お出かけ
「あのー...失礼します」
翌朝の9時頃、理沙はセシルと一緒に隣の部屋に来ていた。ノックして返事が返って来たのでお邪魔させてもらう。
隣は理沙の部屋と大して変化はない。ただ、ベッドが多いとただそれだけだ。一つ忠告しておくが、腐女子の喜びそうな事など起こってなどいない。
彼らはテレビでニュースを見ていた。
「お、やっと俺等の出番だな」
「”やっと”って...まだ一日しか立ってませんよ?」
「分かってる。だが、俺等にとっては”やっと”さ。で? 何処に行きたい」
「ええっとですね、『自由の女神』に『セントラルパーク』に...ん〜『タイムズスクエア』に行きたいです!」
「だそうっスね。いやぁ、理沙ちゃんの命令なら自分等は何処まで行きますよー」
徳永さんは冗談っぽく笑った。理沙は、とりあえず微笑で返した。
「ん、どうしたんスか? 自分、何かおかしな事言ったスかねぇ...」
いや、その喋り方自体がおかしいーーと理沙は思ったが、流石に彼を傷つけると思い、言わなかった。
「い、いえ...別に」
「そうっスか。それにしても、良い選択したっスねー。そこの三つは自分も好きなんスよー」
「そうなんですか...」
「では、私は犬飼さんに報告に行ってきます。許可が出ないという事はないでしょうが、まぁ一応...。『自由の女神』『セントラルパーク』『タイムズスクエア』ですね」
蘇我さんはそう言うと出て行ったが、しばらくすると戻って来た。誰かを連れて。
「あ、実はですね...犬飼さんも行くと言い出して...」
「観光の邪魔はするつもりない。だが、念のため俺も行く」
「は、はぁ...」
彼と一緒に来ていたのは犬飼さんだった。犬飼さんも連れて観光。何だか色々言われそうだが、仕方無い。もし此処で嫌だとか言ったら、きっと犬飼さんは外出を許可してくれなくなるだろう。
「分かりました...」
「という事で『SR』。一応ヘリを数十台飛ばし、ニューヨーク中に護衛を放ち、もし誘拐された場合の為包囲網も張っておくが、文句を言うな」
ーーいちいち言わなくても良いのに...。はい、文句は言いません。文句は言いません。文句は言いません。
「はい...」
「良いだろう。『SR』、交通手段は何が良い? 車か? ヘリか? それとも歩いて行っても良いが?」
「く、車で...」
流石に歩いて行くのはキツいと思った理沙は、とりあえず車を選んだ。国際連合の車は、世界のリーダー達も乗る為、防弾ガラスに安心の超頑丈素材の車だ。
犬飼さんは「分かった。すぐに手配する」と言うと、携帯を取り出して何処かへ電話をかけ始めた。しばらくすると、車の手配が出来たらしく、七人は部屋を出た。エレベーターに乗り込み、一階へ降りた。外には、黒塗りの車が留めてあるのが見える。これから外に出るんだ、という考えが理沙の気持ちを高揚させた。
「♪」
「楽しみ?」
「うん、やっと外に出られるんだから♪」
「そうだね。僕も楽しみ...」
セシルは理沙の喜ぶ顔が見られて満足だったが、やはり心配だった。もし仮に誘拐されてしまったらどうする? 血だけでも取られてしまったら大問題だ。犬飼さんもその事は百も承知だったが、やはり「SR細胞」の効果を上げる為でもあったので仕方無い。
それに、部下の不穏を買ってはたまらない。
「さて、乗るぞ」
ホテルから出るまで後一歩。理沙は深呼吸をして外へ出た。途端、冷たい風が心地よく吹いて理沙を迎えた。外に出たのは何ヶ月振りだろうか。
犬飼さんに誘われ、理沙は車に乗り込んだ。外見からは少々分からない広さで、かなり快適な空間になっていた。あっという間に七人が乗り込めた。
「行け。まずは...『自由の女神』だ」
車は動き出した。
「自由の女神」は、ずっと見たかったものだ。「世界の果てまで行ってぎゅう」という番組でリアクション芸人の「出川ん」がヘタクソだが面白い英語で奇跡的に「自由の女神」に到達していた。
正直、あれは爆笑だった。孤児院の人達みんなで笑っていた。
「すっごーい!」
車はあっという間に着いた。緑色の「自由の女神」像。決して白色なんかじゃない。
「あぁ、久しぶりに見たなぁ...」
「そうだな。『自由の女神』は、日本で言う『東京タワー』みたいなものだからな」
「そうですねぇ...」
護衛の四人は、何だかピリピリしていた。セシルと違って、彼らは余裕がないのだ。セシルは理沙が逃げ出し何かしない事は分かっているが、彼らは理沙にも周りの人間にも注意を配らなければならない。
「自由の女神」を思いっきり堪能した理沙は、次は「タイムズスクエア」へ行った。人ごみに溢れていた。お正月でないのが残念だった。
最後は、「セントラルパーク」だ。