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ワケ

「リサ...僕のリサ...」



 理沙は恐怖で体が動かなかった。何故だろうか、自分に抱きつくこの大好きなはずの人がーー恐い。



「や...やだよ...」

「何が嫌なの?」



 抱きつく力が強くなる。途端、ドタバタと音がして、誰かが駆けつけて来た。



「リサ! お、お前!!」



 フェルだった。見知らぬ男に抱きつかれる可哀想な理沙、少なくとも彼の目にはそう思ったらしかった。フェルは怒りに顔をゆがめた。



「リサ、彼は誰?」

「ひっ...」

「ねぇ、何で怖がるの? 僕だよ? セシルだよ?」



 この人物がセシル・ローソンだという事は理解していた。だが、理沙の中では彼という存在が「兄」から「悪魔」に変わっていた事は言うまでもない。今更来たってもう遅いーー。



「どうしたリサ!!」



 ライ姉は家の外から異変を察知したらしく、中に飛び込んで来た。途端に青ざめる。



「セ...シル...離して...」

「離したらリサは逃げる」

「どうせ...無理」

「よく分かったね」



 セシルの言葉と同時に、大きな銃を持ち、防弾チョッキを着、頑丈な盾を持った人達が中に入って来た。そして彼らは、ドタドタと家の中へと入り、僅か残った人達はフェルとライ姉を拘束した。理沙を含め、セシル以外全員意味が分からなかった。



「リサ、今回の事は...本当に悪いと思ってる」

「嘘でしょ? それなら貴方はきっと助けに来た...」



 震えながらも、理沙を声を発する。セシルは理沙を腕の中から解放すると、彼女の顔をジッと見つめた。涙目で震えている少女を見て無性にムラムラするのは気のせいだろうかとセシルは感じていた。



「僕だって、助けに来たかった。でも...」

「でも...?」



 理沙が聞くと、セシルは話し始めた。フェルもライ姉も、それに真剣に聞き始めた。



「元々ね、知ってたんだよ。ソガが他組織の人間だという事も、あの日行われたゲームも、彼の性癖も...」

「蘇我さんの事、分かってて...」

「ごめん...。実は、研究者達から要請が上がってね。『「SR細胞」の効果をもっと上げたい』ってね。

 勿論、犬飼さんだってそんな方法知らないし、上も興味はあったけどこれまでのだけでも十分”万能”なわけで、これ以上上げるのは不可能だとそう思ってた。

 でも、ある日実験をした時、驚くべき事が見つかったんだ。『SR細胞』傷つける度に回復のスピードが上がるーーという事を」



 理沙は息を飲んだ。確かに、蘇我さんからの拷問をずっと受けていたからか、今では四肢を切り取られても十秒もたたずに再生するし、健康不調だって勿論起こらなかった。それは、確実に「SR細胞」が活性化し、ひび強くなっていったからだった。



「じゃあ...『SR細胞』を強化する為に...」

「本当に悪いと思ってる。でも、日本やその他の国がもの凄く反対したし、君は大事な人間だ。それに、もし君に苦痛を与えるとしたら、その要員はだから...」

「え...?」

「信じていた人間に裏切られるのは苦痛だ。だけど、一番信じていた人間に深い傷を負わせられるのはもっと苦痛だ」



 セシルは静かにつぶやいた。理沙は途端、セシルの事を恨む気にはなれなくなっていた。



「僕は君に危害を加える事なんて出来ない...だから、上の命令に従った。一年も...辛い思いをさせてごめん」

「...これは、ごめんじゃ済む事じゃない」

「分かってる。だから僕はーー」

「でも、もう良いよ? 私、セシルの事やっぱ大好きだから」

「リサ...うぅ...」



 もうどっちがどっちか分からなくなっていた。お互いに泣いた。お互いに抱き合った。武装した人達は、その兄妹のような光景を涙ぐみながら見ていた。


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