09.魔法の師匠
僕の目の前では生まれて初めて見る魔法が展開されていた、
(こ、これは水魔法と風魔法を組み合わせて発動しているのか!)
なんて、もっと興奮するかと思ったけど思ったより地味だな。
それよりも、わざわざ複合魔法を見せてくれたのでソーニャちゃ
んを火種代わりにこき使う必要が無いのがはっきりした。
「あのー、今、魔法を使っているんですよね、複合魔法ですか」
「何だ、知っているのか、あまり驚いていないな後ろの二人の様に
驚いて欲しかったのに」
振り返るとリュイナとリュオンが真剣な表情でベイカーさんの前
で空中に浮いて掻き混ぜられるパン生地を見つめている。
「目の前で見たのは初めてです、ネットしょ、書物で読んだ事があ
ります、後で魔法について質問して良いですか」
「質問なら、今でも構わないぞ」
「忙しくないですか、これから明日の仕込みですよね」
「魔法を使えば簡単に出来る、というのは冗談だが何を聞きたい」
「魔法を使える様になりたいので、教わる事は出来ますか」
「報酬によるな」
報酬が必要なのか、聞いてみよう。
「報酬ってどの位必要なんですか」
「報酬は3ヶ月で最低30金貨(約300万円)だな、魔力が少な
い場合は無駄になる事が多いので勧めない」
三日で1金貨か、一日で魔法を教えて貰う事は出来るのかな
「一日で魔法を教えて貰う事は出来ますか」
「何を言っている、一日では何も教えられないぞ」
やっぱり無理ですか、それなら魔法の入門書でも買って自分で勉
強する事にしよう。
「それでは失礼します、後で又来ます」
僕はそう言ってリュイナとリュオンを連れてパン屋を出た。
(・・・・・・)
何だか知らないけれど凄いプレッシャーを感じた。
(ずっと魔法で攻撃されるんじゃないかとか、魔法で攻撃されたら
魔力の動きが感知出来て魔法が使える様になる、お手軽な魔法取
得方法なんて提案出来る雰囲気じゃなかった、初対面だし)
僕たちは街中を歩きながら、色んな店を見て回った。
僕は異世界の物価は知らないので街中を歩いて店で売っている商
品の値段を知りたかったが、値札なんて付いてないので値段を知り
たかったら一々聞くしかない。
宿の値段から想像すると1銀貨が千円位かな、綿のシャツの値段
は5銀貨、綿のズボンが8銀貨、皮のベストが30銀貨で衣料品は
デフレの日本と比べると高く感じる。
食品は屋台で色々と売っている、串に刺した肉を焼いた物、野菜
や肉を煮たスープ、肉と野菜を炒めた食べ物、見た目はクレープの
様な食べ物、油で揚げた食べ物や蒸した食べ物は見当たらなかった。
食べ物は串焼き肉が1銅貨(百円)、値段を聞いたら銅貨1枚っ
て言われたけど、そういえば銅貨なんて持っていなかった1銀貨で
何本買えるの?なんて恥ずかしくて聞けないから、3本下さいと言
って1銀貨渡したら銅貨7枚がお釣りだった。串焼きは塩味の狼の
肉、歯応えがある。
(兎の肉の価格は狼の肉の5倍以上らしい、希少価値かな)
人参と玉ねぎとこま切れ肉のスープも一杯で1銅貨、パンも小さ
く切った物が一切れで1銅貨、一つの屋台で一緒に売っている、味
はともかく値段は安い。
本屋にもよってみたが魔法に関する本は無かった、薄い本でも5
銀貨以上する、紙自体が高価で今は白紙100枚で1銀貨。
白紙を購入して異世界観光レポートでも書いたら持ち帰れるのか
な?なんて考えながら購入した。
リュイナもリュオンも初めての事だらけで楽しそうだ。そろそろ
ベイカーさんのパン屋へ行く事にする。閉店間際ならパンを買い占
めても大丈夫だろう、売れ残ったパンを孤児院に寄付なんてやって
ないよね。
(・・・・・・)
「こんにちは、パンを買い占めても良いですか」
「買い占める場合は4銀貨です」
「3個で1銀貨だよね、4個だと4銀貨になるの?」
「今日のパンは売り切れました」
ベイカーさんのパン屋に三人で入ると、僕は、パンが残り4個に
なっている棚を見ながらソーニャちゃんに言うとはぐらかされた。
閉店間際に割引するサービスは無い様だ、パンは予約販売らしい。
と言うのは後でベイカーさんから聞いた、それとベイカーさんだ
と思っていた女性は本名がシルミアでベイカーは愛称、通り名で、
シルミアと呼ぶ様に言われた、分かりましたシルミアさん。
少し打ち解けた様なので質問してみた。
「魔法について何も知らないので質問しても良いですか?」
「何だと、君は魔法を使っているのだろう」
「僕は魔法なんて使えませんよ」
「魔法を使って私の魔法結界を無効化したのでは無いのか?」
「魔法結界?あっ防御スキルかな」
「何の事だ?」
「魔法攻撃に対するダメージを小さくするスキルです」
何だか重大なすれ違いがあった様です、僕のスキルが知らない内
に何かやらかしていました。魔法結界って何の事?全く気付かなか
った。因みに僕の防御スキルは魔法に対しては強力に働きます。
例えば3000度の炎は3度暖かい熱に、風速100メートルの
強風は風速0.1メートルの微風に変わる等、かなりデタラメです。
厳密にはダメージが千分の一なので少し違う気もします。
僕のスキルと僕達が魔法が使えないと言う事をシルミアさんに納
得させるのは少し苦労しました、でもそのおかげで新たな発見があ
りました、リュイナの槍とリュオンの杖に魔法を減衰させる効果が
ありました、リュイナは魔法を使えないので単に魔法防御、リュオ
ンも魔法防御は一緒だけどもしもリュオンが魔法を使う様になると
自分の魔法も減衰します。減衰幅は約十分の一。
リュオンはまだ魔法を使えません、シルミアさんもその事を驚い
ていた様なので僕は確信しました。やはりこの世界ではエルフなら
魔法が使えるはずだよね。
リュオンの外見はエルフです、リュイナは人間に見えます、二人
が姉弟だと言っているので突っ込んで聞いた事は無いです。
そして、僕たち三人はシルミアさんから魔法を教えて貰う事にな
りました。魔法を使える様になりたい理由が料理に便利だからと言
った時には不思議そうな顔をしていましたが、卵焼きレタストース
トサンドを食べさせたら嬉しそうでした。
魔法は明日の昼過ぎから、ソーニャちゃんも一緒に四人で教わる
事になりました、ソーニャちゃんは機嫌が良くなったので今日は家
に帰るそうです、明日の午前中もパン屋の仕事はお休みを貰いまし
た。シルミアさんがソーニャちゃんを宿まで送ると言う事で5人で
宿に帰りました。
宿に着いてからシュリンプさんとソーニャちゃんは笑顔で仲良く
話していました。ソーニャちゃんがトーストサンド美味しかったよ
と伝えています、今度は何時作るの?なんて聞いてないよね。
明日は魔法を教えて貰えるのか、そう言えば報酬の話をしていな
かったけど、チャーハンを食べさせたらサービスしてくれないかな
作るのは任せるけど。
明日以降の事を漠然と考えながら、僕のスキルを役立てる方法に
ついて考えてみた、異次元ボックスは運搬作業に最適で、収納した
物の名前を知る事が出来るので植物や鉱物の採取に使えそう、ナイ
フは大抵の物は切れるから封印された扉を壊せるかな、うーん微妙、
身体防御は溶岩地帯も平気なのかな、採取系の依頼なら出来そうだ
一番の弱点は一人では素早い敵に攻撃手段がない事かな、攻撃手段
が無いのはこの世界ではもどかし過ぎる。やはり簡単な魔法とかで
良いから使えたら良いな、なんて考えながら、昼間購入した紙に書
き出していたら、リュイナとリュオンが珍しそうに見ていた。これ
は異世界の文字だよと教えたけど、分かったのかな?
明日が楽しみだ、少し気分が高揚していると感じながら寝た。
小説を書き進めながら、新しくキャラを作ったり、曖昧な設定を明確にしたり、変更したりと色々やっています。
今回のキャラは書き進めるのが大変でした、前回パン屋の店主の呼び方を適当にパン職人ならベイカーで良いかと名付けたら
ストーリーの流れから女性だよな、って書き進めると名字で呼ぶと怒り出す某請負人キャラみたいなプレッシャーを感じて 名前をシルミアさんに決めました。
今回リュオンの外見について作者も知らなかった驚愕の事実!が判明、ルートは最初っから「リュオンは魔法が使える」って言ってたね。
異世界の物価についても設定を考えました、冒険者の日当はF級が3銀貨、E級が6銀貨、D級が12銀貨、C級が25銀貨、B級が50銀貨です。
F級を除いて冒険者ギルドの手数料が2割です。護衛はC級4人で1日1金貨(10万円)です。