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俺は人間にしか関心はない。
それは獣人の中でも綺麗で可愛い子がいても、結婚するなら人間と決めている。
今日のお客様の中でもとびっきり美しい傾国の美女のような狐族の女性を見ながらも、そう思った。
「そなたさっきからジロジロとわらわのことを見ておるが、何の用ぞ」
「すまん。何の用もない」
俺は視線を外すと、無意味に自分の手をジッと見つめた。
さっきまで見ていた方向から、小さく舌打ちした音がした。
反射的に視線をそこに向けると、うっすらと笑う狐族がいた。
「わらわを前にして視線を逸らすなど、そなたが初めてだぞ。名はなんという?」
「失礼しました。俺の名前はピットと申します」
ピットは俺の偽名だ。本名はダリアンという。
「ふむ、ピットか。覚えやすい名前だな。ここは興味をそそられる品揃えが沢山あるな。値段も手頃で良心的だ。そしてそれを扱う店主にも興味がわいたぞ」
そういうと狐族は両手で抱え込むほどの品物を買っていってくれた。
またくるぞ、という言葉を残して。