1 とある兵士と死神が戦場にて
聖歴346年1の月1日―――カシム王国・城壁外―――
「き、来たぞ――――ッ!」
俺は実についてない。
もともとはただの村民だったが騎士に憧れてこの兵団の入団試験を受けた。
幸か不幸か俺は生まれた時から剣術スキルを持ってたから鍛えてきて剣術スキルも3レベルまで上がった。
3レベルってのは達人とまではいかないが十分熟練者レベルだ。
そのおかげか知らないが通常ならあるはずの一次試験を飛ばして二次試験を受けることになった。
だが、それはただの入団試験だったはずだったのにそんな時に限って王は精鋭を選びたいとか言って例年より遥かに難しい試験を行いやがった。
それだけで既に不幸なのにさらにはその試験で、危険度Aの化け物、絞首糸蜘蛛が出没したことがより俺の不幸っぷりを加速させる。
唯一幸運だったのはその場にSSランク冒険者が散歩に来ていたことか。
無論、普通は散歩なんかする場所ではないし、そもそも魔物が危険すぎて散歩どころではない。
だがそこはSSランク冒険者だ。
散歩中に道端のゴミを拾って捨てるようにサクッと倒しちまった。
しかも素材はすべて兵団にくれた。
これはとても気前のいいことだ。
Aランクの魔物の素材を売れば少なくとも一ヶ月は何もしなくても生活できる金が手に入るんだからな。
だが俺の幸運もそこで終わった。
入団試験には受かったが、入ったときに同意書のようなものに同意させられたと思ったら集会で『崩壊期』と『大侵攻』ってもんが今年に始まるとかぬかしやがった。
逃げようにも同意書には【何があっても脱退、及び逃走を禁ずる】って書いてあったんだよ。
しかもそれを破ると【指名手配】、そして【死刑確定】ときたもんだ。
チクショウめッ!
そうしてなんだかんだで訓練を積んでこの『大崩壊』に備えてきたが・・・ありゃだめだ。
遠目で見たらウジャウウジャと魔物が居やがる。
大崩壊って名前も納得だな。
この世界が全部魔物に覆われちまうよあれは。
「構え――――ッ!」
指揮官から指示が下る。
俺は今まで剣を握っていたはずなんだが・・・何故か今は槍を握って、目の前の突っ込んできている魔物に穂先を向けている。
俺は槍術スキルは持ってないっていうのにな・・・はは・・・
目の前の魔物は確か危険度Bの殺傷熊だったか・・・?
それに危険度Aの撃進猪、危険度Bの這い寄る大蛇、そして危険度Sの赤熱した巨腕熊・・・化け物ばかりだ。
はぁ・・・まだまだやりたいことが沢山あったんだがなあ・・・。
ん?あれは・・・?
―――――ッ!? 子供ッ!? しかも女ッ!
なんでこんな戦場にいるんだよッ!
クソッ!
・・・・―――――? なんであんなクソデカい鎌を持ってるんだ・・・?
・・・ッ! んなことより、よりにもよって赤熱した巨腕熊が嬢ちゃん目掛けて走り始めやがったッ!
「そこの嬢ちゃん危ねぇッ!逃げろッ!そいつは危険度Sの化け物だッ!」
嬢ちゃんは一瞬こっちを振り向くがどうやら恐怖で動けねえみてえだ・・・
もしかしたらあの鎌は誰かの武器なのかもしれねえな。
「その鎌を捨ててさっさと逃げろ―――――ッ!」
それでも嬢ちゃんは鎌を握りしめたまま動かねえ。
「く――――そッ!」
俺は全力で走り始めるが到底間に合いそうにねえ・・・
ああ・・・奴が腕を持ち上げやがった。
ここからじゃもう間に合わねえ・・・名前も知らねえが・・・すまねえ、嬢ちゃん・・・
・・・・・・・――――――――え?
・・・―――――は?
な、なにが起こった・・・?
い、いや、なにが起きたかはわかるが理解ができねえ。
嬢ちゃんが赤熱した巨腕熊の首をクソデカい大鎌で一撃で飛ばしやがった・・・。
しかも嬢ちゃんの鎌筋が全く見えなかったぞ・・・?
まるであのランクSSの冒険者・・・いや、あの人の剣筋は見えたから・・・ってことはあの嬢ちゃんはランクSS以上ってことか!?
・・・・・―――――――は、ははは・・・どうなってやがる・・・。
見渡す限り全部の魔物の首が飛んでやがる・・・。
危険度B・・・A・・・C・・・E・・・D・・・S・・・D・・・SS・・・A・・・B・・・。
殆どの奴らが危険度D以上・・・
は、はは・・・
ははは・・・
もしかしたら・・・いや、あいつは間違いなく死神。
戦場に死を運んでくる大鎌を持った怪物。
あの嬢ちゃんこそ本物の化け物ってことか・・・