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彼の心情


「セシル。お前には、ある少女の目付役と警護を頼みたい」



 僕はある日、犬飼さんにそう言われた。僕は「国際連合」の「機密情報機関」に属すーー謂わばエリートだった。「国際連合の裏ボス」とも呼ばれる犬飼さんに、「少女のお目付役」の任務を与えられた。

 彼が「お願い」だとしても、それは正式ではないが「重要任務」となるのが此処の国際連合の『暗黙の了解』だった。



「はい。分かりました」



 僕はそう答えた。正直、その見張り、守るべき少女がどんなものか、最初僕はよく知らなかった。だが、後に少女の実態が知らされた時、僕は心の底から後悔した。あの「SR細胞」の持ち主を見張るなんてーー。


「SR細胞」は、連合内ではもの凄い話題になっていた。誰もが欲しがるその効力。「若返り」と「医療」という二つの美点。もしそれを持つ少女が誘拐でもされたらどう責任を取ろうか。僕はそれしか考えていなかった。

 そして、とうとうその少女がやってきた。僕は覚悟を決めた。こうなったら、全力で守るしかないと。


 犬飼さん曰く、少女は「生意気」で「無愛想」らしかった。僕が真っ先に想像したのは、「王女様型ツンデレ」。まぁあんまりそういう点について期待はしていなかった。

 だが、その予想は大幅に外れた。



「っ!」



 少女の居る部屋に僕は入った。見当たらないが、途端に息を飲む声が聞こえた。それは、テラスの方からだった。

 僕はゆっくりと、テラスの方へ近づいて行った。テラスでは、怯える子猫のような可愛らしい少女が踞っていた。

 僕は、彼女にゆっくりと近づいた。すると、その子はビクッと震え、身を守るように僕から顔を背け、隠れるようにテラスの柵ギリギリまで身を寄せた。

 僕の正直な感想は、「ヤバい、可愛すぎる」だった。

 今年23歳になるはずなのに、少女に愛着が沸くだなんて、とんだロリコンだ。だが、今まで恋愛経験0の僕は、これが愛着なのかは分からなかった。



「こ...ない...で...」



 僕が近づくに連れて、少女は涙目になり、声を震わせる。この子にどう「生意気」で「無愛想」な要素があるのか。僕的には、「可愛い」くて「守りたくなる」んだけどな。保護欲がくすぐられる。



「大丈夫、僕は君に何もしない」

「...」

「犬飼さんに...何かされたかな?」



 あの人の事だから、きっとこの少女の事を罵倒したり傷つけたりしただろう。だからこの少女は僕を見てこんなにも震えているのではないか。



「僕はセシル。君は?」

「...」



 こっちに来ないでとでも言いた気な目で僕を見る。本当に可愛すぎるんですけど...。



「酷いよね、こんな所に閉じ込めて」


「君、いくつ?」


「好きなものとかある? 良ければ持って来るよ?」


「大丈夫、僕は君に何の危害も加えない。ただ...心配なんだ」



 僕はたくさん一人で話した。少女は聞いてくれているのか分からなかったが、もう震えていない。これは僕の本音だよ。決して嘘なんかじゃない。



「名前...教えてくれない?」

「理沙...」

「え?」

「斉藤理沙」

「そっか、リサって言うんだね。僕は、君のお目付役と警護を担当してるんだ。よろしくね?」

「...はい」



 遂に、僕の差し出した手を握ってくれた!! 本当に可愛い! 思いっきり抱きしめたい...!

 でも、そんな事したら折角信用してもらえたのにそれが無くなってしまうね。それは勘弁だ。



「じゃあ、色々話そうか。リサ?」



 それから、僕の警護生活が始まった。



「ねぇセシル。外が騒がしいんだけど、気のせい...なのかな?」



 今では、リサは僕に何の躊躇いも無く話しかけて来る。抱きついても来る。リサは天使に等しい。もしかしたら、僕はもう死んでるのかもしれない。だって此処は天国だから。



「あぁ、今日は論文の発表会が此処で開かれてね。君も行く?」

「行かない。論文って『SR細胞』の事でしょう?」

「残念。行かなきゃいけない。これ義務なんです」



 僕が言うと、リサは悲しそうな顔をした。リサは、僕にはすっかり懐いてくれたが、他の人間には全くと言っていい程近づかなかった。それ以前に、怖がっているように見える。



「じゃあどうして聞くの?」



 リサは可愛らしい目でこちらを見つめる。リサの問いに、僕は正しく答える事が出来ない。だって「照れ隠し」だったから。



「...夜景が綺麗だ」

「話を変えないでよ」



 リサは僕から目を反らした。可愛い。何処からどう見ても可愛らしさしかない。

 リサはその後も相変わらずだった。犬飼さんに罵られ、細胞目当てのクズ達に「◯◯しよう」と誘われた。可哀想に。そのたんびにリサは、今にも泣き出しそうになっていた。



「ちょーーどうしたの?」



 論文発表が終わると、リサはすぐに駆け出し、会場から出た。

 エレベーターでの彼女の挙動は、決して普通とは言い難かった。頭を下げて両腕を握りしめ、震えていた。エレベーターが最上階へ着くと、また彼女は駆け出し、部屋へ飛び込んだ。

 その時、リサの体が一直線にテラスへ向かっているのが分かった。


 僕は咄嗟にリサの腕を引っぱり、部屋に引きづり来んだ。乱暴なのは分かっていたが、テラスから飛び降りようとしていた。仕方無い。



「...大丈夫?」

「...」



 リサは、差し出した僕の腕を振り払って、ベッドに顔を埋めた。僅かに泣き声が聞こえる。



「リサ、どうしたの? 話して」

「セシルは…セシルは、私の…味方、だよね…?」



 多少途切れ途切れで声も小さく、とても聞き取りづらかった。だが、僕はリサが心配で心配でたまらなかった。



「当たり前じゃないか。僕は、リサがどれだけ僕を嫌おうとも、絶対に君を守るつもりだよ?」

「本当に…?」

「本当さ。リサ、どうしたのか教えてくれないかな? 僕が全部受け止めるから。全部吐き出して?」

「…」



 リサは、涙でぐちゃぐちゃになった顔で僕を見上げた。それでも彼女は可愛かった。逆に虐めたくなるような気持ちになってしまった。

 僕は、そんなリサを見て、我慢出来ずにギュッと抱きしめた。



「もう泣かないで? 可愛い顔が台無しだよ?」

「本当に…本当に…セシルは私の味方なの?」

「そうだよ。…でも、どうしてもって言うなら…」



 僕は懐からナイフを取り出した。リサが信じてくれるなら、僕は何だってする。

 僕はナイフを自分の腕に突き刺した。



「っ! セシル!!」

「これで…信じてくれた?」



 腕からは、ドクドクと大量の血が流れ始めた。けど何故だろうか、リサが触れていると全く痛くなどなかった。

 リサはすぐに僕の腕からナイフを抜いて、次は自分の手をピッと切った。



「何をするの?」

「…効くか分からないけど…」



 リサは、自分の血をゆっくりと僕の傷に垂らした。すると、ジワジワと、ゆっくりだが確実に傷は修成されて行った。リサは何処から出したのか、僕の腕に包帯を巻くと、自分の手を見た。

 リサの方が治されるのが早かった。もう少しで傷一つない手になる。多分、そっちの方が「SR細胞」が多いからだ。



「「す、凄かった…」」



 僕とリサは声を揃えて言った。



「って、何でリサまで驚いてるの?」

「だ、だって…成功するとは思わなかったし…」



 リサは、僕の腕をまじまじと見つめた。心配そうなリサの顔を見て、僕は安心させるべく優しく微笑んだ。



「手…大丈夫? 痛かったでしょ?」

「ううん。セシルの為だから痛くないよ。ごめんね、こんな事させちゃって…」

「大丈夫。リサが心を開いてくれるなら、何だってする。それで…教えてくれないかな?」

「あぁ…うん」



 リサは悲しそうな顔で頷いた。



「私ね、嫌だったの。あの人達が」



 彼女はベッドに座った。僕は、それに寄り添うようにして彼女の横に座る。



「私をしきりに誘うあの人達が。そして、あの表面上の優しさが怖かった」

「表面上の優しさ?」

「私を取り込む為の『仮面』。あの人達の目、もの凄く曇ってた。欲望に満ちてた」

「だから、目が碌に見られなかったんだね。ごめん、『コミュ障』とか言っちゃって」

「ううん。それは本当の事だから」



 僕は理沙を肩で抱いた。リサは、僕の肩に自分の頭を置いてきてくれた。僕は幸せだ...。



「みんな、私が『SR』だと知って近づいて来る。自分の利益の為に。それが嫌だったの…」

「そうなんだ。ごめんね。気がついてあげれなくて」



 しばらく無駄話をして、リサはベッドに入った。何時も通り、ベッドの脇には僕。



「おやすみリサ。良い夢を」

「おやすみセシル。今日は…ありがとう」



 僕は優しくリサの額にキスをすると、ゆっくりと頭を撫でてあげた。


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