」

私は唖然としました。どうするか、全員で顔を見合わせて考え込んでしまいました。

すると、覇音君が不意に言いました。

「別に壷に近づいたり、手に入れる必要はないんじゃない?」

私達は顔を見せ合いました。化印は力を遠方より壷に向かって放ちました。それはすぐに壷に吸い込まれます。次に翔君が絶界の槍を出して、メビウスの力を解放しました。すると、その力も壷に吸い込まれました。番人は壷に近づかない限りじっとしています。覇音君も上界の四天王の力を放ちました。それも壷に吸い込まれます。最後に私は封印した空莉の力を放ちました。

「空莉の開放」

言霊の通り、封印されたドラゴンの力が放たれました。それも壷に吸い込まれ、壷は煙を勢いよく吐き出し始めました。翔君はすぐに異形の番人の上を飛び越えて、その煙野の中に入っていきました。

すると、彼のドラゴンゾンビの呪いが解けたようでした。そのメカニズムは不明ですが、ドラゴンの姿は解けました。羽根は消えてレベル6の姿から人間の姿に変わりました。我々は変えることにしました。

化印を残して下界に戻りました。


数週間が過ぎました。何とか締め切りに間に合い、次回の作品の編集との打ち合わせで青山に来ていました。喫茶店で打ち合わせをしていると、翔君が飛び込んできました。彼は私の持つ上界の気配を感じてきたようです。彼はドラゴンの力を失ってから、何者かに狙われているそうです。打ち合わせもそこそこに終わらせて、彼の話を聞くことにしました。すると、彼がドラゴンの力を失ったことで、上界の者が狙い始めたそうです。絶界の者と契約している彼を危惧しているそうです。ドラゴンゾンビに代わる力をほしいと私に相談しにきたのです。

1回でもドラゴンの能力を得た彼なら、ドラゴンと融合して前のような力を再び得ることができると考えられます。そこで、封印している空莉と融合することで彼に元の力を得ることはできないでしょうか。私にはその能力はありません。2つの存在を1つに融合できる存在を求め、我々は旅立つことにしました。

翔君は次元を切り裂き、再び法界に来ました。空莉のふるさと、法界であれば何かヒントがあると考えたのです。今回はガスの平原ではなく、クリスタルの森の中に出ました。朝日が反射して、ところどころに淡い光と虹が散っていました。私達は、まずこの世界の仕組みを知る為に、賢人を探して人のいそうな場所を探しました。クリスタルの森の中で1番高いクリスタルの結晶を目指すことにします。あれは人の住む塔のようだったからです。

しかし、見るよりもはるかに遠く、一向に着きません。しかも、化け物が5匹現れました。姿は鋭角の円錐が8つ付いた頭も手もない足が7本、尻尾が3本、上に口のようなものがあり、そこから触手が10本揺れていたものでした。私はここでは力は出せないので、翔君に任せることにしました。彼はドラゴンの能力はなくてもスノウコードの血により、アストラルコードを使うことができます。

彼は波動を放ちました。しかし、彼らはそれを軽く反射してしまいます。次にオーバーコードでジャベリンを出すと、物理攻撃に転じました。4匹は多足を器用に動かして素早く逃げました。

すると、空からスライムのようなものが3匹降って来ました。液体のような粘体のような塊に、上から飛沫を上げて下からそれを吸収しています。まるで、生物でも意思のある存在でもないようであります。翔君は棘の生物と応戦中です。私は自分の身は自分で守るしかありません。言霊を使えるように、上界の能力を解放する札を前もって持ってきていたので、それを空に放ちました。すると、この場に光が広がり始めて結界が張られました。この札は空間や時空を遮断する効果を備えさせました。そして、ここでは力を使っても発揮されませんが、すでに力の効果を発揮させたものを札に封印させていれば、

すでに効果は発動されているので札を放ることで解放させるという条件を与えれば、放り投げるだけで発動されるのです。半径5kmの範囲は私の言霊の能力は施行できるようになりました。

まず、棘の方は翔君に任せて、スライムの方は私が対峙することにしました。

『反射』

そう呟くと、見えない壁が私の周りにできました。液体のそれは毒液を噴出させました。しかし、壁に跳ね返り自分にかかって黄色に変わりました。そのまま固まってしまい、飛沫も吹き出すのを止めて石のようになりました。翔君を見ると、ジャベリンですでに1匹を突き刺していました。それは半分以上、浮き刺されると棘が抜けて触手が枯れて動かなくなりました。残りもこの調子で倒すことにしました。

私はバリアによって、スライムを滅しました。翔君は棘の化け物を3匹倒したところでした。そこで、目の前にあのダークバルキリーが現れました。レイピアを抜いて構えます。

「あのときは炎の平原だったから力が使えなかったが、ここでは容赦はしない」

どうやら、彼女は炎のネイチャーマジックを使用するらしいです。レイピアを振るうと、炎が放たれました。私の反射の言霊がもう少しで破られるところでした。しかし、私の精神力が切れ始めました。あの札の力も私の精神力で保たれているのです。そこで、全ての棘を倒した翔君が合流してくれました。

翔君はダークバルキリーから前に奪った剣を取り出して構えました。2対1という不利な状況で、彼女は出直すことにしてマントを翻し去っていきました。

「何故、海賊がここに?」

翔君の問いに私は答えることはできませんでした。そのまま、クリスタルの聳え立つ塔に向かって歩き出しました。

クリスタルの森を抜けると空間が開いていて、そこには街が広がり、その中心にクリスタルの塔が聳え立っていました。街は奇妙な鉱物で建物が作られていました。ゴムのような石のようなもので、それは時に人を通り抜けさせて、時に壁になるようです。

「ここに何故、海賊が?まさか、乗っ取られているとか」

翔君がそう言って、周りを警戒しています。しかし、街は平和そのものでした。

「ダークバルキリーの単独行動でしょう」

私はそう答えて、塔を望みました。かなりの高さがあります。200mは下らないでしょう。辺りの人にあの塔のことを訊いてみました。ガラスの曲がった棒を売っていた店主は怪しげに我々を見ながら言いました。

「あれは法術師の塔、レッドクリスタルだよ」

法術。どうやら、ここの世界の人間は、あのダークバルキリーの炎のように魔法のような術、法術を使う存在がいるそうです。その力であれば、翔君と空莉の融合のヒントもあるでしょう。

塔には門番が2人いました。2人ともローブでまとっています。杖などは持っていません。彼らに、質問をぶつけてみました。

「ドラゴンとの融合ですか?法術なら何とかなるかもしれませんが、法術を会得するには、長老の知恵が必要です。別次元での施行ともなれば、どんな腕効きの法術師でも不可能です。あの方を除いては。どちらにしても、長老に会う必要がありますが、会わせる訳にはいきません」

「どうしたら、会える?」

翔君がそう訊くが、彼らは光の壁を作り我々をクリスタルの塔から隔離しました。仕方なく、忍び込むことにしました。私の札の力はここまでは届きません。先ほどの札の効力を再び封印して、もう1枚を出して放り投げました。上界の能力が使用できるようになりました。

「通過」

そう呟くと、私達は門の裏の壁を通り抜けて中に入っていきました。

クリスタルタワーの1階は誰もいません。内側の壁は外側と違い、つるつるした陶器のような感じで、

こげ茶色で外を見ることはできません。外から中が見られなかった理由はこれなのかもしれません。この塔自体、法術で作られ、法術がかけられているのかもしれません。長老に会うべく、とにかく最上階を目指しました。階段を探しますが見つかりません。迷路のような廊下がひたすら続いています。

そこで、ここの塔にいるのは法術師、すでに我々の侵入を感づいているはず。それにこう簡単に侵入を許すのも理由があるはずです。我々は無限の廊下に誘い込まれたようです。すぐに、メモ用紙を取り出して書きました。

「覚醒」

すると、幻術は解けて、周りは大きなエントランスに変化しました。巨大なシャンデリアに蝋燭が何本も立っています。そこには、沢山のローブ姿の人間が数多く行きかっていますが、誰1人私達に関心を示しませんでした。まるで、私達がいないように。

このまま、機械的に動き回る彼らを無視して、我々は最上階を目指して駆け出しました。

クリスタルの塔の3階まで一気に駆け抜けると、そこには老人が待っていました。長老には、全てお見通しだったのです。

「法術を会得したいのじゃろう?」

「はい、是非、お願いしたいのですが」

「うむ」

「しかも、別の次元でも使用可能な法術です」

すると、彼は長いひげをなでました。

「まず、法術師は才能なのじゃ。その才能がなければ、どんなに修行しても会得できん」

そして、ある場所に我々を導きました。そこは真っ暗な部屋で、彼が指を鳴らすとほのかに明るくなりました。床には奇妙な文字が並んでいます。

「ここで幻術をかけます。その中でクリアできれば、幻術を会得する能力があることが分かるだけでなく、その種類や基礎、知識を得られるはずじゃ」

最初に翔君が試されることになりました。彼は部屋の真ん中に立つと、急に床の文字が光り彼は消えてしまいました。

すぐに辺りの暗闇の中に丸いシャボン玉が浮かび、翔君の状況が映し出されました。

「法術は精神の術。貴方は元々の能力がそれに似ていますから、会得も施行も簡単でしょう。勿論、才能があればの話ですが。さらに上達して、もしかしたら、我々以上の能力を得るでしょう。潜在能力が見えます。念のため、これをしなさい」

長老は私に数珠を渡しました。それを腕に締めて翔君の様子を眺めました。最初、彼はアストラルコードを発揮する感じに力を高めました。

「彼も特殊能力を持っているようですね。しかし、あれじゃ駄目じゃ。法術は静の術。動では法術のオーラすら発しないでしょう」

翔君はすぐに力を発するのを止めて、棒立ちになりました。眼をつぶり、全ての力を静にして呼吸を整えます。すると、黄緑の光が床より発しました。

「これは内なるオーラ。彼は使役、内発系の法術師じゃな」

全ての空気が上空に上がり始め、彼は叫びました。

「憑依召還、空莉」

すると、私の持っていた空莉の封印は光り、それは彼の中に入りました。

「何故、空莉を!あれはダークバルキリーが必死に操りの法術で何とか飼いならしたもの。獰猛なドラゴンで、あんなものを召還したら、意識を乗っ取られて暴走するぞ」

しかし、私は微笑み答えます。

「彼なら大丈夫です。ドラゴンの耐性が体に刻まれていますし、強い意思を持っています。それに、法術はCODEに似た術なのです。アンチコードであるアストラルコードが使用できるのですから、初めて会得したばかりの法術でも問題ないでしょう」

彼は瞳を赤くして咆哮します。苦しみますが、それでも汗を流して必死に空莉に抵抗します。私はそっと呟きました。

「安定」

すると、彼は空莉を押さえ込み、元のドラゴンゾンビの呪いのあった時の姿になりました。すぐに、アストラルコードを膨大に発してレベル5の姿になって息を切らして膝を突きました。

「もう、大丈夫でしょう」

「貴方も甘いですね」

長老は私が力を貸したことを見抜いたようです。次に、私は空莉の封印を翔君に渡して、私が儀式の間に入りました。と、同時に瞬時に七色の光を地面から発して眩い光を放ちました。

「これで全ての種類の法術を会得しました」

長老は唖然としていました。通常は法術は1種類、長けた者でも2種類、ごくまれに3種類の能力を得る者がいるそうですが、私のように全ての種類を、しかも瞬時に会得する者はいないそうです。

そこに何とダークバルキリーが現れました。すぐに私は言葉を発しようとしましたが、彼女は一足早く私の口を糸を巻いて塞ぎました。次に体中を巻いて手足の出ない状態になりました。

何故、彼女がここに現れたのか分かりませんでした。しかし、すぐに分かりました。彼女は巨大蜘蛛を操っていたのです。私を封印したのもその蜘蛛の糸です。言霊は使用できなくなりました。彼女の法術は操作と炎のネーチャーマジックです。蜘蛛を操ることはたやすいでしょう。

「空莉を返してもらおう。今度はあの時のようにはいかない」

しかし、私は微笑みました。

「何を笑っている?状況が把握できないようだな」

長老は澄ましてこの様子を見学しています。私は会得したばかりの法術を使用しました。足を使って空中に文字を描きます。

「移動」

すると、私はクリスタルタワーの上空に瞬間移動しました。次に、言葉を放ちます。

「浮遊」

上空で塔を眺めながら、空を飛んでいると彼女もすぐにやってきました。蜘蛛の背に乗り、塔の壁を伝って頂上まできて私を見上げました。

「何故?」

「私は法術を得ました。基本的に私の術は言霊の能力の強化です。今までよりも有効に活用をできるようになりました」

そして、手を彼女に向けて静かに囁きました。

「波動」

すると、物凄い圧縮空気が放たれて、彼女は蜘蛛ごと塔から弾き飛ばされました。

「攻撃もできるようになりましたよ」

海賊が何故ここに現れたのか、上空ですぐに分かりました。クリスタルの塔に海賊が次々に入って行きます。どうも、法術師として何かの手続きをしに来ているようです。ここは、善悪関係なく対等に人間を扱うようです。すぐに地上に移動して、蜘蛛の糸でぶら下がった蜘蛛に掴まるダークバルキリーを見上げました。

「私は法術を私の持つ上界の言霊の能力の強化として融合、強化として使うことで、ここでは法術は1つ、多くても2,3つの能力を無限に可能性を増やしました」

そして、指で空中に「分離」と書いて手を向けました。すると、ダークバルキリーの体からドラゴンが現れました。

「やはり。大概、1つの法術の種類である。でも、貴方は操作、炎と2つ。操作と自然は能力の種類としてかけ離れすぎです。そこで、炎も操作で発していると推測しました。案の定、ドラゴンを操作して憑依召還していたんですね」

ドラゴンは下級ドラゴンですが、それでもある程度の力を持っています。空莉のような上級ドラゴンとは違いますが、それでも今までの私にとっては手に余る存在でした。あくまでも、今までのですが。ドラゴンは私の分離の言霊のせいで憑依召還できなくなりました。ここで言っておきますが、私は全てにおいて言葉にしたことを実行できる訳ではありません。私自身の能力より強力な場合、それは実行できません。

精神力が尽きても同様です。今は法術の中のヒーリングで精神力の自己回復も容量増加もできているので、ダークバルキリーが何をしても無駄でした。全ては、法術が言霊の術に通じているのが、功を奏したのです。

「呪縛」

すると、壁に張り付いた蜘蛛は落ちました。ドラゴンと大蜘蛛を携えてダークバルキリーは剣を抜いて構えました。私は大声で叫びました。

「火炎弾!」

大きな火の玉が連発されました。これは翔君のドラゴンの技です。この技術も法術でできるようになりました。炎はドラゴンには効かなかったのですが、蜘蛛は燃えてしまいました。

彼女はドラゴンに飛び乗って難を逃れました。しかし、すでに自分の手に負えないことと、私が攻撃されない限り、彼女とドラゴンを倒すつもりはないことを悟り、そのまま空に去って行きました。

彼女が消えて、クリスタルの塔から出てきた海賊達は私に怯えました。すぐに逃げ去ってしまいました。

次に長老のところに戻ると、彼は疲労困憊の翔君を看病していました。枕元には空莉の封印の瓶があります。

「彼はどうでしょうか?」

「法術をまともに使えるまでには、最低1ヶ月は特訓は必要じゃな。もっとも、貴方ほどにはいきませんがね」

私は苦笑をして、心配の眼で彼を見ました。

長老の話では、盗賊でも警官でも法術師はここに来なくてはいけない掟があるそうです。法術は超能力でも魔法でも上界の力でもありません。ここで手続きをしないと、術は使えなくなるそうです。そのメカニズムはよく分かりませんが、どうも上界の者との契約関係のようなもので、その契約の更新をしないといけない、といった感覚が近いようです。

覚醒させてもらったといっても、ここの者が開発した法術を使わせてもらっているようです。老師と話をしていると、私はすぐに叫びました。

「結界!」

次の瞬間、窓から光線が放たれて我々の結界の前で弾けました。割れた窓から現れたのは、上界の者、静寂の王、ヘルルゼブであります。

「そうですか、貴方が翔君を狙っているのですね。下界の者が絶界の者と契約して力を行使することで世界の均衡が崩れる、ですね」

「ほう、知識を司るエントス様がこんなところで」

「ここへどうやって?次元を超えてここまで。知覚できるはずもないはず」

そこで、ヘルルゼブは腕を組んで窓台に座って足を組んでいます。

「あのじいさんの差し金さ。次元の要素を操れるんだ。ここにだって移動させることは簡単だ。ドアを作って開くだけだ。見つけるのだって簡単だったよ。法術に眼をつけることは現知識を司るベスクの推理でな」

私は警戒して長老を背にして構えました。それを彼は余裕に微笑んでいました。

「ここでは上界の力は使えないんだろう。ここにはお前の札の力でそれを可能にしている。じゃあ、札を見えないドームにしている能力を使えるエリアを崩壊させたらどうなる?」

彼が手を窓の外に出して力を溜めて、思い切り放ちました。すると、私の上界の能力を可能にしていた札の結界は消えました。もう、上界の能力、言霊は使えません。また、私の能力を破壊できるということは、彼の力の方が上ということでもあります。しかも、彼は能力を使わなくても、とてつもない腕力を持っています。その上、あらゆる格闘術、剣術なども長けています。かなりのピンチになりました。部屋の奥には力果てて寝ている翔君がいます。ここを挽回するには、彼の絶界の力か、法術の力しかありませんでした。

ヘルルゼブは私にロープに錘をつけたものを投げました。身動きが取れなくなりますが、それでも跳んで彼と距離を取ります。私は機転を利かせました。すぐに翔君の部屋に飛び込みまして、彼に体当たりをして、私は窓を割って飛び降りました。長老はおろか、他の人もここでは悪人も善人も一切関わらないので、

手を貸す者はいませんでした。敵はすぐに追ってきました。そこで、翔君は目を覚ましてすぐに空莉を憑依召還させてレベル2の姿で、私を抱えて地面すれすれですぐに急上昇しました。私は翔君にそっと耳打ちをしました。すぐにそこに向かって飛んでいきます。

ヘルルゼブは窓から飛び降りて、そのまま駆けて追ってきます。私はある場所まで来ると、翔君に地上に降ろしてもらって、手を膝に突いて元の姿で息を切らせていました。私は言いました。

「解放」

ロープが取れて、私は自由になりました。

「無限複写」

すると、持っていた札はかなりの多さになります。

「散布」

それを空に向けて巻きました。空中に札が浮いています。そう、ここは最初に札で上界の能力の使えるようにした場所です。追いついたヘルルゼブは光線でそれを破壊しますが、別の札がまた結界になります。

無数の空への札は私の奥の手でした。これで、私は戦えます。私とヘルルゼブは対峙しました。

「貴方は法に属する存在。混沌の最大奥義をどう処理しますか?」

そう言って、思い切り力と精神力を高めて手に電撃を帯びた黒い玉を発生させました。

「ラストワールド」

上界の両極、四天王の混沌の最大の技を放ちました。

「何を言う。所詮は猿真似。本物ほどの威力がある訳でもあるまい」

それでも、正反対の性質の技は、少なからず彼にはこたえます。そこで、それを避けようとしました。

「凝固」

私の言葉で彼は体が動かなくなりました。今、上界の能力を可能にする結界、無数の札、ラストワールドに凝固と最大の技を使っています。法術のおかげとも言え、私にはこの状態を保つには時間は長くは持ちませんでした。幸い、ラストワールドはヘルルゼブに直撃して大爆発をしました。

そこで、凝固を解いて札と結界のみにして精神力の回復に努めました。彼がこのくらいでやられるとは思っていません。案の定、かなりのダメージを受けながらも、彼は立ち上がりました。

「ここでは絶界の力は有効です。ここで封印されてもいいのですか?

その状態では、我々にまともに戦うことはできないでしょう」

「だが、ここでしとめておかないと、法術の修行でさらに手に負えなくなるだろうが。お前の考えなんてお見通しなんだよ」

彼は両手に光を集め始めました。彼には防御という言葉はありません。攻撃の1文字です。私もすぐに再び臨戦態勢に入りました。

「最大回復」

私の言葉は完全に翔君を回復させました。私が自分自身を回復させている間に、彼にヘルルゼブの相手を頼むことにしました。彼は法術で空莉と憑依召還してレベル6に一気に変化しました。彼が持つのは、せいぜい5分。短期決戦をお願いしたいと思いました。絶界の槍と鎧をまとって、すぐに全力でヘルルゼブに立ち向かいました。相手は光弾を溜めて放ちました。それを翔君は槍で簡単に弾き、その槍を突きました。力自慢のヘルルゼブはそれを受け止めてしまいました。次の瞬間、槍先が光り始めて彼を封印しようとしました。すぐに、彼は光のバリアを張って距離を取ろうとしました。しかし、絶界の力に勝てるはずもなくそのまま封印されてしまいました。5分経っていないのに、それだけでかなりの力を消費してしまい、翔君は意識を失って元の姿に戻り、そのまま倒れてしまいました。

私は彼を背負って先ほどのクリスタルの塔に戻ることにしました。

「移動」

クリスタルの塔では、入り口の門番は今度は我々を通してくれました。法術師は無条件で入れるようです。ここにもう1度、上界の能力が使える札で結界を作りました。これで能力を発揮できます。これから、翔君と私の法術の修行が始まるのです。

まず、翔君は精神力の増加、そして、精神力を法術として行使するための修行を始めました。私は基本の精神の施行はできているので、精神力の容量の増加と、法術の発する量の多さを増加させる修行を始めることにしました。精神力の容量の増加と発する量の増加の修行は同じ理屈らしく、同じことで得られるそうです。煉堅の間という部屋で私は長老の言う通り、最大限に精神力を発しました。すると、部屋の空間は一気に密度が濃くなります。そして、緑の炎が床中に発生しました。上界の炎です。

さらに精神力を発すると、緑の炎は部屋中に充満していきました。緑の色が濃くなり、辺りが見えなくなります。その内に、私の精神力は急に青い小さな炎になってしまいました。足元で燃えるそれを見下ろしながら、長老を見ました。彼は言います。

「あくまでも、法術は法術。上界の言霊は言霊。上界の言霊の能力の補助としてでは、法術の能力は本当の力を出せん」

私はそこで、言霊を停止させました。空中の結界は札に戻り、空中に満ちていた札は全て地面に落ちました。そのまま、今度は法術のみを発します。どういう能力かは不明です。精神力を高めていくと、部屋中の密度が濃くなっていき、黄色の炎が発せられました。これが私の法術の炎なのでしょう。それは徐々に部屋中に充満していき、仕舞には目の前がオレンジ色になりました。それが上界の能力と違い、大きくなりすぎてしまいました。部屋の壁は私の法術の力に耐え切れなくなり、そのままひび割れが発生しました。

すぐに止めようとしたら、長老がそれを制しました。

「そのまま続けなさい。貴方はやはり、上界の力より法術が合うようです。ここの崩壊は私が抑えよう」

その言葉に甘えて私は精神力をさらに強く発しました。すると、赤い煙が周りに充満して紫色の空間になり、私自身見えなくなりました。

「貴方は上界の強化が得意だったので、強化系が合っているのでしょう。全てのカテゴリーの施行が有効だが、最も相性のいいものから会得する方がいいじゃろう」

「何故、上界の力と法術の融合はうまくいかなかったのでしょう?」

力を発揮しながら、私は老師に訊きました。

「上界の能力はいわば定理。法術は心理。同じ性質のようで実は違うのじゃ。だから、能力の発し方も異なっているはず」

私はさらに精神力を高めました。すると、部屋中がぎしぎし軋み始めました。そのまま、徐々に力をMAXに発揮しました。すると、クリスタルの塔自体が揺れ始めました。そのまま、さらに力を高めると、真っ赤な目の前が急に真っ暗になりました。本能的にここが別空間だと察しました。さらに精神力を高め続けると、その内赤い糸のようなものが発生し始めました。それを鞭のようにふるってみます。

すると、目の前に真っ暗な空間の切れ目が現れて、そこから光の人型が現れました。第1の試練でしょう。

私は強化系と言われました。知的強化、肉体的強化、能力強化、他的強化。今、あの試練に打ち勝てるのは、能力と肉体。能力は修行中は上界の力を避けるように言われているので、肉体強化しかありません。

ただ、強化しか使ってはいけない訳ではないので、外系、内系でもいいはずです。とにかく、この暗黒に光の存在という状況を考えて外系にしました。

法力を最大に高めて、闇のナチュラルマジック、暗黒の弾丸を両手を組んで人差し指を出して、拳銃のように構えて放ちました。すると、凄まじいスピードでそれは飛んでいき、光の人影は暗黒弾により

ブラックホールのように吸い込まれて消えてしまいました。そこで、次に長老の声が空間に響きました。

「法力をニュートラルにしてから法術の種類を変えなさい」

私は無色の法力を発して、その後今度は試しに内功系の法術を施行しました。体の内から気を放ち始めます。体の中に徐々に溜まり高まり始めます。すると、法力が体内にあふれ始めて体が軽くなりました。

肉体強化の1つ、スピードアップ&重力操作です。重力操作は操作系に思われますが、重力自体を操作するのではなく、身体を地上の引力からの関連性を無力にするという法術なので、肉体強化の1つと考えられます。凄まじいスピードで瞬間移動のように移動して、かなり高く飛ぶことができました。この空間は天井がなく、100m以上は跳んだでしょうか。重力を弱くしたので、落ちるスピードが遅くなりました。

そこで、今度は重力を元に戻します。すると、勢いよく落ちていきます。直前でまた重力を無効にして逆に斥力を発しました。すると、地面に衝突することなく着地できました。なかなか最初はこの法術は施行が困難でした。強化系が得意なはずなので、肉体強化も得意なはずなのですが。

修行は一時休みで、私は翔君を置いて1人で森に気晴らしに来ました。すると、この前のスライムがうようよ現れました。私は覚えたての法術の1つ、外功系のナチュラルマジックの炎を使うことにしました。炎をバリアにして、まずは火炎放射を発しました。スライム達さえ倒すことはできなかったが、それでも退散させることができました。すると、笑い声が辺りに響き柄の悪い者達が現れました。

例の海賊です。ダークバルキリーは離れた場所で眺めています。

「お前、法術師なのに、バレストごとき倒せないのか?ここで最も弱いのにな」

そして、剣を取り出して私を囲みました。仕方なく、上界の力を使うことにしました。地面に落ちている札は、効力がなくなった訳でなく、私の注ぐエネルギーを切っただけでガス欠状態です。

すぐに精神力を注ぐと、札は元の札になりました。札を空中に投げると、上界の力を使える結界になりました。

「浮遊、散布」

残りの多数の札は空に満ちました。海賊達は多少驚いた顔をしましたが、すぐに余裕を取り戻しました。

「火炎弾」

私はそう叫ぶと、海賊に大きな火炎の弾が連発されました。すぐに叫び声を上げて彼らは逃げていきました。ダークバルキリーだけは、さっと私の前に来て大きな剣を抜きました。

私は試しに法術だけで彼女と戦うことにしました。

「具現化・青龍刀」

空中から現れた湾曲した大剣を受け取って構えました。筋力とセンスを法術で強化させました。彼女は剣を振り下ろします。さっと地面を蹴ってそれを避けると、私は空中で回転しながら剣を振るいます。

それを屈んで避けると、着地する私に足払いをしようとしました。そこで剣を地面に刺して着地しても、その足を受けようとしました。刃を避ける為にその払った足を咄嗟に上げて柄と握る手に足を向けます。

それを刺した剣を刹那上げて、さらにその足を受けようとしました。ダークバルキリーは蹴りを止めて足を止めてバック転して距離を取りました。私はそれと一緒に前に瞬歩で詰めて、剣を振りました。彼女は体勢を整えると同時にそれを剣で受けました。しかし、その剣を腕力任せに押してみました。それを均衡するように、彼女が押してきたので私は驚きました。法力をさらに発してみました。彼女の剣は折れてしまいました。右にさっと彼女が避けて、それに合わせて剣を振りました。

そのまま、さっと後ろに跳んで距離を取ると、クリスタルの森の中に姿を消しました。

元のクリスタルの塔の麓の街に着くと、今度はセンスの強化の法術の訓練をしてみました。市場の中で人の見学をしていました。その人達の背格好、仕草から体重、癖、性格、性質まで見極めることが可能でした。しかし、私の術では、分析系は一度に6人までのようです。次に使えるようになるまでは、5分は精神力の回復がかかります。さらに、人の今、考えていることを見る読心術はさらに1人だけに限られます。

回復には10分かかります。

しかも、人により上辺だけ、心の奥まで、深層心理、無意識まで見られる人といるらしいです。子供のような素直な心であれば容易に奥まで、用心深い大人であればほとんど見ることができないように個人差もあるようです。

バーで不思議な紫と緑のマーブル色のジュースをオーダーして飲んでいると、見知らぬ男性が目の前の席に座りました。彼もローブを着ているところから法術師でしょう。しかも、若い青年で18歳くらいでしょうか。

「君は全ての性質の法術を会得したんだってね」

ニコニコと私を見ています。しかし、只者でないことは私の分析の法術が全く効かないことからも明らかであります。試しに言霊を使っていました。

「分析」

すると、彼の術力は長老より上でした。さらに私と同じ位の実力、或いはそれ以上です。勿論、今の私とは潜在的な意味です。今は法術をまともに扱うこともできません。

「俺が法術の特訓をしてやろうか。あのじいさんを師にするなら10年は覚悟しないとな。俺なら1ヶ月、いや、コツさえ掴めば1週間だ」

「さらに分析」

言霊で分かりました。彼は嘘も言っていません。嘘を言っていないと思わせる法術も使っていません。

しかも、彼はこの世界では有名な最優秀法術師です。おそらく、たまたま私の潜在能力を感知したのでしょう。彼に従うことにしました。私は頷くと、彼は名乗りました。

「俺はマスト・トルー。称号はハイロワーだ」

「私は白鳳勇志です。称号は、言うなればビギナーですね」

「凄いビギナーですね。貴方もハイロワーを名乗れるレベルですけどね。それじゃあ、行きますか」

彼は指を軽く鳴らすと、周りは牧場でした。

「ここはクリスタルタウンから10kmのウィンドバレーだ。俺の故郷でもある」

小さな町で風車が並んでいます。羊のような豚のような6本足の動物が沢山草を食べていました。

「まず、法術の基本を分かっていない」

そう言って、彼は指を鳴らすと火がついて消えました。

「貴方は上界の術を使用するので、その癖や考え、感情や概念が抜けないのでしょう。そして、皮肉にも法術の施行と性質が似てしまっているために、それがあだになっている」

マストはおそらく外功系と内功系を使うのでしょう。

「では、どうしたら?」

すると、間髪いれず彼は答えました。

「簡単です。論理性を捨てて感受性だけに頼るんだ」

彼はそう言って、突如憤怒の表情を見せて手を遠くの山にかざしました。すると、波動が放たれて山が大爆発を起こしました。

「感情のコントロールと感情のエネルギー変換。簡単に言えばね。…安心して下さい。あの山には動物はいませんでした」

彼は元の笑顔になりました。

マストの修行を受けることになりました。まずは精神修行です。草原の先の川で法術を使わずに感情だけで、水に変化をもたらすという修行です。そんなことができるのか不思議でしたが、やってみることにしました。すると、水の中から真っ黒なローブを着た法術師が現れました。術で水には濡れていなく、また、その法術師は只者でないことをすぐに察しました。上空に撒かれた札の1つに精神力を注ぎました。

上空の札は本来は放り投げることが上界の能力を使える結界を張る条件ですが、法術で札を放り投げるように動かすことでも、同様に結界を作ることができました。黒法術師はマストを見ると、距離を取って言いました。

「ハイロワーともあろうお方が、外界の者に加担するとは」

そして、手を地に付けました。すると、周りの地から黄色い光が空に広がりました。

「今、貴方達は無感情の結界の中に封じられました。法術は使えません。諦めて従って下さい」

マストは指を鳴らすが、何も起きませんでした。しかし、私は事前に上界の力を使えるようにしました。

しかも、上界の力は感情を出さなければ、それだけ力が増します。私は両手をドラゴンの口のように黒法術師に向けました。

「無駄と言ったはずですよ」

彼がそう言いますが、マストはほくそえんでいました。

「ドラゴンフレア」

手に炎の玉が溜まり、それを放ちました。強烈な光を放ちつつ、高熱の炎は法術師を直撃して飛んでいきました。

「術解除」

私の言葉で感情無効の術は消えました。

「流石、ハイロワー並のビギナーだね」

マストがそう言って、飛んでいった黒法術師の次の攻撃に備えました。

次の為に私は回復をしながら、法術でエネルギー弾を溜めておきました。マストも法術を駆使して指を鳴らして、次の術の倍化をしました。内功系の術です。そして、黒法術師の攻撃を待ちました。遠くから光が放たれて、瞬時に彼がやってきました。と同時に爆破の攻撃が開始されました。我々はさっと散って爆破を避けながら、マストは指を鳴らして炎を発して、それを黒法術師に投げました。火は火焔になって彼を包みました。私もエネルギー弾をギリギリまで溜めて放ちました。マストの火に引火してさらに私の攻撃は爆発力を増しました。それでも、風を起こしてさっと火を消して距離を取りました。何故か、あまりダメージを受けていないような感じに見えます。

「こいつ、守りを固めているぜ。もし、全ての力を攻撃に回したら、俺達2人でもやばかったかもな」

「いいえ、私が言霊を使うのでそれはありませんね」

そう言って、すぐに叫びました。上界の両極の1方、法の最大の技。

「ファイナルショット」

凄まじい光が私の手から放たれました。その攻撃範囲の広さに避けきれずに、黒法術師は右半身を直撃してしまいました。彼は膝をついて息を切らせていました。人間であり、上界の力も力足らずで、本物の法の最大奥義にはかなり遠いとは思いますが、それでも威力はあったようです。

「流石にしぶといな」

マストがそう呟くと、指を鳴らしました。すると、黒法術師は急に苦しみ始めました。私はすぐに察して囁きました。

「酸素供給」

彼はすぐにチアノーゼから回復して倒れました。

「殺すことはないでしょう」

「こいつは俺達を殺そうとした敵なんだぞ」

「それでも、彼は人間で生きています」

「でも、俺の法術を見抜きすぐに解除するとは」

「解除じゃないですよ。その無酸素の術に上回る酸素供給をしたんです」

「なお、俺の術より強い上界の力を持っているということだよね」

私はただ笑うだけでした。正直、法術ではマストの足元にも及びません。上界の力もおそらく無理をすれば、四天王の4分の3くらいでしょう。黒法術師は手を下につきました。

その瞬間、私は叫びました。

「防御結界」

すると、彼の周りに小さなドーム状の結界が張られ、その中で自爆をしました。もし、結界を張らなかったら、この辺りの草原の半分はクレーターになっていたでしょう。

「さぁ、川で修行の続きだ」

マストはいい根性だと改めて思いました。


川で精神修行している私にマストは問いました。

「感情が封じられた時に、お前は上界の力で黒法術師に攻撃しただろう?」

「言霊は私の身を守ること、それに関わりのあることにしか使用できないということですね。確かに、攻撃をするには法術で言霊の能力を強化する必要があります。しかし、あの時は法術は使用不可だった」

彼は心を読まれたと思い、唖然としながら頷きました。私は心を精神統一して、人差し指と中指を立てて刀印と呼ばれる印を結んで振りました。川は真っ二つになりました。

「法術は感情の術。感情によっては上界の力と法術を相乗効果で倍以上に効果を発揮できます。次に感情は無効にできません。生きている限り。彼の術は感情を安定させて起伏をなくすものでした。しかし、無に近く研ぎ澄まされた感情は、喜怒哀楽に高まった感情以上に力を発揮することができます。今のように」

「悟られているようだね」

「難しく考えないことですよ」

もう1度、冷静に感情の起伏をなくして無の境地になって川に手を振りました。川は真ん中に6m幅の道を作って伸びていきました。

「最も強く高まった感情より無の感情の方が法術には有効です」

彼らの間違いをそう指摘しました。

「何故、法術を修行するんだ?もう、友達を狙う敵は倒したんだろう?」

マストの意見に私は首を横に振りました。

「彼の上はいます。運命を司る者3柱の上にフェイトという存在がいるように」

「次々に来る刺客を倒し続けるのか?大変だなあ」

私はそれに答えることはしませんでした。私自身、これからどうなるかは不明でした。上界の者達も愚者ではありません。そう何回も我々を狙いはしないでしょう。何より、下界で具現化できる上位の存在は我々を援護してくれるでしょう。それでも、刺客は来ます。なかなか、この法界を発見できず、来ることもできず、この世界で我々を見つけることも難しい状況で、刺客が来るのは困難なので今は頻繁には来ることはないでしょうが。

川での修行を続けます。怒り、悲しみのような感情の高まりより、心の無、静寂が強さをくれることは分かっています。ただし、純粋に透明な心の状態にするのはかなり難しいです。不純物の量の少なさが法術の強さを決めます。私は『感情』ではなく『心、精神状態』が法術の原点だと思っています。

その意味で上界の能力と似ている点が分かります。邪悪をなくし、純粋にしなければ上界の力は発することはできません。だからこそ、下界で上界の力を使う人間に邪悪な者がいないのです。もし、そんな存在がいたら、人間達は混乱を生じるでしょう。自分の欲のままに異界の超越した力を施行することは、下界の秩序を消滅させます。

世界の天秤の均衡は崩れ、パラドックスが起きて上界でさえ崩壊してしまうでしょう。

考え事をしていると、なかなか修行になりませんので、今日は修行を止めてマストの家で休むことにしました。彼の家は小さな山小屋で、家族はすでに他界していました。食事をする必要のないこの世界で、スープをご馳走になってすぐに休むことにしました。マストは自分の部屋に入り、私はリビングのソファに横になりました。


今日は森に入り法術の能力を増加させる修行をすることになりました。森で眼を閉じてマストから放たれる波動を手に法術で作るバリアで受けるというものです。なかなか最初はうまくいかず、どこから来るか分からぬ森の中で、しかも眼をつぶってそれを見極め手だけで受けるのはかなり困難でした。体中、痣だらけになりました。法術の感知を使い、1時間後には全ての波動を受けることができました。

この修行は1日行われました。ただ、これで法術の能力増加につながるのか不安でした。しかし、最後の方になると、それを肌で感じることができました。修行の終わりに法術で波動を放ってみました。

すると、今まで以上に強力で簡単に放つことができました。感覚の強化が法術の強化につながるのです。新たな敵が来る前に、法術だけで対等に戦えるようになる必要があるので、少々焦りもありました。

森で目隠しをしながら、まず木を避けることだけは90%の割合でできるようになりました。空間把握を目隠しからかなり研ぎ澄まされ、おそらく、法術の中でも空間把握が性に合っていたのでしょう。だから、最終的にはマストの居場所、動きから、彼の放つ波動まで把握することができました。

感覚で言うと、周りの空気を肌で感じて回りに空気の流れを感じ、それを遮るものを感知して、その質の違いから遮る物体を把握して、瞬時にまるでCGを頭の中に組み立てるように視界に見えない状況を映像化させるような感じでした。今日の成果で90%はマストの目的は達成したようですが、まだまだ納得していませんでした。

「君はここでは相性のいい法術を見つけて究極に高めることで、この世界で最も強く法術師になるはずだ」

「四天王を差し置いて?いくら全てのカテゴリーを使えるからって」

「それは関係ない。全てのカテゴリーを使えることが返って自分の相性のいいものを見失わせているんだ。皮肉にもな」

彼はそう言って、今日の修行を終わりにしました。


修行が今日も続いた。全ての空間把握知覚能力は完全に会得しました。周囲50mは全てを把握できます。そこで、先にマストが法術で波動を出す際の指を鳴らす音を、私はすぐにキャッチしてそちらに向かって波動を放ちました。マストの波動と相殺しました。そして、瞬時に移動をしてマストの背後に移りました。

そこで、マストは午前で修行を終わりにしました。2人で帰ろうとしたその時に、林から抜けたところで、草原の向こうから5人の人影が現れました。

「まずい、逃げろ」

マストの言葉より早く、気づくとその5人に囲まれていました。いずれも黒いローブを着ていました。

「黒法術師?」

「いいや、鬼術師だ。我々はローの術を使うことに対し、彼らは混沌界より来た混沌術師とも言うべき存在で、我々と相反する存在だ」

「鬼術師とは」

我々は戦闘態勢をとりましたが、全く勝てる気がしませんでした。

私は即座に上界の札を上界の結界にしました。マストは指を鳴らして我々を遠くに逃がそうとしました。しかし、空間封鎖の鬼術を1人にかけられてしまいました。私は冷静に眼を瞑って心を静めました。

そして、5人の1人に向かって叫びました。

「ファイナルショット!」

すると、本来はエネルギーを溜めないと放てないものを、私は全部溜める前に上界の法の最大奥義を放ちました。法よりも弱く、しかも、私自身の3分の1の技なので、敵に致命的なダメージを与えることはできませんでした。しかし、彼らチームに少なからず隙ができました。私の技を食らった1人は、10m吹き飛ばされたがすぐに体勢を整えました。この隙を私達が見逃すはずはありませんでした。マストと私は残る4人を2人ずつ波動で弾き飛ばしました。しかし、それは簡単に弾かれてしまいます。それは攻撃ではなく、逃げる為の目くらましでした。波動の威力は本気でしたが、瞬時の攻撃でしたので十分な威力ではなかったはずです。波動を弾く彼らを残し、すぐに私達は私の言霊で1km先の山の中に移動しました。

瞬間移動ですが、痕跡を辿って必ず彼らは来るでしょう。私達がその先をいって罠を張ろうとしたその時、早すぎる来訪者達に驚き、次の瞬間、凄まじい衝撃を食らって我々は木にぶつかりました。

マストはその時、寸でのところで体を空中で翻して草むらに飛び込み助かりました。これ以降は私は気を失ってしまったので、彼から後に聞いた話になります。その話はまた明日。


気を失った私は、無意識のまま立ち上がりました。すると、意識がなくなったせいで、法力をコントロールしてセーブしている箍が外れ、体中から法力の気が膨大に放たれていました。

5人の刺客は炎、氷、風の刃、雷、光線をそれぞれ放ってきましたが、私の周りの放たれる法力の気により全て防ぎました。次に1人に凄まじいスピードで迫り、肉体強化をしました。1歩踏み出し、踏み込んだ地面がクレーターのように凹みました。拳をみぞおちにアッパーを放ちました。空中に飛んだ彼に再び地面が凹むくらい踏み込んで跳び、膝蹴りをみぞおちに放ちました。彼はそのまま空高く吹っ飛びました。

残りの4人が次々に迫ってきました。私は空中で叫びました。

「具現化、レイピア」

レイピアを空中で取り出して構えて、下から飛び上がる者達に振るいました。1人は肩がぱっくり割れて落ちていきました。その後、地面で傷口を鬼術でヒーリングしていました。残る3人は私の周りで炎、氷、風の刃を最大限に放ちますが、私は剣を振って、その周りの法力が斥力を帯びてそれらを弾きました。

彼らは地面に叩きつけられました。うまく着地した私は、そらから遅れて落ちてきた1人をさらに蹴り飛ばして、木に激突させました。木が2本折れて3本目で止まり気絶してしまいました。

残る3人は血のついた口をぬぐって立ち上がり、私を睨みつけました。今度は私はあふれ出る法力を両手に溜め始めます。彼らは様々な攻撃をしますが、回りの法力の気で全て阻まれていました。上界の法と同じくらいのエネルギーを溜めて、法の最大奥義を放ちました。

「ファイナルショット」

今度は上界の両極であり、四天王である法に匹敵する力の技でした。勿論、彼らは一溜まりもありませんでした。一瞬にして逃げる暇なく直撃して、ダメージを受けつつ木々とともに吹き飛ばされていきました。

山の木々に1本の太い道ができました。マストは唖然として草の中で見ていたが、無意識のまま戦っていた私も、流石に法力に無尽蔵ではないので、切れてしまいそのまま倒れてしまいました。

マストは戦闘不能の鬼術師達を縛って術封じの足かせをつけて、気絶している私を背負って中央都市ブリトラに向かいました。ここには国王も皇帝も評議会も大統領も総理大臣もいません。

最高責任者は法司皇と呼ばれる8人の法術師の老師達で、四天王以上の力を持っていました。その中の一人は外功系のエキスパートです。

「まず、その者を回復させないとな。法力を垂れ流ししてしまっている」

彼はすぐに回復の法術を放ち、マストの背の私を回復させました。光の粉で私はたちどころに全快してしまいました。そこで、意識を回復しました。鬼術師達が封印の牢屋に連行されていく間にマストに今までの話を聞きました。

「すると、私は自分の意識で法力をセーブしてしまっているのですか」

「正確には、感情が法術の邪魔をしている。不思議なことなのだが、ここでは感情が法術の糧だがあんたは違う。感情をなくすほど法術を強く使えるんだ。心を無にしたら力が強まっただろう。しかも、無意識になったら、あれほどの力だ。コントロールができれば、あの力は法司皇以上だ。うまくコントロールできれば、無敵だぞ」

「そんなに強い力はいらない」

私は目の前の玉座に座る老人達を眺めて、そう呟いた。

今度はその法司皇の1人、ラジルが私に近づきました。

「あの強力な鬼術師を5人も倒して捕らえるとは、見上げたものだ。マストに任せているのは勿体無い。わしが修行をつけよう」

マストはただ厳かに一礼して、去っていきました。別れをもっと惜しみたかったが、ラジルについていくことにしました。宮殿の奥にルビーのドアがありました。その中には、数多くのドアがびっしりと並び、その中でも修行の間と呼ばれるドアに入っていきました。

そこは光に包まれた場所で、すぐに別の場所に瞬間移動してしまいました。気づくと、石造りの街にいました。

「ここで心の修行をしよう」

そういうと、丘の上の古代遺跡の神殿に行きました。そこで、座禅してただ遠くの街と反対に広がる岩場を眺めていました。

「ここは先住民のいた古い街でな。彼らはここを聖なる地としていたのだよ。彼らが何故、ここから忽然と消えてしまったのかは未だに不明じゃ」

「法術を使えば、簡単に判明するじゃないですか」

「いいや、何故か分からんのだ。封印の術がかかっているようでな」

ふと、天井を見ると、天井に巨大な恐竜のような化け物の彫刻がありました。しばらく、心を沈めて修行をしていると、突如、空が次元の裂け目を開け、中から上界の存在、空間を司る眼尤がんゆうが現れました。翔君を攻撃せず私の前に来たのは、翔君を滅するには私が邪魔なので、先に倒そうという魂胆なのがわかりました。

「こんなところにいたのか。この次元を探すのに骨を折ったぞ」

ここでは上界の力は使えません。彼はどう動くのでしょう。すると、何といきなり鬼術を使いました。操作系のゴーレム創作です。遺跡の神殿の天井にいた石像は、T-レックスとなって私の前に飛び降りました。唖然とする中、ラジルは黙って腕を組んで笑みさえ浮かべていました。


「眼尤氏よ。何故、混沌界の術を?」

すると、彼は元の姿に戻りました。彼は5本角の大鬼に5本の足、2本の尻尾の姿になりました。

「それはここに来る為には上界以外の力が必要だったのだ。そこでこの世界に近い、そして上界の力の使える世界で別の能力を会得する必要があったのだ。俺は移動先の状況を知覚することができるのでな」

「なるほど、そこで混沌界の術を会得した訳ですね」

そこで、恐竜のゴーレムに向かって法術と言霊で応戦しました。

「鬼術解除」

すると、ゴーレムは元の天井のレリーフに戻りました。

「法術か。なかなかやるな。この上界の使えない世界で使用可能にするという考えは、俺すら気づかなかったぜ」

「知的には私の方が上ですからね」

そう言うと、上界の力が使える結界の存在に気づかれたので、上空に散る札を全て手元に戻して、結界を解除しました。これで私は法術、彼は鬼術しか使えないようになりました。対峙する中で、ラジルは傍観者となっていました。

私は好戦的ではないので、相手の出方を待ちました。眼尤は地面に手をつけました。すると、土から強力なゴーレムを作り出しました。どうも、鬼術も法術と同様のようです。通常は1つの傾向、カテゴリーしか使えず、特に得意な術を1つしか使えないようです。それが、無機質を自分の思いのままに操作する操作系の術です。私は今の法術ではかなわないと判断して、あることを思いつきました。

上界の術を可能にする札を使って、言霊、法術の融合技を使用することです。ただ、今までのような大きな結界では眼尤にも使用できます。そこで、私の周り50cmだけに結界を張って私だけを使えるようにしました。

「精神状態、3分凍結」

すると、この前に気絶した状態になりました。ここからはラジルから聞いた話になります。私は法力が膨大に発揮されました。無機質な目でゴーレムに手を向けると波動を放ちました。ゴーレムは一瞬にして塵と消えてしまいました。流石に雰囲気が変わり、強力な力を感じる私に眼尤は後ずさりしました。

しかし、負けずと思い切り力を溜めました。そして、地面に再び両手をつきました。地響きがして遺跡の近くの地面が崩れて、中から地下都市の跡が現れました。先住民族の遺跡で、昔住んでいたのでしょう。

しかし、何故、地底に住まないといけなかったのでしょうか。その中から、明らかにおかしな光を放つ石室があり、それが浮かび上がり眼尤の前に下りてきました。

「まさか、古代人のここの民族の絶滅の原因は…」

ラジルは焦りを見せました。石室は永久封印でした。それが解かれると悪魔のような化け物が石となっていました。無機質を操れる敵はそれを操りました。しかし、それが仇となります。

それは実は生き物を禁断の古代法術で石化してしまう魔物だったのです。法術によって人間が変化したとも、奇形の法術師とも伝えられている、ヘンドケイルという化け物の物語は、この石の街に伝えられていました。それは遺跡の古代文字の物語から来ているそうです。その化け物は実在したのです。

おそらく、ここの民族は魔物から地底に逃げ、それでも石化され続けて、残された法術師は禁断の古代法術の1つ、永遠の封印を施したのでしょう。数人の命をかけて。石化した人々は生命活動を停止させたり、風化し劣化したのでしょう。ヘンドケイルは封印の前に、自分の石化の法術を跳ね返されて石になったのでしょう。しかし、眼尤が操作をしようとすると、法術で石化した者を相反する鬼術で封印を解き、

操作しようとしたので石化が無効化して元の魔物に戻ってしまいました。ラジルはすぐに街の人々を非難させて回りに強固の結界を張りました。

眼尤は実は前もってヘンドケイルの話を聞いていたのです。石化して封印されていることを。だから、地下都市への穴を開けて石化している魔物を操ろうとしました。ところが、石化が解けることまでは予想もしていませんでした。ヘンドケイルは口から光線を眼尤に注ぎました。すると、彼は石化してしまいました。

私は無意識のまま無尽蔵に法力を放ち、肉体強化をしてクレーターを地面に作って踏み込んで拳に法術のエネルギー波をまとわせて、凄まじいスピードで突っ込んでいきました。ヘンドケイルは腕を振り下ろしました。その腕に拳を振るいます。ヘンドケイルは5m吹き飛びました。しかし、私は空に弾かれます。

そこを狙って魔物は石化光線を放ちます。後ろに波動を放ってそれを空中で避けて、さらに波動で重力とともに突っ込みました。ヘンドケイルは両手から波動を放ちました。それは凄まじいものです。でも、すぐに地面に降りて避けました。

そして、エネルギー弾を溜めて、一気に放ちました。ヘンドケイルは10m吹き飛んで、そのまま転びました。今度は私はその隙にエネルギーを溜めて、叫びました。

「ファイナルショット」

これは上界の四天王、法をも凌ぐ威力でした。それはヘンドケイルを直撃します。両腕で防ぎましたが、そのままダメージを受けて空に舞い上がり地面に叩きつけられました。そのチャンスに私は3分経って意識は元に戻ってしまいました。

そこで、ラジルは言いました。

「こいつは石化の光線を放つ。こいつの石化は倒しても戻らんぞ。法術は作用術と影響術の2種類があり、

例えるなら、鉄のばねを指で押す。離すとばねは元に戻る。これを作用術。鉄のばねを熱で縮めて冷やすと、そのばねはそのままの姿で固まる。これは影響術。奴のは影響術であり、奴が力を抜いても死んでも石化はそのままなのじゃ。絶対にかかるな」

そこで、私はある術を自分にかけておきました。

「影響術はそれに上回る力には無効で、元に戻すことも可能ですよね。熱で縮めても形状記憶合金なら冷えれば元に戻りますし、そもそも熱に強い熱のばねなら変形はしません」

そう言って、魔物に対峙しますが、元の意識の私は勝てる気がしません。1つの強力な法術の民族を滅ぼしているのです。古代都市1つを滅ぼす魔物に勝てるはずはないと直感で思いました。

元に戻った私は勝てる見込みがないので、体勢を整えることにしました。しかし、相手は待ってくれません。すぐに、強力な魔物は迫ってきました。石化に注意しながら、徐々に距離を取って法力を高めていきます。そして、札を1枚使って上界の力を有効にして叫びます。

「具現化、大剣」

それを掴んで走りました。法術の肉体強化も先ほどのようにはいきません。それでも、あのあの魔物と戦うには少しはましです。高く跳んで剣を振り下ろします。それを軽く腕で防がれて、思い切り飛ばされました。空中を飛ばされる中、石化の光線を放たれました。私は波動で方向転換しましたが、その光線は広がりました。万事休すと思われたとのとき、光線の方向が変わりました。寸でのところで助かりました。

見ると、ヘンドケイルに竜人化した翔君がフレアを放っていました。私が修行している間に、彼も相当修行して自分の法術の腕を上げたらしいです。石化光線は空に向けられます。光線を止めて拳を翔君に向けますが、彼は凄まじいスピードで飛んで避けました。

再会の挨拶も手身近に、すぐに2人で対峙していました。私は法術の3分の無敵化で何とかなることを話します。

「何かのヒーローかよ。で、もう回復したのか?」

「いや、まだです。もう少しなんですが」

とにかく、今は2人で戦うしかありませんでした。

すぐに私は法の最強の技を放ち、翔君は最大のドラゴンの技を放ちました。

「ファイナルショット」

「バーニングフレア」

2人の技は融合して相乗効果で凄まじい攻撃になって、ヘンドケイルに直撃しました。両腕で防ぎましたが、転倒してしまいました。2人とも結構なパワーを使ったので、これ以上は勝算はありませんでした。

ところが、魔物はすぐに置き上がって私達を睨んで、あの光を口に溜めました。私はすぐに翔君をかばって前に立ちました。すると、そこで私はあることに気づきました。私は死ぬことができない状況でした。

しかし、石化は死ぬのとは違います。どうなるか推測できませんでした。私は石化してしまい、後ろの翔君も石化してしまいました。そこで、私は前に言霊でかけておいた効果が発揮されました。石化したのをきっかけに、石化を解除すると言う言霊です。元に戻った私は振り返って石と化した翔君を見て愕然となりました。その瞬間、私の中で何かが切れました。憤怒の念が沸き起こり、拳を握って法力を無尽蔵に発しました。

「意識を持ったまま、最強状態になったか。これで、力をコントロールしながら戦える。3分以上は戦うことはできるだろう」

ラジルがそう囁いた。私は拳に法術をまとい、体勢を低くして拳を引いて力を溜めました。一方、ヘンドケイルも石化光線を溜めています。私は地面をクレーターができるほど踏み込んで飛び出し、拳を放ちました。魔物も口から光線を放ちました。

「はあー!」

私は法力をまとった拳でその光線を蹴散らして、そのまま魔物の顔面に拳を直撃させました。

「石化の力を上回っただと?すでに奴はヘンドケイルの力を超えているのか」

そのまま、頭部を爆発させて地面に着地しました。頭を失ったヘンドケイルは、そのまま前方に倒れ落ちました。私はすぐに手をヘンドケイルに向けて、エネルギー波を放ちます。その体は粉々になりました。

ゆっくり歩いて翔君に近づくと、精一杯の法術で解呪の術を降り注ぎました。すると、頭から徐々に彼は石化が解かれていきました。足まで終わると私は憤怒の感情はなくなり、元の自分に戻りました。

かなり力を使った為に、前回の無意識のときのように気絶してしまいました。


目が覚めるとラジルが見守っていました。少し遠くにはマストが腕を組んで立っています。医療法術師は頷いて、もう大丈夫という顔を全員にしました。隣には石化から解放された翔君が寝ていました。

全エネルギーを解放して石化の呪いを解呪したので、かなりのダメージでしょう。

それにしても、怒りの力が無意識の無の力と同等に法術を発揮できたのには意外でした。感情も無の意識も大切ということが分かりました。憤怒の感情はいけないもので邪魔な者だと思っていましたが、人間に備わっている訳もあり、重要で必要なのだと実感しました。そのおかげで翔君も助かった訳ですし。

1つの民族、街を滅ぼした魔物を倒した私は、法界の議会で議論が行われて、私は名誉法司皇の座をいただきました。しばらく、医療班によって翔君と入院していました。

後に、ここでいざこざを起こすことになるとも知らずに…。

異界の者が名誉法司皇になったことに批判する連中が、法術師会病院にデモ行動を起こして集まってしまいました。その中で、異界の私が力があり、威厳を損なうと遺憾の思いを持つ法司皇のスキルが、デモ隊の先頭に立って病院を占拠してしまいました。スキルとその親衛隊の法術師達が医療法術師はすぐに追いやられ、私と翔君のベッドの周りに彼らは並び、両手をこちらに向けて臨戦態勢を取りました。

依然、翔君は目を覚ます気配はありません。私は翔君が石化したときの憤怒のパワーを開花させる為に、

札を1枚布団の中で発揮させて上界の結界を張りました。そして、布団の中で指で布団に言葉を書きました。言葉は口で発するより書く方が力が強いのです。まして、今、敵を目の前にして言葉を発することはできない状況です。すぐに布団の中で指をなぞりました。

『憤怒法術解放の再現』

すると、急に体から法力が一気に沸いて出ました。

「さて、どうしますか?貴方達では私と連れを攻撃すらできませんよ。しかも、大義名分もありません。今日のところはお帰り下さい」

スキルとて愚かではありません。私の法力を感じ取ると、すぐに帰るように部下に伝えて撤退しました。これでスキル反乱は終わる訳はありませんでした。

私達のことは8人の法司皇と4人の四天王による会議で意見をぶつけていました。その間、私達は翔君が目が覚めないので、彼のオーバーコードを使った、アストラルコードによる次元を超える力が扱えず、元の世界に戻ることはできない状況でした。私は自分で回復の法術を使って、医療法術師の治療の他に自ら元のように元気になりました。翔君はあとは法力の回復だけです。

彼が回復して目が覚めるまで、クリスタルタワーの医療階の中にあるジムで修行をしました。いつでも、あの憤怒の意識のある全開の法術を使える状況になれるように、考えながら、感覚を鋭くしながら精神的な修行を中心に試行錯誤していました。まず、水槽をジムの片隅に置き、水に影響を法術ではなく精神力だけで与えることにします。中指と人差し指を立てて、刀印を構えてそれを無心で水に向かって振ってみました。すると、水が割れました。今度は憤怒に近い感情をむき出しにして手を振ってみます。

水は水柱を立てて元に戻しました。今度は感情や思考などを無にして、気を高めました。手を動かさずに視線を水面に向けました。すると、水が一斉に空中に浮き小さな水玉になりました。それは大きな玉に融合して一瞬にして光の粉となり散りました。


2日間の査問会議の間、私はヒーリングを行い翔君を回復させて目を覚ましてくれました。その後、マストとラジルが現れて、こう言いました。

「結論から言おう。この地の果てにある魔物の王、バーストを倒すことと、その後、この世界から出て行くことだ」

「そういえば、あのヘンドケイルもそうですが、何故、ここには魔物がいるのでしょう?」

すると、マストが言いました。

「元はこの世界にも動物がいたんだ。だが、法術師の素質がある人間が増えるに連れて、動物を殺害する法術師が増えて、それを保護する為に動物保護区に隔離して結界を張ったんだ。そうすると、街の外に自然の生物が皆無になる。そこで、かつての法術師の長が人工生物を法術で作成したんだ」

それにラジルが続けます。

「それが間違いだったんだよ。法術で生物を創造するなんて所業はいけなかったんだ」

そこで、マストが話を割って入ります。

「その生物は凶暴化して、進化、増殖していった。その中に魔物が現れた。その後、当時の法司皇達は各街に法受塔を建てて、このクリスタルタワーの最上階にある結界法力発信力を受けて街は結界に守られている。結界法力発信の原動力は長老だ」

とにかく、我々は旅に出ないといけなくなりました。そして、金属の腕輪を私の右腕につけました。

「これは水や空気を通すけど、お前自身の体を通ることのない物体だ。大きすぎる法力のリミッターで、解除しない限り10%の法力しか使えない。だから、旅の前に修行を1週間してもらう。翔、お前もだ」

その腕輪、リミッターブレスレッドの効力を解除できるのは、法術師の中でも解除師と呼ばれる人だけだそうです。我はラジルに、翔君はマストに修行を受けることになりました。

修行を終えた私と翔君は、師と別れて解除師であり、我々の監視役の医療法術師の20歳前後の少女、メーラ・エトと旅に出ることになりました。あのクリスタルタワーの奥にある部屋から石の街に瞬間移動して近道をしました。石と遺跡の街、レンドルアールは昼ともあり、かなり大通りはにぎわっていました。

近くの食堂に入ると、私達は各々食事とイロというワインのようなものをオーダーしました。

そこで、カウンターの客に大声で話をしているマスターの声が耳に入ってきました。

「地下の下水から小僧が出てきたんだ。見たこともない妙な奴で、何でも、根っこを食べると言って、今度はあの魔物のあけた穴から地下都市の中に消えていったんだよ」

すると、近くでロゼのイロを飲んでいた遺跡を捜索していた考古学者の男性が振り向きざまに言いました。

「それは正確には『根を噛んでいる』と言っていたんじゃないか?聞き間違いだ古代ケイル語で『ネオ カイン デ イール』で『飛び降りる 地下 は 私』、つまり、私は地下を飛び降りるという意味だ」

そこで、翔君は言います。

「急いで地下遺跡に向かおう。自殺の可能性がある」

私達は地下遺跡に急ごうとすると、我々に注目した考古学者が笑顔で立ちはだかって言った。

「あそこは危険だ。それに案内役が必要だろう?」

「金はないぜ」

翔君が言います。

「そんなものはいらんよ。その子供が気になるし、あんた達みたいな法術師がいれば心強いしな。戦士にドラゴンライダーに医療師のパーティは珍しいしな」

彼は自分を35歳の宮廷考古学博士のマイク・オールも一緒に行くことになりました。そこで、翔君は素朴な質問をぶつけました。

「その古代ケイル語で思ったんだけど、俺達の言葉とここの言葉が共通なのはどうしてだ?」

「いやいや、君達はこの次元に来たときに、ここの言葉に思考が変換されたんだ。かの北のベール族も約2000年前に異世界より来たんだが、すでにここの原住民と同じ言葉を話していたという文献もあるんだ」

マイクが得意げにそう説明しました。

「貴方は法術師ですか?」

無口のメーラが効きます。すると、マイクは下品に笑い飛ばしました。

「俺はそんな性じゃないさ。普通の人間だ。だが、法術師に負けんほどの腕っ節はあるつもりだぜ」

力こぶを見せてそう言って見せました。4人はそのまま、謎の地下都市に向かっていくことにしました。

「それにしても、古代の魔物からこの街を守った勇者達とお供できるとはなぁ」

そのマイクの言葉に翔君と私は顔を見合わせました。その様子を見て彼は大声で笑います。

「この街では有名な話だよ」

「でも、何故この世界には法力を持つ人と持たない人がいんだ?」

翔君がマイクに訊きました。すると、彼は軽く答えました。

「さっきも言ったけど、ベール族も異世界から来たと言っただろう。実はこの世界には、異世界よりの移住者が多いんだよ。勿論、お前達もそうだけど次元を超えることのできるということは、それなりの非物理的能力を持っているということだろう。異世界人、非物理的能力者がここでは法力を持つことができるんだよ。つまり、異世界の移住者とその子孫が法術師なんだよ」

「じゃあ、原住民ではなく、異世界人が実権を握っているのか」

と翔君。

「まぁ、力ある者が上に立つのは仕方ねえんじゃないか」

マイクがそう言って、旧遺跡の入り口を開けました。私達は遺跡の誰もいない街の中を歩いていきました。


石でできた5階建ての建物の並ぶ街の中を進んでいきます。マイクは先頭で周りを確認しながら歩いていきます。階段や通路、スロープが建物の中や道路、建物をつなぐ橋、屋上、空中歩道、庭園を走っていました。それを進んでいきます。普通の道路を進むと同じ通路を進んでしまい、その街の中を縦横無尽に走る通路を進むと、一見遠回りのようですが、ちゃんと先に進むことができます。無駄に見えて芸術的に合理的な通路でした。天井に開いた穴と最初から捜索のための入り口以外は光が入ってこないので、真っ暗でした。

しばらくして、翔君はドラゴンの空莉を憑依召還してレベル2になりました。そして、手から火をつけて視界を確保しました。早足で歩いて1時間が過ぎたでしょうか。メーラは急に足を止めて目を細めて前を睨みました。

「どうしたの?」

マイクが振り向いて訊くと、彼女は指を前に差しました。そこには小さな少年がこちらに向かって構えていました。

「イエタ エル ミグ カインア バンレ」(出でよ 炎 海の 地下より 弾丸)

すると、マイクが叫びました。

「これは禁断の古代法術の詠唱だ。かなり強力のマグマ系のものだぞ。早く防御の法術をしろ」

そこで、メーラは私のリミッターを解除しました。私は修行の成果を見せることにしました。現在よりもかなり強力な為に禁断とされた古代法術から守るために、私は少年の法術をキャンセルすることにしました。しかし、彼の力より勝っていないとキャンセルは成功しません。一か八かキャンセルの光弾を放ちました。少年が古代道路からマグマを噴出させて、それを目の前で弾にして放ちました。私の光弾はマグマの弾丸に当たり、法術をキャンセルすることができました。蒸発して双方が消え去りました。

そこで、少なくとも彼よりも私の法術の方が上なことがわかりました。もし、言霊も併用したら、さらに彼には勝機はないでしょう。少年もそれを悟ったようで、座り込んでしまいました。


その少年を見てマイクが言いました。

「もしかしたら、この小僧はこの古代都市の住人じゃないか?古代語に古代法術。それにあの容姿、間違いないぜ」

「容姿って、俺達の世界のアメリカ人とイギリス人って感じであまり俺には分からないがな」

と翔君。

「ゲルマン民族とかアッシリア人とかですかね」

と私は話を終わらそうとしました。大体、見当はついています。あの少年は運良くヘンドケイルの石化がうまい条件でかかり、保存状態がよく風化や劣化をあまりしない状態で今までここに存在していたのです。或いは石化の際に、潜在能力の法術が強く、無意識に保存状態をよくする力を使ったのでしょう。そこに、私が翔君の石化解除をした際に、彼も石化が解除されたのでしょう。彼は強力で精神が不安定で、現状を把握していないようです。言霊使いであり、彼と話すことは容易です。法術でも翻訳することは容易にできました。

「君はこの街の住人ですね」

「誰もいない。地下に埋まっている。この街はどうなった?お前らのせいか?」

彼は敵意をむき出しにしてますが、混乱しているためなので無理はないです。

少年に法術で私達の言葉で読み書き、聞き取りができるようにしました。彼の名前はパウ・ストルというらしいです。一応、彼に分かりやすいように事情を話しました。

「じゃあ、俺達が動物を保護して、新しい動物を作ったから?」

「それが暴走して魔物が生まれたんだ。でも、しょうがなかったんだ」

翔君がそう言っても、パウは心の整理はつかないようでした。

「で、今から兄ちゃん達はその魔物達を退治しにいくんだろう?」

「魔王を倒しにな」

と翔君は蛇足をつけました。

「じゃあ、もう行きますか」

メーラがそう言うと、マイクが言いました。

「俺も連れて行ってくれ」

それに続き、パウも言います。

「俺も皆の敵を取りたい」

翔君は困った顔をしています。メーラはいつものように無表情で冷たくこちらを見ています。私は笑顔で言いました。

「皆で行きましょう。パウ君の力は特に戦力になりますし、マイクさんはサバイバルの先導に有利に活躍してくれるでしょう」

ここで、5人で地の果ての魔王バーストを倒す旅に出ることになりました。魔王を倒すと、それを力の源としている創造生物は息絶えるでしょう。すると、動物がいなくなり食物連鎖が止まり自然のサイクルが止まるでしょう。保護した動物を繁殖させて放つ準備をする必要があります。やはり、始めから生物を創造するのではなく、繁殖させるべきだったのです。とにかく、この世界を救う為に我々は地の果てと呼ばれる地に向かいました。


石の街を出て2日が経ちました。金網の草原を進んでいました。食料も水もこの世界には必要ありませんが、体力は減りますし、睡眠も必要です。旅には休む場所が必要でした。

最初の野宿は金網の草原に立つ円筒形のアルミニウムの木の根にできた穴で過ごしました。今日はその木さえ見つけることができません。そこで、マイクは奇妙な棒を取り出しました。それを金網の上から突き刺します。すると、刺した場所から溶けた鉛が湧き出てきました。

「さぁ、手伝って」

彼は不思議な手袋を皆に配りました。それを粘土のように雪で作るカマクラを即席で作りました。

「ここには鉛脈があるんだ。それを伝導棒で刺激することで表面に出したんだよ」

「メカニズムはわかりませんが、少なくとも我々の自然や物理とは別の理論らしいですね」

私がそう言うと、マイクは豪快に笑いました。

「そのために、サバイバルのガイドとして俺がついているんだよ」

彼がそう言い終らないうちに、何かが吼える声が聞こえました。

「街以外はクリスタルタワーの中継塔がないから、結界がない。化け物や魔物が襲ってくる可能性があると思っていたが、広いこの草原でこんなに早く出会うとはな」

マイクはそう言って、私を見ました。勿論、襲ってきたら頼むという意味です。それを見て翔君が言いました。

「俺だって修行して役に立つんだぜ」

「期待しているぜ、坊や」

マイクはどうやら、法力はないようですが、人の持つオーラや力、雰囲気を感じ取っているようでした。

確かに、メーラを除いて一番法力がないのは翔君です。そして、リミッターを解除すれば、パウ君よりも強いと自負しています。全員、鉛のカマクラの中で息を飲んで敵を待ちました。


しばらくすると、私は叫びました。

「ここから離れてください」

すぐに5人は外に飛び出しました。間一髪、カマクラは上からつぶされました。鉛でできたものにも関わらず、簡単に1mmほどの板になりました。その上には首が3つに4本の腕、5本足で3本尾のウルフマンがいました。

「まず、一気につぶして行くか」

彼は言葉を話すことができました。そして、4本の腕を別々に動かしました。すると、私は体が硬直して口も動かせなくなりました。翔君は体中に草原の金網が撒きついてしまいました。パウは空中に浮きシャボン玉のような結界に包まれました。メーラは油断されたのか、ただウルフマンの毛で作られたロープで後ろ手に縛られただけでした。マイクは法術が使えないということであり、何もされませんでした。

彼は腕力に任せて拳を放ちますが、ウルフマンの蹴りを受けて10mは吹き飛ばされました。いくら腕力に自身があっても、魔物の彼には叶わなかったのです。次にウルフマンは法術封じの法を使いました。4本の腕を別々に振りました。すると、ゼリー状の結界が半径5mほどに張られました。

私は金縛りのまま、バランスを崩して倒れました。と同時に、懐の上界の力発揮の札の1枚に精神力を注ぎました。すると、上界の力を使える結界が張られました。倒れることで札を投げた行為と同じ効果を与えたのです。次に動かせる舌先を使い、上あごに言葉を書きました。

「こうちょくかいじょ」

表面に出ているところだけを硬直させただけで、体内までは金縛りの効力はなかったようです。口を閉じていたので、舌は動かせました。硬直解除という漢字を書くのは難しかったので、ひらがなにしました。

すると、体が動かせるようになりました。

そこで、法術を使える珍しい魔物を睨みました。

「魔物以外、法術封じ解除」

彼は自らの結界により、法術が使えない状況になりました。そして、全員を自由の身にすると、ドラゴンと憑依召還しレベル6になった翔君とパウと3人でウルフマンを囲みました。メーラはいつでも私の法術のリミッター解除できるように用意をしていました。マイクもすぐに戻ってきて、腕を組んでそれを見守りました。万事休すのウルフマンは諦めて座り込んでしまいました。


ここで私は言いました。

「ここから先は法術を使う魔物さえ出てきます。マイクさんは帰られた方がいいでしょう」

マイクは実際、ウルフマンに全然歯が立たなかったことを実感して、何も言えませんでした。

「そのようだな、気をつけるんだぞ」

彼はすぐに引き返していきました。それを見届けて、私はウルフマンに波動を放ちました。作られた命は元の命になる前の姿になりました。それは、この世界で取れる宝石、ナイスインを拾いました。ちなみに、ナイスインは『ナイ スー イン オン』が語源です。『命の 元 血の 石』という意味です。

私はふと、パウのローブ姿を見て言いました。

「何故、ここの法術師はローブを着ているのでしょう?」

すると、無口のメーラが言いました。

「法術師である証明であるとともに、法力の放出を守る役目があるのです」

法力のコントロールは難しいようです。元々、法術を使えなく、ここで使えるようになった私や翔君には関係ありませんでした。とにかく、この無機質な草原を抜けることにしました。

無機質の草原を抜けると、そこには氷のつららが上に向いている円錐が並べている大地が広がっています。温度が急に下がり、私は法術で体の周りの温度を調整しました。

翔君も瓶に封印している空莉を憑依召還して、人間の姿のままドラゴンの性質になるレベル1になって寒さを避けました。パウは法術で自分の地面の温度を上げて寒さを避けました。

そのおかげで、彼の通る場所は氷の棘が溶けて行きます。1mほどの氷を溶かしてくれるので、彼を先頭に進みました。万一、魔物が現れても、彼なら危険はないでしょう。メーラは看護法術師なので、寒さを避ける法術は持ち合わせていませんでした。そこで、私が彼女の周りの温度も上げてあげました。

しばらくすると、氷の魔物が現れました。氷のゴーレムという感じでしょうか。翔君はすぐに炎のブレスを放ちましたが、片手で簡単に弾きました。彼のフィールドでは、我々は不利でした。氷の巨人は凍える息を強烈に吹き付けました。すぐに翔君はドラゴンに変化して、我々を抱えて空に飛び上がりました。

下方からは異常なほど冷気が上がってきていました。


私は肉体強化の法術を使い、ドラゴンから飛び降りました。すると、ゴーレムは腕を振ります。

周りの円錐の氷が無数のつぶてとなって飛んできます。それを私は全て両腕で全て粉々にすると、ゴーレムの周りから雪の塊のような創造生物が現れました。翔君は上からコールドブレスを放ちます。ゴーレムは雪の塊達とともに巨大な氷の厚い壁に囲まれました。半径1kmはあるでしょうか。

私はすぐにその壁を法術で強化しました。次の味方の動きを予測していたからです。翔君は降りてきて、パウが手を地面につけました。

 「イエタ エル ミグ カインア レントバル」(出でよ 炎 海の 地下より 噴水)

 氷の円形の壁の中にマグマが吹き出しました。そして、氷の壁が溶かされぬように私は壁の強化に全力を使いました。こんな場合でもメーラはリミッターを解除してくれませんでした。マグマは氷の壁に満たされて、しばらくすると、そのまま冷やされて固まりました。全員で氷の壁の上に行くと、中には巨大な岩石がごつごつと鉛色で広がっていました。

 「あいつら、この岩の中に固められたんだ」

 パウが感心したように答えました。彼は地面の法術の使い手で、自分でやったことなのに不思議そうに眺めています。

 「さぁ、先を急ぎましょう」

 私達はすぐに溶岩が冷えた岩の上を歩いていきました。そして、向こう側の壁にたどり着くと、地面に降りました。法術で壁を上り下りしましたが、降りるときに油断しました。地面が下りになっていたのです。

我々は滑って大きな棘を避けながら下っていきました。


 その内、棘がなくなり平面になりました。ちょうど、スピードリンクのような平面を滑っていきます。

そこで、パウが詠唱をします。

 「ウレ クヤ カイナ シン」『消えろ 拒む 地面と もの』

 すると、我々の滑る氷から摩擦が0になり、速度を落とすことなく進むことが可能になりました。

私は立つとスキーの直滑降のように滑ってみます。スピードが速くなりました。パウはそれを見て、同じように立ち上がり、まっすぐ立ったまま滑っていました。その姿は滑稽で愛らしくも思えました。翔君もスケートのように進んでいきます。蹴る度にスピードが増していき、私を追い抜いていきました。メーラもおぼつかなく立ち上がると、歩くように滑っていました。

 感情のないと思われる彼女にも、面白みを求める心はあるようです。すると、氷の平原の向こうから小さな牙の蛇が沢山やってきました。すぐに臨戦態勢になりましたが、私は叫びました。

 「このまま加速してやり過ごしましょう」

 我々はスケーティングでどんどんスピードを上げて、気づくと蛇達の姿は見えなくなりました。しばらく行くと石ころの転がる荒地に出ました。氷の切れ目で全員でジャンプして、地面をかなり滑りました。

 そのくらい、氷の上を猛スピードで滑っていたのです。その先には巨大な岩のそびえる場所が広がっていました。  

 岩のごろごろする谷底の道を進んでいると、少し開けたところに出ました。そこから、沢山のストーンゴーレムが襲ってきました。明らかにパウと同じような地面の創造術です。しかし、あまり多く作ったために、動きが遅くデザインがシンプルで、力と丈夫さだけの存在になっています。1体1体も完全に操作できなく、目に入る全てを攻撃するプログラムらしいです。私は法術で強烈な波動を放ちました。

 しかし、傷1つつけることができませんでした。そのまま、不恰好に大きな拳が下ろされます。避けると地面は簡単に地割れを起こし、先にある巨大な岩を破壊されました。すぐに駆け出して、足を軽く強化して、全法力を右手の人差し指と中指に集中させました。1体のゴーレムの足に近づき、法力を集中した右手の刀印をゴーレムの足に切りつけました。半分切るのがやっとで、重い体が災いしてゴーレムは足を折って倒れてしまいました。すると、崖の上から1人の剣士が滑り降りてきて笑い飛ばしました。

 「こんなゴーレムを全力で足を半分切るのがやっととはな」

 そこでメーラが冷静に大声をしました。

 「この方は私にリミッターを行使しているからです。彼は名誉法司皇の位を得られています」

 そこで、彼女はリミッターを解除しました。私の体から膨大な法力が発し始めます。

 「これはこれは。先ほどの言葉は撤回しよう」

 そこで、翔君はドラゴンに変化してゴーレムにソニックブレスを放ちはじめます。パウも同じようなゴーレムを土から創作して、それに乗って操り始めます。1体で近距離法術なので、敵ゴーレムよりも強力になりました。徐々に1体ずつ倒していきます。私は腕を1振りで先ほどと違い、簡単にゴーレムを1断して粉々にしていきました。

 「へぇ、名誉法司皇にドラゴン使いに法術師に看護法術師か。

 妙な旅仲間だな。俺は法術剣士のバンレクトだ」と、彼も剣を振って波動を放ちながら進んで参戦しました。相当のテダレで2振りで4つのブロックになり転がりました。

 すると、それは4つの石ころは動かなくなりました。3時間で32体のゴーレムを倒し終わりました。先にいたのは、何と上界の者で鬼界の術を使っていました。

 また、翔君への刺客が上界より来たのです。鬼術、混沌会も気になりますが、とりあえず臨戦態勢をとりました。バンレクトも参戦してくれました。5対1の不利な状況でも、上界のものは不適な笑いをしていました。その後ろには、混沌界の鬼術師が10人いました。すぐにメーラが言いました。

 「鬼術師よ、法術師との不可侵条約を侵害するのか」

 しかし、その中の1人は言います。

 「お前らがその異界の者をかばっている限り、条約は無効だ。その者は次元のバランスを崩す存在だぞ」

 「それは違います。絶界の力を持つ彼の力を恐れて、上界の者が勝手にそう推測しているだけだ」

 「それでも、不安要素は排除すべきだ」

 鬼術師のメンバーの頭領らしきものがそう言って、彼らは我々の前に立ちはだかりました。そこで、メーラはリミッターを解除しました。私は法力は膨大に発しました。

 「混沌界の力がどれほどのものかは知らんが、相手になってやる」

 バンレクトはそう言うと、法術をかけた剣を構えて駆け出した。ところが、鬼術師の1人が巨大な闇の渦を放ちました。それが剣に当たった瞬間、彼の体は弾かれて岩に激突してしまいました。メーラはバンレクトの回復に向かいます。翔君はレベル6になって絶界の槍と鎧を装備しました。私もバンレクトの負傷と翔君の命を守るため、法力を全開にしました。パウはすでにやっと聞こえる声で詠唱を始めています。

 「テーク カイナ レスラ」『接着 地面と ともに』

 すると、3人の鬼術師は地面に足が付いてしまいました。翔君は最大の炎のブレスを放ち、絶界の槍でさらにその効果を増加させました。鬼術師の2人は前に出て盾になるべく防御の術の氷の壁を発しました。

 しかし、その氷の壁は粉々になり、敵の2人は炎に包まれて消え去りました。私は足の付いた3人の波動の攻撃を強化した腕で簡単に弾き、思い切りエネルギー波を放ちました。すると、3人は消滅してしまいました。この3人の実力に残りの者は後ずさりしました。5人の鬼術師に私は札を使い、私の体の周りのみ上界の力を使えるようにして、思い切り叫びました。

 「ファイナルショット」

 本物の法の最大技以上の術を放ちました。5人は防御、攻撃をそれぞれ発しましたが、全て無効にして存在を消し去りました。ファイナルショットは混沌に属する者、邪悪な者には最大の効力を放ち、存在を消し去ることも可能なのでした。そこで、上界の者ザクトは言いました。

 「人間界に落ちた上界の者よ。お前の言霊の能力には限界がある。敵を消すという言葉も効かないし、次元を超えることも時間や空間を操ることもできない。そもそも、自分を守るだけの能力に法術で攻撃できるようにしているだけだからな」

 彼は分析能力は鋭いものでした。

 次に残った敵は大きな光の弾を放ちました。私は法術で大きな光の壁を作り、それを弾き返します。それを避けて彼は飛び上がって光の大剣を出しました。彼は上界の光のネーチャーマジックを使う者、臥洛です。どうも、鬼術でそれを代用しているようです。光に光で対抗しても無駄です。

 そこで、吸収の弾を放ちました。臥洛が光のバリアを出しましたが、私の吸収弾はその光を吸い込みます。相殺を狙って光の波動を放ちますが、それも吸い込みます。光さえも吸い込む、最後に臥洛は後ろに飛んで逃げ出しますが、吸い込まれ始めて岩に掴まりました。大岩ごと臥洛は吸い込まれていきました。

 全てが終わりますと、メーラはリミッターをセットしました。吸い込まれたものは異次元に行きます。岩場を進んでいきますと、闇の森にたどり着きました。ここが魔物の巣、世界の果てでありました。


 闇の森でかなりの魔物を倒しながら進んでいきました。すると、巨大な岩の壁が出現しました。とても硬く私の法術の波動でも1発で2cmしか削れませんでした。しかし、この岩壁の中に魔王のいる気配を感じていました。この封印の壁を壊すしかないのです。森の中に現れた岩山は全て包まれているので、壊す以外に中に入れません。

 「ここは、俺達に任せろ。魔王との戦いでは、お前の力が一番有効だからな」

 翔君は私にそう言いました。そして、翔君はレベル6で絶界の装備をすると、絶界の力で炎を槍から放ち続けました。1点集中です。そこにパウも地面からマグマを噴出させて放ちます。バンレクトは剣を振り続け、光の刃を放ち続けました。メーラは4人の法力の回復に努めました。岩は徐々にではありますが、削れていきます。それでも、1時間で1mでした。私はメーラにリミッターを解除させて、思い切り波動を放ちました。波動は10分ほどで岩に人1人通れる穴を開けることができました。岩の厚さはなんと50mありました。穴が開くと中から禍々しく恐ろしく強力な雰囲気が漂ってきました。

 中には巨大な岩が1枚立ちはだかっていました。その後ろに確実に魔王がいることを感知しました。

メーラのリミッター解除を確認すると、足を最大に強化して飛びました。蹴った地面はクレーターになりました。空中ですぐに背中から腕にかけて最大に強化させ、腕にエネルギー波を覆いました。

 岩ごと拳を振るって砕き、その後ろにいた魔王を殴りつけました。彼はそのまま向こう側の岩壁に激突しましたが、すぐに立ち上がり笑いました。

 「不意打ちも無意味だな。それで精一杯の力か?今のお前では全ての力で法術を使っても俺を倒せない」

 そこで、私は法力を最大に発し、体を光らせました。そして、右手を前に左手をそれに支えとして添えてエネルギー弾を放ちました。魔王は壁にめり込みました。

 「まさか、そんな力を出せるはずは」

 「最初に時間差で発生する、法術強化の術を発したんですよ。自分の最大の法術をさらに強化したんです」

 「それなら、自分の最大の技をさらに強化できると。でも、それでも俺を倒すことはできん」

 彼は岩から抜け出しました。無傷ではないが、ほとんど効いていませんでした。我々は危機感を感じて冷や汗を流しました。

 全員で総攻撃することにしました。札を放って上界の力を使えるようにしました。翔君も絶界の力を槍に込めて全開にします。私は言霊と法術の合同技を全開にします。パウは古代法術を最大限に発しました。

 一斉に、最大奥義を各々放ちました。魔王も技を放ちましたが、彼も同時に大技を放っていました。岩のバリアの中で大爆発が起こりました。岩のバリアは半分の薄さになっていました。中は土煙で見えません。

 しかし、しっかりと魔王の気配を感じることはできました。翔君はすでに力尽きて座り込んでいます。メーラは法術剣士を守ってバリアを一番遠いところで小さくなっています。パウは地面にも岩の封印があるためにあまり法術を有効に活用できず、力だけを使ってしまって倒れていました。

 私は彼らを守るように魔王と対峙しました。

 「お前も力は残っていないんだろう。いったん引いて出直そう」

 翔君の言葉に私は首を横に振りました。

 「私は生きています。生きているということは、力が残っているということです。まだ、戦えます」

 「死ぬ気かよ」

 剣士はそう呟いてメーラのバリアから出て私の隣に来て魔王を睨みました。

 バンレクトは隣で囁きました。

 「自慢じゃないが、俺は弱いぜ。しかも、相手は魔王。お前の助けにならないが、それでも一緒に戦う。

お前はこの勝ち目のない戦いをそれでも続けるのか?」

 私は無言で頷きました。

 「上等、グッドラック」

 彼は剣に法術をまとわせて飛び掛りました。魔王は強烈な真空波を放ちますが、それを切り裂いて頭上に一撃を振り下ろしました。私はすぐに腕に命のある限りの全ての法力を込めて駆け出しました。頭上の剣を受けて注意を逸らしている魔王の隙を狙い、腹部にボディブローを放ち、そこに精一杯の電撃の法術の法力を注ぎました。

 バンレクトは弾き飛ばされて石の壁に激突しました。かまわず、私は電撃を続けます。魔王は苦しみながら地面を転げまわし、私を追い払おうとしますが、その力も出ないくらいのダメージを受けていました。

 運よく、彼は電気の力が弱点だったようです。できる限り私は電撃を放ち続け、魔王は焦げてそのうち動かなくなりました。私は力が尽きて、そのまま意識が遠のいてしまいました。

 虫の息の魔王に、メーラに回復してもらった翔君は絶界の槍で封印しました。と同時に地響きが大きく鳴り響きました。創作生物が、魔王の封印によって石と化し始めたのです。

 石の壁の封印は粉々に成り消えて、我々の上に青空が広がりました。闇の森は普通の森になり、魔物の声も一切聞こえません。私は意識を取り戻し、起き上がって唖然としました。バンレクトが石化していたのです。彼も創作生物だったのです。彼自身は気づいていたのでしょうか?それを承知で我々に力を貸していたのでしょうか。メーラが冷静に言いました。

 「お疲れ様でした。これでこの世界も平和になります。さあ、元の世界にお帰りください。それを見届けるまでが私の仕事です」

 翔君はアストラルコードでオーバーコードで次元を切り裂きました。

 「それじゃあ、メーラ。パウを頼みます」 

 私はそう言い残して、翔君と次元のかなたに去っていきました。


 元の世界に戻り、また原稿に追われる生活が始まりました。時間としては法界との流れの速さが違うようで、戻ってきた時は、ここを出発した日からたった1週間でした。翔君は学生として元の暮らしに戻りました。あの世界の行く末は気になりますが、自分達で形をつけるべきです。翔君も上界からの刺客の応戦も大丈夫でしょう。全ては終わったようです。原稿を推敲しながらそんなことを考えていました。

 次の構想も考えながら。

 

                    完


この話で法界や他の事実を知ることになります。

色々と日記シリーズは法界に関わる外伝的なものなので、半分で読んで頂くとCODEシリーズが分かりやすく受け入れられると思います。

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