表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/19

セシルの帰宅


 理沙は、Mr.サイトウにはまだ完全なる信頼はしていないけれども、この人は安全だと確信した。血も何時も通り提供した。Mr.サイトウは採血には手を出さず、理沙が自ら注射器を手に取った。

 そして、一週間後。Mr.サイトウに慣れて来た私は、彼の事を「斉藤さん」と呼ぶ事にした。彼も、何時迄も「Mr.サイトウ」と呼ばれるのは嫌らしい。


 斉藤さんも優しかった。同じような状況にあった自分に同情し、片時も離れずに一緒に居てくれた。彼からは、本当の兄のような感覚がした。

 斉藤さんは本当に頭が良い。雑学、文学、数学、理科、地理、歴史、音楽ーーなどのたくさんの知識が頭の中に詰め込まれていた。

 理沙は、ーー薫には負けたがーー同学年の中ではかなり頭がよく、「雑学」知識は大人以上のはずだったが、斉藤さんには敵わなかった。

 彼と居るのは楽しかった。自然と笑顔で出る。今まで鈍っていた「喜怒哀楽」の「喜」と「楽」が戻って来ていた。今なら、誰とでも話せそうな気がする。


 理沙が斉藤さんによって、新しい知識を蓄えていると、部屋のドアがノックされた。



「一体誰だ?」



 斉藤さんは顔をしかめると、ふかふかのベッドに座る私の隣から立ち上がって、ドアの方へ向かった。ドアの開閉音が聞こえたかと思うと、懐かしい声が聞こえて来た。



「リサ! ただいま!!」

「セシル?!」



 そう、理沙の大好きなお兄ちゃんだった。

 理沙は斉藤さんなんか気にせず、ダッシュでセシルの腕に飛び込んだ。斉藤さんは少々驚いた顔をした。



「おかえり...」

「リサ、元気にしてた? ごめんね、勝手に出張なんか行って...」

「大丈夫!」



 理沙は、可愛い顔をパッと上げると、ドアを開けたまま呆然とする斉藤さんを見た。



「斉藤さんが、ずっと私の側に居てくれたから、寂しくなかったよ」

「斉藤さん?」



 セシルは、理沙の視線を追って斉藤さんを見つけた。



「リサをありがとうございました」

「こちらこそ、楽しかった。じゃあ、もう私は帰るとするか」

「え? もう帰っちゃうんですか...?」

「彼が戻って来たからな。私の役目は、彼が戻るまで君の相手をする事。残念ながらな。だが、また来ても良いなら...ご好意に甘えるが?」

「良いですよ! いつでも来てください!!」



 理沙は笑顔で答えた。セシルは驚いた。理沙がこんな笑顔を見せた事がなかったからだ。もちろん、今までも笑ってはいたが、笑うべき時に笑っていたような気がする。自然な笑みは、理沙の可愛さを一層増させた。



「じゃあ、そうしよう」



 斉藤さんは微笑むと、部屋から出て行った。もう彼が居ないのをキチンと確認すると、理沙は言った。



「...実はね、私、寂しかったんだよ? セシルがいなかったから」

「え?」

「セシルは、私のお兄ちゃんだから...もう何処にも行かないで...」

「あ...リサ...」



 理沙は、セシルの胸の中に顔を埋めた。彼はそれに答えるかのようにギュッと抱きしめた。

 正直、彼女は寂しかった。斉藤さんは居たけれど、それは大好きなお兄ちゃんではない。楽しい話はいっぱいしてくれたけど、それはセシルと一緒に居る時間に比べたら何ともない。

 理沙は、多少涙目で顔を上げてセシルを見た。



「約束...して?」

「うん、分かった。約束。もう二度と、何処にも行かないって誓うよ。約束」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ