08.パン屋の店員ソーニャ
スピナの町に着いた翌日、僕はリュイナとリュオンの二人を連れ
て街中をぶらつく事にした、つまり観光です。スピナの町は繊維関
係が有名で洋服店も多いそうです。
二人に洋服を買い与えても良いのかな?親が知らない内に洋服を
買ってあげるのはダメかな?リュイナが狼を倒して稼いだお金でリ
ュイナが洋服を買う事を好きにさせても良いのかな?
父親の気持ちを考えると何だか複雑です。僕は既に親が知らない
間に子供を連れまわしている時点で今更な気もしますが
(日本では逮捕されます、異世界で良かった、のかな?)
シュリンプさんに手伝って貰って卵レタストーストサンドを作っ
た後で街中を見て回る事を話したら、シュリンプさんの娘が街のパ
ン屋に住み込みで働いているので
「パン屋の近くに立ち寄るのならこれを届けて欲しい」
シュリンプさんはそう言ってお礼にあげた卵レタストーストサン
ドを4つに切り分けて2つを差し出した、娘さんにはあまり会えな
いので食べさせたいそうだ。
「まだ残っているので娘さんには持っている分を分けてあげます」
「本当ですか、ありがとうございます」
僕の言葉にシュリンプさんは嬉しそうだ。あれ、リュイナが心配
そうな表情をしている、自分の分が減るのが嫌なのかな?何だった
らリュイナには僕の分を少し分けてあげよう。
(・・・・・・)
そして僕達は街中のお店を眺めながら歩いた、パン屋で働く娘さ
んか、年は訊かなかったけれど何歳なのかな?
リュイナとリュオンは初めて見る街並みを珍しそうにきょろきょ
ろ見てはしゃいでいる。リュイナは緊張しているのかな
パン屋に着いてお店の中に入ると、昼時なのに空いている、小さ
な女の子が一人で商品を眺めている他は誰もいない。仕方が無いの
で女の子に店の人はいないのと聞いてみた。
「あたしが店員だよ」
あれ、どう見ても子供だよな、十歳位の三つ編みお下げの女の子
白いワイシャツにエプロンドレス姿だ。
(店員なら挨拶しなさいって突っ込みたいけど、異世界だし)
「ソーニャさんと言う店員さんがいるって聞いて来たけど」
「あたしがそうだけど、あんた誰?」
何だろうこの言葉遣いは、異世界の言語だから実際の所は知らな
いけれど接客マニュアルは無いのか?無いんだろうな。
「ルートです、お父さんのシュリンプさんから届けて欲しいと預か
って来た物があって」
「何だか知らないけれど欲しくないわ」
何だろう反抗期かな、取りあえず説明しよう。
「美味しいパンだよ」
「はっ、あんたケンカ売ってんの、ここはパン屋よ、この店より美
味しいパンなんてある訳ないじゃない」
説明が足りなかった、言い直そう。
「卵焼きレタストーストサンドと言うパンを使った食べ物だよ」
「聞いた事の無い名前だね、美味しいの?」
「ルートさんが作ったトーストサンドは世界一美味しいです」
「美味しいです」
「いや作ったのはシュリンプさんで、僕が作ったわけじゃ」
「世界一だなんて、あなた達、何処の田舎から来たの?王都のパン
屋さんにあるパンを食べた事も無いでしょう」
僕の言葉を遮る様にソーニャが言った。
「この街に来たのも初めてで王都なんていった事も無いよ」
「やっぱりね」
「でも、ルートさんのトーストサンドは私がこれまでに食べた料理
の中では一番美味しいです」
「そう、そこまで言うのなら、食べてあげてもいいわよ」
「いや、欲しくないなら食べなくても良いけど」
「そ、そんな、欲しいです、食べてみたいです、お願いします」
少し意地悪してみたらソーニャが低姿勢になった。
休憩時間がどうなっているのか聞くとこの店は店主のベイカーさ
んが朝早くパンを作ってお昼迄ソーニャと二人で販売して、昼過ぎ
に休憩した後、ベイカーさんは明日の仕込みを、ソーニャは午前中
に売れ残ったパンを一人で販売しているそうだ。
今は休憩時間で昼食のパンを選んでいた処でした。
(サボっていた訳じゃ無いんですね、御免なさい)
店の外に置いてあるベンチで食事する事が出来るとの事で、四人
で一緒に食べようかと誘ったら、嬉しそうにベイカーさんに聞きに
行って許可をもらってきた、何時もはベイカーさんと二人で昼食を
食べるそうだ。
そして、四人でベンチに座って卵焼きレタストーストサンドを食
べた、四つに切り分けた物を一つづつ。
「前に王都で食べたパンとは比べ物にならな、何、これ?」
「トーストしたパンに卵焼きとレタスを挟んだ物だよ」
「パンが柔らかい、卵はふんわりして、この濃厚な味は何?」
「マヨネーズという調味料だよ」
ソーニャちゃんは卵焼きレタストーストサンドを珍しそうに眺め
た後、一口食べて感想を言った後、ゆっくりと噛みしめながら食べ
始めた。リュイナとリュオンはソーニャちゃんの驚いた顔を見てか
ら得意げに食べ始めた。僕はマヨネーズの作り方を聞かれたらどう
しよう、スマホで調べられるのかなと考えながら、もう一切れづづ
配って食べた。
ソーニャちゃんが自分の昼食用にお店のパンを持って来ていたの
で味見させてもらった、パンは半分に切ったものだがそれでも一人
分にしては多い。実はパンは一個で三食分あり、何時もはソーニャ
ちゃんが3分の1、ベイカーさんが3分の2で分けて食べているそ
うだ、今日は味見させてと言う事で半分に分けて貰った。
一口分づつ切り分けて、最初はそのまま食べて、次にマーガリン
を塗って食べてみた。パンはピザ生地やナンに似た感じで食感は悪
くないけれど味が薄いのでマーガリンを塗れば美味しいのかな?ソ
ーニャちゃんは美味しいと言っている、リュイナとリュオンはトー
ストすれば美味しくなるのかな何て二人でささやいている。
それから、ソーニャちゃんの事を聞いた。
ソーニャちゃんはパン屋さんになりたいそうです
数年前に王都へ連れて行ってもらった時に美味しい物や珍しい物
を沢山食べさせてもらったそうです。普段の粗末な食事とは比べ物
にならない贅沢品なので、次に食べる機会は訪れないかもと言われ
て納得しました。
でも、パンは何処にでもあるので、パンを食べる度に、あの柔ら
かくて美味しいパンを思い出して、もう一度食べたいと思う様にな
り、お小遣いを貯めて町中のパン屋さんのパンを食べてみたそうだ、
そして辿り着いた結論は
「パン屋さんになって自分でパンを作る」
という事でした。シュリンプさんは反対しました、まだ早いと、
当然ですね、ソーニャちゃんはまだ11歳です。
普通なら無理です、でもソーニャちゃんは少しだけれど火魔法が使
えるので、火種代わりが出来ます。
結局はシュリンプさんが折れる形で、このパン屋で見習いとして
三ヶ月住み込みで雇ってもらう事になったそうです。因みに雇用条
件は食住保証で月に3銀貨です、通常の見習いは賃金はありません。
「パン屋の仕事の大変さが分かったら家へ帰っておいで」
「あたしは絶対にパン屋さんになるんだから絶対帰らない」
シュリンプさんに言われてソーニャちゃんは言い放ったらしい。
うーん、月に3銀貨ですか、ソーニャちゃんは自分で稼いでいる
事が誇らしげです。マッチ代として一日百円、小遣いですね。
健気なのでクッキーでもあげようかな、そう言えばソーニャちゃ
んって火魔法が使えるんだ
「ソーニャちゃん、魔法の使い方を教えて貰う事は出来るの?」
「仕事が忙しいから無理だよ」
「仕事って何?」
「今日焼き上がったパンを全部売る事だよ」
全部?つまりパンを買い占めれば仕事は終わるのか?
「あと何個売れば良いの?」
「そこにあるパンを全部」
お店の中に戻って棚を見ると、パンの残りは16個
「パンは1個で幾らなの?」
「えーとね、1個では売ってないよ、3個で1銀貨」
つまり、売り切れる事は無いと言う事か、仕事の邪魔をしちゃ悪
いので帰る事にしよう。
「それじゃ、邪魔したね本屋へ行って帰りにまた寄るから」
「本屋で何を買うの?」
「魔法の本が欲しいから、安ければ買おうと思っている」
「魔法の本なら家に有ったよ」
良い事を聞いた、本屋で手に入らなかったら後でシュリンプさん
に貸して貰えるか聞いてみよう。
「シュリンプさんは魔法が使えるの?」
「うん、使えるよ」
そうだったんですか、魔法の師匠にはソーニャちゃんをと思って
いたけれどシュリンプさんでも良いかな、最後にベイカーさんに挨
拶をして行こうかな、そう思ってソーニャちゃんに声を掛けて店の
奥へと入った。
「今日はルートと言います、シュリンプさんからソーニャちゃんへ
届物を頼まれて来ていました」
「ああ、今日はソーニャの相手をしてくれてありがとう、あんなに
嬉しそうなソーニャの顔は久しぶりに見たよ、あたしの作ったパ
ンでは満足出来ないみたいでね」
そう言いながらベイカーさんはパン生地を作り始めた、ボウルに
小麦粉を振るって水を入れて掻き混ぜる。
何気に水魔法で水を出している、掻き混ぜるのも自動ですか、凄
いなこのおばさ、いやお姉さん三十代位のふくよかな体型で、魔法
の師匠が決まった様です。(多分)
ルート目線だと日本の法律とかがチラついて初期設定の甘さに戸惑ったりします。
リュイナが何時か異世界の素材で、卵サンドを作る時にパンを作って貰おうと思い新キャラのソーニャを投入です。
名前を決めた時点で何故か年齢が11歳に、ルートとのやり取りを思いつくまま書いて行くとこうなりました。
今回のラストはソーニャの自宅での妄想でしたって訳には行かないよね。