元気の効果
セシルが帰って来てから一週間。理沙が、まるで別人のように変わったのは他でもない。
積極的に人に話しかけ、外に出たがり、何時も自然な笑みを見せていた。一体あの一週間で何があったのか、セシルは知りたかったが、明るい理沙も好きなので、深くは聞かなかった。
「おっはようございまーす!」
「あぁ、おはよう」
今日も理沙は部屋の外へ行く。ドアの前に居る二人の厳つい見張りも、理沙の笑顔を見ると自然を笑顔で出た。ホテル外の外出は禁じられている為、理沙は何時もホテルの別館にある「図書館」に行っている。
そして、細胞目当てに近づいて来る人間を見ても少しも怖がらなくなり、逆に皮肉っぽく言い返している。
理沙が元気になった事で、細胞にも影響が出た。何と、前よりも細胞の動きが活発化し、効果も上がっていると言うのだ。それが分かると、セシルはすぐに今の状態を維持するよう指示が下りた。
研究者も護衛もセシルも、理沙の笑顔を望んでいた。だが、一人だけそれを嫌う者が居た。それは...
「いやぁ、昨日の犬飼さん怖かったねー。何が嫌なんだろう?」
「う、うん...大激怒だったね」
昨日、犬飼さんは理沙を訪ねて来た。そんな彼は、もの凄く怒っているように見えた。好きなだけ理沙に悪態を吐くと帰って行ったが、結局何がしたかったのかは謎だった。ちなみに、理沙はその悪態を真に受け止める事なく、軽く受け流した。
セシルは斉藤さんから、
「犬飼さんはサディストだからな。彼は、理沙に嫌がらせをするのが好きだったらしい。何か、反応が良いらしいな。だが、それが見られなくなった事で怒っている...とみんな言っている。私もそう思うが」
と言われた。セシルは、犬飼さんはヤケに理沙に集中攻撃しているとは思っていたが、まさか理沙の反応が良くてやっているとは思っていなかった。
そういう人の頭の中は分からない。神もセシルも。
「ま、いっか。ねぇセシル。私ね、今フランス語便虚位だよ?」
理沙は、英語ペンラペラだ。そのおかげで、外国の人とも普通に話せる。え? 日本語だったって? やだなー神であるこの私が翻訳しているに決まってるじゃないかー。
本当は英語話している場面も多数ある。だが、どれが日本語でどれが英語なのかは自分で考えてね☆ あ、セシルは日本語ペラペラだよ?
「そうなの? 僕が教えようか?」
「え、本当? 良いの?」
「うん」
「やったぁ! これでまた語学の幅が広がるね!」
本気で喜んでいる理沙を見て、セシルは微笑んだ。本当に可愛いらしい。
「リサは本が好きだね」
「うん。本はね、面白いから」
「ふ〜ん、どういうのが好きなの?」
「ファンタジーかな」
「どうして?」
「現実逃避だよ〜♪」
「...ははは」
理沙は、自分が「不老不死」という事の「現実逃避」にファンタジー物の本をたくさん読んでいる。自分自身もファンタジーの仲間っぽいのは分かっているが、そこでは自由だから。
セシルは苦笑するしかない。とりあえず、話題を変えようと理沙はセシルに話しかけた。
「ねぇセシル。この頃さ、何か視線を感じるんだよね。気のせい?」
その言葉に偽りはないし、理沙も大して気にしてなどいないが、セシルは驚いたような顔をした。
「本当? 本当に視線感じてるの?」
「ちょーーちょっと...だけ」
「...」
セシルがこの頃、もっと過保護になっているのは気のせいだろう。
「じゃ、じゃあ行こうか」
理沙は、何か考え込むような顔をするセシルを笑顔にしようと、腕を引っ張った。